第27話〈嵐禍ノ章〉「彼女は小さな勇者」
「オリオン・・・って、あいつも敵なのか!?」
俺の問いかけにリロウスは、はっきりと「敵だ」と言った。
声が聞こえているのか、オリオンという名の魔導師はふんっと鼻で笑ってみせた。
その笑みは終わらない戦いを提示されているようで、俺はすぐに動けるように臨戦態勢を整えた。
が、まるで俺の意図が見透かされているかの如く、
俺の足元に1本の矢が突き刺さった。
いつ、発射したんだ・・・?
「動くな、人間。今、戦うつもりは無い」
オリオンは「今」に強いアクセントを置いた。
『先輩、どうするです・・・?』
鳴海が心配そうに聞いてくる。俺は様子を見る、とだけ声に出さずに伝えた。
「・・・ウィンディ、《《彼女たち》》を」
「はい・・・」
ウィンディと呼ばれたもう一体の魔導師が次元の歪みから降りてくる。
向かった先には、ウィザード。心臓を貫かれてから微動だにしていない。
でも、分かる。まだ、かすかに息がある。生きている。
俺は時折オリオンのほうを見るが、こちらをじっと睨むだけで何もしてくる様子はないが、恐らく俺が少しでも動けば弓矢を引くだろう。何もさせない雰囲気を奴は持っていた。
『ねえ、もしこのままウィザードが連れて行かれて、治療とかされて復活したらどうするの?』
枝紡の疑問は当然のものだろう。
次戦があるとして、勝てる保障なんてどこにもない。
それに、ウィザードは俺たちの街を灼き尽くしたんだ。
こんな戦い方は二度と出来ない。してはいけないんだ。
『そうだ、陸斗。何もせず、奴らを帰らせてはこの惨状が無駄になってしまうぞ』
そのとき、予想はしていたがオリオンの矢が俺に向けて放たれた。
間一髪のところで避けたが、着弾地点には爆発音と共に大きな穴が開いた。
「変な考えはよせと言っている。ここのにおいを吸い過ぎて頭がおかしくなったようだな、リロウス」
『・・・黙れ』
「やめてくださいっ!!!」
雨と風と雷の音に負けないくらいの大きな声。
もう一体の魔導師からの声だった。
「・・・本当に、戦うつもりはありません。わたしは、この子たちを迎えに来ただけです」
魔導師は、しゃがんでから横たわるウィザードの体を持ち上げる。
「さあ、かえろうね、《《ウィズ、ウィード》》・・・」
魔導師はウィザードとは、呼ばなかった。
俺には、何がなんだかさっぱり分からない。
魔導師の言葉に応えるようにして、ウィザードの口がわずかに動く。
ぱりぱりと頬が欠けていく。
「・・・かえ・・り・・・・たい・・・」
「いっぱい・・・雨に濡れて・・・さむいでしょう・・・」
魔導師の眼からは涙が溢れてきていた。
打ち付ける雨が強くても、それが涙だということは分かった。
「・・・も・・・う、あつ・・・く・・・な・・い・・・」
「そう・・・。よかった・・・」
ガラスが割れるみたいに、ウィザードの左腕が落ちて砕けた。
魔導師は、両足も砕けて小さくなってしまったウィザードを両腕に抱えて立ち上がる。
ウィザードの表情は、安らかに見えた。
あの憎悪の表情をしていたとは思えないほど、優しい顔をしていた。
「あの・・・」
魔導師が俺たちに声を掛けてくる。条件反射で俺は少しだけ構えてしまった。
でも、魔導師にはやはり戦う意思も、敵討ちの意思もないらしかった。
深く深く、頭を下げてきたからだ。
「・・・あ・・ありがとう・・・ござ、いました・・・」
――姉を救ってくれて、と。最後に小さく聞こえた。
俺には、その言葉の意味が分からない。
ただ、ひとつだけ言えるのは、
この戦いが、終わったということだけだった。
魔導師はオリオンの元へと戻る。
愛おしそうにウィザードを見つめて。
俺は何もせず、何もいわずだ。
「人間よ。忠告しておく。次に貴様と会うときは、容赦しない。我々には時間が無い。貴様にも守りたいものがあるというのは結構だが、そう思っているのが貴様だけではないことも知れ。この次は、殺す」
自分だけ言いたい事を言ったオリオンは、次元の歪みの中に消えていった。
同時に、歪みそのものが消えた。
・・・・・終わった。戦いが・・・。
俺は立ち尽くす。
雨は容赦なく俺にも打ち付けてきた。
俺の脳裏には、ウィザードとあの魔導師の姿が焼きついて離れない。
魔導師が言った言葉が何度も繰り返される。
――ありがとうございました――
「なあ、リロウス・・・」
『なんだ?』
「俺たちは一体、誰と戦っているんだよ・・・」
リロウスからの返事は、無かった。
「・・・うぅ」
べちゃんっと泥の中に倒れる。もう体が動かない。
枝紡や鳴海が何か言っているが、なんと言っているのか分からない・・・。
――意識が、
――落ちて、
――いく。
*****
・・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
ここは、どこだ・・・?
