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『te:tra』  作者: 坂江快斗
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第35話〈流々禍ノ章〉「彼女と過ごす夏休み」

やや強引に式瀬君はあたしをおうちから連れ出した。

そのとき、お母さんは物凄い笑顔であたしたちを見送った。

「いってらっしゃーい。あとから合流するからね~」


とだけ言って。

・・・どういうことだろう・・・?

今年は行かないんじゃなかったの?

それにどうして式瀬君があたしを連れ出したの?


頭の上にはハテナがいっぱいだ。

よく分からないまま家を出たんだ。しかも、バス停を目指している式瀬君は走るスピードをぐんぐん上げていく。「やべえ、まにあうかなー!」


式瀬君の急ぎっぷりをみていると、どうやら時間がギリギリらしい。

ならどうしてもっと早く”誘拐”にこなかったのか・・・。

遅刻癖は夏休みでも相変わらずみたい。


ほぼ全速力で走って、バス停についた頃、あたしと式瀬君は汗びっしょりだ。

バスの車内のクーラーが冷蔵庫みたいにひんやりしていて汗をかいたせいか少し肌寒く感じた。


「おはよう、陸斗君、栞菜ちゃん」


バスの運転手はいつもの円堂さんだった。


「おはようございます」

あたしが先に言った後、式瀬君も続く。


「おはよー、おっちゃん!」

「いい加減、おっちゃん呼びはやめてくれないか・・・」


この二人は本当に仲が良さそうであたしはちょっぴり羨ましく思う。

この街には、あたしにとってのそういう人がまだいないから。


「ねー、おっちゃん、おれたちここまで行きたいんだけど」


リュックの中から一枚のプリントを取り出して円堂さんに見せる式瀬君。

たくさんの文字と真ん中に地図が見えた。


「んー、笹貫町ささぬきまちかぁ。結構遠いし、バスと電車を乗り継いでいかないと」

「えー!このバスで行けないの!?」

「行ける訳ないでしょ!タクシーじゃないんだから!!」

「そこを何とか!」

「無理!これ、会社のバス!」


式瀬君はまだ諦めなさそうだったからあたしは彼の襟首をつかんで一番後ろの席まで引きずっていった。


「ちぇっ。連れてってくれてもいいのに」


運転席のミラーに映る円堂さんに向けて愚痴をいうと、式瀬君は窓の外を眺めだした。

聞くなら今しかない。


「ねえ、式瀬君さ・・・」

「あっそうだ」


くるりとあたしの方に向き直る。いきなり振り返ってきたから顔が近くてびっくりした。


「えっ、なに・・・?」

「陸斗、でいいよ。式瀬君って言いづらいでしょ?」


そう言ってまた窓の外の景色を見る。


「いや・・・、あの、まだ名前で呼ぶのは・・・」

「じゃあ、呼びやすい呼び方でいいよ。でも、式瀬君はダメな!おれ、あんまり苗字で呼ばれんのすきじゃないんだよね!」


なぜか自信満々に言い切る。確かに式瀬君はあたしのこともすぐに名前で呼んでくれていたし、あたしもそうしてあげたほうがいいのかもしれない。

・・・友達、だから。

少し恥ずかしいけど、頑張って呼んでみることにした。


「それなら・・・名前で呼ぶよ?・・・り、り・・・」


意外と照れる。思い出すと、今まで男の子に名前呼びしたことなかったような・・・。

彼は彼で大して変わり映えのない街の景色を眺めるのに夢中だ。

あたしは深呼吸してからもう1度チャレンジしてみる。


「・・・り、りく・・・」


――プシューー・・・

「到着しました、私立藤咲学園前~」


・・・・・。

言えそうだったのに!


「リク、か!そう呼ばれんのもいいかも!」


なんかこっちは中途半端に聞こえちゃってるし!!

また振り返ってきた彼は嬉しそうに笑っていた。

まあ・・・式瀬君がそれでいいのなら、いっか・・・。


あたしは心の中でリク、リク、リクと3回練習した。

バスがまたプシューーと音を出して走り出した。


*****


「到着しました、藤咲駅前~」

「到着しました、藤咲駅前~」


リクが円堂さんのモノマネをしてから先に降りる。激似だった。


「うおお、駅前、久しぶりに来たけどすげー!なんかでっかいビル増えてるー!なんて読むんだ?ら、らぽ、ダメだ!よめねえっ!」


人目も気にせずはしゃぐリク。あたしはここからならおばあちゃんが住む笹貫町への行き方が分かる。このままリクについていったら到着することも無理だ。

今度はあたしがリクの手を取って先に進む。片道の切符を二枚買って改札を通る。

電車を待つ間に自動販売機でペットボトルの麦茶を買った。


ここから笹貫町までは電車を1時間乗ったあと、バスを2本乗り継がなくちゃいけない。一応、リクのプリント通りの時間で行くつもりだけど田舎のバスは都会と違って時間をあまり守ってくれない。早めについておくのが大切なんだ。

