第10話〈炎禍ノ章〉「俺の体、彼女の精神(こころ)」
見覚えのある景色。
ここは、ついこの間訪れた枝紡ふたばの家…?
どうして俺はこんなところにいるのだろう。
俺は海岸でイルヴァナという魔導師と戦っていたんじゃないのか?
枝紡が暴走し、それを食い止めようと彼女の名前を呼んで、それから…。
俺は必死にそのあとの記憶を辿るが記憶が断絶したように消えており、気がついたら枝紡邸に居た。
しかも、屋敷の中である。
忙しなく行きかう侍女や、執事たち。これほどまでのお金持ちともなると何人雇っても支障はないだろうなと思う。しかし、これだけの人数が居ても忙しないというのはいささか不便を感じずにはいられないが。
不思議なことに、誰も俺の事に気が付かない。明らかに不審者であるはずの俺に気が付かないくらい忙しいのか?と思ったが違ったようで、行き交う人々は俺をすり抜けていく。つまり、今俺はこの場所にいるようでいない。いわば幽霊のような存在らしい。ということは、俺はあの戦いに負けたのか…。
今頃、世界はどうなっている…?枝紡は、栞菜は、母さんは…、学校の皆は…。
口呼吸が荒くなり、じわりと冷や汗が額から滲み出る。
とにかくここを出なければ。そう思い、俺は3階のエントランス部分から1階へと降りる為に階段を駆け下りる。
すると、どこか見覚えのある髪の色をした小さな女の子が俺をすり抜け、上へと上がっていく。
「今のは…」
「ふたばお嬢様ー!お待ちくださいましー!」
俺が女の子に振り返ると同時に聞こえてきた野太い声。
階段を上がってきたのは老人ながらも腕っ節の強そうな強面の執事だった。
執事は踊り場で息を整えてから3階へと続く残りの階段を一気に登って行った。
俺も少女の事が気になり、後を追う。
少女は、屋上まで登り、なぜかヘリの操縦席に居た。
「はあ、はあ…。…ふたばお嬢様、何をしてらっしゃるのですか…。危ないですので降りてください…。はあ、はあ…」
執事はいくら屈強だからと言っても年齢には勝てないと言った様子で肩で呼吸をする。
少女は、コックピット内のあらゆるボタンを押しまくっている。
「いやっ!ふたば、これからあめりかいくの」
なぜそのチョイスなんだ…。
俺の心の中のツッコミが聞こえたのか少女は、「じゆうのくにだからねっ」と付け加える。
ほどなくして、奇跡的にヘリのプロペラが回り出す。
いや、奇跡的にとか言っている場合ではない。止めなければっ!!
「お嬢様!!!」
狼狽える執事。と、そこへ、
「何をしているんだ!ふたば!!降りなさい!!」
俺や、この執事よりも長身でスーツを着こなし、超大企業の会長とは思えない若い青年が大きく叫ぶ。俺も新聞で見たことがある。その人は枝紡ふたばの父親だった。
どんな操作をしているのか不明だがプロペラは勢いを増していく。
「ふたばちゃあん・・・。お願いだからやめてえええ・・・」
父親の隣でへたり込む母親らしき人物。その容姿は、高校2年生の枝紡ふたばと瓜二つである。
次々に屋上へと人が集まってくる。依然としてプロペラは回転数を上げ続け、今にも飛び立ちそうである。内側から鍵をかけているようで、執事や父親が無理やり開けようと試みるが要人を乗せる為のヘリだ。そう簡単に開くわけがなかった。
俺は考える。今、俺がここに居る理由を。
なぜ、枝紡の〈過去〉を見ているのかを。
その時。ついにヘリが地上から離れたのである。
高度を上げていくヘリ。見よう見まねで操作しているはずなのに、何という操縦センスなのだろうか。いや、これは本当にまずい!