俺は、生きているのか・・・?
例の如く、体が動かない。
意識的に息を吸ってみる。吸えた。でも、これが生きていると言う証拠になるのかは分からない。
意識的に瞼を開けてみる。黒い世界のあとに、真っ白が見えた。
・・・蛍光灯の光。
「はぁ・・・、びょう・・・いん?」
かすれた声が出て、次に鈍い痛みが喉を通っていった。というか、体全体が焼けるように痛い。
眼球だけを動かして、見える範囲だけ見てみると、俺のベッドはカーテンで間仕切りされているらしく他の景色は何も見えなかった。段々と、耳が冴えてきて医療機器の無機質な電子音と、隣の病人がみているらしいテレビの声が聞こえてくる。
何もかもがデジャヴに思えた。
枝紡が体を失ったあの日の・・・。
体・・・?
俺はばっと飛び起きる。ぶちっと点滴が外れたが気にしなかった。
鳴海の体は・・・!?
俺が〈嵐禍〉の力を使ったとき、鳴海は俺の精神と同化した。そして、体は病院に運んだはず。
俺は戦いが終わったあとの記憶が曖昧で、ほとんど覚えていない。どうして今、病院にいるのかもわからない。俺は心のうちで鳴海を呼ぶ。
でも、返事が無い。だが、代わりに眠たげな声が返ってきた。
『んあ~。しきせくん、おはよ~』
枝紡は欠伸をかます。それでも俺は安心できた。つづいてリロウスも起きたらしい。
俺は鳴海のことを枝紡に問う。すると、
『大丈夫。無事に還ったみたいだよ』
「・・・よかった・・・」
まだ本当に安心するには早いかもしれないが、還るべきところが無事だったことが吉報だった。
ともすると、俺を運んだのはいったい・・・?
俺の意識が閉じたとき、枝紡たちの意識も閉じられたため、彼女らも知らないという。『救急隊とかじゃない?』
まあ、そうだろうな。実際、ヘリもたくさん飛んでいたし。
俺は再び枕に頭をつける。
みんなは無事だろうか。母さんはどこにいるだろうか。
学校の皆も、街の人たちも。・・・鳴海も。
今の俺に出来ることは、無事を願うことだけだった。
そして、眼を閉じかけたとき―――。
「なにが、「よかった」よーっ!!!」
しゃしゃあっとカーテンレールが音をたて、豪快に開けられた。
びっくりしてまた一本、点滴が抜けた。
「だ、だれだっ!」
「だれだ、とは失礼ね。幼馴染の顔も忘れたの?リクっ!!」
病院服を着た栞菜がそこにいた。
*****
「お前、どっか怪我したのか!?」
俺からの質問に答えることなく、栞菜はでこピンを打ってきた。
「いてええ・・・」
「痛みを感じるだけ、良かったわね。生きている証拠よ」
はい、何よりもその証拠が欲しかったです・・・。
『栞菜ちゃん、またでこピン強くなってるぅ・・・』
「で、あんた、どこいたの!?」
栞菜は俺のベッドに半身ほど乗り出してきて詰め寄る。
今まで、戦ってました。なんて言えない。
「俺も、避難してたぜ・・・」
冷や汗が頬を伝う。栞菜の顔がかなり近い。
彼女は顔を離すと、携帯電話を取り出した。何か操作をしたあと俺に画面を突きつける。
画面を見たとき、俺は分かりやすく顔を引きつらせてしまっていた。
枝紡もまた、気まずそうにしている。
「これ・・・、ふたば、だよね・・・?」
ここで何も言わなければそれは肯定を意味する。
「このふたばの姿、あたし知ってる気がする。それに、リクと連絡が取れなかったこと、リクが怪我していること、何か関係あるんじゃないの・・・?」
俺はなんと答えたらいいんだろうか・・・。
