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『te:tra』  作者: 坂江快斗
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第15話〈嵐禍ノ章〉「彼女は今日も静かなままで」

・・・・・。


『ねえ、式瀬くん、眠らないの?』


・・・・・。ぺらっ

・・・・・。


『・・・ねえ、リロ。しりとりしよう』

『ん?しりとりか。構わないぞ。では、しりと「り」』

『りんご』『ゴール』『ルビー』『イニシャル』『留守』『スケール』『ルーター』


・・・・・。ぺらっ(る攻めされているぞ・・・)


『あーもう、式瀬くん!そんなこと分かってたんだよ!あえて作戦に乗ってひっくり返そうとしてたのに!!』   

『タール』


何気なくつぶやいたことも筒抜けらしい。俺のプライバシーは何処へ・・・。


『ようし、そろそろだ、くらえっリロっ!!『ルール』!!!』

『ルノアール』


うあああああああああああああ、という頭を抱えて転げまわる枝紡の姿がイメージされた。実際、枝紡がそんな動きを見せるとは想像もできないがそうイメージさせる叫びだった。まさかの、「る」返し。あれ、今どの辺読んでたっけ・・・。


『るるるるるるるるるるるるるるる』

『るるるるるるるるるるるるるるる』


・・・・・。ぺらっ


『るるるるるるるるるるるるるるる』

『るるるるるるるるるるるるるるる』


・・・・・。ぺりっ!


「うるせえよっ!!!」


部屋の中。俺の怒号が響き渡り、母さんに怒られた。


*****


少し前。

帰宅後、栞菜に電話をし1時間ほど話をした。まだ少し不安らしい。

明日は一緒に登校しようと約束しあい、電話を終えた。いつもなら二言目には罵声を浴びせてくる栞菜。その面影は身を潜め、出てくる言葉に力は無い。

時間が解決してくれるわよ、きっと。と母さんは言ってくれたが今回ばかりは時間が掛かりそうである。いや、掛けるべきなんだ。枝紡は俺の中だけでなく、栞菜の中にも生きているのだから。


栞菜との電話を終えた後はあの本を取り出し、読んでみることに。

〈小さな勇者〉。

初めは1ページあたりの文字数と情報量に吐き気さえ催してしまったが読み進めていくとどういうわけか面白い。ページをめくる手が止まらないのだ。最初のうちは枝紡も俺の目を通して物語を読んでいたが、どうやら俺とは読むスピードが違うらしくなかなか進まないページに苛立ちを覚え、ついに読むのをあきらめた。そして、暇を持て余した彼女はリロウスと話すなり、特訓をすると言い、リロウスと組み手をしたり、俺に一方的に話しかけてきたりと試行錯誤を繰り返したが、それにも飽きたのか最終的に2人で俺の邪魔をするという結果に落ち着いたようだ。いや、俺としてはもう黙っててほしいんだけども・・・。


『式瀬くん、それあの子にもらった本なんだっけ』


あの子、というのは鳴海のことだろう。

俺は先ほど、彼女の下の名前を枝紡に教えてもらったことを思い出した。


「ああ。鳴海・・・まる、だったよな、あの子の名前」

『そうそう。かわいい名前だよね。式瀬くん、下の名前知らなかったの?』

「知らなかったというより、教えてもらうタイミングが無かったと言うか、まあ別に下の名前まで知らなくてもいいかって思って」


古本屋の店主が鳴海のことを「まるちゃん」と呼んでいたがそれが俺の聞き間違いではなく本名で、まさかそう呼ばれていることを俺に知られたくなかったから顔を赤らめたのかもしれない。そう考えると、俺の心境はちょっと複雑でもある。


『もう、式瀬くん、分かってないなぁ乙女心を!女の子は好きな人にはついつい言いたいことも言えなくなっちゃうものなのよ。それが名前であっても!』


その言葉を聞いて、枝紡が俺のことを好きであるかもしれないという一ミリ以下の可能性が木っ端微塵に無くなった。これは言わなくてもいいだろう・・・。

というか、鳴海が俺のことを好きというのも信じがたいしな。


『それに、女の子って本当は名前で呼ばれたい生き物だよ』

「それは枝紡だけだろ。でも、まるっていう名前はかわいい響きだと思うけどな。隠すほど恥ずかしい名前でもないし」

『ひどいわ、リロ。この人、あの時私からの力を使うときだけふたばって呼んでくれたのに・・・。男っていつもそうよね。どうせ私は使い捨ての女よ・・・』

『ひどいな、それは。あとで体を乗っ取って恥ずかしいポエムでも書いて学校中にばら撒いてやろう』


変なドラマみすぎだろっ!!しかも、2人ともそんなキャラじゃないだろっ!