あたしたちはプリントに書いてある予定時刻より3分だけ早い電車に乗った。

着いたら、早歩きしなくちゃ。


電車の中にはあまりお客さんもいなくて、すぐに座ることができた。

ここから1時間。寝過ごさないように気をつけよう。

それに、あたしはまだ聞きたいことを聞けていない。

リュックからさっき買った麦茶を取り出して飲む。すごく喉が渇いていたから半分くらいまで減った。

気持ちも落ち着いてきたところであたしはリクに聞いてみる。


「ねえ、リク」


リクはもう夢の中だった。

すやすやと心地良さそうに眠っている。

電車が揺れるたびにあたしの方に体が傾いてきて、ぴたんと肩にリクの頭が乗った。


「おもいよぉ・・・」


全然起きる感じがしない。

ふと、目の前の座席に座る女の人と目が合った。

女の人はあたしたちの事を見て優しく笑った。姉と弟に見えてるのかな。


無理やり起こすのも可哀想だしと思ってそのままにしておく。

がたんごとんと揺れる電車。あたしも段々眠たくなってくる。

まだ、あたしがどうしてリクと一緒におばあちゃんのところへ行くことになったのか分からない。毎年、おばあちゃんのおうちに行っているけどお父さんやお母さんがいないのは初めてだ。そう考えると、ちょっぴり不安にもなってくる。

隣ではあたしの不安なんて気にせず暢気に寝ている男の子。


・・・今日中に着くかなぁ。


ビルばっかりの都会の風景から、緑の多い風景に変わっていく。

田舎になっていくほどお客さんたちも少なくなっていってあたしたちの目の前にいた女の人も、ばいばいと手を振って小さな駅に降りていった。


顔を上げて、路線図をみてみると目的の駅まではあと10駅くらいある。

リクが肩にもたれかかっているから動くこともできないし。

緑と畑ばっかりの景色は飽きてきた。


・・・ねむい・・・。


自分でも分かるくらい何度かうとうとしてる。

クーラーが効いているのに体が熱くなってきた。できることなら今すぐ横になりたい。そうしたら気持ちよく眠れるんだろうなぁ。


こくり・・・こくり・・・こくり・・・


どうすれば眠気が覚めるんだろ。・・・こくり

早く着いてよお。・・・こくり

にいちがに、ににんがし、にさんがろく・・・こくり


・・・・・もう、無理かも・・・。

気を紛らわせるのももうつらい。


「ちょっとだけ。目を閉じるだけ・・・」


・・・・・。


また電車が駅に止まった気がした。



*** *** *** ***


『かんな』

――あっ、お母さん!


『かんなー』

――お父さん、待ってー!


『かんなちゃん』

――おばあちゃんだ!もうすぐいくよ!


『あら、かんなちゃん!』

――美空さん!


みんながあたしのことを呼んでる。

前の学校のお友達も、今の学校の人たちも。

親戚の人も、学校の先生も、あたしが知り合った人みんながあたしの名前を呼んできた。


あたし、こんなにたくさんの人に出会っているんだ・・・。

みんながあたしを囲んで名前を呼ぶ。栞菜、かんな、カンナ、かんなちゃん・・・

あたしはみんなの元に駆け寄りたいけど、どうしてか動けない。

できることは手を振って応えるだけ。

あたしを呼ぶ声は大きくなっていく。

誰があたしを呼んでいるのかも分からないくらい、みんなが一斉にあたしの名前を呼んでくる。笑顔で。


なに、これ・・・?


やめて、呼ばないで。あたしはここにいるから。

だからあたしの名前をそんなに大声で呼ばないで。

お願い、やめて!


耳を塞ぐ。そして、しゃがんだ。でもみんなはあたしの名前をもっと大きな声で呼んでくる。息が苦しくなった。強く耳を塞いでいるのに、全然声は小さくならない。というより頭に響いてくる。やめてやめてやめて・・・。


ヤメテッ!!!!!!!!


