とある彼方より
水音。ひとつ。水面に広がる波紋は、中心点から大きく輪を広げていく。
その輪は、限りなく広がり続けて、そしてまた水面となる。
水音。ひとつ。繰り返し広がる波紋。
もう、何度目の水音だろうか。
この薄暗い洞窟の中で、何度この音を聞いただろうか。
どこから聞こえてくる水音なのだろうか。
自問に対する自答は、まるで意味を持たなかった。時が経ち過ぎたのだ。
そもそも自身は、生きているのか。
死んでいるのか。
巡る思考はどこからともなく聞こえる水音によって停止した。
閉ざされた空間。閉ざされた体と心。そして力。
全てを失う為にここにいる。そうだ、自ら望んだこと。
彼女たちを救うために自らに課した罰だったということ。
彼女たちは元気だろうか。
彼女たちは俺の事を覚えているだろうか。
彼女たちは自身の宿命を受け入れたのだろうか。
彼女たちは・・・・・・。
やはり自問に対する自答は、虚しく思考を乱すだけだった。
あの場所で過ごした日々も、時間も、思い出も、何もかもがもう手に入らない。
失ったものは、もう戻らない。
水音。ひとつ。鳴り止まない水音は、幾千の時を刻む。
世界を守った代償は、世界を失うことだった。
とある彼方より。