第13話 「俺と彼女の不思議な日常」
梅雨が明け、それまで出番をこれでもかと減らされていた太陽がこれでどうだと言わんばかりに燦々と輝き、街に活気と熱気をもたらし始めた7月。夏休みまであと10日ばかりという今時の学生ならどうしたところでも浮き足立ってしまうであろうこの時期。
俺は戸惑っている。
なぜか。
それは、『はやく下着脱ぎなよ』と囁かれているからだ。
いや、しかし下着を脱ぐ、ということは俺は全裸になるという事。
それを女性の声で唆されているのだ。
だがしかし、それは下着を脱がなければ出来ないことでもあるのだ。
まあ、できなくもないと言えばその通りなのだが。
思い切ってばばばっと勢い任せに脱いでしまうか?
それとも脱がずに我慢してちゃちゃっと済ませてしまうか?
もしくは、その行為自体を諦めるか。
いやいや、それは無い。もう俺は我慢できないのだ。この暑さに、この汗。
べとべとなのだ。シャツに染み込んだ汗が俺の欲求を爆発させようとしている。
もう今すぐにでも!!という気持ちなのだ。それなのに、俺は下着を脱ぐという物心ついた時には当たり前に出来ていた、今となっては無意識下でもできるはずの動作が出来ずに戸惑っている。相変わらずそいつは、『はーやーくー。風邪引いちゃうよ』などと言っているが、ちょっとうっさい黙ってて!!
俺は意を決して下着のウエスト部分に手を伸ばす。ごくりと生唾を飲みこむとそいつはさらに『えっ、何で緊張してるの?』と言ってきた。あああ、本当にやめて…。
「な、ならさ、せめて見ないようにしといてもらえないか」
俺は額から溢れる汗を拭うことなく下着に手をかけ、若干腰を曲げた状態で言う。
『…ああー。…おっけ。みないみない』
生返事もいいとこだった。そもそも〈見る〉ことに対する抵抗という物がないのか?
彼女の軽すぎる返事に俺は溜息。
『溜息しちゃうと幸せ逃げるよー』
「お裾分けしてんだよ」
『そりゃめでたいねぇ。式瀬くん、幸せなんだね。それってさ、一応私にお裾分けって事かな』
「はいはい、それでいいよ…」
彼女はにやついている、分かる。まあ、明るく接しようとしてくるのは彼女の長所でもあるだろう。あんなことがあったばかりだ。どこもかしこも静かになった。街から音が消えてしまったかと思うほどに。
音を有しているのが俺だけのように感じるほどに。
彼女はもう気にしていない様子を装っている。たまに心がチクチク痛むのは彼女が家族を思うときだったりするわけだが、今はそれとは違うチクチクを受けている。
指でつんつん、ではなく、千枚通しのような針でツンツンといった感じだ。
「じゃ、じゃあ脱ぐからな」
『はーい、見てません、何も見えませーん』
「脱いだぞ」
『はい、ダウト。脱いでないじゃんっ!!』
「見えてんじゃねえかっ!!」
『式瀬くんこそ、嘘ついてんじゃん!!』
ああ、はやく風呂に入りたい・・・・・・。
たったそれだけなのに・・・・・。
*****
あの戦いから1週間。枝紡の葬式から4日が経った。
俺はというと、病院を退院し体の傷もリロウスが頑張って治してくれたらしい。(それでずっと眠っていたようだった)
もちろん、お風呂問題はタオルで体を拭くことで解決してきていたのだがもう我慢できなかった。水を浴びたい一心で俺は脱衣所に入り順調に服を脱いだがどうしても下着が脱げなかった。枝紡ふたばがみているからだ。俺の中から、俺の目を通して。
リロウスの時は普通に入っていた。本人曰く『別に興味ないし、見たくもない』
それに、リロウスは出会った時の数分間以外俺の体で一緒に過ごしているのでもうあまり気にならない。だが、枝紡ふたばとなれば話は別だ。彼女とはクラスメイトであり、彼女は学園のアイドルであり、俺も少なからずそういう目で見ていた節もあるし、同じ部活動の仲間でもある。そして何より、同世代の女の子に自分の粗末な体を見せてしまう、見られてしまうのが俺のささやかなプライドに触れている。まあ、粗末な体じゃなかったとしても見せたくないものだが。
枝紡は枝紡で、全く気にしていない様子だが彼女の内面から溢れ出る興味津々感は俺を戸惑わせる材料としては充分なものだった。
俺は結局、今日も体を拭くだけに留まった。明日から学校に行くというのに…。
『入らないんだね、におうよ』
「におうのか?」
『そこはかとなく、ね』
・・・俺は取り敢えず頭だけを洗うことにした。
*****
「そういえばさ」
