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『te:tra』  作者: 坂江快斗
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第23話〈嵐禍ノ章〉「本気の彼女」


あれ・・・?

なんだろ・・・?

あたまがいたいな・・・。


いったいなにがおきたの・・・?

ねえ、しきせくん、ねえっ。ねえってば・・・。


・・・どうしてへんじをしてくれないの・・・?


しきせ・・・くん・・・。


――・・・たば、・・・たたか・・・だ!


え・・・、この声、リロ・・・?


ねえ、りろっ!式瀬くんは!?


――ふた・・・、きみ・・・ないっ!


私が・・・、なに?なんなの!?リロっ!!!



体の芯の奥底から、

あったかく、あたたかく、あつく、アツく、暑く、熱くなっていく。


私たちは、まだ、死んでなんかなかった。


まだ、戦える。あの双子とっ!


戦うしか、ないっ!!!


『ふたば、戦うんだ』



*****


その火柱は、私自身。

だから、その大きさも、異常さも私自身からは見えないし、分からないけど

それはまるで、火山の噴火に見えることだろう。


耳を澄ます。

街の人の声は微か。随分と減ったようだけど逆に各方面から向かってくる音がある。


――きてはダメ。


――こないで。


念じた瞬間、音が止む。


空から藤咲の街を見下ろせば、以前イルヴァナと戦ったときに作った炎の壁があの時と違いかなり広範囲に張り巡らされた。

時間稼ぎになればいい。犠牲者は、出したくない。


それに、あいつらを逃がすわけにもいかない。


こちらを見上げて睨み付けてくるのはウィード。

彼女の隣でウィズが口をぽかんと開けている。


彼女たちにそんな表情をさせるのは、私を、いや、炎禍を確実に殺したという手応えがあったからだろう。現に、ウィズのパンチの威力は大穴をさらに深くした。


私は何度も式瀬くんの名前を呼んでみたけど、ちっとも応答してくれない。

馬鹿瀬くん・・・。今回の出番、少なすぎじゃないかなぁ。

日常生活はあんなに謳歌しちゃって、いざ戦うってなったら私任せですか。

これはもう、あれだね。式瀬くんが持ってる洋服も知らない間に燃やしちゃって街中で全裸になっちゃう刑だね。『おお、それは新しいな、やろう』


両手から両足、指先から足先まで全てが私の感覚で動いてる。

今まで式瀬くんが体の動きを、私とリロが力の供給をしていたみたいだけど、今は魔力と体の意識が直結している感覚。


力が、漲ってくる。


こんなこと言ってると、式瀬くん無能みたいに思われそうだけど、

ごめん式瀬くん・・・、


体は、なるべく傷つけないからっ!!!!

だから今はしっかり眠ってて、式瀬くんっ!!!


私、〈炎禍〉は大炎の翼を広げて、双子へと突き進む!



*****


「今夜21時頃、藤咲市で爆発が起きた事件の続報です。映像が入ってきました。藤咲市全土が、燃えています・・・、いえ、藤咲市を取り囲むように炎が広がっているように見えます。これは・・・壁・・・でしょうか・・・?あっ、カメラ!カメラズームインしてくださいっ!!!それじゃないです!そうです、それ!!!」


