第25話〈嵐禍ノ章〉「黒い炎は彼女を灼く」
*****
「こ、今度はなんだああああっ!!!!」「どうなってんのよおおおっ!!!」
「終わりだ・・・、何もかも・・・っ」「いやああああ、いやあああああっ!!!」
止まらない悲鳴、怒号、狂気、絶望。
人間の心の奥底から搾り出される〈声〉は、重く重たく響き、連鎖を生んだ。
巨大な炎の柱が上がったあと、鳴り止まぬ爆発音に避難場所の小学校は騒然の域を超えた。
わたしはおじいさんを屋内へと半ば無理やりに連れて行き、救護の人に保護をお願いしてから、家族の下へと戻ることに。おじいさんの所へ行くときよりも人は混雑していて前に進むことは難しかった。それでもわたしは前へと少しずつでも進んだ。
家族のもとに辿り着くまでに何度、赤く染まる夜空を眺めただろう。
何度、焦げた臭いを嗅いだだろう。
どれほどの人の叫びを耳にしただろう。
わたしの五感の何もかもが刺激されて、わたしは何度も膝に手をついた。
「あ!まるっ!!!どうしたの?大丈夫?具合悪くなった?」
わたしを発見してくれたのはお母さんだった。続いて弟たちが駆け寄ってくる。
「ううん・・・、平気。おじいさんにも会えた。今、保護してもらってる・・・」
「そ、そう・・・。とにかく私たちも建物の中に避難しましょう」
お母さんがわたしの手を引いてくれたけど、わたしはどうしてか動けなかった。
「ちょっと、まる?」「ねーちゃんっ!うごけーーー」「おねね、はやくっ」
いや、うごけない・・・。だめだ、なんだろ、この感覚・・・。
――ここから、逃げろ
だれ・・・?だれなの・・・、わたしに声を掛けてくるのは・・・?
――あなたは、逃げるの
・・・今度は、だれ・・・?教えて、あなたはだれ?なんなの?
「まるっ!!行くよっ!!ま・・・、え・・・なにあれ・・・・・?」
――わたしは、あなた
・・・わたし?
「ねーちゃんっ!!!」「お空、まっくろーー」
――逃げろ、いいから
・・・逃げたら・・・、楽になるのかな
――逃げたって何も始まらない。あなたにしかできないことがある
――それこそ、逃げることだろ
「・・・ま・・・る・・・」「かあちゃん、ねえ・・・ちゃん・・・」
「おねね・・・・・」
・・・わたしは、わたしは、わたしは・・・っ
どくんっ。と心臓がはねた。
「・・・おかあ、さん・・・?幸太、福之!莉笑、笑美!!」
はっと気がつくとわたしの家族が倒れている。わたしの家族だけじゃない。周りの人たちみんなが倒れていた。立っているのはわたしだけだった。
立っているのは、わたしだけ、だった。
「・・・あああ、ああああいやだいやだいやだっっっ!!!」
だれか、助けてよ!!!
「こわいよ、いやだよ、どうしてっ!!どうしてっ!!!!」
わたしだけにしないで!!おねがいだから・・・っ!
「はあ、はあ、はあ、はあっ!!!・・・ひとりに、しないで・・・」
――ひとりじゃない、あなたはひとりじゃない
――弱いな、お前は。よわいよわいよわい、いつまでも弱いままだ
弱虫だ
「わたしは・・・わたしは、弱虫・・・」
――違う、あなたは弱虫じゃない。殻を破ろうとしているだけ
――お前に殻は破れない、いつまでも閉じこもってればいいんだ
「いつまでも、殻に・・・」
――いつものままのあなたではいけない。あなたは翼をもっているのだから
――その翼は、飛べやしない
飛べない
「わたしには、飛べないよ・・・」
――先輩・・・
『あっ、えっと、5章あたりの仲間が増えるところとかかな・・・』
『あ、そうだそうだ、6章。あいつが仲間になってからが熱いよな』
先輩はきっとちっとも読んでない。
だけど、あの笑顔に許してしまう自分がいた。
〈小さな勇者〉
魔王軍に全てを焼き尽くされた世界で、たった一人引きこもっていた為に助かった主人公。
彼は、何年もの間魔王に立ち向かうために部屋に篭り、ひたすら戦う術を学んだ。
でもそれだけじゃ勝てないことも学んだ。
そして、家の扉を開き、絶望の世界を旅する。
共に戦ってくれる仲間を得るために。
わたしはこの物語が大好きだ。
だから、先輩に勧めたんだ。
「・・・う、うぅ、せんぱい・・・、しきせ、せんぱい・・・」
わたしは、勇者になれるんでしょうか?