―――〈かんな〉


スッ―――と声が消えた。

真っ白な世界にひとりだけになった。


今の声は、知らない声。

女の人の声だけど、低くて冷たい声。

その声の音が、まだあたしの頭に残っている。


あなたは、だれ?


応える声はない。

でも確かに聞こえた声。


ねえ、どこにいるの?


ぐるりと見渡す。全部が真っ白でどこまで続いているのかも分からない世界。

急にひとりぼっちになったあたしは、逆に声を求めた。

でも、誰ももういない。この世界にひとりって考えただけで怖くなった。


ねえ、誰か!誰かいませんか!!

ねえ、あなたはどこにいるの!いるんでしょ、教えてよ!

ねえ、ねえってば!!!




―――〈此処だよ 栞菜〉



*** *** *** ***



「おい、栞菜!起きろっ!着いたみたいだぞ!!」


ゆさゆさとあたしを揺さぶって無理やり起こす声。

まだ眠たい。ってあたし寝ちゃってたのか・・・。

何だか変な気分。ぼーっとする。夢を見てたような気もするし、見ていないような気もするし。


「いつまでぼけっとしてんだ!ほら!!」


彼が言うとおりいつまでもぼーっとしていたけど電車が走り出そうとしたみたいでリクはあたしをおんぶしてだだだっと電車から降りた。


「ふう、お前、重たいな」


どがっと一発叩いた。おかげで完全に目が覚めた。

「いでっ!」

「降ろして!あと、重いとか言わないで!軽いもん!」



あたしはむすっとしながらリクの前を早歩きしていく。

時間は結構余裕が出てきた。この辺はよく知っている町並みだ。


駅を出てすぐのバス停のベンチにふたりで座る。

その瞬間、ふたりともぐううっとおなかが鳴った。

そういえばもうお昼過ぎだ。


あたしはリクに急がされておうちを出てきたからお弁当も何もない。

買って食べるにも、田舎の駅にコンビニなんてなかった。

バス停から離れるのもちょっと怖いし。

おばあちゃんのおうちまで我慢かな・・・。


「ほい、これ食べなよ!」


諦めかけていたあたしにリクから差し出されたのは花柄のバンダナで包まれた小さなお弁当。


「あ、あたしに?」

「うん。母さんが持っていきなさい!ってさ」


リクはもうすでにおにぎりをむしゃむしゃ食べている。

ってことは、このお弁当箱って・・・。


「これ、リクのお弁当じゃないの?あたし、おにぎりでもいいのに!」

「それはおれの弁当箱だけど、うちにはそれしかなかったし、おれはおにぎりでいいんだ!うまいっ!」


あっという間に大きなおにぎりをひとつ食べ終わる。すぐもうひとつに手を伸ばす。


「でも、本当にいいの?」

「いいっていいって!母さんもそのつもりで作ってたし」


だから花柄なのか・・・。


「じゃ、じゃあ、食べちゃうよ?」

「おう、食え!残さず食え!バスが来る前に食え!!」

「わ、わかったよっ」


ここで我慢したらどこかで倒れちゃうな。

美空さんとリクに甘えよう。

バンダナを解いている間にもお腹が間抜けな声を上げた。

恥ずかしい・・・。


「わあ、おいしそう!!」


中身は桜でんぶがのったご飯に、タコさんウインナー、きんぴらごぼうや野菜とお肉の炒め物。どれもが輝いて見えた。


「いただきますっ」


・・・・・。


「ごちそうさまでしたっ」


あっという間に食べてしまう。そのくらいお腹が空いていたし、そのくらい美味しかった。また美空さんのご飯食べたいなぁ。

リクは3個目のおにぎりを食べている。口元にご飯粒がついているのが見えた。


「リク、お米ついてる」


あたしはお米をつまんでとってあげると自分で食べた。


「さんきゅー」


リクがおにぎりを完食したと同時に、バスが到着した。



*****


「いてて、いてえって」


今度こそ話を聞こうとリクの太ももを摘むあたし。

次に降りるのは今から40分後。食べた後だと余計に眠くなるだろうし。


「まず教えてよ!どうしてあたしを”誘拐”したのか」

「誘拐って。そんなんじゃないけどなぁ」

「いいから教えて」


ぎゅっと強く摘んでみた。「いでえっす!!」


リクによると、あたしの両親が考えた計画だという。

それに美空さんが乗っかった。

あの食事会の日からあたしはずっと落ち込んでいて、お父さんたちもどうにかしてやりたいと思っていたみたい。

でも、妹の椎菜もまだ小さいしお母さんの負担を考えると今年は行けないかもと美空さんに話してみたら『なら、うちの子と一緒に行くというのはどうですか?』との提案が。