スマホの小さな画面に映るニュース映像には信じられない光景が映し出されていて、それがまさか自分の住んでいる街に起きていることとはにわかには信じられなかった。

でも、もっと信じられないことがテレビの画面には映し出された。


目を凝らす必要もない。

本人かどうかを確認する必要もない。

その顔を見たとき、あたしの体の中に電気が走った。


あの日、燃やされた彼女。

あんな風に燃えていったのかな・・・。

あたしには今の彼女が、怨念の塊に見えて仕方がなかった。

鬼気迫る表情は、画面越しにあたしのことを見つめる瞬間があった。


「・・・ふたば・・・?」


その瞬間、持っていたスマホを落とす。頭に激痛が走った。

両手で頭を抱えていないとそのままぱっくり割れちゃうんじゃないかってくらいに痛い。同時に心臓が高鳴る。


「はあ、はあ、はあ、はあ・・・はあっ」


呼吸が落ち着かない。車の中で過呼吸になるあたしを家族が心配し、車を一時停止してくれた。


「おねえちゃん、どしたの?具合悪い?」

「はあ、はあ、はあ、息が・・・っ」

「とりあえず、この近くの病院にいこう。・・・けど、この渋滞・・・」


動きそうな気配のない渋滞だった。


「あなたっ!病院は近くにあるみたいだから栞菜を背負って!ほら、はやく!」

「ああ、そうだな。行くぞ・・・、・・・しっか・・・しろ・・・菜っ――」


遠くなっていく意識。

ふたば、あそこにいけばふたばに会えるのに。

ふたば、どうしてあなたはそこにいるの?


どうしてあなたが、戦っているの・・・?


私が落としたスマホには、ふたばが2人の化け物と戦っている姿が今も車の床で流れている。

私はそれを拾うことなどできず、なされるがままお父さんの背中に身を委ねた。


遠のいていく意識の中で水の音が、ひとつ。


ぽちゃんっ


って聞こえた。



*****


「人間、しぶとい」

「がんばーれー、ウィードーっ、いけいけウィードー!」


のんきな応援をバックに私とウィードの対峙。


街の損壊など気にしていられない。


「お前の仲間、全然助けてくれないみたいね!」

「仲間、じゃない」


双頭刃を振り回す、ウィード。大振りは見切りやすい。

詰めては、離れ、の繰り返し。打撃を与えても式瀬くんが感じていたようにまるで手応えがない。


「仲間じゃない?じゃあなんなのよ!」


私は双頭刃の柄を片手で掴む。動きが止まって眼が合う瞬間、眼にも留まらぬ速さで右の拳をウィードの顔面に打ち込んだ。


しかし、手応えがないのは変わらない


「ウィズは、姉だ」


――世界で唯一の、私の姉だ。


双頭刃を切り離し、打ち込んでいた私の右腕を切り落とす。


私の炎とリロの治癒によりすぐに元通りになるが痛覚は変わらない。

それが一瞬ってなだけで、私は距離を置かざるをえない。


距離を取ると、取った分だけの隙ができ、一瞬のうちにウィードが懐へと攻め込んできた。


双剣をそのまま私の体にずぶりと突き刺してくる。


「――いったぁっ」

「ウィズ、守る。妹の、私が」

「普通、そういうのって・・・、姉の役割じゃ・・・ないのっ!?」


双剣を持つ両手をがっしり掴み、ウィードのお腹に中段蹴りを放つ。相変わらず手ごたえはないが、双剣から彼女は離れビルの壁に激突していた。


「剣なんて使ったことないんだけど・・・、使わせてもらうわよ」


再び炎の翼を広げ、一気に間を詰める。


――見えたっ!!

ウィードは何食わぬ顔だったがめり込んだせいで動きが少し遅くなっている。

このタイミングならっ!!!


・・・っ!!!!!!!!!


私が剣を振り下ろした瞬間、耳障りにもほどがある金属音。

ぶつかり合いで、ぎりぎりぎりぎりと刃同士が罵り合う。


どうやら、〈姉〉のほうは傀儡なしで妹を凌ぐらしい・・・。


「おいらを忘れてもらっちゃ困るよっ!」

「あんたが出てきたおかげで私が今いちばん、困ってるよ」


言葉と共に互いの剣を弾く。またしても甲高い嫌な音が響いたと同時に私の腹部に2つの激痛。双子のダブルパンチって技名かな・・・?


