表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『te:tra』  作者: 坂江快斗
72/100

第36話〈流々禍ノ章〉「向日葵が彼女を誘う」

「おばあちゃん、美空さん、いってきまーす」

「い・・・てき・・まうす・・・」


まだ朝陽も登りきらない早朝。

あたしはリクを強引に起こしてラジオ体操に連れて行く。

毎朝参加したという証拠にスタンプをもらわなくちゃいけないんだ。

これも宿題のひとつ。

目も開ききらないリクはあたしが起こした後も夢の中に居たから頬をつねった。


歩きながら何度も倒れそうになるリクを引っ張って近くの小学校に行く。

そこにはもう15人くらい小学生と中学生と大人が何人かいた。


「あっ!かんちゃんっ!今年も来たんね~」


ラジオのチャンネルを合わせていたおばさんがあたしに声を掛けてくれた。

毎年、この人がラジオ体操の当番だった。


「はい、お久しぶりです」

「そんな挨拶もできるようになったんね!えらいわ~。あんたも見習わんけ!」


そういっておばさんは自分の子供の頭にポンッと手を置く。

「けっ!おれもできるしっ!」


まわりが笑いに包まれると、おばさんがリクのことを気にした。

そうだ、教えてあげないと。


「えっと、この子はあたしが今、通ってる小学校の・・・おともだち、です」


隣でまだうとうとしているリクの背中を押して、前に出す。


「ほら、リク。みんなに自己紹介しないと」

「お・・・はよ・・・ごぜいまうす・・・」


いい加減目を覚ましなさい!

あたしは強めに頬をつまむ。


「いで、いででで。いでで」


壊れたテレビみたいな反応しかしないリクは本当に朝がダメみたいだ・・・。


「んまあ、面白そうな子やね~。かんちゃんのボーイフレンド?」


おばさんや中学生のお姉さんたちはあたしとリクをじろじろと見てくる。

自分でも分かるくらいなんだか恥ずかしい気持ちになってきた・・・。


「ち、ちがいます!リクはただのともだちです!」

「ふ~ん」「へえ~~」「な~るほど~」


あたしが追い詰められそうなとき、ラジオから音楽が流れ始めて

みんながぶつからないくらいの距離をとった。そのおかげで助かった・・・。

リクはというと、寝ぼけながらもきちんと体操してるし・・・。



「それじゃあ、またあしたね~」


無事にスタンプをつけてもらって、参加した人たちに手を振る。


帰り道。

田んぼに囲まれた一本道を歩く。

この時間は、静かだし涼しいし、あたしは大好きな時間だ。

思いっきり息を吸って、吐いて、背伸びして。

そうすると眠気もどこかに消えてしまう。

あたしの目はどんどん冴えていくのにリクはどんどん眠たくなっているように見えるんだけど。


ふと、山へと向かう道が見えた。

山の入り口には看板が立っていて、たしか「向日葵園はこちらから~」と書いていたような気がする。

向日葵園・・・。今年もいっぱい咲いてるかな・・・。


一歩ずつ引き寄せられるみたいに進んでいく。あっ!と思って振り返る。


あたしが気にして歩いていないとリクは立ったまま、

畦道の真ん中でうとうとうとうと・・・。

気がつくと結構離れてた。すぐにリクのところまで戻る。


「もう、手、繋ぐからね?」


リクの手をがしっと掴む。

昨日の電車の中でお姉さんに姉と弟に見られたことを思い出した。

ちょっとだけ、おかしくってひとりでくすくす笑いながらおばあちゃんのお家に

帰った。



*****


「おかえり~。朝ごはんできとるよ」

「ただいま!ありがと、手洗ってくるね」


朝ごはんも物凄い量だった。

リクは限界が来たらしく、お家についてすぐに布団に倒れた。可哀想だからそのままにしといてあげよう。

朝食は美空さんとおばあちゃんと3人で食べることに。


「ねえねえ、栞菜ちゃんっ」


美空さんが嬉しそうにこっちを見ている。なんだろ・・・?

