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『te:tra』  作者: 坂江快斗
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第21話〈嵐禍ノ章〉「彼女の瞳に映るもの」

「ウィンカ、愛してる」

「炎禍っ!」


――2つの光。


燃え滾る炎が俺の体を包んだと思うと、瞬時に〈炎禍〉の姿を纏う。

四肢は問題なく動く。今は俺の制御下にあるらしい。

修行の成果など期待できないと思った。そもそもあれは修行と呼べるものだっただろうか。

しかし、リロウスは言った。


――君たち2人の精神が重なったとき、初めて〈炎禍〉は真の姿になれる、と。


真の姿・・・。なんとなく俺と枝紡も感じていた。その〈真の姿〉とやらにならなければ、目の前に居るあいつは倒せないだろうと。


傀儡の名は、ウィンカ、と言っていた。

相変わらず長い前髪はやはり左眼を覆い隠しているが、頭部には角のような突起物が2本、歪曲して飛び出ており背中には真っ白な翼が右側だけに生えている。

獣を髣髴とさせる両足は圧倒的な瞬発力を想像させるに固い。


だが、この瞬発力で負けるわけにはいかなかった。

一刻も早く、今居る場所から離れなくてはならないのだ。

互いが変身を終えたのはほぼ同時。

先に動いていたのは俺だった。発光が消え、硝煙が晴れたと同時に俺はウィードの胴体めがけて飛び込む。


このまま、全速力で遠くへ。

そう思っていた。が、ウィードはびくともしなかった。まるで鋼の壁に体当たりしているような感覚。押しているにも拘らずその手ごたえがまるでない。無機物を思わせる頑丈さに俺たちは一瞬、息を飲んだ。


「自ら、懐、きた、愚か」


余裕の口ぶりを見せるウィード。いとも簡単に頭を鷲掴みにされる。イルヴァナの握力も相当なものだったがウィードのそれは引けを取らない。あわや片腕の握力で頭蓋骨が粉砕されそうになるが俺は、ウィードの胸部を思い切り蹴りつける。

何度も蹴る。蹴った。しかし、顔色一つ変えないウィードに俺といえば悶えることしかできない。窮地を救ったのはリロウスの一言だった。


『陸斗、体を発火させるんだっ!』


言われたとおりに発火させるイメージ。しかし、ウィードの手から離れられるほどの火力が出ず俺も枝紡も激痛に声を上げるばかりだった。


「人間、弱い、ウィンカ使う、価値なかった」

「うあああっ!!くっそ・・・」


そのとき、俺の目にウィードが腰に据えている剣が見えた。あれを使おうと考えた。

痛みに耐え、気づかれないように手を伸ばす。

もう、限界だ・・・とトマトが破裂する嫌なイメージが頭をよぎったとき剣の柄を掴んだ。


が、抜き取ろうとしたときに俺はぶん投げられ、アパートの壁に叩きつけられる。壁が人型にめり込んだ。住民は地震が起きたと思うかもしれない。やはり、この場所で戦い続けるのは分が悪い、と思いつつもようやく解放された頭部を撫でる。痛みは消えた。ウィードが俺を投げつけたのは、よほど剣を取られたくなかったのだろう。月の光に照らされている彼女は同じ形をした剣を2本鞘から抜き取り、柄の尾の部分をカチンと嵌め、1本の武器にしてしまった。小さい頃に見た映画か何かで俺はその形を見たことがある。名前は確か、双頭刃と呼ばれるものだ。


