二十三話 銀の腕輪
ミゼリアがディアルナに連れてこられたのは、ディアルナの私室だった。
ミゼリアがこの部屋に来たのは六年振りだ。その事実に、また泣きそうになる。
何とかこらえて、促されるままソファーに座った。
「……ふむ」
ソファーに座る娘を、ディアルナはまじまじと見つめる。まるで観察しているかのようだ。
否、文字通り観察しているのだ。なぜなのかは、ミゼリアには解らないが。
「ミゼリア」
「は、はい」
「腕輪を見せてくれるかしら」
言われて、ミゼリアは自身の片腕を見下ろした。
六年前、引き離される前に渡された腕輪。成長するに合わせて大きくなっていくそれを、袖をまくって見せる。
腕輪は、今やミゼリアの手首から肘下まで覆っていた。繊細な細工は芸術品のそれだが、まるで防具のような有様である。
──また大きくなってる。いえ、成長している……?
ミゼリアは何とも言えない表情で腕輪を見つめた。
そもそもミゼリアの成長に合わせてその大きさを変えてきた腕輪だが、聖都に入ってから様子を変え始めていた。
更に大きく、より強く輝いている。まるで何かに呼応するように。
やがてディアルナは深々とため息をついた。
「思いのほか、成長してるわね」
「え?」
「ミゼリア、それはね、持ち主の力に比例して姿を変えるの」
ディアルナの手が腕輪に添えられた。
「力というか、魔力ね。実を言うとそれ、最初は指環だったらしいのよねえ。それが、使われている内になぜか腕輪になっちゃったそうよ」
「……え?」
ミゼリアは改めて自身の腕輪を見た。
肘下から手首までを覆う銀細工。ミゼリアの細腕をすっぽりと包む籠手のような形。
だがどうまかり間違っても指環には見えない。
「……まあ」
思わず漏れたのは、驚きを通り超して感嘆の声だった。
「うすうす思っていたのですが、質量を無視した形状変化が可能ということは、相当古い術具なのでしょうか」
「……我が娘ながら冷静だわー」
ディアルナは苦笑した。
「ええ、そうよ。記録に残る限り、神話時代に非常に近い時代から伝わっている。身に付ける者の魔力をコントロールしやすくするの」
「魔術師の杖みたいなものですね」
「そう。自分の力を理解している貴女なら解るでしょうけど、強過ぎる力は暴走する危険性があるからね。制御と指向性を付ける必要があるの。……ま、貴女の力は貴女や周囲を直接傷付けるものではないけれど」
苦い表情に、ミゼリアはかねてより疑問に思っていたことを口にした。
「お母様。私のような力を持つ者は、歴史上にも存在していたとおっしゃっていましたよね」
「ええ。それが?」
「その者は、全てとは言わずとも何人かは、我が一族の者だったのではないですか? 更に言えば、その者の身にも、私と同じことが起きたのでは?」
ミゼリアが断定的に言うと、ディアルナは首を傾げた。
「どうしてそう思うのかしら」
「お母様のおっしゃっていた敵のこと、初めて聞いた時から思っていたのです。詳し過ぎると」
ミゼリアは言った。
「推測と言うには確信的でした。おそらく前例があり、その時の目的もまた同じだったのではないかと。この腕輪もそうです。こういったものが存在するということは、私のような強い力の持ち主が我が一族やその周囲にいたということの証拠ではないでしょうか」
「……正解」
ディアルナは肩をすくめた。
「とはいえ、貴女が思うほど多くあったわじゃけないわ。その中で貴女を含めて二度、今回のようなことがあった」
「二度……」
「そしてその二度とも、同じ人物が背後に存在していたの」
ディアルナは表情を引き締めた。
「ミゼリア。これから言うことを、心して聞きなさい。因縁を貴女の代で断ち切るためにも」
本当はもっと、先延ばしにしたかったのだけれど──そう呟いた声は、苦々しかった。