全てを洗いざらい話してしまえばいいのか。
いや、そんなことをしたら、栞菜はまた・・・。
栞菜は黙って俺を見ているだけ。俺が答えるのを待っているだけだった。
長い沈黙。もはや、肯定しているも同然だ。それでも、栞菜は何も言わない。
『式瀬くん、もし、つらいなら、言ってもいいんじゃないかな・・・』
俺が楽になるのと、栞菜が事実を知り苦しむことになるのは間違っても秤にはかけられない。俺は拒否した。そして、栞菜には「なんでもないんだ」としか言えなかった。
「言いたくないなら、いいや」
栞菜は、俯いたまま言う。そのまま続けた。
「おかしいんだ。記憶が。あたしにだけ残ってるの。正確にはあたしとリクだけなのかな。ニュースを見て分かると思うけど、藤咲市では大規模な爆発が起きただけってことになってる」
俺は驚愕し、栞菜のベッドに備え付けられたテレビを見た。
アナウンサーはしきりに、「繰り返しお伝えします。一昨日の藤咲市大規模爆発事件についての続報です・・・」と喋っている。
「お母さんにきいても、椎菜にきいても、あたしたちが住んでいた街で大爆発があったんだってーとしか言わないんだ。でも、あたし覚えてる。みんながこの姿のふたばを携帯とかで見て、応援してた。ふたば、なにかと戦ってた。なのに、誰もおぼえてないっ!」
そんなこと、ありえないだろう・・・。
俺はまずあの様子が生中継されていたことを初めて知ったが、目撃者多数なのに栞菜以外が覚えていないって・・・。
好都合と考えることができない。いったいどうして・・・。
『記憶操作の、それもかなりの人数の記憶を改竄した者がいるようだな。事実そのものを捻じ曲げるとは・・・』
リロウスは、あの名前を口にした。『アーフェン・・・』
テレビには、壮絶な戦いの爪が残された藤咲市が映し出されていた。
*****
どうやら、藤咲市には国から〈特別厳戒措置適応都市〉という大層なお名前をつけられ、復興の為に必要な工事関係者さえ立ち入ることが出来ないらしい。
理由は、〈製造してはいけない何か〉を作っていた可能性があったから。と。
その危険性が判明しないために、何人の立ち入りを禁じていると言う。
俺には、アーフェンという魔導師がいったいどんな記憶改竄をしたのか不明だが、
そいつにも何か都合が悪くなることでもあるのだろう。
今はあまり考えたいとは思わなかった。
目が覚めてから、2日が経ち、母さんや栞菜の家族、特に会いたくは無かったが無事でいてくれたことで安心した円堂、風紀委員会会長の吉秀など、たくさんの人が見舞いに来てくれた。でも、その中に鳴海だけがいなかった。
もしかして・・・、と不安ばかりがよぎる。
だが、どうしようにも体が動かない。
鳴海に連絡を入れても繋がらない。栞菜も同じ様子だった。
栞菜も、俺に問いただした日からは何も聞いてこなくなった。多分、これ以上何を聞いても俺からは何も聞けないと分かったのだろう。俺は俺で言うつもりもなかった。
「やっぱり、繋がらない。まるちゃん、大丈夫なのかな・・・」
その日、俺はいつまでも携帯の画面を見つめ続けていた。
あんなに鳴りっ放しだった携帯は、ただの一度も鳴らなかった。
*****
――深夜。
俺は眠れずにいた。ずっと鳴海のことを考えている。
鳴海のこれからのこと、〈嵐禍〉のこと。
俺だけが受ける代償ならまだいい。
代償は、鳴海にもある。むしろ、鳴海にかかる負担は半端じゃない。