ウィードは双頭刃をバトンを回すかの如く振り回すと大きく体を回転させてから、俺に向けて解き放つ。


「・・・なっ!!」


回転数とスピードをあげて俺に向かってくる双頭刃。残像により円盤が飛んでいるように見えるため受け止めることは至難のはず。俺はとにかく空へと逃げた。


双頭刃はブーメランよろしく、弧を描いてウィードのもとへ返っていく。彼女は瞬きひとつせずに片手で掴んだ。バシンッと乾いた音が夜に響く。


「はあ、はあ、はあ・・・。鉄壁の防御力に、飛び道具かよ・・・」


微動だにしないその姿はまさに、〈要塞〉だった。


*****


「わわわ、なんだいまの!!」


わたしにも何が起きたのか、分からなかった。目の前に居る女の子が似つかわしくない剣みたいなものを振り上げて、わたしに襲い掛かろうとしたとき突然強い風が吹いて女の子を吹き飛ばしていた。女の子は尻餅をついたあと立ち上がると、いてて、とお尻の辺りをさすっていた。わたしもまた、同様に尻餅をついていた。腰が抜けて動けない・・・。


「ふうう、びっくりしたぁ。風を操れる力みたいだねっ!おいらにはそんなことできないからうらやましいよぅ」


言いながら近づいてくる女の子。もしや、この女の子が藤咲市に恐怖をもたらし、枝紡先輩と式瀬先輩を襲った通り魔なんじゃ・・・と思考するがわたしの脳裏にひとつの映像がフラッシュバックする。


この女の子は、金髪じゃない・・・。


いったいこの街で何が起きているのだろう・・・。

そして先輩は、何に巻き込まれたのだろう・・・。


わたしは立てないまま体を引き釣りながら後ずさる。

動け、動け、逃げなきゃ、殺される・・・。意思に反して、体は動いてくれないと知った。やがて、女の子が寸前まで迫ってくると剣先をわたしに向けた。


「おいら、お姉ちゃんだからしっかりしないといけないんだ」

「えっ・・・?」


そして、再び刃がわたしに振り下ろされた。


――気がした。


*****


俺は遠距離からの攻撃を試みる。以前、イルヴァナと戦ったとき、暴走状態ではあったが炎の玉を作り投げつけていた感覚がある。それを作り出し、ウィードに投げようと考えた。


手のひらにイメージを描く。炎を作り出すイメージ。小さな太陽を作り出すイメージ。


「・・・できた」


豆粒ほどの太陽だった。


『式瀬くん、まじめにやろうよっ!!!』

「やってるわっ!!!枝紡も協力してくれよ!!!」

『してるよ!でも、式瀬くん、ぜんぜんダメじゃんか!!』


そう言われると、自分のセンスがないように思えて不憫である・・・。


(なんだ・・・?ひとり会話か・・・?)


みたいな眼で俺を見ていたウィード。また、双頭刃を投げようと構えだす。


「仕方ねえ、このまま行くぞ!!」


豆粒の太陽を握りつぶし、ウィードへ向かう。

ゴリ押しすればなんとかなるかもしれないと思ったからだった。


俺の安易な思考は、ウィードの口角をあげるのに易かったらしい。


今、目の前に居たウィードが、音もなく、気配もなく、消えた。


同時に感じたのは背中への一閃。右肩から左わき腹までを炎禍の熱ではない熱が襲った。俺は情けない声を出した後、すぐさま殴りつけられ、道路へ叩きつけられた。

蜘蛛の巣状に穴が開く。住民たちが一斉に部屋の電気をつけたり、家の外に出てきたり、窓やベランダから様子を伺っているのが分かった。


「え、何?」「おいおい、こんな夜中に地震か!?」「爆発みたいなの聞こえたんだけど・・・」「おい、あっちのほう燃えてるぞ!」「ねえ、ままー、人がいるよー」


ざわめく住宅街。これは本当にまずい。巻き込むわけには・・・。

しかし、ウィードには何も関係なかった。彼女は音速に近い速さで落下位置の中心にいた俺を踏みつける。巨大な爆発音と、地響きと、土煙が住民たちをパニックにさせた。


「隕石だああああああっ!!!」「爆弾よっ!!!」「今すぐ逃げろおおおっ!!!」


「かはっっっ!!」


めり込んでいくウィードの右足。普通の人間なら内臓はおろか体は真っ二つだったかもしれない。蹄状の足は面積が狭い分、一点に圧力が半端じゃなかった。


俺は脚を掴む。思い出したように発火。燃え上がっていく右足を見ても彼女は動じない。むしろ、足をぐりぐりと動かし、さらにえぐっていく。


「ぐぐっ、ああ、うあああああああっ!!!!!」


俺の叫びが枝紡の声で響く。小さく、携帯のカメラのシャッター音と遠くからサイレンの音が聞こえた。



*****


その瞬間、眼と鼻の先で剣は止まっていた。時間が止まったと思った。もしくは自分が死ぬ瞬間でスローモーションに見えているのかもしれない、と。どれも今まで読んだ本で見たシーンだった。

