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『te:tra』  作者: 坂江快斗
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第11話〈炎禍ノ章〉「彼女は世界の太陽に」

握りつぶされた枝紡の心臓。


イルヴァナはまるでゴミを持て余したように砂浜へと叩きつけるように捨てた。当然ながら砂まみれになった心臓は鼓動を打たない。

その無残な姿は枝紡ふたばの死を突きつけてくる。

が、枝紡は俺の中で生きていた。激痛からの憔悴しきった声、荒い息遣い。

枝紡の魂、というか精神は俺の体に留まっている。


『…私の…心臓…、私のからだが…』


枝紡は落胆の声を漏らす。とにもかくにもまだ枝紡は生きている。

それだけが幸いだった。不幸中の幸いとは言い難いけれど。

イルヴァナが何か呟いたように見えた。が、俺は止まらない。

右の拳を怒りに任せてイルヴァナへ。


大きなモーションはさぞ避けやすかったのだろう。

飛び散ったのは砂浜だった。

俺は傍らに放り投げられていた枝紡の体と本来そこにあるべきではない心臓を手に取り、抱えたまま空に飛び立つ。

早くこの体を安全な場所へ。まずそれを考えるべきだったのだ。

しかし、今のこの世界に安全な場所など存在するのだろうか。

途方もない不安とイルヴァナの圧力が俺の背中を嫌な意味で押してくる。


「あ、あそこは…」


俺が眼につけたのは海岸から近い位置にあった診療所。

俺は枝紡の肉体を抱えたまま診療室の窓ガラスに突っ込む。

さながらリロウスとの初対面の時のように。

突然砕け散ったガラス、炎を纏い、殺気に満ちた女、それが抱えるそれ自身にそっくりな女の肉体、医師の顔は青褪めていた。一体何が、といった表情だ。


「とにかく、頼む」


俺はそれだけ伝えると、診療所を後にする。

あの医者に破裂した心臓を元に戻せるのかなんて定かじゃないけれど、今はそれに頼るしかなかった。あとは、リロウスの力で何とかなるかもしれないと思っていたから。

俺が次にやるべきこと。再び枝紡をあの体に戻す為にはこの戦いに勝利するのが絶対条件だ。俺が倒すべき、忌むべき敵は上空遥か彼方に居た。


「無駄な事だな、人間。あの体は助からん」


上空の空気同様に冷めた声で言うイルヴァナ。


「そんなこと、わかんねえだろ。可能性が1%でもある限り俺はそれに賭ける」

「1%、ねぇ。高く見積もりすぎだろうっ!!」


ふとした瞬間に目の前にはイルヴァナの左拳。速いッ。明らかに反応が遅れたと思った。が、俺はそれを無意識に避けている。これは・・・


『私の、私の体…!!』


枝紡の怒りがまた俺の体を乗っ取ろうとしている。


『陸斗!君たち自身の意識をもっと同調させるんだ。傀儡と器の違いは、そこにある!君たちの力に限界値はない!』


そう叫ぶのはリロウス。意識の同調!?そんなもんどうやって・・・?


強くなっていく枝紡の意識。

イルヴァナと炎禍は互いに拳をねじ込んでは上下左右にぶっ飛びあい、怒りのままに命を削り合う。


「ハア、まさか人間ごときにここまでぼこられてるなんてな。あっちでウィズに笑われちまう」


欠けた左頬に笑みを浮かべる。


「でも、もう終わりにしてやる。何もかも全部、おしまいだ」


イルヴァナはそう言うと、組み合っていた互いの両手を素早く離し、俺の頭部へと回転蹴りを見舞う。

頭部を衝撃が襲う。俺は急転直下していく。


「このままだと…っ!」


一瞬、漆黒の世界が光ったかと思うと、俺を雷のような大出力の光線が貫いた。


「さっきの火柱のお返しさ」


そう聞こえた。俺の意識が遠ざかろうとしていく。

力が抜けていきそうになる。

人は死ぬとき、こういう感覚なのか?

自分の体から抜け出るような、でもそれは着ぐるみから抜け出るような感覚とは違う。無力感、脱力感が襲ってくるのだ。

このままだと死ぬ。そう思った時、抜け行く俺の魂の手を取ったのは枝紡だった。


『だめっ!!まだ何も終わってない!!』

『し、枝紡…』

『私は、まだ何が起きていてこれからどうなるのか分からないけど自分の体があんなことになってとても痛くて、そして許せない。あいつは世界中を巻き込もうとしてるんでしょ?なら止めなきゃ!!私と、式瀬くんで!!それに・・・』


彼女は、一瞬躊躇ってから、


『…ふたばでいいって言ってんじゃん』


いつもと変わらない笑顔。俺が守ると決めた笑顔をくれた。

俺は枝紡に抱き寄せられた。


『勝とう。皆を、守ろう』

『…ああ!!!』


天と地を結んだ大光線の柱を俺は大炎で吹き飛ばす。最大火力にはまだまだだ。

もっといける。力が沸いてくる。


「まだか。まだ、死に足りないか」

「まだ、死んでねえよっ!!!」


俺はイルヴァナの人間で言う所の心臓部分を打ち砕く。簡単に貫けたように思えた。

彼女には心臓がなかったがお返しのつもりだったと、枝紡。


「てめぇっ!」


俺はそのままの体勢を維持し、ここで最大火力を解き放つ。

天へと上昇しながら。


月夜の太陽。明日のニュースは目も当てられないな。


「あああああああああっ!!!!!てめえっ!!!何する気だっ!!」

「お前を燃やし尽くすっ!!」


さらに上昇。大気圏へと突入。

イルヴァナの体が砕けはじめる。燃え盛り、なぜか鉄の成分のようなものが滴り始めた。俺はさらに火力を上げていく。上昇のスピードを加速させていく。

そして、2人は叫ぶ。


「「いっけえええええええええええええええ!!!!!!!!」」


「こんな、ところで…死ぬかよっ!!!」


イルヴァナが最期の足掻きを見せる。


「レイティアあああああああああっ!!!!」

その体が発光し、俺の炎を弱めていく。

「これまでだ、人間っっっ!!!!!!」

あと少しだったのに。最後の最後で…


バキィッ


という音が聞こえた。


イルヴァナからだった。もうすでに俺たちは宇宙空間に飛び出している。こんなところでも俺の体は炎を纏っていた。

イルヴァナの体には次々に亀裂が入り、絶望と何が起きたか分かっていないと言った表情を浮かべている。

大きく見開いた眼には、一粒の、大粒の涙を溜めていた。


「れ、レイティア・・・。どうして・・・」


刹那。


イルヴァナは木端微塵に砕け散り、〈核〉のようなものが露わになってそれも蒸発するように消え去った。


あっけない、幕切れだったと思う。

俺たちにも何が起きたのかが理解できなかった。

彼女が残した言葉にヒントがあるのかもしれないが、

今の俺たちには考える余裕なんてなく、ただただ自由に落下していくだけだった。


粉々になったイルヴァナの破片は、宇宙空間を漂う。


遠くなっていくそれは、キラキラと輝いて見えた。

泣いているようにも、見えたけれど。



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