「り・・・りく・・・、」
わたしは、あなたの仲間になれるんでしょうか?
「りく・・・と・・・せんぱい・・・」
わたしにしかできないことが、あるんでしょうか?
「陸斗、先輩」
わたしは、わたしは・・・。
――わたしは、〈 〉
――なんだよ、弱虫の癖に、つまんねえなあ
「わたしは。わたしはっ」
――〈小さな勇者〉は最後にこう言うの。
――強くなったんじゃない、強くなれた
――って。
――あなたは、強く、なれた?
はしれ、あの人のところに。
戦っているのは枝紡先輩だけじゃない。
陸斗先輩が、あの場所にいる。
だから、はしれ!
走れっ!!!
*****
闇が全てを包み込み、やがて収束した。そこに現れたのは禍々しい魔力を放つ化け物だった。ぼろぼろに引きちぎれたマントを翻し、体中からは血管が浮き出ている。
そして、地獄の叫びがけたたましく俺の耳に届いた。
「あ・・・ッ・・・ッ」
呼吸ができない。吸うことも吐くこともままならない状態だった。
『陸斗っ!呼吸をしろ、しっかりするんだ!!』
『式瀬くん、だめ、吸うの!そのあとに吐くのっ』
わかってる、だけどそれができない・・・んだ・・・
「ウア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
絶叫は音圧となり、俺を地面にひれ伏せさせる。かろうじて倒壊せずにあった民家やマンションが爆発したように崩壊していった。
「・・・ッ、ハアッ・・・ッ」
このままじゃ、何もできずに死ぬ・・・
『クソッ!どうすれば・・・』『リロ、一個だけ方法がある。けど、聞かないでいてほしい、はずか・・・しい・・・から・・・なんていってる場合でもないしっ!!』
く・・・、ちく・・・しょう・・・
俺が・・・、まもらない・・・と・・・
『わ、分かった・・・』『うん、じゃあいくよ・・・』
俺が・・・、あいつを・・・
『式瀬くんっ!!!私、式瀬くんが貧乳好きっていうのを栞菜ちゃんから聞いたことがあってちょっとだけ、嬉しかったことがあるんだよーーーっ!!!!』
―――ぷはあああっ!!!!
「はあ、はあ。・・・はあ。・・・助かった、枝紡・・・」
この事については、栞菜に問いただす他ない。あいつどうして隠し場所を・・・!?
