〈episode23〉傀儡師クエイは変才
傀儡師を巡って起きた〈大戦〉勃発より、ずっと以前。
傀儡師クエイは新たな傀儡の製作に着手していた。
それは今までにない傀儡。
魔導師を〈朽体病〉による絶滅から救うために結成された研究チームの仲間たちは皆それぞれが独自の技術を発展させ傀儡製作に励んでいる。
傀儡はいくつあっても足りていなかった。
そもそも傀儡師と名乗れる存在そのものが非常に少なかった。
傀儡師になりたいと研究室を訪れる者も少なくないが、どの者も座学の段階で挫折する。仕組みさえ分かればどうという事もないと彼は思っているが、彼が思っている以上に頭で理解するのと体で覚えるのは全く別次元の感覚だということだろう。
形だけの人形を作ることなら誰にでもできることだった。
しかし、重要なのは〈魂の拠り所〉を形成すること。
これには技術の話ではなく、魔導師本来の能力に左右された。
魔力が低い、並程度の者には人形を傀儡へと変化させることができなかった。
仲間たちにはそれぞれ部下がいたり、弟子がいたりと確実に傀儡師の数を増やす努力をしていたようだが、クエイにはその労力がない。
むしろ、自らの研究に全てを注ぎ込みたかった。
たったひとりで。
彼は今日も城の地下にある研究室に閉じこもり、誰も完成させたことのない傀儡を製作している。
ときに、聞こえてくる奇妙な笑い声から、皆彼のことをこう呼んだ。
変才・クエイ と
*****
「おおお、おおお!!!おひょっひょひょひょひょーっ!!!」
いつもにも増してクエイは奇声を上げていた。
研究が順調のようらしい。
かつては仲間と共にこの地下研究室で傀儡の製作をしたものだが今は彼だけの研究スペース。
心置きなく独り言も言える。心置きなく奇声も上げられる。
もっとも、彼自身が意図して奇声を上げているわけではない。
難しい製作が上手くいくと、なぜか変な笑い声になってしまうのだ。
彼自身もそのことについて不思議に思っている。
彼は他者から「変才」と呼ばれていることも特に気にせず、
というかむしろ気に入ってさえいた。
「おっひょい、あー素晴しい素晴しいっ!意外と簡単なことじゃあないか、よし次はここを接合して・・・」
突然、大きな音をたてて研究室の出入り扉が開いた。
「クエイ~~~!!!生きてる~~~~?」
「おひゃあああああっ!!!」
引きこもりの彼は物音に過敏だった。
「あ・・・、あああ、せっかく上手く接合できていた場所がああああ」
「おー、生きてるっ!ねえねえウィード、はやくおいでよーっ」
「・・・階段、暗い」
クエイは悲しみから遅れること一瞬、怒りの眼差しを小さな魔導師に向けた。
「おい!ちびっ!!!またおみゃーかっ!!!」
「ちびじゃないやいっ!ちびって言うほうがちびなんだっ!!!」
お互いに指を差しあう変才とちび。
「・・・いや、ウィズ、それちがう」
ようやく階段を下りてきた妹が冷静にツッコんだ。
クエイにとってもウィズにとってもウィードにとってもいつもとおなじみの光景。
研究が上手くいきそうなときに限って彼の研究は邪魔される。
無垢な好奇心によって。
「大体なあ、おみゃーら、なにしにきてんだよっ!」
「いいだろー、ほら、あれだよっ!クエイ、寂しくないかなぁっていうおいらの優しさ!」
あちこち勝手に触りまくるウィズ。クエイは捕まえようとするが小さい上にすばしっこいため滅多に捕まえることはできない。
「このちびがきっ!おい、ウィード、おみゃーも捕まえるの手伝え!」
「・・・・・・」
ウィードは眼を逸らすだけ。
「なんかしゃべれいっ!!!」
「わははー、クエイおもしろーいっ!」
今日もまた、騒がしい研究室だった。
*****
「でさでさ、ウィードがね言ったの!『私の、姉に、触るな』って!!!」
「おみゃあ、双子なのにモノマネ似てないな」
それを聞いてまた爆笑するウィズ。クエイにもウィードにも一体何が面白かったのか理解できなかった。ウィズはなんにしてもよく笑う子だった。
「というかウィズ、おみゃあ、まーたいじめられとっけ」
クエイはここのところ、ウィズが泥だらけで帰ってくるのをよく見ていた。
・・・帰ってくるという表現が正しいのかはさておき。
「えー?いじめられてないよー!遊んでるだけっ!」
