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『te:tra』  作者: 坂江快斗
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第38話〈流々禍ノ章〉「彼女に誓う」


――旧藤咲市 山中 枯れた滝


朦朧とする意識。

ぼんやりと浮かんできた鳴海の顔を見て、安心できた。

太陽はまだ高い位置にある。

長い夢を見ていたように思ったけど大して時間は経過してないらしい。


俺が見たのは栞菜と最初に過ごした夏休みの記憶。

今まで忘れていたわけじゃない。

俺の記憶の底には確かに、栞菜とあの場所に行った記憶がある。

でも、どうして、


俺を助けてくれた人のことだけを全く思い出せないのだろうか。


崖下に落ち、水流に流され落下地点からかなり遠い位置まで流されていたはずなんだ。痛みと寒さと恐怖で助けが来ることも考えられなかった。


気がついたらベッドの上だったという感じ。


あの日、病室の隅っこで体育座りをした栞菜は一度も顔を上げないまま

一夜を明かしていた。


次の日に行われるはずだったお祭りは中止になり、俺は藤咲市の病院へ移動され栞菜は父親の運転する車で帰った。

毎日お見舞いに来てくれた栞菜の目はいつも赤く腫れていた。


夏休みが明けるころに俺は退院し、学校にも通えるようになった。

友人たちは最初俺の事を気にかけていたが、それも段々といつもどおりの日常へ戻っていく。


――学校が始まってから変わったのは、栞菜だった。


夏休み前に比べて積極的になり、自分からクラスの女子に話しかけたかと思えば、その日の放課後は一緒に帰る約束までしている。成績もぐんぐん上がり、運動能力も跳ね上がった。まるで別人みたいに栞菜はクラスの中心人物になっていった。