でも、時間は動いているのが分かった。パトカーや救急車のサイレンが聞こえたから。

女の子が苦悶の表情を浮かべている。右眼の横を一粒、汗が流れていた。女の子は力を込め続けているんだ。でも、何かに阻まれている。何か、壁ようなものに。


いや、壁、じゃない、これは・・・。


「かぜ・・・?風がどうしておいらの剣を防ぐんだあー」


女の子は何度も剣を振りかざしては振り下ろす。フォンフォンと受け止められる太刀筋に力強さはなく、見事に力が吸収されているみたいだった。


わたしは少しずつ腰をあげていく。女の子は必死に剣を振る。さっきの大声で両親や弟たち、ご近所の人が出てきてしまうかもしれない。そう思ったわたしは思い切って、女の子に背中を向けて大通りに向けて走り出した。


人通りが多いと、危険にさらしてしまいそうで危ないけど、とにかく警察の人に助けてもらおう。


わたしが急に走り出したために女の子は剣で空を切り、前のめりになってから前方に転んだ。顔から転んでいた。あっ!と思ったけど、わたしはまた前を向いて走る。

自分が出せるスピードで。普段、運動はしていないのに不思議と力が沸いてきて息切れがない。人間が追い込まれたときに出る火事場の馬鹿力というものなのかな・・・。


でも、どうして女の子はわたしを襲うんだろう。

通り魔だから・・・?でも、あの日あの海岸沿いで見た金髪じゃない。だとしたら別の人物による犯行?

走りながらだとうまく物事の整理ができなかった。見た感じは10歳か11歳くらいの女の子だ。それくらいの子が剣を振って人を通り魔的に殺すなんて聞いたことがない。

それこそ本当に、フィクションの世界の話だ。


なにがなんだかわけが分からなくなってくる。女の子が追ってくる気配も感じる。

どうしよう、と思ったとき、目の前には巨大な穴が広がっていて、危うく穴の中に落ちてしまいそうだった。



*****


人々の悲鳴が聞こえる。はやく逃げてくれ・・・。そう願うばかりだ。しかし、人目に一切つかず戦うことなどできるだろうか。いや、無理だろう。

今、俺が考えるべきは人々の安全を確保し、彼らに被害が及ばないようウィードの攻撃から守り、本気でウィードと戦うことだ。

本気でやらなければ、勝てない。俺が負けることは世界の終わりを意味すると、リロウスは言っていた。そんなこと、絶対に阻止しなければならない。


こんなとき真っ先に脳裏に浮かんだのは、かなしいかな、円堂だった。

その次に吉秀、風紀委員、演劇部、学校の皆、文化祭での出来事。


みんなを、守りたい。円堂みたいなやつだって俺には守りたい人の1人なんだ。


その想いが力に変わってくれた。いや、枝紡が答えてくれたといったほうがいいかもしれない。炎禍の体を纏う炎が大きく燃え上がると、一気に爆散。蜘蛛の巣状に広がった穴を炎が満たすとウィードの首を掴んで上空へと上昇した。

このまま、あん時みたいに大気圏へ・・・。しかし、それもまた安易だった。

ウィードは上昇中にも関わらず俺の腕を両手で握ると。あの握力で握りつぶした。

骨が砕ける音。このとても乾いた音は、一生忘れることはないだろう。

俺が首から手を離すと、一転、ウィードが俺の顔を覆うように鷲づかんで、一気に下降する。地面まで20メートルくらいのとこだろうか。俺の体は急転直下で捨てられた。向かう先はやはり穴。

このまま落下したら体がばらばらになるっ!