自室のベッドで仰向けになり、天井を眺めながら独り言を漏らす俺。その問いに答えてくれる者はいるがやはりこの会話は他人には見られも聞かれもしたくないものだなと思った。
『なに?式瀬くん』
「枝紡ってさ、小さい時にヘリ動かしたこと、あんの?」
俺は炎禍を抑えたときにみた夢、というか過去のような映像を見たことを伝える。
あまりにもリアルだったので、本当かどうか確かめてみたかったのだ。
『あるけど。確か、6歳ぐらいの時だったかな』
どうやら、あの映像は枝紡の過去だったらしい。
『私、アメリカに行きたくってね。見よう見まねでボタン押してたらなぜか離陸できたの』
しかし、実際あの時俺はいなかったはずなんだ。その後、どうなったのかを聞いてみた。
『まあ、墜落したけどね。私は無事だったんだけどお父さんのヘリがお釈迦になっちゃってさ。今はこれで許しておくかって思ったの』
どんな娘だよと心の中で突っ込むが聞こえているんだったな。
墜落して助かった枝紡も運がいい。
『どうして、そんなこと聞くの?』
「いや、あの時に、見えてさ」
彼女はふーんとだけ言い、それ以上の事は聞いてこなかった。
枝紡がここまで話すようになったのも今日になって突然の事だった。
リロウスから全ての事情を聞き、自分が何者であるか、この世界で起きていることは何なのか、イルヴァナを含める魔導師たちの事も、全部聞いた。しばらく彼女は放心状態と言っていいのか分からないけど、黙り込み、俺としては消えてしまったのでは?と心配するほどだった。枝紡は今日になり、人が変わったように溌剌とし、気丈に振舞った。彼女なりの整理がしたかったのだろうか。それも俺に悟られることなく。
でも、俺は少し嬉しかった。またいつもの彼女が戻ってきてくれる気がして。
・・・体はもう戻ってこないけど・・・。
『あ、そうだ式瀬く・・・』
「陸斗くううん、ご飯ですよ~」
枝紡が何か言いかけていたが母さんの呼びかけに消された。
彼女はなんでもないや、と言ってそれからしばらく喋らなかった。
食卓に行くと、今日もまた美味しそうな母さんの手料理が所狭しと並んでいる。
母さんによると、復学記念らしい。ここ最近はほとんど何も口にしていなかったから俺は素直に喜んだ。エビフライにハンバーグ、若鶏の唐揚げと俺の好きな物ばかりだ。しかも、豚汁までついている。至れり尽くせりとはまさにこのこと!母さんとの食事のときは日常が戻ってきたなぁと感じる。2人食卓に着くと口を揃えて「いただきます」と言って2人で食べるにはやや多い量の晩御飯を食べる。
『わあああっ!美味しそーうっ!!』
枝紡がにおいか映像に釣られている。
そうか、食事も、もう出来ないんだよな…。
『あ…。そういうの気にするの禁止だってば。マイナス4点だね』
「え・・・っ」
思わず口から言葉が漏れる。母さんは怪訝そうに俺を見つめて「美味しくなかった・・・?」と涙目になった。いや、違うんだよ母さん。美味しいよ!
多重会話は神経を使うから難しい。口では母さんと会話をし、頭の中では枝紡やリロウスと会話する。基本優先するのははもちろん面と向かっている相手との会話だが、その際に頭の中での会話はシカトしているので枝紡がむすっとするのが分かる。
俺はその多重会話を今、しているのだ。
『マイナス4点ってなんだよ』
『100点からスタートで減点方式ね。さっきみたいに私の状態を気にしたりしたら減点していくの』
「陸斗くん、明日から学校でしょう?体の方は全快かな?」
「・・・あ、ええ。もうばっちり100点満点ですよ」
『いや、だから式瀬くん、いろいろ引かれてもう60点くらいなんだよ』
「あら、100点満点!それはいいことねっ!テストもそのくらい点数取れるといいんだけど」
「ろ、60点!?」『そうよ、ちなみに0点になると…』
「えっ、60点なの?」「あ、60点とかはとりたくないなー、なんて」
『0点取ると、どうなるんだよ』
「60点はだめね、ちなみに母さんの今日の料理は何点満点かな?」
何点満点とは…。もう満点が確定しているとはどういうことだ…。
『0点とったら、リロに式瀬くんの秘密を1つばらして、また100点からスタートだよ』『む、そこでわたしに振ってくるのか』
いつのまにかリロとか呼んでるし…。
「母さんの料理はもう、なんで俺の秘密をばらすんだっ!」
「えっ?」『えっ??』『まあ、あまり君の秘密は大したことなさそうだがな』
母さんの料理は200点満点だよ、というか点数なんかつけられないよ、減点のしようがないしね!