『リロ、あとで記憶消してね。私と式瀬くんの』『わ、分かった・・・』
とにかく、なんとか呼吸は取り戻した。
だが、化け物は依然として叫びを上げている。
「リロウス、あいつはなんなんだ?お前、名前みたいなの言ったよな?」
俺の問いかけに対し、リロウスから返ってきた言葉はまったく予想していないものだった。
『陸斗、動けるようになったのなら今すぐに、ここからどこまでも遠くに逃げろ』
あれから、離れるんだ。とリロウスは言った。迷いの無い声で。
「なんでだよ・・・、あいつやばいやつなんだろっ!!」
『君だって分かっただろ、格の違いを。ウィズにもウィードにも勝てない君が勝てる相手じゃない。だから逃げろっ!!!』
リロウスは声を荒げた。その瞬間に、アイツが俺を見た。
そして、右の手に黒い炎を纏い、それを振り払っ――
「うああああああっ!!!!!!」
俺を襲う爆発。炎禍状態ならまだしも生身の体で吹っ飛ばされた。
「あう、・・・いってぇぇ・・・」
体のあちこちを斬り、打撲した。幸いにも骨は折れてないようだった。
『式瀬くん、炎禍をっ』
「ああ、炎禍ッ」
俺は再び炎を身に纏う。が、
もう目の前に無数の黒炎の弾丸が来ていた。まもなく俺に降り注いだ。
「ぐああああっ!!!」
数多の爆発音と止まらない攻撃。黒い炎は炎禍の紅い炎に関係なく容赦ない熱を帯びている。
「くっそ・・・、行くぞっ、アイツを殴るっ!」『寄せっ!陸斗っ!!!』
俺は翼を広げ、爆発をかき消すように羽ばたいた。一気に化け物のもとへと近づくと拳を握って殴りかかった。
はずだ。なのに、俺の拳は寸でのところで届かない。何か圧力のようなものに押し留められていてそれ以上先に拳がいかないのだ。
化け物の眼には、悪意と憎悪ばかりが滲んでいる。
化け物がぐっと力を込めたのか、俺は結局触れることもできずに地上へと叩きつけられた。
『もう分かっただろっ!君には太刀打ちできない!今すぐに逃げろっ!!!』
「そ、そんなことしたら、この街、いや、この世界が滅んじまうんじゃないのか!お前が言ったんだろっ!リロウスッ!!!」
化け物が天に右手を掲げた。その手に収束していくのはまたしても黒い炎の塊。
この街周辺ごと、灼きつくすつもりなのか・・・!?
「話してる暇も、逃げてる暇も無いだろっ!なんとかしないとっ!」
『それは分かっている!でも、君には何もできないから逃げろといっているんだっ!』
「じゃあ、誰なら何とかなるんだよっ!!」
激化する言い争いの果てにリロウスがもらした言葉は、俺と枝紡を呆気に取らせる。
『・・・誰にもなんともできない。たとえアーフェンでもウィザードには敵わない』
それは全ての否定。
・・・・・なら、俺たちの戦いってなんだったんだよ・・・。
『ウィザードは、数百年前に起こした事件により呪いをかけられ封印された後、蒸発して死んだとされていた。魔導師は皆、ウィザードのことを〈災厄〉と呼ぶ。奴は5つある国のうち、2つをたったひとりで壊滅させたんだ。歴史上、史上最強の魔導師なんだ』
なんで、そんなやつが、ここにいるんだよ・・・。
『ウィズとウィードがひとつになり、ウィザードが復活するなんて・・・、歴史は、隠匿されていたということなのか・・・?』
しらねえよ。どうすれば、アイツを止められるんだよ・・・。
黒炎の固まりは俺に向けられた。
『陸斗、勝ち目は無い』
――この世界は、終わりだ。
全てを、これまでのすべてをたった一言で否定したリロウス。
終わり・・・?
世界ってこんな簡単に終わるのかよ・・・?
お前が言ったんだろ、魔導師から世界を守れって。
お前が俺たちを巻き込んだんだろ、この世界を守るために。
お前が何でいちばん最初に諦めてんだよ。
お前らのせいで、何もかもが失われていってるんだぞ。
なのに、なのに、なのにっ!!!
