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【 七塚先輩との日常 】


 同居生活が始まってから、まだ一週間すら経っていない。

 何故だろう、こんなにも一日が長いと感じたことは無い。むしろ、時間すら気にする余裕も無いわけで、本当に僕の自由はどこに行ってしまったのだろうか?

 そんな事を考えていると、いつの間に目を覚ましていたのか七塚先輩は布団をどけると、ゆっくりと起き上がり


「おはよう、桐崎君。よく眠れた?」

「は、はぃ……」

「なら、よかった♪」


 そんな訳は無い。事実、一睡も出来ていないのだから。

 ただ、あの場で『まったく眠れませんでした』などと言っていたらどうなっていた事か……というか、恐ろしくて言えるはずがないのだ。

 あそこまでされて、眠れなかったなんて言ったら次は何をして来ることか……

 でもまぁ、僕も男な訳だしあんな事をされて嬉しくはないのか?と問われれば正直なところは嬉しいと思う。

しかし、物事には順序と言うものがあるわけで、いきなりあんなとんでもない事をされたら誰だって混乱するはずだろう。なんだか、本当に七塚先輩から遊ばれているだけのような気もしてきた。


「じゃぁ、朝御飯の準備するから桐崎君はそこで少し待っていてね」

「……えっ?」


(朝御飯って…… もしかして、アレですか? また残飯みたいな物を出されるのでしょうか?)


 と、僕の予想は見事に的中したらしい。

 しかも、『待つ』などと考える余裕もないほど数分でソレは運ばれてきた。


「出来たわよ」

「…………」


 もう何も言葉が出てこなかった

 料理を作ると言ったのは約二分前、皿を出して白米を突っ込み、先程買ってきたと思われる缶詰にされたシーチキンを全部混ぜ込み、そこに昨日の残り分の味噌汁をぶっかけただけ。

 これでは三分クッキングもビックリだ。それ以前に料理と呼べる物なのかすらも疑問。

 七塚先輩は何故か達成感に満ちた笑顔を浮かべながら朝御飯と言う名の残飯を片手に僕の下へゆっくりと歩み寄る。


「はい、どうぞ」


 優しい声で静かに目の前に朝御飯が差し出された。というより、無造作に皿とスプーンだけを置かれた。

 何だろう、まだ犬や猫の方が扱いはもっと良いのかもしれないと思ってしまう。


(これでは囚人料理の方がマシだ……)


 既に僕は比較する基準を失いつつあるようだ。

 これでは精神よりも身体的に持たなくなってしまうのではないかと言う身の危険すら覚えてしまう。まぁ、いくらそんな事を考えたところで目の前の現実から逃れる事が出来るはずもなく、七塚先輩は僕が食べるのを待っているのか、先程からずっと笑顔で僕に目で訴えていた。

 まるで『早く食べてよ』と無言で訴えているようにすら感じる。

 どうして無言なのか、せめて言葉にしてくれた方が僕も反応出来るのだけれど……

 どうやら、僕には食べると言う選択肢しか用意されていない様で渋々とスプーンを手に取り


「い、いただきます……」

「どうぞ。召し上がれ」


 わかってはいるけれど、七塚先輩の笑顔に僕は言い返すことが出来ない。

 そして、手を小刻みに震わせながらスプーンですくったソレを恐る恐る口に運ぶと


「……ぅ」

「おいしい?」

「ぉ、おいしいです…… ぅぷ……」

「ほんと? よかった♪」


(ま、不味いです…… 昨日に食べた物よりも不味いです……)


「よしよし、いっぱい食べるのよ? そうすれば調子も戻るはずだからね」


(こ、これを全部食べろと言うのですか? こんなに食ったら調子が悪くなる一方ですよ……)


 結局、僕は気合で完食した。何だろう、こんなにも後味の悪い朝食は初めてだ……

 食べ終わった僕は、まず真っ先に気持ち悪くなり凄まじい吐き気が襲い、頭痛、めまい、今すぐにでも病院へ行きたいと思いたくなってしまう程に様々な症状が襲い続けた。

 一方の七塚先輩は『桐崎君、大丈夫? やっぱり、まだ具合が悪いの?』と、まさか自分の作った料理がこんな事態を招いているという事など微塵も思うはずもなく僕を心配してくる。

 だが、これはある意味でしてやられたのかもしれない。

 僕が体調を崩すという事は、またもベッドというかごに逆戻りになる、七塚先輩の命令は絶対なのだ。

 反論すれば何をされるかわかったものではない。

 先日のように、倍返し以上の仕打ちを受けるかもしれないと思うと……

 そして、僕の予想通りに七塚先輩は玄関まで行って足を止めるとクルっと振り返り


「薬を買ってくるから、桐崎君は寝ていて。ぜぇ~~ったいに起きちゃダメよ?」

「ですが…… 七塚先輩、学校は?」

「今日、学校に行っても桐崎君は居ないでしょ? そんなのつまらないわ」

「えぇ~と……」


(いったい、七塚先輩は学校に何をする為に行っているのですか?)


 そう言い残すとバタンと七塚先輩は玄関を出て行った。

 昨日といい今日といい、まだベッドから一歩も出ていない僕は玄関にすら足を踏み入れていないわけで、正に七塚先輩の言う通りベッドに縛り付けられているような感じである。

 もはや、外の空気すら吸わせてもらえないとは、僕はこれからどうすれば……

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