喜んでいいことと思いながらも、俺にはなんとなく違和感があってあの栞菜は本当の栞菜なのか、分からなかった。

栞菜とは出会ったばかりでよく知っているわけではなかったし、彼女がどんな人間なのかを知ろうと思うほど頭もよくなかった俺だ。

当時は女子ってそんなもんだよなぁ、と自分なりに納得をして過ごした。



何かが、欠けている気がする。

俺はまだ大切なことを思い出せていない。

あの頃感じていた違和感を、未だに消化できずにいる。栞菜との記憶を辿って、改めて違和感を抱いている。


抜け落ちた記憶が一体何なのか・・・。

その記憶を手に入れると、俺と栞菜に何が起きるのか。


――分からない。

ただ、ひとつ言えることは、


一番最初の栞菜には、もう会えない気がするってことだ。


*****


「陸斗先輩・・・、大丈夫です?」


鳴海の言葉を聞きながら体を起こす。体中がまだ熱い。

喉が渇いていて、俺は滝の水を飲もうと思った。が、


「・・・あれ?滝の水・・・は・・・?」


自分では発生したつもりでも、声は擦れて何を言っているのか分かりづらい。

鳴海もやや首を傾げたが、すぐに気づいてくれたのかリュックから水筒を出してコップに注いでくれる。麦茶を一杯一気に飲み干した。


「はあ・・・」


体の中を通っているのが分かるほど冷たい麦茶。一息ついた後にもう一杯入れてもらいまたそれも一気に飲んだ。

やがて虚ろだった意識が覚醒してくると、俺は辺り一帯の光景に絶句する。


「な・・・なんだ、これ・・・」


さっきまで流れ落ちていた滝は消失し、ただの岩肌になっている。木々は黒炭と化し、まだ燃えている場所もあった。その炎の色をみて、また言葉を失う。


真っ黒な炎だった。


俺はすぐに鳴海に駆け寄り、小さな肩を両手で掴んだ。


「おい!鳴海、これってまさか・・・」


鳴海は目を伏せたが、すぐに顔を上げた。


「はいです。・・・先輩がやったです・・・。黒い炎を体から放出させて・・・」


幸い、鳴海の体に怪我はないように見えた。

俺は自分に課せられた課題の事を思い出す。

”黒い炎を引き出すこと”だ。

今、目の前の現状を俺がやったのだとしたらまずい。

俺には、間の記憶がまるでない。あの夢を見ているときに俺の身に何かが起きたのなら全くコントロールできていないということだ。


炎禍は言っていた。黒い炎で滝の水を消せ、と。

そんな出鱈目な力をもし暴走させてしまったら――。


ウィザード・・・。


自分が手にしている力、”枝紡ふたばの魔導師としての力”がいかに恐ろしいものかを実感させられる。


両手に力が入るが、鳴海の肩を掴んだままだったと気づき離そうとした。

その瞬間に、鳴海は俺のお腹に顔を埋めた。

鳴海の頭の小ささ・・・体の小ささを再確認する。


「よかったです・・・。せんぱいが無事でよかったです・・・」


何度も聞いた、震える声。

はっとした・・・。


俺はまた、鳴海を泣かせている。


「・・・心配かけたな、悪い」


俺の口から出た言葉は自分で言っていて情けない言葉。

いつもそんな風にしか言えない自分が、嫌になる。


「でも、もう大丈夫だ」


同じ言葉を同じように何度も言ってしまう自分が、嫌になる。

俺は何度、鳴海に『大丈夫』と言えば気が済むんだろうか。


強くなる。

口に出して言うことがどれだけ簡単でも、

俺は弱いままだ・・・。



――弱いままじゃ、ダメだろ。



駄目、だろ。



俺は、そっと鳴海の頭に手を置く。


「・・・ふぇ?りくとせんぱい・・・?」


どうすればいいのかなんて、さっぱりわかんねえ。

どうすれば強くなれるのかも、どうすれば守れるのかも。


もしかしたら俺は、強くなるって言葉の意味も分かってないかもしれない。


けど、”どうしたいのか”ははっきりしてんだ。


「鳴海、離れろ」


彼女は目を潤ませ、どうして?という表情をする。

構わず、俺は鳴海を押して俺自身から離れさせた。


彼女を燃やしてしまわないように。


「もう一回だ、炎禍」


・・・・・・。


「次は負けない。もういっかい、俺にチャンスをくれ」


・・・・・・。


「炎禍」


声が聞こえない。

多分、俺がまだ迷っているから。

心のどこかで恐れているから。


「炎禍」


自分の弱さに背を向けているから。

1度経験した”死”への恐怖心の方が強いから。


「炎禍っ」


自分自身に打ち勝てない限り彼女は俺に力を貸してはくれない。

俺の事を守りたいと言った彼女も、覚悟をとっくに決めているんだ。


「炎禍!」


その覚悟にすら追いつけていない。

追い越さなきゃいけない。引っ張っていけるようにならなくちゃいけない。


死を恐れるな。

生きることを考えろ。

生きて、守ることだけを考えろ。


強くなりたい理由は、「死にたくないから」、じゃないだろ。


守りたいから、強くなりたいんだろ!


「炎禍ッ!」


――『式瀬君の記憶、私にも見えた』

 ――『私に出来ることも、たったひとつ』


聞こえた声。

その声だけでも分かる。

まだ彼女の想いには到底及んでいない。


だから、叫んだ。

力の限り、出せる限りの大声を。


――――――炎禍ああああああああああああああッ!!!!!!―――――


覚悟を上書きするみたいに。息が続く限りまで叫んだ。

体の芯が熱くなっていく。頭に血が上っていくのが分かる。



もう1度、黒い炎と戦うんだ。

自分の弱さを灼き払う。

底知れぬ恐怖心と戦うんだ。



・・・〈よろしい、その覚悟を持って我は器と主に忠誠を誓おう〉



―――ッ!!!!!!!!


途端、一気に燃え盛る俺の体。全てが灼けていく。髪も目も耳も鼻も口も腕も足も何もかもが灼ける。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」


あつい、あついあついあついあついあついあつい

いやだイヤだいやだイヤだいやだイヤだ―――


〈やはりその程度か?その程度の覚悟に我を使うというのか?〉


「ああう゛、ああああああっ!!う゛ああ゛あああ゛あッ」


――違うッ!