「お前がっ!一番先に逃げてんじゃねええよっ!!!!!!!!」
迫りくる黒炎を、俺は薙ぎ払った。『式瀬くんの言うとおりだよっ!リロっ!!』
「お前、ふざけてんじゃねえぞ。ここはな、お前の世界じゃない、俺たちの世界だ。お前が言ったんだ。俺にしか守れない世界だって。お前が言ったんだっ!!」
『きっと、私はその想いに吸い寄せられてこの力を覚醒させた』
「だからな、リロウス。俺は、なんと言われようと、たとえ勝ち目が無いとしても、戦う。アイツと戦ってやる」
『式瀬くんの身に宿ったときから、私はそう決めていたから。大好きな皆を守ってくれる式瀬くんを守るのが、私の役目なの。・・・リロもじゃないの?』
『だが・・・』
「だがもくそもあるかっ!!!俺だって内心こえーよっ!分かるだろ!でもな、何かできるはずなのに、何もしないでただ逃げて、たったひとり生き残って、いつまでもアイツから逃げるなんて出来るわけないだろっ!そうしたくないから、皆がいるこの場所を守りたいから俺は今、アイツと向き合う」
『死ぬぞ』
「死なないッ」『死なないッ』
『馬鹿か、君たちは』
「馬鹿はお前だ!」『馬鹿はリロっ!』
ウィザードは更なる叫びをあげると、いくつもの弾丸を放ってきた。
破壊されゆく、俺たちの街。藤咲市。
ここで生まれ、出会い、ときに別れがあって、今がある。
この場所にはもう戻って来れないかもしれないけど、
俺は最後の最後まで、この場所を守りたい。
「俺は逃げない。絶対にっ!」『私もだよっ!式瀬くんっ!』
『・・・なら・・・、まもって見せろっ!!!式瀬陸斗っ!枝紡ふたばっ!!!君たちがこの世界を守って見せろっ!!!』
リロウスは俺の頭を殴るかのように怒鳴る。開き直っていると思ったがリロウスは悔しそうに、多分、泣いていたと思う。
リロウス自身、止められなかったことを後悔しているのかもしれない。
リロウスは止めることを諦め、逃げることも諦めた。
『痛覚は全て私が請け負う。いいか、気にせずに全力で立ち向かえ。1%も余力を残すな。全力だ!』
――ウィザードを、倒せ。
「・・・行くぞ、枝紡」
『久しぶりに言うけど、ふたばでいいってば』
「・・・行くぞ、・・・ふたば」
『ふふっ。おっけー、式瀬くんっ!!!』
すうーっと息を吸って、思い切り。
『「炎禍ッッッ!!!」』
大炎が黒炎を飲み込んだ。
*****
「いっけえええええっ!!!」
4枚に増えた翼。スピードも格段に上がった気がする。
思いのままに動ける。体が軽くなり、迫りくる黒炎の弾丸もするりとかわしていく。
およそ10メートル、アイツとの距離。
その瞬間に、一気に距離を詰めた。
「いけるっ!!!」
「ウア゛ア゛ッ、コロ゛スッコロシテヤルッッ」
またしても届かないパンチ。さっきよりも距離が遠のいたように思う。
ウィザードは右手を半円描くように薙ぎ、俺に触れることなく魔力の圧力のみで吹き飛ばした。
触れることすらままならない。
俺は空中で体制を整えると、迷うことなく次の手段へ。
『式瀬くん、槍っ!』
枝紡がそういうと、俺の手に炎で形成された槍が握られていた。
俺はその槍を両手で握りなおし、またウィザードに突っ込んでいく。
「これあらどうだあああ!!!」
ウィザードは手のひらを俺に見せたあと、強く握って拳の形にした。
すると俺の体が握られたように硬直する。プレス機にかけられているみたいに俺を圧迫する。みしみしと骨が鳴っていた。だが俺に痛みはない。リロウスは叫びも上げずに我慢している。この戦い、長引かせてはいけない・・・。
「ウゥぅ、なんのこれしき・・・せりくとおおおっ!!!!」
『・・・式瀬くん、それはないわ・・・』
かなり無理やりに縛りを解くと、今度は槍を力の限り投げつけた。
まっすぐにウィザードへ向かっていく炎の槍。
しかし、いや、やはり、いとも簡単に消し去る。それを見て、また俺は突進した。
「スピードあげろっ!枝紡っ!」
『ふたばでいいってのおおおっ!!!!』
ぐんぐん上昇するスピード。勢いでウィザードの魔力の壁を突破するつもりだった。
「シネシネシネシネシネシネシネシネ、シネエエエエエエエエエッッ!!!!」
また強くなったのはウィザードの魔力。
俺の勢いは弾かれ、無防備になるとウィザードが迫るっ!
ウィザードは俺に触れない。だが、腹部に近いウィザードの手から放たれる黒炎の波動がモロに直撃し、住宅街だった場所に新たな道を作ることになった。
ウィザードの攻撃の手は緩まない。長い太刀を抜き、振りかぶって襲い掛かってくる。
「くっ!枝紡、槍っ!!」
『うんっ!』
太刀打ち!!!
