顔がない女「9」
許されない罪一つに心は捕らわれた世界で
さ迷う心は何も見ないように瞳閉じている
もう見たくない現実に教えられる
残酷な言葉と真実に負けてしまいそうな
心を支えてくれるものは、きっと何気ない君の言葉だと気づいたのは、君が空の彼方へ旅立ち
いくつの季節を越えたあの場所に残る
君の心の温もりだった…。
無機質な音が響く足音に振り向くと誰も居ない
暗い廊下の向こうに輝く光を見つける
槇は、無言のまま
俺は、一つの疑問を感じていた。
日向整形病院…
白蛇の池の村の日向診療所…
茜さんが、白衣の謎の男性の事を言っていた事を…
「これは、瑞季の指輪…なぜ、こんな場所に?」
「瑞季さんの指輪?槇さん?」
「助手君、指輪の裏に書かれた名前を見てくれないか?」
「えっ?ローマ字で、瑞季…刃…っと書いてますよ。」
「なぜ、この指輪が?確か遺骨壺に入れたはずなのに…こんな事が起きるわけないし…夢なのか?」
槇は、不思議な表情をしながら不意に表情を変えると歩き出す
「槇さん?どこに行くんですか?」
「あの部屋に行ってみようと思ってね…」
「あの部屋?」
槇と陽は、無人の病院の暗闇の廊下を歩き続ける
閉鎖された建物の中は、二人の足音だけが響く
暗闇に染まる空には、月だけが輝く異様な空を見つめながら
不気味に佇む廃病院の前で茜は、スマートフォンの画面を触り辺りを見回して見ても異様な静けさに支配されていた。
「槇君も陽君も電話に出ないわね…」
「彼等は、異次元をさ迷う心の旅人でしょうね…」
「日向さん、あなたは何かを知っているのですか?」
「闇の事なら…でも説明しても理解できないでしょう」
「…………」
「茜さん、あなたは最後の一人を探して居るでしょ?彼は、私達からしたら完全なオリジナルの存在でね。彼は彼しかできない仕事をしているので私が茜さんの力になろうと思ってね。」
「私には理解できない話しね…でも孝平君の傷を治した。あの不思議なワクチンの力は信じるわ…」
「私も、まだまだ理解できないものがあるんですよ」
「貴方が理解できないなら私には理解できずに無知に空想を巡らせて死ぬまで答えも真相を掴めないでしょうね。」
「茜さんの発想と発言は、私に色々刺激をくれるから面白い」
「それは、お誉めの言葉だと受け止めていいのかしら?」
「本当に面白い人だよ。長い事生きているけど彼と茜さんだけだろうかな」
「彼は、一体何者をなの?日向さんの事も疑問だらけだけど…」
「いつか分かりますよ。彼は彼でやり残した事を終わらせた後で…さぁ、茜さん行きましょうか」
「質問に答えてもらえないでしょうか?」
「そんな時間はないですよ。槇さんが瑞季さんの心の闇が生んだ化け物に、あの世に連れて行かれますよ…」
「?!」
「闇の運命が動き出したのだから…もう時間がないですからね。多くの戦力がほしいんですよ我々も…」
「…………」
交差する運命は、バランスを失う時に必然的に理解を越えた世界を作り出す
その真実は闇に隠されていく真実
探る秘密は、意図的に隠されていくだろう
人は求めてしまう神秘の力は、毒を含むものかもしれない
叶わない願いと叶う願いの差は、誰が決めているのだろう
この運命は誰が操り決めていくのだろうか?
不自然ばかりの世界で見つめるものは幻のようなばかりかもしれない
失われたものは、永久に消えていく
どんなに願ってもどんなに求めても
その輝きは、もう触れる事ができない温もりなのかもしれない