約束の花束を
奇妙な物語。
真夜中の墓地で一人の女が花束を持って歩いていた。
白いワンピースに身を包み、長く伸びた髪を無造作にして男の名を呼んでいる。
異常なまでに奇妙なその女は、気がどうかしているのだろうか。
「マイク、マイクどこにいるの?」
その声は覇気がなく、寂しげで、悲痛。ここは墓地であってテーマパークでもなければ、水族館でもない。
誰もが知っている。
だが彼女はそれさえも理解できていない、いわば精神崩壊でパニックを起しているのである。
その声に近隣住人は警察を呼び、彼女は補導されていった。
事情聴取もまともにできない状態。
精神病院に入院させられる。
身元が分かったのはそれから2日目のこと。
彼女の名前はミザリア・ミルソン、十八歳独身、『マイク』という身内はいない。そればかりか、友人にも、その他顔見知りにもいない。
では、なぜミザリアは墓地で「マイク」と言いながら徘徊していたのだろう。
不可解な謎は考えれば考えるほど、警察はおろか主治医も首を傾げる。
三日がたちミザリアは人と会話ができるようになった。とは、いってもまだ主治医にしか心を許してないのだが。
「君の名前は?」
「ミザリア、ミザリア・ミルソン」
主治医の質問には応えれるまで精神状態は回復してはいたものの、依然「マイク」という男性の名を叫んでは病室を徘徊していた。
看護師が鎮静剤を討つときにも、「マイク」と叫びながら助けを求めていた。
同室の患者から苦情がきたためしかたなく、隔離室に入れられ手足を固定されることとなる。
警察は捜査に踏み切ったが、有力な情報は得られずに捜査は難航。主治医は極度の妄想癖と診断し捜査は中断された。
次第にミザリアは壁に向かい話すようになった。
「ナンシーはどこに住んでいるの?」
看護師が食事を持ってきたとき、ナンシーと聞いて唖然とする。
一か月前に、ナンシーという女性がこの病室で死んでいからだ。
そのころ不に落ちない警察の捜査で家族から有力な情報を得られる。
マイクは三年前に亡くなったミザリアの元カレだったのだ。
あの日墓地を徘徊していたのは、マイクのお墓を探していたのである。
浮き彫りになってきたミザリアの過去。そして普通の人間じゃないこと。
警察は真実を聞かされて驚愕する。
母、キャロラインの口からとんでもないことが語られる。
「あの子は超能力者です。幽霊と話ができるみたいです」
にわかに信じがたいが真実である。
ただ一つ嘘がある。マイクは死んではいない。
この家の屋根裏でひっそりと暮らしている。
警察は署に帰り、マイク・イスターという人物に関して資料を調べ上げた。
三年前から行方不明になっていることに不信感を覚える。
この件は超能力捜査官、シーザー・サンディズが取り仕切ることとなった。
シーザーは、まずミザリアに意識を飛ばし会話をするこことを試みた。
(イメージして。ミザリア、私の声が聞こえるなら答えてちょうだい)
警察署から2キロ離れた場所の病院にいるミザリアにその声は届いた。
「誰?」
間違いなくミザリアは超能力者であると確信した。
翌日、ミザリアのもとへ面会に来たシーザーは、ミザリアの様子をみて心が痛んだ。
手足が固定されて身動きが取れに状態。
首を横に振りながら、両手を広げて看護師に解放させるように言うが、看護師はそれを拒否して病室を出ていく。
ジョシュが外そうにも鍵がかけられておりできない。椅子に座りいくつかの質問をする。
「ミザリア、私が誰だかわかる?」
「シーザー」
ささやくように答え逆に質問する。
「シーザーは私と同じなの?」
「そうよ。ミザリアと同じよ」
二人は心で会話を始めた。
(マイクが誰なのか教えてくれる?)
首を横に振るミザリア。
(そう、彼はどこにいるのも教えてはくれなのね)
「それはわからない。わからないから探しているの」
口で話し始めるミザリア。
「ありがとう」
病室をあとにするシーザーの心にある言葉が届いた。
(マイクは死んだの。だから約束の花束を持って行かなければならないの)
ミザリアは本気でマイクが死んだと思っている。
ここからマイクの居場所を突き止める捜査がはじまった。怪しむべきは一つにしぼられる。
ミルソン家の家宅捜査が開始された。
「奥さん、娘さんは病院で入院していますが心配ではありませんか?」
「とても心配だわ」
警察官が家に入り込み探し回るが見つからない。
問題の屋根裏も探したがいなかった。
「ここじゃないのか」
2時間にも及んだ家宅捜査にもかかわらず見つからなかった。
くまなく探したのにである。
この結果を聞いたシーザーは霊視を始める。
「何も見えないわ。何かに覆われていて」
もう一度試みるも何も見えてこない。
それどころかミルソン家のイメージすらわいてこない。
「ちょっと待って。墓地よ、そう墓地がみえるわ」
あの夜ミザリアが徘徊した墓地のイメージだけがわきでてきた。
そこで急きょ警察官たちは墓地を探すもマイクはどこにもいなかった。
「おかしいの。なぜかしら墓地だけがイメージできる」
警察官たちはシーザーも疑い始めた。
ミルソン家ではキャロラインに甘えるマイクの姿があった。
「僕もう我慢できないよ」
すでに、肉体関係であるマイクとキャロライン。
「ずっと一緒にいさせてあげるね」
頭をなでるキャロライン。それに甘えるマイク、まるで飼いならされた子犬のように。
そこで、再びミザリアにコンタクトをとることにしたシーザー。
(私の声が聞こえるなら返事をして)
「シーザーどうしたの?」
ミザリアは病室で独り言を言うように答える。
看護師たちはそれを見て口々にミザリアを廃人扱いする。
(マイクのことをちょっとだけ思い出すのよ。最後にあったのはいつどこだった?)
「お墓の前なの。パパのお墓の前であったの」
更に質問するシーザー。
(そこで何をしたの?)
「約束したの。花束を毎年一緒に持ってこようねって」
シーザーは急いで車に乗り墓地へと急いだ。そこで残留思念を追った。
しだいに見えてきたビジョンは、ジョー・ミルソンの殺害風景と犯行現場、それに真犯人。
シーザーは首を横に振り頭を抱えた。
「何てこと。ミザリアは父親を殺害している」
このことは警察官には言わないでおくことにした。
数日後、結果マイクは依然行方不明、そして世間はシーザーをインチキ能力者と罵る。
全ては『嘘』で固められた真実。
「遺伝って怖いものね。私の能力の一部を持っていっちゃったのよあの子」
キャメロンは不敵な笑みをこぼしていた。全てはキャメロンの仕業。
「マイクあなたは私の完全なるペットよ」
マイクを超能力の催眠術で操ってる。
「あ、そうだ約束の花束を届けないと」
墓地で花束を持ち徘徊する女性が一人、今ここにいるのは幽体離脱しているミザリアの生霊。
そして、マイクにナイフで刺されたキャメロン。
「まさかね。あの子いくつ能力をもっていったのかしら?」
ミザリアは同時にマイクの意識を遠隔操作していた。
後日、マイクは警官に見つかり殺人犯として逮捕されて、ミザリアは精神状態が安定したとされ退院。
「約束の花束をようやくもってこれたよ。パパごめんね」
ニヤリとお墓の前で笑うミザリア。
ー終ー
読了感謝!!