が・・・できない。炎の槍ごと、俺を斜めに切り裂くと鮮血がどっと溢れた。
『ぅああ・・・』
「リロウス!」『気にするなっ!!!右だっ!!!』
第2刃、俺は体を反転させギリギリのところで避けたが続けざまに今度は面撃ちの構えから振り下ろされてくる。
一か八か!
両手を頭上でパァンと叩くと、ウィザードの太刀が受け止められている。
間接的にだがようやく触れることに成功した。かに思えた。
ウィザードは怯むことも緩むことも無く、そのまま振り下ろす。
「まじかっ!!!」
頭真っ二つは避けたが、左眼を縦に斬られる。しかし、俺には怯むことは許されない。ウィザードの太刀が俺の体の中心を貫いた。
「ああああっがはあああっ」
そして貫いた太刀を真横に薙いだ。
『嗚呼ああアアアアァアッ!!!!!!』
このままじゃ、リロウスが持たない・・・。
着々と焦りが俺の中に芽生えてきていた。
「はあ、はあ・・・」
休むことなく、太刀が振るわれる。何度も寸でのところでかわしていく。
俺は負けじと炎の弾丸を撃ち込む。一撃の質量は小さいが、何十発も連射した。
その間に距離を取るが、爆煙が晴れる前に俺が放った炎が全て跳ね返ってくる。
すかさず防御の姿勢をとるが、威力を増した炎はたちまち俺を灼く。
聞こえるのはリロウスの悲鳴ばかりだった。
「リロウスっ!もういいっ!痛覚を俺にもまわせっ!」
『それはならないっ!!君程度にはこの痛みは耐えられない!君は、君がすべきことだけを考えろっ!』
問答むなしく、次なる攻撃を受ける。爆煙の中から飛び出してきたウィザードがまたしても太刀を振り回す。
「ナキハ、ナキハ、ナキハヲ、カエセエエッ!!!」
「何のことだよっ!!!!」
凄まじい剣戟を避けているうち、俺は間合いを詰めた。ウィザードの懐に入った。
かなりの偶然だった。
『いまっ!!』「おうっ!!!」
右のアッパーを放った。
ウィザードは、
くいっと顎を上に向け、かすらせもしない。そのまま身を翻し、回転と同時に太刀が俺の体にまた線を入れた。
落ちていく俺に向けてウィザードがまるでビームのような波動を撃ってくる。
避けようがなかった。
痛みは、ない。
『アアアっ!!!』
クレーターと化した大地に仰向けだった俺のすぐそこにはウィザードの憎しみに満ちた眼。ぎちぎちと歯がきしみ、彼女自身何かに耐えているような音を出す。
俺とウィザードの距離が近い意味が分かった。
彼女の太刀がつばの部分まで俺に刺さっている。
急転直下で突き刺したのだろう。ウィザードは覆いかぶさるような体制から立ち上がった。
太刀は刺されたまま、俺は身動きが取れない。
ウィザードがタタンっと飛び上がると、俺の見つめる先にきらりと光るもの。
星じゃないことくらい、分かる。
黒い炎が稲妻となり、俺に落ちた。稲妻の爆音は聞いた事の無い音だった。
『うああ、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』
リロウスの声は絶叫だった。
体が、燃えていく、灼けていく・・・。
――つよ、すぎる・・・。
『・・・くんっ、式瀬くんっ!意識を保ってっ!』
やがて、痛みが俺たちを襲ってくる・・・。
リロウスの意識が途絶えようとしていた。
「―――リロウスッ!!!」
炎雷はいつまでも俺の真上にあって威力を増していく。
まさに業火そのものだ。
「うう、うううう、アアア、はあ、・・・はあ・・・まけ、ない・・・」
手を伸ばす。燃え尽きてしまいそうだ。
「おれは・・・、まも・・・るんだ・・・。だから・・・、お前を・・・」
蝋燭をイメージして。手を、伸ばす。
「お前を・・・、倒さなきゃ、いけないんだああああああっ!!!!!」
あのとき、蝋燭とその周りに置かれた漫画。それは一気に一瞬にして燃えた。
あのときみたいな一瞬の爆裂、それでいいっ・・・。
燃えろ、燃えろ、燃えろ!!!!