俺のフォローはその後2時間に及んだ…。
ちなみに、加点システムは無いらしい。
いかにして減点を減らすのかがポイントね、と枝紡は楽しげに言う。
全て枝紡のさじ加減だろうにと思うのだが。
料理の味も枝紡やリロウスは感じているらしい。それで満足しているよと、だから一杯ご飯食べてねと言って枝紡はまたリロウスとの会話に戻ったようだった。
*****
「そういえばさ」
俺はまた部屋のベッドで仰向けになり、同じ切り口で枝紡を呼び出す。
『なあに?』
「さっき言おうとしてたことって、なんだったのかなと思って」
『ああ…。あれか。えっと…』
枝法は言いずらそうにしているがなんとなくそれが誰の事を言おうとしているのかが分かった。「…栞菜の事、か」
『うん。栞菜ちゃんも学校に行ってないみたいなんでしょ…』
昨日、栞菜に電話をした。
しかし、電話には出ず、俺は栞菜の家に電話をした。すると栞菜のお母さん、しおりさんが出て、栞菜の状態を教えてくれた。
部屋に閉じこもったままだという。ドアの鍵も閉められ、ご飯にも手を付けない。耳をすませばすすり泣く声が聞こえてくると言う。栞菜の両親、そして妹の椎菜ちゃんも心配しており、近いうちに様子を見に来てほしいと言ってきたのだ。陸斗君も大変だったというのに、ごめんね…。と言って。
『栞菜ちゃん、私や式瀬くんのことで苦しんでるんだよね…』
俺は思い出す。あの日の事を。
俺が栞菜を失いかけ、栞菜が俺を失いかけたあの日々の事。
あれ以来、栞菜はトラウマのような疾患を抱えるようになった。
怪我、行方不明、死、他にも人間の不安を煽るワードは栞菜にとって暗闇へのキーワードとなり一度その暗闇への扉を開け、入り込んでしまうと閉じこもってしまうのだ。
彼女の普段の性格は自己防衛に近い、自身が生み出した感情なんだと栞菜は言っていた。つまりはもう一人の自分だ、と。
強い自分が、よわっちい自分を守ってくれるような気がする、らしい。
今の栞菜は、大親友を失い、幼馴染は一時意識不明になるという状態に陥った。暗闇はいとも簡単に栞菜を引きずり込んだ。あの日々以来、栞菜がこんなにダメージを受けるのは初めてかもしれない。
『私、栞菜ちゃんにお別れも言えなかった。突然、栞菜ちゃんの前からいなくなってしまった』
「それは、なんつーか、何と、言うか…」
『仕方なかったっていいたいんだよね。そうなんだよ、仕方がなかった。だからこそ悔しいの。栞菜ちゃん、何も知らないまま一人ぼっちになりそうだったんだよ?』
栞菜には他にも友達がいたが、枝紡ほど仲がいい友達が他にもいたとは思えなかった。栞菜が名前で呼び合っていたのは、間違いなく枝紡と俺だけだった。
「ひとりぼっち・・・か」
『すごく、こわかったはずだよ。だからさ、私、考えたことがあるんだ』
枝紡は改まった様子で深呼吸をし、俺は枝紡が今から結構無茶な事を言い出すんだろうなと予感した。いい予感でも悪い予感でもない。ただの予感。
「考えたこと?なんだ?」
『今、炎禍になっていい?』
*****
「ここが枝紡の部屋、か」
『うん。服もそのまま残っててよかった』
現在時刻は午前1時を回ろうとしたところ。
俺は今、枝紡邸に居る。さらに言うと、枝紡ふたばの部屋に居る。
枝紡が考えたこと。それは炎禍になり、自分の姿を俺に投影させて栞菜に会いに行く。そこでちゃんとお別れを言う、という物だった。
だが、炎禍の戦いやすさ満点の赤い着物コスチュームではさすがに自分だと認識してもらえないと思ったのか、今自宅に洋服を取りに来たのだ。
炎禍の体は、集中していないと炎を纏ってしまう。戦闘中なら構わないが、服をきがえるとなるとそれはまずい。そう考えるとこの着物はすごいなと感心してしまうが。
枝紡は俺にあっちこっちと指示をする。なんでもいいのでは?と思うがそれは男のだらしない所だよと言われた。『こういうときだからこそ、乙女は気を使うの』
ようやく選定を終え、俺は着物を脱ごうとする。すると、