あたしの両親は『いやあ、子供だけというのは・・・』って言ったけど美空さんから『小さいうちにこういう旅をさせることも大切ですよっ。それに・・・』



――なんだか、かわいいじゃないですかぁ



リクからその話を聞いたとき、あたしは言葉が出なかった。

なんということだ、リクも被害者らしい。

こっちは初めて親のいない旅行で、相方は知り合ったばかりの男の子なんだぞ。

あたしはリクの太ももを摘むことをやめてあげた。


「一応、母さんがどっかから見守っているらしいんだけど・・・」


その気配は全然分からない。透明人間レベルだ・・・。

そもそも、あたしたち以外の客は誰も乗っていないんだけど・・・。

でも、見守ってくれているというのは少し安心できる。


「別に、あたしのことのためにリクたちがそこまでしなくてもいいのに」

「おれもそう思うぜ」


あたしは何となくリクの肩を叩いた。「えっ!なんでっ!?」


「お母さんたちは後から合流するってことだよね?」

「そうそう、前に栞菜が言ってたお祭り?には間に合わないけど~って」

「そっか。・・・ありがと、リク」

「おう!でさ、お礼はいいから肩叩くのやめてくんね!?」


理由も聞けてあたしはなんだかほっとした。

今年も〈流様の舞〉が見れると思うとこの旅も悪くないように思えてくる。

同時に、自分のわがまま癖を直さないととも思った。


バスの窓を開ける。

夏の生暖かい風があたしの顔に当たった。思い切り息を吸う。

空気が美味しいってこういうことをいうんだ。藤咲市はやっぱり都会だ。


「ねえねえ、リク!あれ、見て!」


今度は涎を垂らして寝てました。


*****



「ついたあああ!!」


バスから降りた途端、大きく背伸びをするリク。


「まだあと1本、のるんだよ」

「ええ!まじ!?」


まわり全部が畑で、笹貫町に向かうバスの停留所はここから少し歩かないといけない。

都会みたいに舗装されていない砂利道をふたりで歩く。


「すげー、田舎だ~」

「リクってずっと藤咲なの?」

「そうだよ。藤咲も田舎って思ってたけどこの辺はもっと田舎だ・・・」


リクの中での田舎基準ってなんだろう・・・。


「おっ!いい感じの棒発見!」


細長い木の枝を拾ったリクはあたしを追い抜いて前に出る。立ち止まってこっちを振り向いた。そして、右手に持った棒を振り上げる。


「魔王が現れた!」


・・・・・。


「ま、魔王が現れたっ!!」


・・・・・。


「ま、まおうが」

「魔王に120億ダメージの攻撃」


あたしがリクのおでこにデコピン。


「う、うぎゃああああああ」


・・・・・・。


そのあと、リクは物凄く静かにあたしの後ろを歩いた。



街灯が点きだしてすっかり夕焼けに。

ちかちかと点滅している街灯の下にバス停を見つけた。


「りく、あそこ!」

「へええ、やっとかぁ」


魔王の剣だった棒は体を支える杖に変わっている。


あたしたちに合わせたみたいにバスも到着して、また一番後ろの席にいく。

やっぱり誰も乗っていない。

このまま30分乗っていれば笹貫町だ。


「もうかなり暗いね」

「うん。明かりも全然ないから余計に暗く見える」


バスからみえる風景はほとんど黒ばっかりでぽつぽつと遠くに街灯が見えるくらい。


「なあ、栞菜」

「なに、リク?」

「栞菜のおばあちゃんってどんな人?」

「すっごく優しくて、ご飯も美味しくて、いろんなお話を知っているよ」

「へえ~。おれにはおばあちゃんもおじいちゃんもいないから、ちょっと楽しみだ」


リクの言葉を聞いたとき、あたしはほんの少しリクが寂しそうな表情になったのが分かった。

でもそれ以上は聞かないでおこうと思った。

そのかわり、あたしは思い切ってリクの手を握ってみた。


「な、なんだ!?」

「なんとなくっ!」


すぐに離したけど。


「次は~、笹貫町一丁目~」


バスのアナウンスが聞こえて降りる準備。


――プシューー


いつもどおりの音を出して、バスは停車する。

やっと着いた。長い移動だった・・・。


バスを降りるとそこにはあたしの大好きな人。


「栞菜ちゃん、よく来たね、おかえり」


かおりおばあちゃんが待っていてくれた。



*****


「「「いただきまーす!!!」」」

「さあどうぞ、召し上がんなさい」


おばあちゃんのおうちで少し遅めの晩御飯。

お腹はぺこぺこでただでさえ美味しいおばあちゃんのご飯ももっと美味しく感じた。


リクもいっぱい食べてくれている。美空さんも。


・・・・・あれ?