「燃えて、押し返せえええええっ!!!!!!」
背中の羽が答えた。仰向けのままだがバッと開いた4つの翼。
俺の意思、枝紡の想いに応えて体を浮かせようと大きく広がっていく翼。
体が浮き、体制が整っていく。次第に、俺は両足を地面に付けることができていた。
両手で炎雷を受け止める。翼がまた大きく、力強く羽ばたく。
「飛べるっ!そのまま突っ込めっ!!」
『うんっ!』
炎雷の中心を突き進む。進めば進むほど体が悲鳴を上げていくがもう関係ない。
このまま突っ切るしかないんだ。
「ウィザードーーーーーッ!!!」
――――――
――――
―――
――
―――見えたッ!!
炎雷を抜けた。
ガシっと掴んだのは、ウィザードの首。ようやく触れることができた。
俺はそのままウィザードもろとも、まだ残っていた建築物に突っ込んでいく。
そこは工場だった。鈍い音と共に煙が上がる。
いや、煙じゃない・・・これは・・・粉・・・?
『式瀬くん、すぐにそこから離れて!そしてすぐに炎を撃って!!!』
言われるがまま、俺は天井を突き破って上空へ向かう。
突き破ったところからは粉塵が待っていた。
「そうか、あの量なら!!」
ありったけの力を手のひらに集中させ、巨大な炎をぶん投げた。
ウィザードを落とした粉塵舞う工場へ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
その効果は絶大だった。熱の波動が届くほどの大爆発がおき、思わず顔を伏せた。
熱気は山のほうにも伝わり、木々が燃えていく。
轟々と燃え盛る工場。あの中心にはウィザードがいる・・・はずだ。
頼む、このまま何も起きずに死んでくれ・・・。
・・・炎の勢いが徐々に無くなっていく。
「・・・頼むから・・・、もう動かないでくれ・・・」
炎がある一点に向かってまた、収束していくような動きを見せる。
巨大な爆発は見る見るうちに、右手を天にかざした化け物の元へと集まっていく。
「うそ・・・だろ・・・」
ウィザードは、まるで無傷に見えた。
やがて、粉塵爆発の炎は彼女の拳くらいの大きさまで圧縮され、それを握った瞬間。
「オマエ、ナキハ、コロシタナ」
圧縮した炎は俺の目の前にあった。
大きさは野球ボールくらいの大きさだった。が、その威力は今までの攻撃の中で間違いなく最強の威力だった。
「―――」
『しき――ッ』
俺は、落ちた。
*****
ぷすぷすと、焼けたときの音が聞こえる。
・・・いきてる。
だが、もうどこも動かない。
瞼は開いているのか、焼け落ちたのか、分からないがウィザードはひたすら何か叫んでいるように見えた。それも俺の耳が機能しているのか機能していないから聞こえている幻聴なのか、分からない。
ただ、いきているだけ。
時期に死ぬと思う。
枝紡の声も、リロウスの声も聞こえない。
多分、俺は半分生身の状態で攻撃を食らったのかもしれない。
終わった。
何もかもが。
守れなかった。
何もかも。
俺のせいだ。
俺が弱いせいだ。
アイツにこのまま全てが灼かれていくんだ。
この世界の人には為す術なく。
俺が負けたから。
終わった。
終わった。
終わった。
・・・・・・・・・・かぜ・・・・・・?
焦げた臭いの中に、風のにおいがした。
俺はこのにおいを知っていた。
あのこの、におい、だ。
「・・・・・な・・・・・る・・・・み・・・・・?」
「―――っ・・・。何やってるです!!!せんぱいっ!!!!!」
ぽたぽたと俺の焼け爛れた頬に雫が落ちた。
雨が降った気がした。
雨は、しょっぱかった。
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