『ちょっとまってっ!!!』
頭の中がキンキンとする。枝紡の制止が響く。
「なんだよ?あんまり長居出来ないんだぞ」
『だだだだだって・・・。その・・・』
「だって・・・?その・・・?どうした?」
俺はたじろぐ枝紡を余所に着物の帯を解きにかかる。
『や、やめてっ!はずかしいからっ!!』
「はずかしい!?・・・あっ」
ようやく気付いた俺。『気が回らん男だな』リロウスが言う。
枝紡は、俺に体を見られたくないらしい。
それは至極当然の反応だろう。しかし、俺は数時間前、俺のお風呂騒動でニヤついていた枝紡を思い出す。あの戦いの最中はそれどころでは無かったため意識していなかったがこの炎禍の体は枝紡の体そのもので、胸は大きすぎず小さすぎず俺にとっては丁度いい膨らみで、触らずとも柔らかいだろうなと分かる、腰はきれいにくびれていて余計な添加物をとらない健康的な食事をして来ただろうなと窺える。お尻もきゅっと上に上がっている。枝紡の体は、かなりスタイルが良かった。
『…今、考えていること、全部、まるわかりだからね!えっち!』
「ああ、いや、そんなことは・・・(お前だってさっき面白半分だっただろ!)」
『面白半分じゃないもん。あっ、今おっぱい触ろうとしたでしょっ!!』
枝紡の口からそんな言葉がでるとは思わなかった俺はやはり戸惑う。
その時、下の階から声が聞こえる。「何か、物音が聞こえたぞ」
おそらくSPの声だろう。ここに侵入したのは窓からだったが上空から見ても尋常じゃないくらいの警備が居た。
『ああ、どどどどうしよ…』
「目、閉じて着替えるから!」
『ぜったいうそだぁ』
「こんなときにうそなんかつくかよ!枝紡も分かるだろ、俺が目を閉じたら視界が暗転するの」
俺は声を殺しながら言う。別に言葉にする必要はないが焦りからかつい口から出てしまうのだ。
『わわわ、わかった…。でもぜったいに見ちゃダメだよ!?』
「ああ、当たり前だ」
『一瞬でも見たら、減点どころじゃないからね?』
「…ああ、それもわかったから…」
一体何が起きるというのだ…。
俺は目を閉じ、誰か来るかもしれない不安と戦いさっさと着替えた。
そしてすぐさま、窓から空へと飛び立つ。
向かうのは、栞菜の家。
「危なかったな」
『ほ、ほんとにみてない・・・?』
「見てないって。それは枝紡が一番分かってるだろ?」
『まあ、ね』
「とにかく栞菜の家、行くぞ」
『うん。あっ、式瀬くん、あのね』
「なんだよ?」
『私もお風呂の時はちゃんと目を瞑るからね』
*****
栞菜は、ベッドの上で膝を抱き顔を伏せ泣いていた。
この様子から察するに今日、というか昨日1日こんな調子なのだろう。
俺はベランダから気づかれないように侵入を試みる。まるで泥棒である。
が、窓には鍵がかかっていた。もちろん、対策は枝紡邸でも実行済みだ。
『なんだ、また鍵か。ほれ』
リロウスは寿命1秒分の魔力を使って鍵を開けてくれた。そんなに細分化できるものなのかと不思議に思う。
そろりのろのろと栞菜に近づく。
彼女は今、何を思い、ここまで心を閉ざし、泣き続けているのだろうか。
その表情を見るのが俺も、枝紡も怖かった。
意を決する。
意を決して下着も脱げない俺だが、ここは男を見せねばならない。
俺たちのこれからの為に。
「かん、な…ちゃん」
その声は枝紡ふたば。栞菜が分からないわけがない。
「…ふ…た…ば…?」
栞菜は顔を上げる。その表情に目を伏せたくなる。でも俺は目を逸らしてはいけないんだ。
「うん、私。ごめんね、急に」
この〈急に〉にはどんな意味が含まれているのだろうか。俺は意識の大半を枝紡にゆだねている。
「ほ、本当に、ふたばなの・・・?い、いきてた・・・?」
「ううん、そうじゃないの。全部、栞菜ちゃんが見た…通り…」
言いたいことはお互いたくさんあるはずだった。でも、沈黙が続く。
何から話せばいいのか分からない枝紡と、突然の出来事に言葉が出てこない栞菜。
再び会話を始めたのは枝紡からだった。