ポエムもやめろっ!!今、声に出して言いたいツッコミ3種だった。


『あ、でも確かに名前かわいいよね。あの子の雰囲気にも合ってるし』

「それは、言えてるな。今度、いきなり本名で呼んだらびっくりするかな」

『びっくりするだろうし、喜ぶと思うよ!』


そうか?と思いつつ、読書に戻るが開いていたページから一向に読み進めることができず、次に気がついたのは朝日が昇ったときだった。


*****


少し早めに家を出て、到着したのは矢薙沢家。俺の家と栞菜の家はバスの停留所一区間分離れているだけなのでわざわざバスに乗るのもと思い、歩いてそこへ向かった。

青い塗装の2階建て。庭のガーデニングにはチューリップが咲いている。ほかにも色々な花が咲いているがまるで名前が分からない。こういうとき、鳴海のように本を読んでいれば知識も増えるんだろうなと思った。

インターフォンを鳴らして栞菜の母、しおりさんが玄関の扉を開けてくれた。栞菜を迎えに来ました、というとしおりさんは目を細め嬉しそうにしながら栞菜の元へ向かった。

少し待っていると、階段を駆け下り手来る音。ものすごい勢いだった。

その勢いのまま、俺の胸に体重およそ35キロ分の衝撃が襲う。


「遅刻遅刻遅刻っ!!もーお母さん、どうして起こしてくれないの!今日は飼育当番の日っていってたじゃん!!」


俺の体にのしかかり、襟をつかんでぐわんぐわんと頭を上下に揺さぶられる。

意識が遠のいていきそうになったとき、俺が俺であることに気づいたその子は小さな声で「あれ、りくとじゃん」とだけ言った。

謝ることを知らないあたりが小学5年生である。


「よ、よお・・・、椎菜・・・。朝からうるさいな、お前」


ぽかんと一発殴られる。「椎菜さまとよべ」


「し、しい、・・・・・しいたけ」


ずぶり、そんな音が聞こえたかと思ったら目に激痛が。

躊躇の無い目潰しに俺も枝紡もリロウスも絶叫だった。


「こらっ!!しいちゃんっ!!何やってるの!!陸斗くん、お馬さんじゃないのよ!」


違います、しおりさん、その指摘は違います・・・。


「馬じゃなかったら鹿ね、馬鹿だから」


何気にうまいこと、いいやがる・・・。というか早くどいてくれ・・・。


椎菜はしおりさんにどけてもらい、そそくさと椎菜は学校へ向かった。

オムツを替えてあげた過去は、もう遠い日のように遥か彼方の思い出である。

思い返すと目頭が熱くなるのを感じたが、これは目潰しによる痛みのせいだろう。


ぼやける視界をこらすと、栞菜が制服姿で立っていた。親子並んでみると、やはりそっくりだった。


「おはよう、栞菜。朝ごはんは食べたか?」

「・・・うん。今日はわざわざありがと」


2人でしおりさんにいってきますを伝えて、矢薙沢家を後にする。

いつまでも玄関先で手を振るしおりさんは優しい目で見送ってくれた。


俺たちは特に会話が弾むこともなく、学校に向けての道中を隣同士で過ごした。

まったく会話が無かったわけでもなく、俺が昨夜読んでいた本のことを話してやるとすこしだけ栞菜に笑みが戻った。久々に見る彼女の笑みは俺と枝紡を幾分か安心させてくれた。


*****


ピンポンパンポーン


俺と栞菜が教室に到着してまもなく。

よくありがちなチャイムが校内に響くと、落ち着いた声が俺の名を呼んだ。

生徒会室にこい、という内容だった。もちろんこういう言い方はしていない。


こんな朝からなんなんだ。そう思いながらも俺は生徒会室へ向かう。


生徒会室へと向かう途中。風紀委員会の生徒2人が掲示板に手作りと見られる貼り紙をしていた。どちらも鳴海ではなかったので通り過ぎることにしたが、どうしてか俺は貼り紙のことが気になり、通り過ぎた道を戻る。

掲示板には部活動勧誘のポスターや例の通り魔事件のことが書かれた新聞記事、事件に対する注意事項などが貼られている。その左側に新しく掲示されたのはとある生徒への手紙を募る内容だった。


[長期療養中の不城彩華さんに手紙を送りませんか?]