火力が上がる。立ってすら居られない。あまりの熱さに地面を掻き毟る。

それでも足りず、岩肌まで這いつくばって辿り着く。

固い岩面に爪を立てて痛みと熱さに堪える。


〈堪えるだけでは駄目だ。自分の中に飲み込め。我の黒炎を〉


「あ゛あああ゛あっ、があああああお゛あああ゛ああ゛ああッ!!!!」


視界が定まらない中で、鳴海の姿が映った。

顔をぐしゃぐしゃにして、とめどなく流れる涙と鼻水を何度も拭っている。

小さな子供みたいに、泣いている。


――鳴海、泣かないでくれ。


俺は〈大丈夫〉だから。

もう、そんな顔しないでくれ。


お前のことも、守れるようになりたいんだ。


「あ゛ああう゛う゛う、うう゛うッうう゛ああ゛、あ゛ああ゛あああ・・・・」


痛い。熱い。苦しい。怖い。弱い。嫌だ。やめたい。

俺の中に存在するいくつもの、脆弱。


そのひとつひとつを燃やしていく。

その度に吹き飛んでしまいそうなくらい激痛が全身に走る。

黒炎は更に勢いを増して俺の体を灼き尽くしていく。


〈器よ、お前が守りたいものはなんだ〉


「ううぅッ、あああああ」


激しく岩肌に頭を打ち付けた。炎とは別の熱を額に感じた後、血が流れていく。岩肌にはべっとりと血がついていた。それでも俺は頭を岩肌に打ち付ける。


〈お前が守りたいものとは、なんだ!!!〉


「ァアッ!!ああああっ、はあっはあっはあっ―――」


おれが、まもりたい、もの―――。


俺の頭よりも先に岩肌に亀裂が入る。

今度は右の拳をひたすら岩肌に向けて殴りつける。


〈我は、まだお前の真なる想いを知らない。だから、教えろ〉

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


〈お前は、何を守りたい〉


おれは―――。

 オレは―――。

  俺が守りたいものは―――。



「うううああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」


あの誕生日の日。


リロウスがバスに飛び込んできた瞬間から、俺の日常は吹っ飛んだ。


「おレガ、オれガ、守リたいモノワあ゛あ゛あ」


――遅刻の朝も、友人たちとの通学も、つまらない授業も、

  できもしない裁縫部での活動も、帰ってから読んだ漫画も、聞いた音楽も――


「ミ、みん・・・ナが、み゛ん゛な゛がイル・・・こノ・・・」


――受信したメールも、送信したメールも、気に入ってる洋服も、

  履き潰したスニーカーも、好きなにおいも、よく見る風景も、口ずさんだ歌も、

  近所の野良猫も、真向かいの家の犬も、朝陽も、夕焼けも、月も、星も――


「あああ・・・あ゛あ・・・みんながいる・・・この・・・」


――俺が失った日常には、俺が守りたいものがいっぱいあって、

  そのどれも全部が大切なものだ――


「コノぉ!!!―――」


――あの日、終わったんじゃない。


  全てが始まったんだ――



「セカイだああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!!!!!!!」



黒炎を纏った右腕を滝が流れていた岩肌にぶち込んだ。


亀裂が蜘蛛の巣みたいにびきびきと広がっていく。


〈もう、逃げることも背を向けることも許されない。

 それでもお前は最後までこの世界を守ると誓うのだな?〉


――誓う。絶対に。


返事はもう1度岩肌を殴りつけた右腕で。


「炎禍ああああああああ!!!!!!!」


拳をぶち込むと同時に黒炎が爆散する。

木っ端微塵に吹き飛んだのは、岩盤だった。


・・・俺は・・・・・。



〈その覚悟と想い、決して忘れるなよ〉

〈またお前が弱さを知り、恐怖に打ちのめされそうになったとき〉

〈我は再びお前を灼くだろう〉