私は思いのほか遠くまで、吹っ飛んだ。



*****


「かあちゃんっ!!!ねえちゃんいたぞーっ!!!」

「ああ、まるっ!!!よかった!!!」


避難所でわたしのことを見つけるや否や駆け寄ってくれるお母さんと弟たち。

お父さんは仕事先が桜見町に近いところにあるからそっちのほうに非難したという連絡が入ってきてた。

家の近くであんなことがあったのに、無事でよかった。心の底からわたしは安堵する。


「あの、お母さん、晴れの日書店のおじいさん、見かけてない?」

「いや、見てないよ。ここにくる途中もものすごい人の数だったし」


避難所である百合野町の小学校体育館と校庭は藤咲市から避難してきた人たちでごった返している。

皆、携帯電話片手に画面を見ている。


「わ、わたし、おじいさんをさがしてみるね」

「ちょっと、まる!だめ、危ないから!」


お母さんがわたしの手を掴みながら言う。「ここにいて、おねがいだから・・・」


わたしは小学校の中だけだから、と伝える。お母さんは約束という言葉を何度も念押しながらようやく手を離してくれた。

掴まれていた箇所は赤くなっていてお母さんからの熱と痛みが残っている。

これ以上の心配をかけさせちゃ、だめだよね・・・。


わたしは小学校内だけを探すことを心に決めておじいさんを探すことに。


見つかりますように。

怪我とかしていませんように。


不安な気持ちは高まる一方。

学校の皆のこと、

藤咲市のこと、

栞菜先輩のこと、

そして、枝紡先輩のこと、式瀬先輩のこと。


いまだに連絡は取れない。

機械的な女性の声が聞こえるたびにわたしは泣き出したくなるのを必死に堪えた。

そして10分おきに電話をかける。


そういえば、昨日の夜もこんなこと栞菜先輩としてたなぁ。

あのときもなぜか通話中って言われたんだっけ。

昨日のことなのに遠い昔のように思える。

つい数時間前まで文化祭が行われていたとは夢にも思えない。

今が現実とは到底思えない。

これは、本の中の物語でいつのまにかわたしは迷い込んでいた・・・。

そんな筋書きならどれほど心が休まるだろう。


人を掻き分けて進む中、怪我をしている人を何人も見た。

泣いている人も、叫ぶ人も。


わたしがこの物語の作者ならここからみんなが笑顔になれる方法を必死に考えて、

ひねり出すのに。



悲しいお話は、苦手で、嫌いだ・・・。



「おお、すげー、なんだこれ、SFかよ・・・」


そんな声が聞こえてくる。それに似た言葉が次第に数を増してくる。

その多くは、ありえない、とか、信じられない、とかだった。


でも、たまに聞こえてくる言葉もある。


――がんばれ。

――まけないで。

――いけー、せいぎのヒーロー。


わたしはポケットから携帯電話を取り出してテレビ機能というのを使ってみる。

初めて使う機能だった。今まで必要性すら疑っていた。


そして、チャンネルも合わせる必要はなかった。


どの局も同じ映像だったから。


ヘリコプターによる遠目からの撮影だろう。


まるで映画の1シーン。

その中心にいる、あの姿はわたしがみたときよりも遥かに、


美しくて、気高くて、血にまみれていた。


*****


「この・・・、このおおおおっ!!!!」


何度目の突撃か。勢いは全然変わっていない、むしろスピードアップしているはずだ。なのにひらりとかわされ背中を蹴られる。同じことの繰り返し。その度に私は地面に頬を擦りつけた。でも、痛みに悶えている時間なんてない。