「あの、ね。今日は、お別れを言いに来たの」
たくさんあった言葉の中から彼女はそれを選んだ。
最も言いづらいはずの事を選んだのだ。
「お、おわかれ・・・?」
栞菜は呆然と口を開けたまま、こっちを見ている。未だに信じられないといった表情を崩せない。
「私は、死んだけどいつも栞菜ちゃんのそばにいるから。いつも見守っているから。栞菜ちゃんが危ない時、私は助けるから」
枝紡の言っていることは事実でもある。俺と共に栞菜の傍に居る。俺が言いたいことも代弁してくれた。
「いやぁ。やだよ…、そんな風に言ったらほんとうに、お別れみたいだよぉ…」
栞菜は再び大粒の涙をこぼす。体中の水分が涙となり体の外へと出て行ってしまうのではと心配になるくらい栞菜は大泣きする。
「やだぁ。ふたば、やだよぉっ!どうしてっ!どうしてなのぉ…」
炎禍の体に栞菜が縋り付く。お腹の辺りに顔をうずめ、その姿はまるで駄々をこねる子供のようだった。そんな姿が、俺にも枝紡にも愛おしく思えた。
枝紡は腰を下ろし、栞菜と目線を合わせる。
そして、力いっぱい、ぎゅっと抱きしめた。
「…私、栞菜ちゃんに出会えて本当に、本当に幸せだった。楽しかった。私が欲しかった毎日をくれたのは、栞菜ちゃんなんだよ?あなたは私の親友。いつまでも、ずっと。私の為に、こんなに泣いてくれるお友達、いなかった。ごめんね、いっぱい泣かせてしまって。かんなちゃんの笑顔が好きよ。栞菜ちゃんのまっすぐな想いが好きよ。栞菜ちゃんの太陽みたいな元気が好きよ。あなたは、これからもそういう人であってほしい。私が大好きな栞菜ちゃんのままで生きていってほしい。あなたとあなたの未来と、あなたの世界を、私が守るから。約束。もう、泣かないで。その涙は、私の為じゃなく、式瀬くんの為にとっておいてあげて」
「あ、あたし…。…っ。あたしも、ふたばにであえて、良かったんだよ…。もっともっとふたばとお話したいことたくさんあるんだよ・・・?でも、もう、出来ないんだね…」
「うん」
「あたしは、ふたばの、あったかさが、だいすきだったよ」
「…そ、そっかぁ…。照れるなぁ…」
「傍に居て、守ってくれるの・・・?」
「…うん」
「むちゃだけは、しないでね…」
「・・・・・っ。ぁぁ・・・ぅぁ、…ぅ。…うん」
「…ばいばい、ふたば…」
「じゃあね、栞菜ちゃん…」
栞菜はがくっと意識を失ったように落ちた。
安心したのか、単に睡魔が押し寄せたのか、これを夢の出来事と思っているのか、
その答えは分からない。けど、栞菜はすぅ、すぅと寝息を立てている。
枝紡は栞菜を抱え上げ、ベッドに運ぶ。
最後に、栞菜の髪を撫で、額に自分の額を当てた。
「今まで、ありがとう」
*****
そして、夜が、明ける。
俺と枝紡とリロウスの次なる戦いが始まることを告げる朝日。
全てが終わるその時まで、俺たちは一緒だ。
そして全てが終わったとき、何が始まるのだろう。
俺はその時、何が出来るのだろう。
もっともっと強く、ならなければ。
『あ、式瀬くん、私、この体でお風呂入ってもいいかな?』
「お前、今、結構物思いにふけってたんだぞっ!!」
『似合わないってー、そんなのっ!』
そんなこんなで、目隠ししてお風呂に無事入ることができたとさ。
枝紡に体の優先権を大半持って行かれたけれど。
まあ、迂闊なことは出来ないってことで。
俺は眠気も去ることながら、1週間ぶりに学校へと向かう。
*****
「鳴海さーーん。おーーーい、鳴海さんっ?」
「あっ、は、はいですっ!なんですか?」
「いやあ、ぼけーっとしてたからさ。ほら、風紀委員の挨拶当番行くよ」
「はいです」
あの日、あの海岸で見たのは、確か、枝紡先輩と式瀬先輩だったような…。
それに、あの金髪の人は…。
あの、赤毛の人は…?
一体、何が起きてるです・・・?せんぱい・・・。
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