〈立ち向かえ、負けるな〉

〈自分の力を信じろ〉


〈我が器、式瀬陸斗よ〉


体中が熱い。燃えているみたいに。


頭が痛い。殴られたみたいに。


でも、気分はいい。


やるべきことがはっきりしたときみたいに、気持ちが高揚する。


「炎禍・・・」

〈なんだ〉

「ありがとう」

〈礼はいらん。せいぜい強く生きてくれればそれでよい〉


自分の手を見る。

長く伸びた鋭利な爪はマニキュアを塗ったみたいに黒い。

手を返して、手のひらの上に炎をイメージする。手に灯った炎も、黒色だ。


〈その炎こそが我の真の力。炎さえも灼き尽くす黒炎だ〉


この力で俺は全てを守る。

見つめた黒い炎は、轟々と燃える。俺はその炎をぎゅっと握り締めた。


いつか見た、枝紡の火葬。

天に昇っていく黒い煙の龍。


焼け跡から立ち昇る煙に枝紡と共に生きると”覚悟”を決めたあの日の景色を重ねた。


――〈第二段階、突破としよう〉


炎禍は少しだけ、嬉しそうに言った。



*****



「せ・・・せんぱいいいいいっっ」


あれから1時間ほど経過して、まだ鳴海は泣いていた。

本気で俺が死んでしまうと思いながらも、何も出来ない自分が悔しかったという。

鳴海を制止していたのは嵐禍で、たとえどうなろうとも俺の行く末を見守ると決めていたそうだ。

もし、俺が完全に炎に飲み込まれていたらその時は・・・。

その先を嵐禍も鳴海も言わなかった。


「しぇ、しぇんぱい、しゅみません・・・うぅ、わ、わたし・・・なにも・・・」

「気にしないでくれ、鳴海。お前が傍に居たから頑張れたんだ」


俺がそう言って頭を撫でるとまた涙が溢れた。

鳴海が泣き止むまで俺は彼女の頭を撫でていた。



『おつかれ、式瀬君』


不意に聞こえた枝紡の声。彼女の声も少し疲れているように聞こえた。

俺は脳内会話をすることに。


『おつかれ、枝紡。お前には助けられっぱなしだな』

『いいってば、そーゆうの。お互い様だって』

『お互い様、か』『そ、お互い様。私は私にできることをするだけ』


いつもは茶々を入れてきたり、暴言を吐いたりする枝紡だが今の彼女はいつもと違い達観しているようにも思える。

彼女もまた、戦っていたんだ。


『・・・お前にも見えたんだろ?俺と栞菜の記憶・・・』

『うん。ふたりにはあんな過去があったんだね・・・。全然知らなかった』

『栞菜からは何も聞いていないのか?』

『式瀬君との出会いは聞いたけど、ここまで鮮明には聞いてなかった』


栞菜が枝紡にどんなことを話しているのかは知らないけど、俺が知らないことを栞菜が知っているとしたら、直接聞いてみるしかない。

もしかしたら、あの日の出来事が栞菜の脳内に何かしらの異常を植えつけている可能性がある。


もし記憶を思い出せたら・・・。


『それでね、私が感じたことを言っていいかな・・・』


枝紡の言葉に曇りがかかる。

なんとなく俺には枝紡が言いたいことが分かってしまう。


『栞菜ちゃんさ・・・、もしかしたら私と同じかもしれない・・・』


枝紡と同じ・・・つまり、魔導師の力を覚醒させているかもしれないということ。

栞菜の人格破綻や、精神疾患がそのせいで引き起こされているものだとしたら説明がついてしまう。


枝紡の内に存在する炎禍や鳴海の嵐禍がまさにその例だ。

二重人格とも言える炎禍たちの存在。

栞菜の内にもそんな存在がいるとしたら―――。


   どくん


なんだろうか、この胸騒ぎは。

嫌な予感に近い。どうやら俺が感じている感覚を枝紡も、

そしてリロウスも感じたようだった。


『陸斗、君にも分かるようになったみたいだな』

『ああ・・・、この感じは・・・』

『力が覚醒しかけている者がいる』


リロウスが断言した瞬間に、寒気がした。

この感覚を、俺は覚えているから。


この冷たさを知っているから。