俺は地面を強く蹴り、地上6メートルほどの高さまで上昇したヘリに飛び乗る。やはり体はすり抜けてヘリ内部に飛び込んだ。すると、俺の体に変化が起きる。
ヘリの中に留まることが出来ているのだ。つまり実体があるということ。俺はすぐさま、少女が操縦しているコックピットへ。
「おい、あぶねぇって!」
俺は操縦桿を少女の手ごと掴む。俺はちろん操縦なんてしたことないが…。
途端に機体は不安定になり、視界が上へ下へと大きく揺れる。正直、吐きそうだ…。
「ちょっと、だれ!!なにするのよ!!」
少女は8歳くらいの見た目で、くっきりと枝紡ふたばの面影がある。
いきなり現れた俺に対してそこまでの驚きは見せなかったが操縦桿は離してくれない。
「わたしは、あめりかにいくのーーー!!!」
「いや、こんなヘリじゃ遠すぎていけないし、それに操縦できないだろ!!」
「できるもん!えいがでみたもん!」
サル知恵じゃねえか!
「どうして、アメリカに行きたいんだよ!」
とにかく上昇を続けるヘリ。いきなり急降下したと思ったら、いきなり高度を上げる、という動きを何度も繰り返している。浮遊するジェットコースターだ。俺は込み上げてくるものを飲みこんで少女の話を聞く。
「だって…。ここにはじゆうがないから…」
「じゆう・・・?お前は自由に生きてるだろ?」
「ふたばがほしいのは、じぶんでかんがえてもいいじゆう。じぶんのしたいことをきめていいじゆう」
少女は少女らしからぬ答えを言った。俺は絶句する。
8歳の子供にこんなことを言わせてしまう、枝紡家が恐ろしく感じた。
「おとうさんもおかあさんも、このおうちにいるみんなも、ふたばにばっかりかまうの。ふたばにあたまをさげるの。…いやだよ、そんなの。ふたば、なにもえらくないのに」
少女は俯き、やがて泣き始めた。
自分は愛されているのとは違う。自分を子供として見てくれる人がいない。自分を枝紡家のお嬢様としか見てもらえない。
彼女は一種の強迫観念を感じているのだろうか。だから、遠く離れた地へと想いを馳せてしまったのだろうか。
俺の胸まで締め付けられる。
「ふたばね、みんなのことだいすきだけど、だいきらい」
子供は素直だと思った。自分の今の気持ちをストレートに言葉で表せられる。
操縦桿を握ったままの少女は涙と鼻水を拭うこともできず、ぐしゃぐしゃになりながら最早豆粒のように見える父親たちを眺めた。
俺は、枝紡が抱えている闇を見ているのだろう。
過去ではない。これは枝紡の根っこの部分。俺は今、枝紡ふたばに向き合っているんだ。リロウスが言った精神の癒着なのかどうかそれは定かじゃないけど、俺たちがあのイルヴァナを倒すためには心を一つにしなければいけないんだ。
俺は、右手で操縦桿を握り、左手の甲で少女の涙も鼻水も拭ってあげた。
「ぐす…っ。ぇ…?」
「…それならさ、行っちまうか、アメリカ!」
「え…、いく…の…?」
「お前が行くって言ったんだろ…。行けると思えばどこへだって行けるのさ」
「い、いけるわけないもん!」
「行って見れば分かる!ほら、貸せ!」
俺は、無理やりに操縦桿を奪い、きつい体制ながらも操縦を試みる。
なぜか機体は安定している。
「…ほんとうに、いけるのかなぁ…。ふたば、じゆうになれるのかなぁ…」
「自由って、案外、退屈だぞ?」
「そうなの?」
「ああ。自由人の俺が言うんだ。保証する。何事も、お前が思っているようなものが全てじゃないと思うし」
「…つれてって」
少女が光を纏う。眩しさで目を瞑ってしまう。
「ど、どうなってんだ、これ!?」
あまりにも急展開に、俺は慌てふためく。操縦桿からも手を離してしまっている。
しかし、操縦席には少女の姿は無く代わりに居たのは・・・
「ねえ、連れてって!式瀬くんっ!!」
自由を、教えて。と。
俺は再び、彼女の手の上に自分の手を重ねた。
「よし、行くか…っ」
「うんっ!!!」
*******
!!!!!!!!!!