あたしは首を横に傾けた。


「あ~ん、していい?」


そんなキラキラの目で言われたら断れないよぅ・・・。

しかも初めてのあ~ん。美空さんも初めてのあ~んなのかも。

ふたりして緊張した。


「はい、あ~~~~んっ」

――ぱくっ


「いやああん、かわいい~っ」


両手を頬に当てて、幸せそうに顔を赤くする美空さん。

見ているあたしも顔が熱くなった。


「はいっ、おばあさまもっ」


そっちも!?


こんな調子で、楽しい朝ごはんが終わった。

まだ時間は8時前。

リクの分のおかずにラップをかけて虫が寄らないように虫よけ網を置く。


洗い物をしているおばあちゃんに、あたしは明日のお祭りについて聞く。


「明日はさ、朝から御神輿の行列あるよね?」

「あるよ。今年はいいもんつくったみたいでぇ。ばあちゃんも楽しみだ」


へっへとあたしに向けて笑ってくれたおばあちゃん。


「〈流様の舞〉は夜にいつもの神社だよね?」

「うん。しおりたち、見れんのは残念じゃのう。じゃが今年は美空さんたちがいるし、4人で行こうか」

「うんっ!屋台も楽しみっ!」


今、ご飯を食べたばかりなのに屋台の食べ物を想像してにやけてしまう。

お祭りの焼きソバとかたこ焼きとかってなんであんなに美味しいんだろう・・・。


「それで、栞菜ちゃん。今日はどこか行くのかい?」


洗い物を済ませたおばあちゃんが手を拭きながら聞いてくる。


「んー。あっそうだ、向日葵園!」

「向日葵園・・・?ああ、山の方にあるとこかい」

「うん!もう咲いてるかな?」

「今年はどうだろうねぇ・・・。雨が多かったから。時期的には咲いてると思うけど・・・」


ちょっとだけ不安と、期待が膨らんだ。

行ってみるまで分からないってことだ。


「今日、リクと行って来ていい?」

「それは構わんけど・・・。美空さんにも聞き?」

「うん!」


あたしは庭で洗濯物を干している美空さんのところに行く。

リクと一緒に向日葵園に行っていいか聞いてみた。


「もちろんっ!行って来ていいわよ~。リクを案内してあげて?」

「美空さんも行きましょ?」

「私はいいの。どこかで見てるからっ」


・・・いや、それがこわいんです・・・。

そのあと、美空さんはカメラを全力で修理していた。「こうしちゃいられないわ」とか「絶対に撮ってみせるんだからっ」とか呟きながら・・・。



「おっはし~」


聞いた事の無い朝の挨拶をしてきたのは、リク。

やっと目がぱっちり開いている。けど、大あくび。


「お寝坊さんだね」

「いやあ、変な夢を見てさ。おれがラジオ体操に参加する夢。ありえねえ」


今朝の出来事は彼にとって夢の中だったらしい・・・。

リクは顔を洗って、朝ごはんをがつがつ食べた。


「ねえ、リク。今日山登らない?」

「・・・・・」


めちゃくちゃ嫌そうな顔してる・・・。


「そんなに大変じゃないよ?それに道だってちゃんとあるし」

「・・・・・」


目を逸らしてる・・・。これから寝るつもりだ・・・。


「いこ?(絶対につれて行くんだから!)」

「・・・・・。(絶対にいきたくねえっ!)」


静かな時間が過ぎる。何となくリクとあたしが考えていることが真逆なのは感じた。


「返事しないなら行こうね。出発は9時」

「はーい。・・・返事したから行かね」


どんな言い訳だ!とあたしはリクのほっぺを両方引っ張る。

「お、ほひっ!ひへえっ!ひゃひぇひょっっ!(お、おいっいてえっ!やめろ!)」


「ぜーったい、行くから!今度そんなトンチンカンなこと言ったらほっぺた、だるだるにしちゃうからねっ!」


ごめんなさい・・・ってリクは謝った。

あたしも心の中でちょっと反省した。



*****


「いってくるね!」


時間は10時前。リクがだらだらと着替えたり歯を磨いたりしたからこんな時間に。でも、時間はいっぱいあるからいっか。

あたしとリクはおばあちゃんが作ったお弁当を受け取ると、リュックに入れた。

