〈episode5〉 傀儡師が生まれた日 中編
朽体病
その症状はまず体に亀裂が生じ、個体差はあるが3日以内には肢体が崩れ始め、最後には完全に崩壊して、死に至る奇病。
ヌエリの死後、あの医者の元にはそういった症状を訴えるものが多発しいつしか、病気として魔導師の間ではそう呼ばれるようになっていった。
ある者は寝ている間に粉々になり、
ある者は狩猟中に粉々になり、
ある者は魔力を使って粉々になった。
しかも、それは医師の力でも己の魔力でも治すことのできないまさに「奇病」だった。
魔導師たちは混沌と不安に飲まれ、事態は悪化の一途を辿る一方。
ついには争いを起こす者も出てきた。
その事態を重く見た王の城に仕える上級魔導師たちは、ようやく重い腰を上げ集会を開きこの奇病についての調査を行うことにした。
調査班は5人。
トレバート、クエイ、サンドロ、マーデイズ、そして紅一点のルシア。
彼らはまず魔導師の体の構造について調べた。肉体は別にガラスや陶磁品のような性質でできているわけではない。ましてや内臓、細胞、血液、体を構成するあらゆる物質がかつて「人間」と呼ばれた劣等種族と同じものだった。
では、なぜ突然として肉体の崩壊すなわち「朽体病」なるものが発病しているのか。
観察対象が必要だった。
書物には書かれていないし、おそらく人類であった時代の知識では考えられない魔導師の「病」なのだから。
それは病まないとされていた魔導師にとって脅威であり、驚異であり、恐怖だった。
前触れはない。ある日突然体に亀裂が入り、1週間以内には無機物と化した肉片が小さな丘を作る。
絶対的な死の病。必ず死んでしまうから5人は必死になって原因を探した。
観察対象はあの医者だった。
医者は自ら名乗り出て、こうも言った。
「自分では救えないことが分かった。治すことも処置することも出来ず目の前で崩壊を見た。だから私を骨の髄まで研究し、原因を解明してほしい。そうすれば私は死んでいってしまった同士に報うことが出来ると思った」と。
医者の体には、右肩から亀裂が始まっていた。
5人は医者の体を徹底的に観察し、ありったけの薬を投薬した。
持ち得る全てを使い、奇病の調査を行ったが、亀裂は日を追うごとに広がり続け医者の体はあっという間に粉々になる。進行を遅らせることさえ出来なかった。
完全に手詰まりだった。自分たちにもいつ病が現れるか分からない。そしていつ蔓延し、魔導師が全滅してしまうか分からない。焦りと恐怖がルシアの体に現れた。
強い魔力を要する「主」直属の魔導師から初めての発症者だった。この病に魔力の強い弱いは関係ない。魔導師のある種最終的な結末のように思えた。
魔導師になろうとも永遠なんてなかった。
もう為す術がない。所詮人間に魔力を注入し《《適応してしまった》》だけの存在。肉体は正直だったのだ。街はいつしか静かになっていった。争いが無くなったり訳ではない。争う者がいなくなったのだ。死という形で。悲観する者も居なくなった。自らの運命を受け入れることにしたのだ。抗いようのない運命を。神を呪うように祈るしか出来なくなっていた。
そして、両手両足が崩れ落ちたルシアを見て他の4人は諦めを口にした。
『すまない、ルシア』
ルシアはその言葉を受け取り、最後にこんな事を呟いた。
『こんな体なら、捨ててしまいたい』
ルシアは死んだ。
最後の言葉と、最後の希望を残して。