いきなりの攻撃。
咄嗟の事に反応が遅れたが、敵の攻撃は頬を掠めた程度だった。
体勢を整えて、右足を軸に左上段蹴りを放つ。が敵は瞬時に姿を消し、背後に回られていた。背中に重い、重たい一撃。人体の構造に反する方向に背骨が曲がっていくのを感じる。自らが吹き飛んだ先に回り込まれたかと思うと、すかさずお返しとばかりに左足での踵落としを頭部に、もろに食らった。砂に埋もれると、髪を鷲掴みにされ持ち上げられた。ようやく敵を視認する。それはイルヴァナではなかった。
「さっきは、死ぬかと思ったよ。人間」
一瞬、新たな敵かと思ったが彼女の一言で今、自分の目の前にいるのがイルヴァナであると再認識する。
髪は金髪ではなくなりウェーブのかかった黒髪に。金色の羽を携え、顔面に関してはまるで別人である。
どうして彼女の姿が変わっているんだ・・・?
『れ、レイティア…』
俺の思考を読み取ったのか、リロウスが名前を呟く。
「ああ、そうさ。この傀儡はレイティアの破片から作られた。その父、サンドロの手によって!!お前なら分かるよな、リロウスっ!!!」
俺はまたしても砂浜に叩きつけられる。
さっきまでは暴走した枝紡の魔導師の力がイルヴァナを圧倒していたがどうやらその力はうまく機能していないらしい。というか俺が使いこなせていないようだった。
それに加えて、明らかにイルヴァナの力が格段にアップしている。以前、リロウスがボロボロになるまで追い込んだ傷があっての戦いだったが、今は全快状態らしい。パワーもスピードも段違いである。
「かはっっ・・・!」
「もう終わりか、人間っ!!!」
眼にも止まらぬ速さで拳が放たれる。ダメだ、そう思った瞬間。
俺は、ほとんど無意識にイルヴァナの拳を受け止めていた。
『式瀬くん、しっかり!!』
枝紡の声。頭に響く、その声に俺はこんな状況だというのに安堵した。
いつもの枝紡が、ここにいる。
「てめえ…。〈器〉だかなんだか知らねえが、ぶち殺す!!!」
掴んだ拳ごと上に引き上げられると、一気に上空へ投げ出される。
やはり、最高到達点にはイルヴァナが待ち構えており俺の顔面を鷲掴みにするとそのまま一気に海中へと叩き込んだ。
その勢いは水の抵抗をも覆し、俺は海中のサンゴ礁に激突する。体中に尖った岩肌が刺さる。
「く、やばい…。リロウス、どうすれば、いい・・・?」
『とにかく、水から出るんだ!君は今〈炎禍〉という力を手にしている。それは炎だ。水の中では力が出せん!』
「わ、わかった・・・」
『式瀬くん…、負けないで…』
「それも、わかった…!」
俺が海上へ向けて上昇したとき、目の前には見たくもない光景。というかイルヴァナ。その手には、あの大剣が握られている。体が変わってもそれはやはりどう見ても華奢に見える体には不釣り合いだ。
イルヴァナはその巨大すぎる大剣の剣先を俺に向けたかと思うと、もう次の瞬間には大剣が俺の体を貫いており、肋骨の中心から、大腸がある部分までを大剣が塞いだ。
『『ああああああああああああああああああああっ!!!!!!!』』
枝紡、そしてリロウスの声。痛覚は共有される。
「永遠に、沈め。この世の終わりを、海の底から眺めてろ」
大剣の重みにより、ひたすら沈みゆく体。
強すぎる…。体が変わっただけで、こんなにも違う物なのかよ…。
仄暗い海底からイルヴァナを見上げる。
月光とともに揺らめく姿は、美しささえ伴う。
このまま目を閉じれば、楽になれるのか・・・?