その時だった。


地面直撃の瞬間、クッションに似た感触を感じる。

受け止められた・・・?

ふわりと浮いている自分の体。俺を受け止めていたのは〈風〉だった。


「こ、これは・・・」


ウィードとは別の気配。それは2つだった。一番近くの気配は穴のふちに居た。

俺はその姿に歓喜できない。鳴海がいたからだ。


「なるみ・・・」

「あ・・・、えっと・・・」


しほうせんぱい・・・?そんな問いかけが聞こえた。

鳴海がここにいて、俺は風の力で地面への衝突を免れて、もうひとつの気配がある。

つまり・・・、


「鳴海っ!逃げろっ!!」


――彼女たちは双子の魔導師だ。


リロウスの言葉とこの状況を考えてみると答えは簡単だった。

ウィードは俺を狙い、もう1人は鳴海を狙っていた。やつらの恐らく本命は・・・、


『陸斗!!!』『式瀬くんっ!!!鳴海さんを!!!はやくっ!!!』


「ああっ!!!」


一気に鳴海のもとへ。だが、あと僅かというところでウィードが立ち塞がる。

回復したばかりの両手を掴みあい、押しも押されぬ状態に。


「どけえっ!!」

「お前、相手、私」


俺はありったけのパワーを両腕に込めるが、ウィードはどこか涼しい顔だった。

鳴海が俺たちを凝視する。信じられない光景が目の前で繰り広げられているのだ。動けず、絶句するのは当然だろう。しかも戦っているのは彼女からしてみれば死んだはずの枝紡ふたばなのだ。


「鳴海っ!動け!!いいから、ここから離れるんだっ!!」

両腕を掴みあったまま叫ぶ。


「あああ、足が・・・う、動かない、です・・・」

震えた声で、訴えてくる鳴海は体も震えているようだった。


「ほーい、追いついたー。きみ、あしはやいよーってあれ?ウィード?ああー!ウィンカ使ってるぅー!ウィンカ、かわいいっ!」


きゃっきゃとはしゃぎながら鳴海の背後に現れる小さな魔導師。あいつがもう1人、双子の片割れ・・・。


『ウィズっ!』


リロウスが叫ぶと、ウィードの力が強くなった。たちまち俺は力の差に辟易する。

こんなことなら、ちゃんと修行を・・・。


『式瀬くん!!ぼんっていうイメージだよっ!』


枝紡からの突然の言葉に我に帰る。ぼんっ・・・。


・・・漫画を燃やさないように、じゃなくて、家ごと燃やすつもりで・・・。


そのイメージはマッチに火を灯す絵が思い浮かんだ。たったそれだけのイメージだった。

掴んでいたウィードは爆音と共に炎に包まれる。ギロリと眼が合った。が、この一瞬の隙を逃してはいけない。俺はすぐさまウィードの手を振りほどくと力の限りわき腹を蹴りこんだ。「ぐっ・・・」という声を漏らしてウィードが吹っ飛ぶ。見届けることなく鳴海のもとへ。


「鳴海っ!とにかく逃げるぞ」

「えっ、あ、はい、です・・・」


俺は鳴海の背中と膝裏に腕を入れて抱きかかえる。目の前からはウィズという名の魔導師が表情を変えて剣を構えながら向かってくる。


「飛ぶぞ」


炎の羽が大きく開いた。


できるだけ、遠くに。でも、逃げてばかりもいられない。すぐに戻ってこなければ・・・。鳴海を落とさないようしっかりと抱いて脇目も振らずに飛んだ。



*****


「ありゃりゃー、逃げられちゃった」

「ウィズ、なぜ、殺してない」

「だってー、風がぁ」

「だって、じゃない」

「だってぇ~、風がぁ~」

「風が、じゃない・・・、風?」

「うん、あの女の子、もしかしたら・・・」


2人はこくんと、頷きあう。


「なら、急ごう、・・・嵐、来る前に」



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