あの小さな体を戦いに巻き込んでしまった。
でも、そうしていなければ今頃は・・・なんて考えては頭を抱えた。
とにかく鳴海に会いたい、そう思った。
ぼーっと天井を眺める。月明かりではっきりと見える蛍光灯。
カーテンは閉められ、栞菜の様子は分からない。が、よく眠れているらしい。すうすうと寝息が聞こえた。そのくらい、病院の中は静かだった。
『ねえ、式瀬くん・・・』
突然の声。驚いて声を上げそうだった。
『な、なんだ?枝紡・・・?』
『私、なんとなくだけど、あの子あの場所にいる気がする・・・』
あの場所、つまり、藤咲氏だった場所。
『どうしてそう思うんだ』
『言ったじゃん、なんとなくだって。なんとなく、あの場所が気になるの』
『・・・リロウスは?』
『・・・私が言えば、君は向かうんじゃないか?』
それは言っているのと同じだぞ、と突っ込みたくもなるがやめておく。
枝紡とリロウスはウィズとウィードの襲来を察知していた。
2人には気配を感じ取る力がある。
もし、2人が感じている気配が鳴海のものだとしたら。
あの場所に、今、鳴海がいるとしたら。
なぜ?とかどうして?とか、疑問はとりあえず捨てた。
俺は可能な限り物音を消して、病室から出る。
体の節々がまだ痛むが、歩けた。それで充分だ。
壁伝いに歩く。
暗い病院内を、ゆっくりと。階段があった。俺はそれを一段ずつ上がっていく。
そして、屋上へと出た。鍵はリロウスが外してくれた。
静かに風が吹いている。
夏の風。心地よくて、そのにおいに鳴海の姿を思い浮かべる。
「枝紡、いいか?」
『うん。飛びますか』
俺は炎の羽を羽ばたかせて、月夜を飛んだ。
*****
月明かりが照らす藤咲市。
暗闇でも分かるくらい、その損壊は激しかった。
市全体を囲むように壁が建設され、普通なら立ち入ることは出来ないだろう。
でも確かに、藤咲市に近づくにつれて俺にも鳴海の気配を感じた。
俺は空から鳴海を探す。
広大な藤咲市を一夜にして荒野に変えたのは俺とウィザードだ。
知っている場所を見つけるたびに、唇を噛んだ。
藤咲学園があった場所には、文化祭の看板が立てられたまま。
よく使うバス停には、かろうじてベンチが残っていたり、時刻表が残っていたり。
ラ・ポート藤咲は見る影も無く、平らな土地に戻っていた。
ここにはもう思い出しか残っていないんだ。
『式瀬くん・・・っ!あそこ・・・!』
枝紡が俺の意識を誘導すると、風のにおいが強いところがあった。
・・・鳴海だ。
逸る気持ちを抑えつつも、炎の羽は強く羽ばたき、一直線に鳴海の元へと向かう。
「・・・あっ」
眼が合う。鳴海は、驚いたように口を両手で塞いだ。
「せ、せんぱい・・・」
俺は地上に降り立つと、炎禍を解除した。
そして、思い切り鳴海の肩を掴んだ。
「な、なにやってんだよっ!鳴海!」
「えっ!えっと・・・その・・・ですね・・・」
「心配したんだぞ!電話くらい、出てくれよ・・・」
「あ、ごめんなさいです・・・。電話したかったですけど、壊れてて・・・」
鳴海の携帯をみると、画面には大きな亀裂が入っている。タッチがしても反応が無い。
「それなら、病院に来てくれても・・・」
「行きたかったです・・・。でも、先輩に会うのが・・・こわくて・・・」
俺はその言葉を聞いて、鳴海の肩から手を離した。「こわいって?」
「その・・・。こ、こ、こくはく、した、ですから・・・」
・ ・ ・ え?
