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『te:tra』  作者: 坂江快斗
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〈episode3〉 魔導師たちの希望

「それでは、会議を始める」


この会議を取り仕切るのは、当然オリオンだ。

テトラ様が眠ってからの100年、世界は傀儡師の絶滅と道を指し示す主の両方を失い、混沌の渦に飲み込まれた。

自我を失い、禁忌とされる「同族の傀儡化」を犯し、異形の化け物がこの世界を支配したこともあった。傀儡を作るためのチームを結成し、作成を試みたが、得られたのは傀儡師たちの偉大な功績を垣間見ることだけだった。大切な仲間も失った。

そして、今も、2人の魔導師があちら側へと消えた。

1人はリロウス。同族殺しの罪で監禁していたにも関わらず、消失するかのごとくこつ然と姿を消した。そのリロウスを〈追放〉という形であちら側に送った張本人アーフェン。最古の魔導師にして、最強の魔導師。彼女もまた、あちら側に行ったとなれば恐らく、テトラ様の思惑は知っていたということになる。


議題はもちろん、渦中の2人の事だった。


「リロウスはともかくとして、問題はアーフェンだ」


そう切り出したのはそのアーフェンに自らの傀儡を盗まれた泣く子も黙るエッフェンバルト大将軍。

貴重な傀儡を持って行かれたとなれば、将軍の力も半減してしまう。

本気を出せば、いくら将軍の鍛えぬいた肉体でも粉々バラバラに散らばってしまうだろう。魔導師とは実に、完璧で脆い生き物なのだ。


「アーフェンがもし、あちら側で反逆を企てていたとしたらあたしらだってやばいよ」


金髪を指先でいじりながら、真面目な意見を出す体に似合わぬ大剣をもった魔導師イルヴァナ。「あたしなんて1度も一撃食らわせたことない」


「へっへー!イルヴァナ、びびってるーっ!」


無邪気な声はだだっ広い円卓の間に響く。双子の魔導師の片割れ、ウィズ。


「あんたねぇ…っ。真っ二つにすんよっ!!」

「こっわーいっ!おいらスイカみたいになっちゃうの??」

「ああ、お前なんてスイカ以下なんだよっ!!」

「言ったなーーーっ!!!」


イルヴァナが円卓の上に登り大剣を解き、ウィズが双剣を抜くと、間に入るようにウィードが2人を制止した。


「今、会議、静かに」


制止された二人は興奮冷めやらぬと言った具合で自分の席に落ち着く。

オリオンは、事を眺め終わると、ゴホンと1つ咳払いをしてから考えを述べる。


「今はまだ、情報が足りない。ただ確実に言えることは、圧倒的に我らが不利だということ。あちら側には傀儡はなくとも〈器〉が豊富にある。リロウスが魔力を取り戻したらいよいよ手が付けられなくなるだろう」

「だったら、さっさと攻め入ればいいじゃん!」

間髪入れずにイルヴァナが言う。


「それは、テトラ様が望むと思うか?」


オリオンの言葉に言葉を詰まらせるイルヴァナ。


「我々は、自分たちの為に生きているのではない。主の為に生きることを許されている。主が目覚めるのを待つ」


「それは、」

「どうも納得いかないですなぁっ!!」


イルヴァナの言葉に将軍が被さるように言う。


「このまま何もせず指をくわえて見ていろというのか!?主も必ず我らにこう言うだろう。戦えと!!!」


そうだそうだーとウィズがはしゃぐ。イルヴァナは口をムッとさせ、虫の居所が悪そうだ。


「俺はイルヴァナに賛成ですな。人間など恐るるに足らん、アーフェンも傀儡を破壊してしまえればこっちに分がある」


「将軍、その傀儡はあなたのものですけどね」と、俺は言った。


将軍は、それはそれだとし、戦火を上げる気満々である。

これはよろしくない。穏やかではないな。


「ではこうするのはどうでしょう。まずリロウスの首を取る。今の彼女は魔力も傀儡も無い最早ただの人間だ。その後、アーフェンは放っておいてもいいでしょう。いざとなれば全員でかかればいい」


その場にいる全員が俺を見る。

オリオンの言うとおり、今は攻めるべき時ではないのだ。


「どちらにしても、あちら側に行けるのは1日1人だ。誰がリロウスを排除しに行くか…」

オリオンは、俺の考えを組み、纏めた。そうだ、今はそれでいい。


「・・・・・アタシが行く」


宣言したのは、意外にもイルヴァナだった。

「アタシが全部1人で終わらせて来ればいいって事だろ。ついでに何人か人間も持って帰ってきてやるよ」


そう言うと、イルヴァナは円卓から離れていく。


「イルヴァナっ!!」

呼び止めたのは、ウィズだった。

「なんだよ、チビ」

「ぜったい、帰ってこいよっ!」

「ったりめーだろ、チビ」


イルヴァナは姿を消した。たった1人居なくなっただけで円卓の間はさらに広くなったように感じる。

我々、魔導師は一騎当千。まず負けることはありえない。


が。


「もし。あちら側にアーフェンとリロウス以外の魔導師がいたらどうしましょうかね」


その一言であまりにも俺の方を見てくるものだから「冗談ですよ、冗談」と言っておいたが。


現に、魔導師たちが弱ってきているのも事実。

唯一の希望は、あちら側の人間、つまり、魔導師の根源たる存在達ということ。

進化を遂げた者たちが滞留を余儀なくされた者たちを希望としなければならないなんて。


滑稽すぎて、笑いを堪えるのも甚だしい。


円卓に残された魔導師は静かにイルヴァナの帰還を待った。

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