・・・ふじょう・・・あやか、と読むのだろうか?

長期療養中・・・?この人に励ましの手紙を送ろうということらしい。貼り紙には事細かにその人の病状と現状が記されていて、学年は3年生。文化祭のことも頭をよぎったが、そんなに悪いのであれば参加しないほうがいいのかもしれないな。

俺は手紙のことだけ頭に入れて、その場を立ち去った。あまり気に留めることもなかったというのが正直なところだった。


*****


いよいよ辿り着いた生徒会室の扉を前にして俺は、俺を朝から呼び出した張本人のことを頭に浮かべる。あいつが俺を呼び出すときは大抵碌なことは無かった。とてもじゃないが有意義な時間を過ごせるものだとも思えない。こうして律儀にも呼び出しに応じてしまったが踵を返したくなっているのも事実。いっそこのまま無視を決め込もうと決意が固まりかけたとき、


「はうっ!!!」


ものすごい勢いで開かれた扉によって俺は廊下の壁に打ちつけられた。


「なんだ、式瀬。いたなら入ってくればいいじゃないか。さあさあ」


そいつは、激突の衝撃で動けない俺をずるずると飲み込むかのように生徒会室へと引きずりこんだ。

俺に抵抗の余地は無かった。


*****


「で、何の用だよ」

「用がないと、呼び出してはいけないのかい?」


人のことをぶっ飛ばしておいてさらに煽ってくるこの男の名は、

円堂 えんどうすばる

藤咲学園の2年生にして、生徒会長の肩書きを持つ男。

残念なことに小・中・高と同じ学び舎を共に渡り歩いてきた男でもある。

悲しいことに友人ではあるが、親友と呼ぶにはいくつものハードルを越えていかねばならない。

どういう因果か、腐れ縁で結ばれている俺たちは幾度となく雌雄を決してきたがそれについて語ることはないし、そもそもこいつと


「さっきから何をぶつぶつと言っているんだい?我が友よ」


・・・・・こういう男なのだ。こいつは。

我が友って・・・。なんか俺のほうが下に見られていないか・・・?

しかも心の声、聞かれているし。


「なんでもねえよ。用が無いなら帰るぞ」


俺は早くその場から立ち去りたかった。


「おい、待て待て。待て。」

「何回も言うな。お前、そういうとこ、いつまでたっても変わらないのな」

「???悪い、式瀬。お前が何を言っているのかよく分からない」


・・・こいつっ・・・!!!

人語を理解していないのか、それとも俺がこいつより一歩先を行ってしまった人類なのか・・・。

『そうだぞ、君はなにせ〈器〉の存在なのだからな』


突然横槍を入れてくるリロウス。こういうときは黙っててくれ・・・。


「まあ、座れ」

「嫌だ。教室に帰らせてくれ」

「頼む。座ってくれ。一生のお願いだ」


俺が覚えている限り、通算57回目の一生のお願いだった。


「・・・絶対座らないからな」

「そこまで言うなら絶対に座らせてやるからな」


よくよく考えてみるとただ椅子に座るだけのはずだが、どうもこの男の前では意地になってしまう。こいつの言うことを聞きたくないのだ。そして、こいつもまた俺を服従させたいのだろう。