あたしたちが靴を履くと、おばあちゃんは心配そうに言う。


「山の方はまだ道が乾いとらんとこもあるから、気をつけて歩くんよ?あまり遅くならんように」

「わかったよ、おばあちゃん!」


あたしが笑って返事をするとおばあちゃんも笑って頭を撫でてくれた。


「そういえば、母さんは?」


リクはきょろきょろと玄関や外を見る。


「多分、まだカメラを直してるんじゃないかな・・・」


居間の奥から聞こえてくる美空さんの叫び。かなり手ごわいみたいだ。


だからあたしたちは大声で言う。


「行ってきます!」と。



お家をでて数分。早くもリクが弱音を吐く。

「帰ろうぜ~」


まだお家のすぐ傍。普段、リクは夏休みをどう過ごしていたんだろう・・・。


「ほら!ちゃんと歩いて!」

「なんか、担任みてえだなぁ」


リクはぐちぐち言いながらもついてきてくれた。

山の入り口には、あたしが覚えていた通りの看板があった。

でも、かなりさび付いていてちょっぴり怖い。

山の中からはじめっとした空気が流れてきて、自然のクーラーみたいだ。


向日葵園があるのは山の頂上。この山の持ち主さんが切り開いて向日葵を植えたり、作物を育てたりしている。

太陽に一番近いところに咲かせてあげたいって言うのが持ち主さんの考えだ。

今年も会えるといいなぁ。


山道はおばあちゃんが言ったとおり、少しだけやわらかい。

でも、そんなに気にならないし涼しい分楽に歩ける。

あたしは何度もこの山を登っているから大丈夫なんだけど・・・。


「ふへえ、ふへえ・・・、ぎぶ・・・」


リクはもうぐったりだ。


「だいじょうぶ?やすむ?まだ5分も経ってないけど」

「えっ!まじ!?まだそんだけしか登ってないの?」


ちなみにこの山は40分は登る。

あたしはリクの顔の汗を拭いてあげた。


「帰って昼寝しようぜ~」

「だめっ!まだお昼でもないしっ!それに、ぜったい登ってよかったっていう景色が見れるよ?そこで、お弁当食べて、帰ってきてお風呂入って、お昼寝したら最高だよ?」


あたしの言葉に、リクはじっくり考えた後、「確かにあるな、それ」と言って水筒に入れた麦茶を一杯だけ飲んだ。


「よし、ならとっとと行こう!」


なんかよくわかんないけど、元気が出たみたいで良かった。



そのあとは、10分起きに休憩を入れながら歩く。山道だからずっと坂道。

だんだん、足も重たくなってくる。逆にリクは元気だ。

途中、また木の枝を拾ったり、(今度は勇者になったから魔王として撃退した)

カブトムシを捕まえたり、(すぐに逃げた)

見たことない過激な色をしたキノコを見つけたり(触ろうとしたから注意した)

男の子の好奇心ってすごいと思う。


残りは後少しって所で、山道が開けてくる。

木で出来た柵越しに下をみると、唾を飲み込んだ。

毎年登ってはいるけど結構高い山なんだ・・・。

山を切り開いて向日葵園を作っているから崖になっているところも多い。

この柵も持ち主さんの手作りみたいだ。

ちょっと揺らしてみたけどがっしりしている。


あたしは安心して、麦茶を飲んだ。



*****


やっとのことで到着した山頂。

そこには、やっぱり疲れなんて吹き飛んじゃうくらいすごい光景が広がっていた。


「すっすげえ・・・」


リクも同じ気持ち。また「すげえ」しか言わなくなってるよ。


見渡す限りの向日葵。山の頂上に来なきゃ見られない最高の景色だ。

どの向日葵もあたしとリクよりも大きくてちょっとした森みたい。

向日葵の森。

おばあちゃんは雨の心配をしてたけど、向日葵たちは立派に育っていてあたし的には去年見た風景よりもすごいと感じた。


太陽に向かって笑っているように見える向日葵たち。静かに風に揺られて気持ち良さそうな向日葵たち。

登るのに休憩を入れて1時間以上かかっちゃったけど、ここに来て良かった!

早く美空さんも来ないかな。もしかしてもうどこかから写真撮ってるかな?


