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【 お風呂 】


 これは喜ぶべきなのか?そうでないのか?

 恐らく、喜ぶべきなのだろう。

 しかしだ、何の準備も無いままに『一緒にお風呂へ入ろう』などと言われて正常な判断が出来る筈もない。

 いや、普通でないのは七塚先輩の方なのだろうか?

 突然にペットになれだと言ったり、無理だと分かっていることを無理やり言ってくるし、ところ構わず着替えはする、挙句の果てには一緒にお風呂?


(僕は、どうすれば……)


 などと悩んでいる暇など無いわけで気付けば僕は逃げる事の出来ない状況に来ていた。只でさえ狭いこのアパート、風呂場など勿論の如く狭いわけで二人も入れば窮屈で仕方ない。

 流石に僕が先に浴室に入り、七塚先輩は後から入ってくる形となったが一緒に入る事に変わりはない。恥かしい気持ちにもなるが、僕も男な訳でやっぱり色々と想像してしまう。


(一緒に入るのかな……)


 別にやましい気持ちをしているわけでない。あくまで純粋な、率直な気持ちなのだ。

 そんな思いを巡らせていると、背後からガラガラと曇りガラスの戸が開き忍び寄る足音

 七塚先輩だ


「あっ! えぇっと…… その……」

 僕が少し顔を動かした時

「ダ~メ、後は向いちゃ」

 と、僕の頭に優しく手を添えながら七塚先輩は言う

「これは命令だからね? 後は向かない事」

 一緒に入るとは、こういうことだったのか

「じゃぁ、まずは頭を洗おうか?」


 そう言うと七塚先輩は僕の頭にシャンプーをかけ優しく愛おしそうな手付きで洗ってくれた。

 目をつむっている僕は勿論、今の状況を把握出来る筈もない。

 シャンプーを洗い流そうとした七塚先輩の手元が滑ったのか、小さく悲鳴をあげ水しぶきがする。


「きゃっ」

「ど、どうしたんですか?」

 目を瞑っていて見えない僕は何がどうなっているのかわからない。すると、七塚先輩は

「シャワーが暴れて、シャツがずぶ濡れだわ」


(なんだ、シャツは着ているのか…… え? ずぶ濡れ? それはアレですか? 透けている状況ですか?)


「あら? 下まで濡れていたわ。でもまぁ、お風呂場だもの。このくらい仕方ないわね」


(し、下ぁ!? ちょ、ちょっと待って下さい…… 下もですか? ぜ、全身ですか……?)


「桐崎君、どうしたの? 鼻なんか押さえて」

「え? ぃや……なんでもないです」


(そ、想像したら鼻血が……)


「さてと、ちょっとしたハプニングはあったけど、とりあえずシャンプー終りね」

 ハプニングって……全然、ちょっとじゃないですよ……

「次は背中を流そうか」


 七塚先輩の手の感触が直に伝わってくる。何とも、こそばゆい感じだ。ようやく視界が回復した僕だがこの高ぶる感情は回復しないわけで、むしろ高まる一方。

 視線を前に向けた時に気付く。そこには向かいの窓ガラスに薄らと映る七塚先輩の姿。

 見えそうで見えない絶対領域、ドアの曇りが肝心なところを上手い具合に隠してしまっているのだ。

 顔は見える、七塚先輩は何とも幸せそうな顔をしていた。だが、体が見えない。

 僕の背中を洗っている動きは見て取れるのだが、もう少し、もう少し動いてくれば見えそうなのに……

 すると、急に背中へ体重がかかってきたかと思うと胸元に七塚先輩の手が回り


「ほら、前も洗わないとね」

「え? えぇ!?」

 脇下から回された七塚先輩の手は僕の胸元をスポンジで優しく撫でるように洗い出す。

「ま、前は自分で洗いますよ!」

「ダメ、洗ってあげると言っているじゃないの? ペットなんだから、おとなしくしてればいいの♪」 


(お、おとなしくって…… これは無理ですよ……)


 それどころか、七塚先輩が洗おうと前のめりになればなる程、僕の背中に体重がかかり気付けば違った感触が伝わってきていた。それはマシュマロの様に柔らかく、程よく温かな感じ。


(……むにゅ? この感覚は、もしかして……)


 もしかしなくとも、それは七塚先輩の豊満ほうまんな胸のさわりだった。

 七塚先輩自身は気付いてやっているのか、それとも無意識にしているのか、どちらにしてもこんな状況でも振り向く事をお預けされてしまうなんて生殺しにされている様なものである。


「桐崎君、大丈夫? さっきから鼻ばかり押さえているけど、痛いの?」

「ぃぇ…… 本当になんでもないです……」


(ダメだ…… これ以上は限界です。もだえ死んでしまいそうだ……)


 流石の僕もこれ以上は持たなかった。

 そして、ついに僕はのぼせて倒れてしまう。


「あっ、桐崎君! 大丈夫?」


(あぁ、薄らだけど見えた…… 七塚先輩の……が)


 勿論、お風呂でのぼせたわけでなく、七塚先輩の刺激たっぷりな行いにのぼせてしまったのだ。

 背中を向けているだけでこんなに興奮してしまうなんて、面と向かっていたらどうなっていたのだろうか?

 いや、背中を向けていたから色々と想像してしまい余計に興奮してしまったのかもしれない。

 ある意味で、これも七塚先輩に遊ばれたのかも

 本当に喜んで良いのか、悪いのか、少なくとも日常生活に多少ながら支障をきたしている様なそんな気はしないでもない。七塚先輩の考える事が未だに理解できない。

 まぁ、理解出来ていたらこんなに苦労はしていないか……

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