「君の名前を教えて」
「ほら、いくよ」
煙草を吸い終えた母親がぼくの手を引いて前を行く。
――なんだろう、ここ。何しに来たんだっけ?――
――あ、そうだ。ぼくの服を買いに来たんだった―――
「お母さん、自分の買い物をしてくるからここで待っててね」
「うん。わかった」
――うわぁ、すごい!――
広場の真ん中に立っている小さなお城。それにぼくは心を奪われた。
――中はどうなっているんだろう――
お城の中はなかなか狭かった。もう一人はいったらなかなか動きにくい。そんな広さだ。
そんな狭いお城ながら、内装はよくできていた。
玉座はもちろんのこと、左右を見てみるとスタジアムの観客席のようになっていて、人が座れるようになっていた。なぜか座布団だったけれど。
僕は座布団に座りたくなり、近くの座布団に正座した。
楽しくなって周りをきょろきょろしていると、突然横にいたタコ生物に話しかけられた。
「これから王様が来るからおとなしくしていなさい」
僕は黙ってうなずいた。
いつの間にか座布団はすべて埋まっていた。下を見ると玉座へ続く道の両脇には槍を持ったタコがいた。
華やかな音楽とともに王が入り口から入ってきた。後ろにみすぼらしい人を連れて。
王が玉座に着くと、王は連れてきた人に向かって刑を言い渡した。
――なんで、あの人は罰を受けなくちゃいけないんだ!!――
ぼくは王様に向かって抗議をした。
隣の人はびっくりしていた。
「王様に向かってなんて口のきっき方をするんだ!」
隣の人に腕を引っ張られて、王様の前に立たされた。
「お前はここから一生出られない。そして無礼を働いたことを一生悔め!!」
――ここから出られないの?――
ぼくは悲しくなった。もうお母さんにもお父さんにも、お兄ちゃんにだって会えない。
――こんなことなら黙って聞いていればよかった――
泣きそうになったとき、城の入り口から誰かが入ってきた。ぼくは振り返った。
――お母さんだ!!――
「何やってるのこんなところで。帰るよ」
帰れる!!
そう思ったけど、王様が返してくれるかはわからなかった。
王様のほうに向き替えると少し困った顔をして
「親に呼ばれたのなら、ここにいてはいけない。帰りな」
そういって、僕を解放してくれた。
母親と手をつないで城を出ると、後ろで大きな音がした。
びっくりして振り返ると、お城が水に飲まれて沈んでいくところだった。
沈んでいくお城を見ていたら王様の声が聞こえた。
「君は勇気あるものだ。ぜひ君の名前を聞かせてほしい」
ぼくがお母さんを見上げると、お母さんも僕を見ていた。
お城が沈んでいく名前に負けないよう大きな声を出した。
「ぼくのなまえは_________
「 」
――あれ、声がうまく出ない。それに真っ暗―――
「何寝ぼけてるのあんた?」
――え?寝ぼけてる?――
ゆっくり目を開けるといつもの天井だった。
そうか。
突然大きくなったお城も、タコみたいな生き物も、全部――――
「朝ごはんにするよ」
「うん、わかった。今行くよ」