あたしの気持ちはウキウキだ。

単純だけど、藤咲に転校したばかりのときのどんよりな気持ちは吹き飛んでしまいそう。いや、吹き飛んじゃえ。


「いや、まじですげえや。こんなの見たことない」

「そうでしょ!きてよかったでしょ!」


リクもこくりと頷くと、向日葵園に向かって走り出した。


「おれ、いちばんのり~」

「あー!まってよぉ」


男の子の走る早さには勝てっこないけど、あたしはリクの後ろを追いかける。

するといきなり、目の前を走っていたリクがいなくなる。まるで消えたみたいに。


「あれ?リク?」


ぽつんと向日葵の真ん中でひとり。

ぐるぐるまわりをみても、リクがいない。もしかして、本当にきえちゃっ・・・


「わっ!!!」

「きゃああああああっ!!!」


後ろから聞こえた声にあたしはめちゃくちゃ驚いた。

振り向いて思い切り、グーパンチ。


「あびょふっ」


変な声を出して、リクが倒れた。なんかぴくぴくしてる。


「ご、ごめん・・・」


リクに聞こえてるのか、わかんないけど。



*****


「おじいさん、こんにちは」


あたしと意識を取り戻したリクは向日葵園を抜けて農園の方に向かう。

そこには90歳くらいのおじいさんがひとり。

麦わら帽子をかぶって、畑を耕していた。


「ん?おやあ、お嬢ちゃん、ひさしぶりだねぇ」


おじいさんは目をまんまるにして、こっちを見る。首にかけたタオルで顔を拭いた。


「今年もきちゃいました。向日葵、すごいですね」

「そうじゃろ?今年いつも以上に張り切って植えたんじゃよ。2割増し」


にいっとピースするおじいさん。歯がほとんど抜けてて可愛い笑顔。


「栞菜ちゃんって名前じゃったよな?そっちの男の子は、弟君かな?」


やっぱりそう見えるんだ。リクは畑の土から顔を出しているミミズに夢中だ。


「いえ、この子は学校のお友達です」

「へえ、お友達。お名前は?」

「リク!自己紹介して」

「おお、そうだな」

「やっぱり姉弟きょうだいじゃろ」


おじいさんが不思議そうに見てくる。

今の感じは確かに姉と弟にみえるかもしれない・・・。


リクがちゃんと自己紹介した後、おじいさんに畑を案内してもらう。

トマトや茄子、オクラなど夏野菜がいっぱい生っていた。

おばあちゃんにってことでお裾分けまでもらう。リクの鞄に全部入れた。


「どれ、そろそろお昼かな」


おじいさんは腰をとんとんと叩くと、麦わら帽子を外してまた汗を拭いた。


「もうそんな時間なんだ。リク、お弁当食べよ?」

「まってましたー!!!」


あたしたち3人はおじいさんが作った小屋に入る。

藤咲でリクと出会ったバス停みたいに3辺だけを囲って畑を見渡せる作りになっている。

丸太で出来た長イス2つと真ん中には小さなテーブルもあってそこにお弁当と水筒を出して、「「「いただきます」」」


蝉の鳴き声が聞こえたり、小鳥が寄り添っているのが見えたり、風の音が聞こえたり、ここには自然の音しかなかった。普通でも美味しいおばあちゃんのお弁当がもっと美味しく感じる。おじいさんとおかずの交換もしたりした。何もかもが手作りのおじいさんのお弁当もすごく美味しかった。


