〈episode28〉孤独のリゲル
「あ~~~、つまんないなあ~~」
わたしの声だけが小さな地下牢に響いて、返ってくる。
ここに来てから結構な時間が経ったかな。
外では何も起きていないみたいだし、わたしはわたしで身動きが取れないし、結局〈ノウス〉で封印されてたときと何も変わってないし。
どうしてわたしはこんなところにいるんだろって、何度も考えた。
それはあの洞窟でも同じだった。
毎日毎日毎日毎日、同じことばかりを考える。
どうして、ばかりが最初に出てくる。
〈ノウス〉のやつらも、わたしを封印したやつらも、ママも、みんな口を揃えてこう言うよ。
『リゲルは、災厄の再来』ってさ。
そんなこと、言うんだ。
だって、仕方ないじゃん。
殺せって言われたんだ。パパに。
お前は希望なんだって言われたんだ。パパに。
傀儡を越えた存在になれるんだって言われたんだ。パパに。
だから、いっぱい殺したの。
だから、みんなの希望になれるように殺したの。
だから、傀儡を越えた存在・・・〈器〉になれたの。
なのに、どうして。
・・・まただ、〈どうして〉。
ママが突き刺した矢はママの魔力を常に放っていて抜き取ることが出来ない。
心臓に刺った白銀の剣にも、ママの魔力。
全身の力が抜けて、力が入らない。ママとの戦いで消耗しすぎたのかもしれない。
ママはわたしの力が必要だからここに連れてきたんだよね?
ママはわたしに頼るしか生きる道が無いからここに連れてきたんだよね?
・・・・・・・。
意味、わかんないな。
今まで、いっぱいいろんな戦場で〈必要〉とされてきた。
わたしは〈必要〉とされる度に、戦場に行って身を捧げてきた。
〈必要〉だから命令に従った。〈必要〉だから、『愛している』と言われた。
わたしに〈必要性〉が無かったら、わたし、生きてる意味、ない。
あのまま、〈ノウス〉で封印されていたほうがましだったよ。
ママ、わたしにはね、〈必要〉って言葉が〈必要〉なの。
わたしを必要としてくれないなら、わたしをリゲルとしてみてくれないなら、
わたしは、ママもパパも、他のみんなも、この世界も何もかもだいっきらい。
だいだいだいだい、大ッ嫌いッ!!!
「こんな世界、無くなっちゃえばいいのにな」
―――・・・・・。
わたしは、わたしと会話する。ここではそうやって過ごしてきた。
「ねえ、あなたのお名前は?」
「わたしはリゲル。じゃああなたは?」
「わたしもリゲル。同じだね。お話しようよ」
「うん、いいよ。何から話そうか」
「なんでもいいかな。これはどう?ずっとむかしに、山の頂上で雷に打たれた魔導師のお話」
「うーん。その話はもう飽きちゃったな。他の話をしよう」
「好きな景色ってある?」
「あるよ。〈大戦〉のときにね、〈ノウス〉のお城から見下ろした魔導師たちの死体の山。夕日も見えててね。綺麗だったなぁ」
「じゃあ、好きな色は?」
「青色。ママの髪の色」
「嫌いな色は?」
「赤色。パパの髪の色、血の色」
「血は嫌い?」
「嫌い。臭うし、べとべとするし」
「・・・ママは好き?」
「だいきらい」
「パパは好き?」
「だいきらい」
「なら、一番好きなものはなに?」
「名前、かな」
「リゲル?」
「そう、リゲル。パパが考えてくれて、ママが初めて呼んでくれた名前」
「・・・本当はパパとママ、どっちも好き?」
・・・・・・。
「きらいだよ、どっちも」
何もかもが変わってしまったあの日。
ママがわたしを守ってくれたなら、わたしは今頃こんなところにはいなかったと思う。
パパの頭がおかしくならなければ、わたしは今頃きっと「幸せだ」と言える日々を送っていたと思う。
でも、わたしは自分に嘘をつく。
嫌いであるほうが、楽だから。
好きでいるほうが、つらいから。
何もかもを嫌いで、寄せ付けないでいられたら、その方が幸せなんだと分かった。
それを知ったときから、わたしはわたしに嘘をつくことを覚えた。
本当は大好き。でも、嫌いっていう。すると、心の中が悪意に満ちてきて楽になる。
わたしはいつもひとりぼっちだったから、泣くことに抵抗が無い。
泣くとすっきりする。わたしの〈嘘〉も〈嫌い〉も、涙となって流れていると思うから。
そうやって、わたしはわたしを許してきた。
孤独にはもう慣れました。
孤独はわたしに与えられた特権。
ひとりぼっちの特権。
ひとりは気楽で楽しいよ?
寂しくなんか、ないよ?
ママ。ねえ、ママ、聞こえてるかな?
ママーっ。おーーい、ママーっ!
「・・・ま。ママ・・・・、ママ・・・ッ!!!ママッッッ!!!!」
*****
―――っ・・・。
「む?どうした、オリオン。急に立ち止まったりして」
確かに聞こえた。奴の声が。
ママ、と。届くはずの無い場所からの声。
「・・・いや、何でもない。行こう」
城の中は、とても静かだった。