次の動きに移れるよう体の姿勢を整えないと、第2撃どころか、第3、第4と攻撃が激化する。双剣も元の持ち主の手に帰った。


今は避けることで精一杯になる。

ときに攻撃へと転じるけど殴るのは空気か、びくともしない肉体。

ウィズに関しては素早すぎて触れることも叶わない。


当てられない、威力のない攻撃は単なる隙だった。

こんなに攻撃しやすい的なんて無いだろう。

切り刻まれていく体。心なしか、リロの治癒が間に合わなくなっている気がする。


リロは疲弊している。

元々魔力がからっきしだったリロは日々回復していた魔力を使い果たそうとしていた。

リロへの呼びかけも、彼女は『心配するな』の一点張り。

頑固なところは式瀬くんそっくりだ。


双子のコンビネーションは当たり前だけど息が合っていてお互いの刃がお互いを傷つけることは無い。そんなことに期待してしまうほど、戦況は良くなかった。


「ほらほらほら~、避けてばっかじゃつまんないっ!!」


途端にウィズが双剣を背中の鞘に納めると、わたしの両手を握る。わたしはチャンスだと思い、すかさず発火させた。が、


「ウィズ、燃える、手を離せ」


冷たい声と共に、背後を大きく切り開かれた。

脳から足先まで突き抜けるような痛み。もう声も出ない。

息も漏らさせてくれない。斬られた瞬間に私の首をウィズが絞めていたからだ。


「ねえねえ、人間、苦しい?」

「・・・ッ――っ」


今の私にできることは、涙目になりながら小さな悪魔を睨むことだけ。

しかし、それもできないほどの激痛が再び背中から腹部へと突き抜けた。


ウィードは、容赦なく私に双剣を突き刺していた。私と痛みを共有しているリロが悲痛な声を上げる。

――治癒が、間に合わない。


「もう、苦しまなくて、いい。死ねば、いい」


首は絞められ、お腹を突き破られ、じんじんと痛みだけが私の頭を支配する。

この数秒間で何度も意識が飛びそうになるのを我慢した。


式瀬くんが感じてきた痛みを思い出して。

これが、彼が直接感じてきた痛みなんだ。

敵を目の前にするという恐怖なんだ。


彼は歯を食い縛って、イルヴァナに立ち向かった。

そして、まぐれでも、私たちは勝った。


そのときの彼の想いを私は知っている。

無意識だったのかもしれないけど、

確かに彼は戦いながらずっとこう心の中で叫んでた。


”みんなを、守るんだ!!!”


って。


痛いよ、苦しいよ、式瀬くん。

・・・でも、約束したもんね。

あなたの痛みも何もかも私にも背負わせてほしいって。


歯を、食い縛れば、それができるかな・・・?


私にも、あなたと皆を守れるかなぁ?




――ねえ、式瀬くん。



*****


「うわあっ!!!」

「・・・、なんだ」


今までのものとは比較にならない爆発。

その大火力に2人は離れるほか無かった。

そうしていなければ間違いなく消し炭になっていたことだろう。


「あわわ、すっごいねえ。嵐がくるどころか、かんかん照りだあ」

「・・・、あつい」


夜空・・・だったはずの世界が明るく昼の世界に変わる。

その時間はほんのひと時だったけれど、この世界に月と太陽が同時に存在した時間があった。


太陽のような炎の塊が中心に向かい収束していく。


生まれたのは、赤い髪と赤い眼、炎の槍を持ち、炎の翼が4つ。

燃え盛る体とは対照的に、その表情は冷酷だった。


〈・・・コレガ、我ノカラダ。・・・キュウクツデアル〉


たった一言が、ウィードにこの日初めて危険を察知させた。


「ウィズ、傀儡を!あれ、〈炎の禍〉!」


本体だ、と言い切る前にウィードの強靭だった肉体を炎の槍が突き抜けた。


月夜に浮かぶ妹の残酷な姿に、ウィズは空間に狭間を切り出し、棺を取り出す。

そして中から自身の傀儡を取り出し、額を合わせた。


「・・・っ!ウィンスビート、あいして・・・」


どくんっ!


と、ウィズの鼓動が強くなる。


心臓から燃えるように体が熱くなっていく。

しかし、傀儡は額に当てたまま、自身の体にも攻撃は受けていない。


なのに、ウィズの体の中は燃えるように熱く、その熱は急激に上昇を続ける。


「・・・あああ、熱い・・・、熱いよおおっ、ウィードおおおっ!!!」


体を掻き毟るウィズ。

体の外が熱いんじゃない。内側がひたすら熱い。


名を呼ばれたウィードは炎の槍など構わずにウィズのもとへと体を翻すが、


〈ニゲルナヨ、ホウッテオイテモシヌ〉


行く手を塞ぐように現れた炎禍の冷たすぎる言葉のほうがウィードには刺さった。


「どけっ!!!人間、邪魔だ!」


炎禍はするりとどいた。ウィードは一目散にウィズが倒れこむ地上へ。

あと少し、もう少しでウィズに触れられる。


その瞬間、背後でパチンっと指が鳴ったのが聞こえた。




「!!!、ッ・・・・・・・・――」




ウィードに突き刺さったままの炎の槍が、

ウィズの目の前で爆発した。




〈・・・なんだ、大したことない、我が出てくるまでもないじゃないか〉



炎禍は、軽く溜息を吐いた。



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