「へ!?美空さん!?」

「うふふ、おじゃましてますっ」


てへっと舌をだしウインクをする美空さん。


「ほ、ほんとうについてきてたんだ・・・」

「そうよ~。あなたたちがかわいくって写真いっぱい撮ってたらおまわりさんにつかまっちゃったっ」


またてへっとウインク。


「しかも、カメラこわれちゃったっ」


それでも、てへウインク。この人、すごい・・・。


「ほら、みんな、いーっぱい食べな」


おばあちゃんが追加で料理を持ってきた。

リクは止まらない速さで食べていく。


「そ、そんなにお腹空いてたの?」

「いや、まじお腹いっぱい」


無理してた。


「でも、おばあちゃんの料理すんげーおいしいです。いくらでも食べられます」

「そうかいそうかい、じゃあもうちょっとつくってくるねぇ~」

「あっ!その分は明日でお願いしますっ!!」


賑やかな食事に、普段ひとりで住んでいるおばあちゃんも嬉しそうだ。

リクと美空さんとは初対面のはずなのにあたしたち家族と変わらない接し方をするおばあちゃん。この人が自分のおばあちゃんで良かったと思う。


「ねえ、おばあちゃん。お祭りの準備は順調?」

「そうだねぇ。みんな成功させるために頑張ってるよ」

「ほんと!?楽しみっ!!」


今年はどんな〈流様の舞〉なんだろう。

期待は大きくなっていくばかり。

お祭りは明後日だ。


「食べた、食べた~~~」「おなかいっぱいね~」


2人は全部の料理を完食していた。リクは苦しそうだけど美空さんは平気そうにお茶を飲んでいる。


「どれ、片付けようか」

「私も手伝いますねっ」


そう言っておばあちゃんと美空さんは台所に行く。

リクは畳の上で大の字になっていた。


「こ、これが、ばあちゃんのあじ!」


天井を見つめながら言う。


「すごいでしょ、うちのおばあちゃん」

「すげえ。母さんのご飯も美味しいけど栞菜のばあちゃんのも美味しい」

「えへへっ、ありがと」


なぜか自分が褒められている気がしてあたしは照れた。


「そうだ、リク。外、行かない?」

「えええ~、うごけな」「さ、行こっ」


リクの腕を掴み、引きずるように外へと連れ出す。

「ウゲぇ、吐く、吐いちゃう!!」


そんなことを言っているリクだけど、夜空を眺めて静かになった。


「・・・すっげえ・・・」

「リク、ここきてからすげえしか言ってないよ」

「だって、すげえんだもん。すげぇ以外の言い方がわかんねえ」


満天の星空だ。

星の光がいくつも輝いていて、毎年見ているはずのあたしもリクと同じでなんて言えばいいのか分からなくなる。


「藤咲じゃ絶対に見れない空だ」

「街があかるいもんね」


ずっと見ていても飽きない夜空。


たった一ヶ月の間にいろんなことがあって、それは大体嫌なことばっかりだったけどそんなことどうでもよくなるくらい綺麗な星空。

いつもこの季節にこの庭から見える星は変わらないはずなのに、今年の星空はちょっとだけ違って見える。


今年、この景色を見せてくれたのは、リクだ。

隣で夢中になって空を眺める男の子。


教室でもバスの中でも、景色を眺めるのが好きなんだね。


また少しだけ、リクのことを知った気がした。


・・・今度は、あたしのことも知ってもらいたいな・・・。


「はい、おふたりさんっ!スイカを切ってきましたよ~」


あたしたちが無言で夜空を眺めていると美空さんが声を掛けてきてくれる。

縁側にどんっと置かれた切り分けられたスイカと半分丸々のスイカ。


「おおっ!おれ、これをスプーンで食べるのが夢だったんだっ!」


なんて夢を持っていたんだ、君は・・・。


「いーっぱい、お食べ。まだあるから」

「い、いえ、とりあえずこれだけでいいですっ!!」

「ふふ、あはははっ!!!」

「あらあら、陸斗君っ!種は取り出すのよ?」



連れてきてくれて、ありがとね。リク。



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