未だに痛みに呻くリロウスと枝紡。俺が傷つくことは彼女たちを傷つけるのと同じこと。
俺が背負うと決めたものはそういうものなのだ。
逃げたい、でも逃げたら全てが終わる。
逃げたい、逃げたい、逃げたい。
でも、俺は逃げられない。大剣が刺さっているからではない。
俺の脳裏に浮かぶ様々な風景と人々。
家族で旅行をした場所、テレビでしか見たことがない場所。
そのどれにも人々の営みがある。
浮かんでは消えていく記憶。
浮かんでは消えていく勇気と希望。
俺が守るべきもの、守りたいもの。
今、俺がこの大剣を抜かなければ、何もかもが失われる。
俺は、守りたい。その為の力だろうがっ!!!!
必死に右手を大剣の柄に伸ばす。掴んでから、引き抜く。なかなか抜けないし、痛みが2人にも伝わって頭の中では缶切り声が鳴り響く。我慢してくれと願うばかり。
「うあああああああああああっ!!!!!!」
力を込める。水の中で、息を吐き出しまくっているが呼吸は事欠かないようだ。
やがて深く深く突き刺さっていた大剣は俺を鞘代わりにすることを諦めた。
大剣は見た目通りに、いや、その巨大な見た目以上に重く、海上に引き上げるのは困難だった。武器があった方が戦えるかと思ったのだが、その重さはイルヴァナの強さを露呈する。
俺に開いた大穴はリロウスが塞いでくれた。そして、枝紡が俺に力を供給している様子。リロウスが事細かに説明しているのが聞こえる。
俺は海底の地面で足元に力を貯めると、一気に爆散。
視界が無くなるほどの砂埃をたてて、海上へと飛び出す。
「意外と、速かったな」
三度、イルヴァナと対峙。
力が漲ってくる。どこからともなく溢れて炎の衣となり自身を包んだ。
俺はイルヴァナにも引かず劣らずの超速で彼女の懐に飛び込むと、鳩尾に捻りを加えた打撃を一発。瞬時に発火させ、威力を増大させる。しかし、イルヴァナは怯まずめり込む俺の腕を掴むと握力だけで骨を粉々にしてみせた。
母さんのあれとは、比較にもならない。というか比較のしようがない。
一瞬の激痛。リロウスが言った。『痛覚は私が引き受けるっ!君は気にせず戦え!』
そして枝紡が言った。『私が炎で回復させるから!』
俺たち3人は言葉通り一体となって戦っている。リロウスの言うとおり痛みは一瞬で引き、骨も一瞬で元通りとなる。
イルヴァナの両手を振り払うと、俺は体を右に反転させ、遠心力をいかしての裏拳を見舞ってみせた。これには驚いたようでイルヴァナの喉から空気だ漏れたような声が聞こえた。が、すぐさま彼女も体を翻し俺の顎に向けてキックを放った。
強制的に見上げさせられた夜空。その光景も刹那。上空、遥か彼方からイルヴァナが猛滑降!
角度も、速度も、申し分ない。
それはまさしく、〈隕石〉だった。
海面へと叩きつけられる俺の体。水しぶきが躍動すると、俺に向けて被さってくる。
俺は海面を殴りつけ、無理やりに水から離れる。ここは海上。俺としては不利な状況である。が、都合もいい。殆ど人には見られない。
その一息。またしても俺の腹部を今度はイルヴァナの拳が貫く。吐血。しかし痛みはない。リロウスの叫びも無い。このままではリロウスが先にやられてしまう。
そう思った時の事だった。
なぜかイルヴァナが苦しみだしている。
「うう、あああああああああっ!!!!やめろやめろやめろおおおおおおっ!!!!!どうして!?なぜ邪魔をするっ!!!レイティアああああっ!!!!」
イルヴァナは両手で頭を抱え、空中でもがく。彼女に一体何が起きているのか俺に知る由もない。
『今だ!彼女が苦しむ今のうちに、やるんだ!!』
リロウスのかすれた声。俺は拳を握る。
やるしかないのだ。
俺は拳に炎を纏い、両足にも炎を纏って、空気中の水素に引火させるイメージで踏み込む!