そう言ってまた研究室内の備品を勝手に触っては壊しまくるウィズ。
クエイは出入り口近くのイスに腰掛けているウィードに眼を向けた。
彼女は黙々とレポートを読んでいる。
レポートタイトルには〈獣化傀儡製作における弊害と効用について〉と書かれていた。
「ウィード、勝手に読むんじゃねえ」
「・・・・・・、黙れ」
クエイには一切眼もくれず一心に読みふけるウィード。
黙れ、の一言はクエイの口を開けっ放しにした。
「ありゃりゃ~、クエイ白目むいてるよーっ。ぶさいく~」
けたけたけたとお腹を抱えて笑うウィズ。
黙々とレポートを読み込むウィード。
彼には彼女たちが本当に双子なのか疑問を持つことも多いが、彼女たちは紛れもなく双子の魔導師だった。研究が始まった当初、サンプルとして彼女たちの遺伝子を調べた結果だった。
まるで鏡にうつしたように、彼女たちの遺伝子は同じものであったため、研究長のトレバートも息を飲んだ。
「ねえねえ、クエイ!今日はなにつくってるの?」
ウィズがつんつん、と新型傀儡の頭を突いていた。
正確には頭から生えている角を突いている。
「あんま触んなよ~、食われちまうぜっ!」
言いながら自分なりの獣ポーズ(両腕を上げて威嚇)をし、ウィズをびびらせようと試みるクエイ。
「ぷ・・・ぷぷ、あははははっ!なにーそれー、今日のクエイぶさいくすぎるよ~、
いつもだけど」
これは間違いなくまたオリオンたちに「クエイの奴、また奇声をあげているな」といわれるに違いない・・・。ウィズは床を転げながら涙目になりながら笑う。
「と、とにかく触るなっ!今、いいとこなんだよっ!」
ひいひい、と呼吸を整えるウィズ。眼を擦りながら新型傀儡を見た。
「ごめんごめん、つい面白くって。確かにこの傀儡、今まで見たことない形だね。角生えてるし、両足なんて山にいる獣じゃんっ。ぶすっ!」
最後の一言は余計だろう・・・と思いつつも彼にとってこの傀儡は最高傑作になる予感がしていた。
完成まであと僅かなのだ。
「どうして、これをつくったの?」
「ええ!?んなもん、別にいいだろっ!研究者は常に新しい景色みてんだよっ!」
「わあああ、うざいねー、あははっ!」
なんと言われようとも、彼には確信があった。
自分が作っているものは、誰にも作れないものだと。
今はだれになんと言われてもいい。
その評価なんていくらでもひっくり返せる。
誰にもできなかったことができる力を自分は持っている、と自信があった。
「・・・これ、特徴は」
すると今までレポートだけに興味を注いでいたウィードが傀儡の左側に立ち腹部を撫でた。質感は滑らかだった。
「特徴はなぁ、なんといってもその強度だな。獣の皮膚をベースに表面をコーティングしてある。だからちょっとやそっとじゃ砕けねえ、な、すげーだろ」
得意げな顔で説明を終えるクエイ。うんうんと眼を伏せ頷きながら完成間近の傀儡の出来を誇る。
バキィッ!!!
・・・それは聞き飽きた破砕音。
今まで何度も耳にしてきた音がたった今、目の前で聞こえた。
今、この段階で聞いていい音ではなかった。
顔全体に冷や汗が伝う。
クエイは恐る恐る眼を開けてみた。片目からゆっくりと。
右腕がもげていた。
その腕をもってウィズがはしゃいでいた。
「な・・・な・・・なにして・・・」
バキィッ!!!
振り回していた腕が壁に当たり粉々に砕けた。
「あーっ!」
・・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
「・・・ごめんね?」
ぺろっと舌を出したウィズ。
ウィードはゴンっゴンっ、と傀儡の腹部を強めに叩いている。
「ぉ、ぉ、オオオオお、おみゃあらああああああっ!!!!」
「あっ、ちょっとやばいね、本気と書いてなんとやらだよ!ウィードっにげよーっ」
ウィズはウィードの手を取る。ウィードは特に慌てている様子はない。
こういうときのウィズは一層楽しそうにはしゃぐ。
そして逃げる。
「もう、出てけえええええええええええええっっっっっ!!!!!!!!!!!!」
*****
「相変わらず、騒がしいな」
「まあまあ、いつものことだろう」
「アタシ、注意してくる」
「おや、穏やかじゃないね」
今日も相変わらず、変才の奇声は城の中を駆け巡った。