「わたし、先輩に告白しちゃったです。しかも、二回も!」
――わたし、陸斗先輩のこと、だいすきです。
――先輩、あいしているです。
「あ。ああ、ああ・・・」
俺の顔まで熱くなってくる。やめろ、枝紡、ヒューヒュー言うな。
「お見舞いいけなかったのはごめんなさいです。本当にすみません・・・。えっと、その、告白の返事は、い、い、いらないですから!!!」
鳴海はそういうと逃げるように俺に背中を向けて駆けていく。
俺が危ないっと言いかけて、躓いた。
「い、いたいです・・・」
「ほら、こんな瓦礫だらけで暗いとこ走ったらそうなるって。見せてみろ」
鳴海の膝からは血が出ていた。俺はリロウスに頼んで、俺を介して治療魔法を使ってもらうことに。すぐに傷は塞がった。リロウスも段々と魔力が回復しているようだ。
「ありがとうございます・・・」
また眼が合う。
鳴海の顔は暗がりでも分かるくらい真っ赤だ。
今にも煙が出そうなほど。
「で、お前、ここでなにやってんだ?しかもこんな夜中に」
聞きたいことは山ほどあるが、まずはこれだろう。
「言わなきゃ、だめです・・・?」
「だめです」『だめです』『だめだ・・・です』
鳴海は少し黙ったあと、俺のほうを見て言った。
「おじいさんの・・・、晴れの日書店があった場所を探しているです。おじいさんの奥さんの遺影を探しているです。お昼に探せればいいですけど、人が多いので」
鳴海は〈嵐禍〉の力を借りて、ここまで来たという。力がかなり覚醒しているらしい。
確かに、この辺だったような気もするが目印になりそうなものは何一つ残っていないため、ここに書店があったのかどうかも分からない。
仕方なく、鳴海は手当たりしだい探していると言った。
「それじゃあ、俺も手伝うよ」
「いえ!そんな、先輩は休んでいてください!」
鳴海にあるまじき即答だった。
「いやです」
「ダメです!」
「なんでです?」
「なんででもです!って先輩っ!からかってるですか!?」
むむっとする鳴海を見て、俺は久しぶりに大笑いした。
なんだかおかしくて、笑いが止まらない。
笑うことが出来るのがこんなにも気持ちがいいなんて、
考えても見なかったことだった。
馬鹿笑いする俺に釣られてか、鳴海も控えめにだけど笑った。
荒野に2つ、笑い声がこだまする。
「ふふ、ふふふっ。・・・ひどいですね、先輩は」
「ん?なんでだ?」
「もう、いいです。なんでもないです!・・・なら、いっしょに探してもらってもいいですか?」
俺は、おう!と頷く。
こうして、2人の探索が始まった。
*****
それから2時間。
瓦礫を持ち上げるために炎禍になり、鳴海もまた風を使って瓦礫をどかしたりと、探索はスムーズに進んだがなかなか見つからない。
もうすぐ朝陽がのぼる。
その前に見つけないといけない。俺としては今晩見つけたかった。
早く見つけて、鳴海を休ませてあげたいと思ったから。
多分、鳴海は全然休んでいないのだろう。時折、ふらついたり、膝に手を置いて呼吸を整えていたのが見えた。
俺が声を掛けると、「だいじょうぶです!」の一点張り。
その度に俺の作業スピードは速くなっていった。
俺はあの日、晴れの日書店へと辿った道を思い返してみた。
学校があった場所から記憶を頼りに。商店街の路地裏。確かこの辺では・・・?