先ほどのイルヴァナの〈隕石〉を真似て音速に近い瞬発力でイルヴァナの顔面を打撃する。何かが砕けたような音がした。
破片。闇に舞う、光の破片。イルヴァナの体の破片。
「うああああああっ!!!!きさまああああああああああああああ!!!!!!!!!この、このレイティアのからだにいいいい、きずをおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!殺すっ!!殺す!!!!!!!!!!!」
彼女の体が発光すると、金色のオーラのようなものを放ち、こちらへと向かってくる。
その眼は、怒り狂い、俺しか見ていない。
彼女の拳をまともに受ければ木端微塵になるだろうと予想できた。
俺は心の底から沸きあがる噴水をイメージ。力が沸きあがるイメージをする。猶予はない。体が熱くなるのを感じると、全身が炎に包まれていることを確認した。
これならいけると、確信する。
「人間ごときがあああああああああっ!!!!」
「人間、なめんなああああああああっ!!!!」
互いの拳が交錯し、俺の右手はイルヴァナの左頬に、イルヴァナの左手が俺の右頬に炸裂する。
めりめりとめり込んでいく互いの拳。1,2,3、で弾け飛んだ。
俺は海面に。イルヴァナは海岸に。砂浜が爆散し、海面が大波を打つ。
俺は、海面に浮上し漂う。力が入らない。
イルヴァナの気配が消えない。まだ生きているだろう。
いつまで続くんだ、この戦いは…。
このレベルの敵があと5体+〈主〉とか言う奴かよ…。
目を覆い、耳を塞ぎたくなる現実に嫌気が差す。これがたった三日前まで日常を謳歌していた男の思考なのかと疑いたくなる。
俺は海面へと立ち上がる。
海岸まではほど遠い。今も砂埃が延々と舞っていてイルヴァナの姿が確認できない。
俺は海面を歩く。こんなこともできるのかと驚く。人類の夢をいとも簡単にやってのけた自分。
一歩一歩近づいていく。イルヴァナも相当なダメージを負ったはず。だから背後からくるとは思っていない。恐らく先ほどのクロスカウンターは互いの全力だったに違いないのだ。俺は痛覚を抑え、枝紡が回復役を担ってくれているから多少の防御力があった。対してイルヴァナはどうだろうか。
レイティアという名を叫んだかと思えば狂乱し、無理やりと思える力の解放。そして激突。
もしかしたら、もうイルヴァナは…。
そう淡い考えを持ったとき、俺の足が止まった。
砂埃の中にイルヴァナの影。
・・・・・だけではなかった。
「なあ、リロウス。お前は大事なことを教えていないんじゃないのか」
その声は重く辺り一帯に響く。
「アタシら魔導師はさっきみたいに体が破壊する寸前に傀儡を使うときもあれば戦闘時に傀儡に入り、仮の体で戦うこともある。その場合って、精神が抜けた体はそれこそ傀儡のようにその辺に寝っころがるんだよ。普通の戦場なら、殺し合いを知っているやつならそのくらい知ってるだろうが、ここはそんな戦場じゃないからなぁ。こういうことも起きるってわけだ」
砂埃が晴れると、イルヴァナは姿を現す。左頬には穴が開いていた。
そして右腕には、枝紡の体が抱えられている。
「体が著しく損傷し、癒着不可能となった場合、精神はどこにいくんだろうなぁ。アタシらは傀儡がある。だが、お前たちは・・・?」
にやりと笑い、穴が開いたままの左頬を上げる。
「やめろ・・・」
『イルヴァナっ!!!!』
『私の体・・・?』
イルヴァナは、ぐったりとする枝紡の頭部を左手で持ち上げ、右腕を後ろに引いた。
「ついでに、痛みは、どこに行くんだろうねぇ」
俺は海面を跳ね、そしてイルヴァナの元へと飛び込んでいく。
「おせーよ、人間。知ってるか?失って初めて、気付くことがあるってことを」
イルヴァナは、引いていた右腕を迅速に押し出して枝紡の体へと突き出した。
そして、握られていたのは小さな心臓。
イルヴァナはまた、恍惚に笑ってみせた。
「やめろおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
バンっ
と小さな破裂音。
俺の頭の中では絶叫が支配する。
「さあ、命を懸けて殺し合いをしようか、人間」
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