夢くばりのリンデン・イェンスン
おや、まだ起きていたの?
はやく寝ないとグールー・モウルーに見つかってしまうよ。
それともいやな夢を見て目がさめたところ?
それならきみに、この鈴をあげよう。リンデン・イェンスンの鈴だよ。枕元に置いて眠るといい。
……あれ、ふしぎそうな顔をしているね。もしかしてリンデン・イェンスンを知らなかったかな。
そうか、グールー・モウルーのことを聞くのもはじめてだね。
よし、わかった。今からきみに、夢くばりのリンデン・イェンスンのはなしをしてあげよう。
さあさあ、ベッドにはいって、目をつむって。このおはなしは夢の手前で聞くのがいちばんいい。
それじゃあ、おはなしをはじめるよ。
リンデン・イェンスンは夢くばりのおじいさんだ。やさしい目をして、片手に鈴を持っている。
毎晩家々をたずね歩いては、眠っている人たちにしあわせな夢を見せてくれる。
リンデン・イェンスンが来てくれた家では、みんなあたたかなベッドの中で、朝までぐっすり眠ることができるんだ。
けれどもすこしだけ困ったことに、リンデン・イェンスンは歩くのがあまりはやくないんだ。さっきも言ったように、おじいさんだからね。
それで、リンデン・イェンスンに先回りして、みんなに悪夢を見せてやろうと悪だくみするやつがいる。そう、グールー・モウルーだよ。
グールー・モウルーは毛むくじゃらの怪物で、夜闇にまぎれて外をはいずっている。そうして家を見つけると、どんなにせまいすきまからも、影みたいにするりと入っていくんだ。
グールー・モウルーは音もなく、人のすがたを探しまわる。もしもだれかが起きていたらしめたもの。後ろからそっとしのびより、胸のなかまでもぐりこむ。
胸に巣食ったグールー・モウルーは、たのしさ、うれしさ、そういった明るい気分を食べてしまう。のこるのはじめじめした心配事ばかり。
夜になると、やつはさらにふくらんで、その毛で心をちくちく刺すんだ。
その家のみんなが眠っていたときには、グールー・モウルーは悪夢を見せる。うなされて、はっととびおきたところに取りつくという寸法さ。
やつより先にリンデン・イェンスンが来ていてくれればなにも心配はいらないけれどね。幸せな夢を悪夢にするのは、どうやらすごくむずかしいみたいだ。
それに、リンデン・イェンスンだってそんな分の悪い駆けくらべをつづけているばかりじゃない。
かれにはちゃんと、たよりになる仲間がいるんだよ。
人間をねらうグールー・モウルーを見つけたとき、リンデン・イェンスンは鈴を鳴らす。
リンデン、リンデン。
澄んだ音が星をきらきら震わせる。
リンデン、リンデン。
鈴を鳴らしてしばらく待てば、軽やかな響きが聞こえはじめる。
トリルランダン、トリルランダン。
ちいさな太鼓を肩からつるした、トリルランダン・ドリスだ。
いさましく背筋をのばして、腰にはぴかぴかひかるサーベルをさげて。
グールー・モウルーはトリルランダン・ドリスが大の苦手だ。
トリルランダン、トリルランダンという太鼓のリズムを聞くだけでこそこそどこかへ逃げていく。そのサーベルでぷすりとやられちゃかなわないものね。
グールー・モウルーを追いだしたあとは、リンデン・イェンスンがとっておきのすてきな夢を見せてくれる。
トリルランダン・ドリスは、やつがまだ近くにかくれていやしないかと見回りに出る。もちろん太鼓をたたきながらね。
さあ、これでわかっただろう?
これはその、リンデン・イェンスンの鈴なんだ。まえにかれのしごとの手伝いをしてね、ひとつゆずってもらったんだ。
もしきみがいやな夢を見たときには、この鈴をリンデン、リンデン、鳴らしてごらん。
耳を澄ませて待っていてごらん。
トリルランダン、トリルランダン、太鼓の音が聞こえてくるよ。
そうだ、ためしに鳴らしてみようか。
ほら、一回。もう一回。
これですぐにトリルランダン・ドリスが来てくれる。グールー・モウルーはいなくなる。
きっとリンデン・イェンスンもゆっくりこっちに向かっているよ。たのしい夢を見せてくれるよ。
リンデン、リンデン、鈴を鳴らして。
リンデン、リンデン、耳を澄ませて。
朝がくるまで、おやすみ。