俺は瓦礫をどかす。
かなり重たかったが、枝紡が頑張ってくれた。
瓦礫をどかす。すると、〈晴れの日書店〉と書かれた看板が出てきた。
急いで鳴海を呼ぶと、「そこは探したです!」の一言。まじか・・・。
どうやら、看板だけしか見つからなかったようだ。とりあえず俺はこの周辺をくまなく探すことに。遺影ということは、仏壇に飾るくらいの小さな写真のはず。果たして見つかるだろうか。
「先輩っ!!せんぱいっ!!!」
俺が瓦礫をどかしていると鳴海の声。
見つかったのかと思い、俺は鳴海の元へと駆け寄る。
俺は鳴海が見つけたものを見て、一瞬炎を強めてしまった。
「ウィズと・・・ウィード・・・」
あの双子の古いほうの体がひびだらけになり埋もれていた。
この姿を知らない鳴海は人が埋まっていると勘違いしたらしく、俺が説明するまでかなり混乱していた。
ウィズとウィードの亡骸は、額を寄せ合っている。
魔導師の果ての姿。
俺にはひとつだけ過ぎった言葉がある。
あのウィンディという魔導師の感謝の言葉だった。
「先輩・・・、これ、動かないですよね・・・?」
鳴海はかなり警戒している。風が強くなっているのが分かった。
「・・・ああ、動かないよ。なあ、鳴海。一旦俺の手伝いをしてくれないか?」
「・・・はい?」
俺はウィードを、鳴海はウィズの体を持って藤咲市の山へ。
木々は燃えていたがまだ所々には生えていた。
俺たちは山の頂上へと向かい、持ってきた瓦礫で穴を掘った。
「よし、こんなもんかな」
その穴にウィズとウィードを、また額を寄せてあげて入れる。
そのあと、土をかぶせた。
盛り上がった土に対し、俺は両手を合わせる。
「・・・・・・」
鳴海も俺と同じようにしているのか、手を合わせる音が聞こえた。
これは償いとか、そういうものではないけど。
俺は瓦礫の下に埋もれていた双子を見て、こうしたい、と思ったんだ。
墓を作ってやりたい、と。
こいつらは、いつまでもいっしょにいさせてやりたいって。
・・・殺されかけたけども。
「多分、ものすごく仲が良かったんでしょうね」
「だろうな」
「わたしの妹たちも双子ですからなんとなく分かるです。双子ってお互いのことを信頼しているです」
「信頼、か。・・・今回の戦いに勝者はいないかもな・・・」
枝紡に、キザな台詞、と冷やかされるが気にしないぞ。
「わっ」
声を上げる鳴海。いきなり、風が吹いた。
同時に夜明けが訪れる。
瓦礫だらけの街に、だんだんと朝日が注がれる。
夜が明けてしまった。結局、写真は見つけられなかった・・・。俺の手伝いをさせてしまったから、と鳴海に頭を下げるとまた風が吹く。
「あっ・・・」
鳴海が空を見上げて手を伸ばすと、おばあさんが映っている写真が舞い降りてきた。
「・・・はは、ははは、すっげ」
もう笑うしかない。風はどこまでも鳴海の味方のようだ。
「おばあさん・・・。よかった。これでおじいさんも安心してくれるです・・・。先輩、ありがとうございます!」
いや、むしろ俺が頭を下げたいくらいなんだけどな。
鳴海の一生懸命なお辞儀は俺に有無を言わせない力強さがあった。
朝日が昇る。
世界が光に満ち溢れていく。
俺たちが守った世界に。
明日が確実にあるなんて思えなくなったけど、
少なくとも、”今日”はある。
今日を守ろう。そして、明日も明後日も、明々後日も。そう思いたい。
鳴海との約束は、〈いつか〉を守ること。
そして、鳴海の小説の一番最初の読者になること。
俺はその〈いつか〉を迎えるために強くならなくちゃいけない。
それが、この世界で俺にしか出来ないことなんだ。
「先輩」
鳴海が俺を呼ぶ。「ん?」
「いろいろと聞かせてください。今まで何があったのか、これから何が起きるのかを」
「・・・・・ああ」
きっと、鳴海は俺みたいに迷わない。
迷わずにその身に宿った力を俺に貸してくれるだろう。
だってこの子は、本当は・・・
「あっ、陸斗先輩、見てください!太陽が昇るですっ!きれいですっ!」
嵐のような”強さ”を持った、女の子だから。
〈嵐禍ノ章 結〉
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