「「「ごちそうさまでした」」」


3人揃って、食後のお茶。

おじいさんが一旦畑に向かうと、何かを持って戻ってきた。


「ほれ、まだ小ぶりじゃがメロンじゃよ」


大きさはおじいさんの手からちょっとはみ出るくらい。

野球ボールより大きくて、バレーボールよりは小さい。

水場に置いてあった包丁を研いで、綺麗に洗ってからメロンをスパンと切る。

4等分にして紙皿に乗せた。

スプーンがないから、スイカみたいにして食べる。


「お、お・・・」「お・・・」

「「おいしいっ!!!」」


リクと言葉が重なる。とても甘いメロンだった。


「おいしいです、じいちゃん!」

「ほほほ、さすが男の子。いい食べっぷりじゃ」


わしゃしゃしゃしゃと一気に食べるリク。二個目もすぐに食べ終わる。満足していないのかあたしがまだ残している最後の一切れをじっと見つめる。


「く、くわねえなら、」

「食べるよっ!あたしはあじわってんの!」


これだけは、ゆずれないもん。



メロンも無事に(?)食べ終わり、木の小屋でゆっくりお茶を飲む。

何度も、ここにきてよかったぁって思った。

美空さんやリクがあたしを連れ出さなかったら今頃、部屋に閉じこもりっきりだったのかな。

そう考えると、今年の夏休みはすごく特別なものになりそうだ。

初めて、自分の家族以外の家族と旅行。

途中まで、同級生の男の子と2人で移動だもんね。いい作文、書けるかな。


・・・いやいや、

せっかくここまできて、宿題の事を考えちゃうのもなんだし、楽しもっと。



「ふぁあああ。ねむ」


山道を歩いた疲れとお腹一杯になったせいか、リクが大あくびをする。もう、目が半分閉じかけている。


「ほほ。眠たそうじゃの。どれ、わしはもう少し作業してくるか。ここに居てもいいし、向日葵園で遊んでもいいから」


そう言っておじいさんは麦わら帽子を被った。

90歳近いと思えないくらいしっかり歩いて畑に行く。


「だってよ~。昼寝昼寝~」


おじいさんが座っていた長イスに移り、横になるリク。


「だーめっ!」


ぱしんっ!

リクの両頬を叩く。


「いてっ!!」

「あそぼうよ、リクぅ」

「昼寝が先だぜ」


ぱしんっ!

リクの両頬を叩く。


「いてえよっ!」

「ねえ、あそぼ?」

「あそぶっていっても、なんもないじゃん!」

「じゃあ・・・。あっそうだ、かくれんぼ!」


すぐに思いついたのはそれしかなかった。

隠れるとこはいっぱいありそうだし。


「はいはい。じゃあおれ、鬼でいいよ」


リクは顔を両手で顔を塞ぐ。


「とかいって寝るつもりでしょ?」

「・・・・・・」


ぱしんぱしんぱしんぱしんっ!

リクの右手にしっぺを打つ。


「いっいてえ!

 ほら!いーち・・・にーい・・・あれだぞ、10数えたらいくぞ、さーん・・・」


半分怪しいけど、カウントが始まったからあたしは立ち上がる。


「ちゃんと探してよ?」


あたしはひとり小屋を出る。

リクの方を振り返ると、一応まだカウントは続けている。

あのまま寝ないか心配だ・・・。


「向日葵園、いってこようかな」


あたしは水筒を肩にかけて、向日葵園に歩く。


――さぁぁぁぁ・・・

葉と葉が擦れあう音。近くに来ると余計大きく聞こえる。

あたしが来るのを待ってたみたいに、向日葵たちは揺れている。

また、リクが後ろから脅かしてこないかちょっと怖いな。

向こうの畑にはおじいさんがいるし、小屋にはリクもいる。

なのに、なぜか向日葵園にいると、ここにはあたしだけしかいないんじゃないかって気持ちになる。


――さぁぁぁぁ・・・


「ッ!?」


ぶんと後ろを振り返る。でも誰もいない。居たような気がした。

肩にかけた水筒のホルダーを両手で強く握り締める。

やっぱり1人はちょっと怖いかも・・・。


あたしは来た道を戻る。


けど。


「あれ・・・?ここ曲がったら小屋が見えてたはずなのに・・・?」


今、歩いてきたばかりの道を折り返しただけのはずが全然違う道に出た。

向日葵の行き止まりになってた。

さすがにかきわけて進むわけにもいかないし、なんとなくで歩き進む。道があるならいつか戻れるだろうし。でも、いつの間に迷っちゃったんだろう。

本当に広い向日葵園だなぁと感心する。


――さぁぁぁぁ・・・


進む。何列にもなる向日葵の道を。

おかしいな・・・。おじいさんの農園どころか小屋も見えてこない。

同じとこ、ぐるぐるまわってるみたい。


―――。


「っ!?だれ?」


――さぁぁぁぁ・・・


聞こえてくるのは風が向日葵を揺らしている音だけ。

人の声だとしたらおじいさんかリクのはず。なのに。


―――。


「え・・・?」


聞こえたのは、女の子の声だ。

あたしよりはすこし年上かな。


「だれ・・・。どこ・・・?」


完全に迷ったあたしはその声を追いたくなる。でも、どうしてこんなところに女の子が?おじいさんの孫?でももしそうなら一緒にご飯とか食べるよね・・・?


