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白銀の剣  作者: 沙伊


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第三十一話 綱渡りの交渉

「仕事の話の前に、幾つか確認をしてもよろしいでしょうか」

 ミゼリアはそう言って、ザフィロから書類の束を受け取った。

 若干鼻白んだ様子のガランに柔らかに微笑みかけ、ミゼリアは口を開く。

「現在ブリュド内では、国王の不貞を巡って国王側と王弟側対立している。形勢としては王弟側が優位──間違いはありませんか?」

「……そうだ」

「このようなことは言いたくありませんが──王弟殿下は何かと派手(、、)な方。主張も憶測と噂レベルのものです。なぜそのような内容が周囲に信じられているのでしょう」

「なぜそれを……いや。まずひとつに、王弟殿下側に城内でも地位の高い仕官が何人もいること。もうひとつは、継承問題だな」

「王女殿下のことでしょうか」

「そうだ」

 ガランは苦々しげに頷いた。

「まだ正式な指名はされていないが、国王陛下は娘であるアリシア殿下を王太子にするつもりだ。だが王女殿下はまだ幼く、その立場は弱い。しかし継承の上では、現在でも第一位であることには変わりない。そのことに不満を覚える者は多いのだ」

「そうでしょうね。……何より」

 ミゼリアは意図的に笑みを深くした。

「女性に王も騎士も務まりませんものね」

 今度こそガランの表情が強張った。

 ガランが何か言う前に、ミゼリアは言葉を続ける。

「現在、ブリュド国内の女性騎士の数はゼロ。更に歴代国王に女王はひとりもいません。そしてブリュド国王は騎士の位をシャルト神よりたまわる伝統があります」

「…………」

「年齢以上に性別で批判が多いのでしょうね。おかわいそうに……王女殿下は肩身が狭いでしょうね」

「ミゼリア殿、何が言いたいのだ」

「私は事実を述べているだけですよ」

 微笑むミゼリアに、ガランは何も言えなくなる。ミゼリアはガランを気にも留めていないように話を進めた。

「では次に、国内でのエルジェート様の処遇ですが……形の上では、保護、ですか。護衛(、、)に当たっているのは貴方がたの配下ですから、間違いは起きようはありませんね」

「……そこまで知っておられるか」

 ガランは呻くように言った。頭を抱え、その隙間からミゼリアを睨み付ける。

「ミゼリア殿、そろそろ結論を言っていただきたい。私が怒りで剣を抜く前に……貴方は我らに何を望んでいるのだ」

「では最後に、ひとつ確認させてください」

 ミゼリアは書類を膝の上に置いた。

「貴方がたが望んでいるのは、王女殿下の地固めでは? そのために今回のことを利用したいのではありませんか」

「……は」

 ガランはあ然としてミゼリアを見返した。

「な、ぜ……そう思う」

「大切に思っていないのなら、王女殿下を直属の部下に守らせていませんし、その後を考えていないのなら殿下に災禍が降りかからないよう立ち回らせませんわ」

 ミゼリアはふふ、と笑った。

「ですが、決定打が無いために手をこまねいているのでしょう? でなければ、我々の協力を受け入れませんから」

「……その通りだ」

「そこで、私からの提案です」

 苦々しい顔をするガランに対し、ミゼリアは胸に手を当てて言った。

「その地固めを、こちらに一任させていただけないでしょうか」

「な……何を言っている!?」

 ガランはとうとう音を立てて立ち上がった。

「言葉通りの意味ですが」

「我々ができないことを、国内につての無いそちらができると言うのか」

「勿論、多少なりとも手を借りる必要はあります。が、基本はこちらの主導でさせていただければと」

「そんなこと、できるはずが」

「王弟殿下の背後に、魔女がいてもですが?」

 ぴたり、とガランの動きが止まった。見開いた目でミゼリアを凝視し、低く呻く。

「……それは、真か」

「まだ確実とは言えませんが、可能性は非常に高いです」

 ミゼリアはリリアナに目配せをした。リリアナは頷き、口を開く。

「それらに関する情報は、私からご説明してもよろしいでしょうか」

「許可しよう」

「ありがとうございます」

 リリアナは軽く頭を下げ、説明を始めた。

「こちらの調査の結果、王弟殿下の周囲に魔術師の存在が確認されました。数はふたり。ひとりは在野のようですが、もうひとりはノドバーレイの宮廷魔術師でした」

「ノドバーレイの? なぜそちらの宮廷魔術師が……」

「それはまだ解りません。ですが宮廷魔術師が王弟殿下に接触したのは事実であり、その宮廷魔術師が魔女の信者である可能性は高いです。少なくともそれに連なる者であることは確実でしょう」

 ガランの表情が凍り付いた。

 実際は魔女本人である可能性があるのだが、ここでは伏せてもらった。ここでその可能性を知るのはミゼリアとリリアナだけであり、それを明かしても混乱を招くだけだろう。何より本題からそれてしまう。

 魔女と関わりがある者がノドバーレイの宮廷魔術師であるという事実さえ認識していれば、それでいい。それだけで、こちらが深く関わる理由のひとつになる。

「しかし……しかし、その証拠は」

 呻くガランに、リリアナは緩く首を振った。

「しかとした証拠はございますが、ここではご提示できません、()()

「ぐ、む……」

「では、話を戻しまして」

 再び口を開いたミゼリアは、穏やかに微笑んだ。

 内心ではいつぼろが出るかと冷や汗が流れている。正直このやり取りは綱渡りもいいところだし、ガランが強硬な人物ならすぐにでも破綻してもおかしくない。何よりガランの王女殿下への感情を読み間違えていれば、今まで重ねた策も、これから提示する策も、全てが無駄になってしまう。

 それでも、否だからこそ、ミゼリアは微笑むのだ。

「では、改めてこちらの提案を聞いていただけませんか?」


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