―――りく・・・。



「栞菜・・・」


確かに聞こえた栞菜の声は俺を呼んでいる。

俺はすぐに携帯電話を取り出したが、圏外だったことを思い出した。


――りく・・・。


声はまた聞こえた。さっきよりもはっきりと。

なんだ、この感じ・・・。

喉元まで出掛かっていて引っかかっているような感じは・・・いったい・・・。


「鳴海!すぐ動けるか?」


まだ顔をタオルで抑えたままの鳴海に声を掛ける。

鳴海は泣きすぎたのか少しぼーっとしていた。


「今すぐ栞菜のとこにいこう。なんか・・・嫌な予感がするんだ」


絶対に当たっていてほしくない予感だ。


「えっ、あ、はいです・・・っ」


ごしごしとタオルで顔を拭いて、立ち上がる鳴海。

俺は自分と鳴海のリュックを持った。


「飛べるか?」

「はい、いけるです。でも、まだ陽が高いですよ?」

「だからなるべく速く飛んでいきたい。力を貸してくれ」


俺の言葉に鳴海は顔を真っ赤にする。

その姿を見て、俺も「そういえばそうだった」と顔を伏せた。

でも、一気に時間短縮するには嵐禍の力が必要だ。


「す、すまん。頼む・・・」

「・・・はずかしいです・・・けど・・・」


鳴海の額に自分の額をくっつけた。

改めてやると、ものすごく顔が近い。このあとに、あの言葉を言われるのか・・・。


イルヴァナやウィズとウィードも唱えていた言葉。

なぜ、傀儡を作った傀儡師はこの言葉をトリガーに選んだのだろう。

そのことについて考えるのは今じゃなかった。


「じゃあ、言うですよ・・・?」

「お、おう・・・」


・・・・・・・・・・。

・・・・・。

・・・。


「鳴海?」


鳴海は、「あ、あ・・・」と口を動かすばかりでその先をかなり言いづらそうにしている。そりゃそうだよな・・・。

異性に好きだと言ったこともない俺からしたら「あいしてる」なんて言葉は、

ハードルが高い。


「ごごご、ごめんなさいです。ちゃんと、言えますです」

〈まるこ、しっかり♪〉

「うるさいです!わかってるです!」


くっついた額どうしが熱くなる。鳴海は相当顔が赤い。

それでも、決心をつけたのか深呼吸を繰り返した。


そして――。


「せ、せんぱい」

「ああ」


――愛してます。


ふたりとも光に包まれる。鳴海の意思と感覚が俺の中に流れ込んでくる。


目を開けると、鳴海の体が横たわっていた。

成功、したらしい。

俺は鳴海の体を抱えて、空を見る。栞菜がいる病院への最短距離をイメージした。


『あ、まるちゃん、ようこそ』『枝紡先輩、おじゃまするです・・・』

『少し窮屈になるが、いいだろう』『すみません、リロウスさん・・・』


俺の体をなんだと思ってやがるんだ・・・。

そう突っ込みたい気分を抑えつつ、風の動きを読んだ。


「よし、飛ぶぞ」


両足を少し曲げて背中の羽を大きく広げる。

速すぎて鳴海の体を離してしまわない様に強く抱きしめた。


―――っ!


グッと力を込めて一気に飛び上がった。


*****


病院の屋上に辿り着く。

まさに一瞬だった。瞬間移動そのものだ。

俺はすぐに鳴海の体に鳴海の意識を返すと、すぐに目を開けてくれた。

栞菜の病室は505号室。

屋上からはすぐの病棟だ。


通路は走らないように、でもなるべく急ぎ足で505号室の扉の前へ。

そういえば面会の許可を受付で取っていないがこの際関係ない。


俺は扉を開けた。


「かんなっ!!!」


その部屋に栞菜の姿はなかった。

ベッドは乱れていて、枕も床に落ちていた。


目線を上げるとベッドの横の窓辺に咲く黄色い花を見つける。


小さな向日葵だった。



向日葵は、そよ風に吹かれて気持ち良さそうに揺れていた。



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