「座らないとできない話ってわけでもないんだろ」

「いや、座らないとできない話も世の中にはあるんだ。僕の知り合いが言っていた」

「どこのそんな話があるんだよ!!てか、知り合いって誰だよっ!」


ちょっとした椅子とりゲームだった。

手に握る汗すらでないまま、無意味な時間が過ぎていく。


「まあ、話しちゃうと、式瀬、生徒会に入れ」


普通に話してるじゃん・・・。

もうつっこむ気力さえ無くなると同時に俺は生徒会室から出かかって数名の生徒会執行部に阻止された。

結局強引に座らされたのは言うまでも無い。


「またその話かよ。やらないって。俺、部活にも入ってるし、いろいろと忙しいんだ」

「こっちはいつまでも生徒副会長の座を空けて待っているんだぞ!お前の頼みは断れんしな」


いや、そのポジション空けといてくれって頼んだ覚えどの記憶たどっても存在しないんですが・・・。

頭のねじがフルで吹き飛んでいる生徒会長はさらに続ける。


「お前のあの演説、僕は感動したんだ。そしてこうも思った。やはり我が高の生徒会にはお前のような人材が必要なのだと。いや、人材ではないな、お前は人財だっ!」


そんな、フォントでしか分からない表現やめてくれ。


「そもそも、なんで俺が生徒「副」会長なんだよ。お前の下で働くとか嫌過ぎる」


俺を押さえつける無数の手に一気に力が込められる。めちゃくちゃ痛かった。


「式瀬、きみは永遠にその椅子に座っているつもりかい?」


お前らも永遠に抑えつけないといけないけどな。


「まったく、君ってやつは。それでこそ、僕の親友だっ!」


両手を広げて大声でそんなことをいう馬鹿。

もうやめて・・・。親友だなんて・・・、やめて・・・。


別に円堂のことが嫌いなわけじゃない。好きじゃないだけなんだ。

まあ、そうはいっても藤咲学園の生徒会長に上り詰めるような男だ。生徒や教師からの人望も厚い。普通の生徒なら、こいつのこういう部分(馬鹿)をよく知らない生徒ならこの勧誘は快く受けるだろう。先ほどから言うように、こいつは話が通じないのだ。そのせいで俺が今までどれだけ被害を被ってきたことか。

あれは確か、


「式瀬。余計なことは言わなくてもいいんだぜ」


空気は読めないくせに、心を読めるのか。こいつ、実は魔導師なんじゃないのか?そう思ったところでリロウスに『違う』と即答される身にもなってもらいたい。

仮にそうだったとして、こいつに俺の体貸したくないしな・・・。

だって、こいつに体を貸すときに、愛している、と言われるんだろう・・・?


「嫌だああああああああああああああっ!!!!!!」


俺は額を机に打ち付けていた。『痛いよっ!式瀬くん!!!』


「とにかく、だ。どうだい、やらないかい?僕の下で働く気にならないかい?」


今の会話の中でどうしたらその思考に落ち着くのかを教えてもらいたい。

俺の答えは即答だった。


「むりっ!!」


*****


昼休み。俺は自分の教室の机で突っ伏していた。

ようやく開放された。というか強引に出てきた。さすがに枝紡もリロウスも嫌気が差したのか、ほんのちょっとだけ力を貸してくれたおかげで俺はなんとか生徒会室から逃げ出すことができた。もうあいつからの呼び出しはシカトだ。

そういや、栞菜はどこいったんだ。結局、あいつとあまり話せていないし・・・。

昼飯・・・、いいや。まずは栞菜を探そう。

俺が椅子から立ち上がったとき、その音は木霊した。


ピンポンパンポーン


「2年2組の式瀬陸斗君。大至急、風紀委員会室に来てください。というか、来い。さもなくば・・・」


さもなくば、なんだよっ!!!

声の主は軽く咳払いしてから続けた。


「失礼。では改めて。2年2組の式瀬陸斗君。大至急、風紀委員会室に来てください。というか、来い」


最後は変わらないのかよっ!!!


「ああーもう。何なんだよ、いったい・・・」


俺は足取り重く、風紀委員会室へと向かう。栞菜にはメールを入れておいた。


〈今日は、部活するぞ〉


はあ、風紀委員会、か。

あの部屋、行きづらいんだよなぁ。場所的な問題ではなく・・・。


『枝紡、お前なんか楽しそうだな』

『えっ!?そそそそんなことないよー。ぜんっぜんたのしくなんかないよ、ねーリロっ!』

『む?私か?私はそれなりだな』


歩きながら頬が引きつる俺の顔を見る生徒の頬が引きつっていく。

ああ、もうなんか、もう、いいや・・・。


どうにでもなればいいや、と自尊心さえ投げ捨てて俺は禁断とも言える扉を開くことになる。


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