―――。


「ま、まって・・・」


とにかくこの向日葵園を抜けたいあたしは声がするほうへ向かう。

出口に導いてくれていると信じて。

こんなに広いなんて思ってなかった。

どこを曲がっても向日葵。行き着いても向日葵の壁。自分が囲まれているんじゃないかと思う。

逃がさないように。


「はあ、はあ、はあ、リク・・・っ」


だんだん息も上がって苦しい。

この追いかけっこはいつまで続くんだろう。


―――。


「そこ?そこが出口なのね?」


やっとあたしも安心する。走りっぱなしの足を緩めた。

声の方向を左に曲がる。

そこには、


「・・・・・だれ?」


蒼くて長い髪をした女の子が立っていた。

しとしとと、その長くて蒼い髪から水が垂れている。


ゆっくりとその子はこっちを振り向いた。

大きな蒼い眼があたしを睨む。


そして、口を開いた。



〈オマエコソ ダレダ〉



*****



・・・・・・。


・・・・。


・・。


「・・・ん。・・・・ぴっピカソっ!?!?」


おれはなんだかよくわからん夢を見て目を覚ました。

なぜカピパラがピカソの絵を???意味不明だ・・・。


栞菜と畑のじいちゃんと弁当食べて、昼寝しようとしたら栞菜がかくれんぼしようとか言ったんだっけ?


・・・あれ、おれカウントいくつまでしたっけな・・・。

栞菜、いねえし。まさかまだ隠れてるとか?

時計持ってないからどんくらい寝てたのかもわかんねえし。

とりあえずじいちゃんに聞いてみっか。


「おーい、じいちゃん!栞菜そこにいるー?」


じいちゃんは畑に種を植えながら答えてくれた。


「いーや、来とらんよ。てっきりふたりで昼寝しとったと思ってたが」

「えっ!こっちにもいないよ!」

「なんじゃって!?」


じいちゃんが慌てて畑からおれの方に向かってくる。

汗びっしょりだ。


「てか、今何時?」

「今、3時過ぎじゃ」


ということは2時間は寝てたのか・・・。それで戻ってこないって・・・


「ちょっとおれ、さがしてくる!」

「これ!まちなさい!またんかっ!」


じいちゃんの声を振り切っておれは山道に向かう。

結構な距離を下っていった。


かくれんぼっつったってそんなに遠くには行かないよな?

じゃあ、向日葵園とか?あそこなら隠れやすそうだし。

でも、2時間もそんなとこいて、鬼のおれが探しに来なかったら戻ってくるだろうし。


・・・どこに行ったのかさっぱりわかんねえ・・・。

山は下ってないと思う。荷物はあったから。

やっぱ一番可能性のある、向日葵園いってみっか。


「うわあ、またこの道、登んのぉ?」


気がつくと山の真ん中くらいまで降りてきていたらしい。

下ったあとの登り。絶対きつい・・・。


結局は登らないといけないから、諦めて登る。来たときよりも体が重く感じた。


「へえ、へえ・・・。かんなあああああ!どこだああああ!!」


森に響くおれの声。返事なんてひとつも返ってこない。


それでも、一歩踏み込むたびに栞菜を呼んだ。


「な、なんでまたおれのぼってんだろ?あほだ・・・。かんなあああああ!!」


上でじいちゃんがみつけていることを願う。頼むぞ、じいちゃん。


「あと・・・すこし・・・」


やや頂上に向けて山道が開けたとき、おれはさっき栞菜が触っていた木の柵に手を置いた。それを踏ん張りにしようと思ったから。足はぷるぷるだ。


「へえ・・・へえ・・・やっと、ついた、よいしょっ」


と最後の力を手に込めた。


―――その瞬間


「・・・えっ、うそ・・・」


頑丈に固定されていたはずの柵が根元から折れた。

雨のせいで腐っていたのかもしれない。

下は崖だ。体がふわりと浮いていく感覚。



・・・・・まじ・・・!?・・・・



おれは完全に宙に投げ出された。








――――――っ・・・。


to next story is...

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