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【 買い物 】


 学校帰り、僕は七塚先輩の宣言通りに買い物に来ている訳なのだけれども……

 どうしてなのだろう、何故に僕は家具屋さんに来ているのでしょうか?

 七塚先輩は悩みながら顎に手を当て選別する様に見て回ると


「う~ん、やっぱりソファーは欲しいところね」

(何をおっしゃっているのですか?)

「そ、ソファーですか……?」

「だって、何だかしっくりこないのよね~」

「と、言うと?」

「これを置いたら、おしゃれじゃない?」

 そんな笑顔で僕に何を求めているのですか

「……置くって、どこにですか?」

「桐崎君の家に決まっているじゃない?」

 あぁ~、何も聴こえない。

「ねっ♪」

「無理ですよ!それに仮にですが、こんな高い物を誰が買うんですか?」

「もちろん、桐崎君でしょ?」

「なっ!それこそ無理に決まっているじゃないですか!?大体、七塚先輩の方がお金を持っているでしょう?僕が買えるわけないですよ!」

「う~ん、白も良いけど汚れが目立つし、やっぱりピンクが良いかなぁ?桐崎君はどっちがいいと思う?それともベージュ?」


(僕の意見は何も聞いてないという事ですか……)


「もう、どっちでもいいですよ……」

「じゃぁ、ピンクで決まりね」

「ちょ!買うの!?」

 七塚先輩はソファーの前でクルりと僕の方へ向きを変えると一つ溜息を漏らし

「いいこと、桐崎君。私達は、いまどこにいるのかしら?」

「か、家具屋ですね」

「では問題、この店の目的は何かしら?」

「えぇ~と……家具屋ですから、それらを売ることですね――」

「うん、正解♪」

 この発言に七塚先輩は、これとない程の笑顔を僕に向けてくる


(……はっ、しまった!)


「――と、いう事だから」

「え、ぃや……その……」

 古典的な誘導尋問にかけられてしまった

「これで、桐崎君も床で寝ることは無くなるじゃないの」

「家賃を払うだけで精一杯の僕に買えるわけないですよ!むしろ、そんなに欲しいなら七塚先輩が買えばいいでしょう?」

「まったく、しょうがないわね。なら、買って上げるわよ」

「ふぅ、そうですか……」


(ん?ちょっと待てよ……)


「待って下さい!買ったらダメですよ!」

「えぇ~、何よ」

「大体、こんな大きい物をあの狭いアパートの何処に置こうと言うんですか!?」

「ほら、ベッドの隣とか?」

「余計に無理です!と言うか、仮に置けたとして部屋の大半はベッドとソファーに占拠されますよ?」

「う~ん、それもそれで困るわね」

 そこは考えてなかったんですか?

「……仕方ないわ。じゃぁ、また今度かな?」

「諦めるという選択肢は無いんですか?」

「まったく、桐崎君の為に言っているのよ」

「そう思うなら余計に要りません……」

「ペットは主人の言う事を聞いていればいいのに――」

「物事には限度と言うものがあります」


 まったく、そこまでされたらどうなるかわかったもんじゃない

 大体、僕の立場はどうなっているのだろうか?それすらも分からなくなってきている。


(同居って、こんなに疲れるものなのだろうか?)


 結局のところ七塚先輩は何をしたかったのか、いまいち分からない。ただ一つだけ言える事は、この方は今の環境を楽しんでいるということ。

 最も僕にとって見ればちっとも楽しめる様な事ではないのだが、だからと言って嫌だとハッキリと断りきれない自分が情けない。

 一方の七塚先輩は少し腑に落ちない様子であったが、今回ばかりは諦め僕に背を向けるとゆっくりと歩き出し


「もう、何だかつまらない。先に帰るわ」

 またもご機嫌斜めであった

「は、はぃ……」


(完璧に機嫌を損ねているよ)


 どうやら、七塚先輩は自分の思い通りに行かなかった事が不服だったのか、いつも以上に機嫌が悪かった。

 今まで逆らった事の無い僕は、こんな姿を見たのは初めてだった為に不安は募るばかりであった。

 日も暮れかけた帰り道、七塚先輩は先に帰ってしまった為に僕は一人で帰る事になってしまう。

 別に何かした訳でもないのに、何か嫌な気分だ。


(う~ん、僕が悪いのか?)


 女子との付き合いは上手くない僕にとってみれば、女心などと言うものがわかるはずもない。

 ましてや、七塚先輩の考えなどは毛頭わかるはずもない。そんな事を思いながら黄昏色たそがれいろに染まる川原沿いを歩いていると視線の先には、またも気の抜けた声を漏らしながら辺りをキョロキョロとしている迷子の子猫が居た。


「はぅ~、どうしよぉ」

 視線の先に居た迷子の子猫は、天宮先輩であった。

「えぇ~と、えぇ~っと……」

「……」


(……もしかして、また迷っているのか?)


「どうしたんですか?」

「にゃ?あっ、こんばんわ。ペットの桐崎君」

「……嫌な覚えられ方ですね。普通に名前で呼んで下さいよ」

「にゃはは♪」

 そこ笑うところでもないですけど

「ところで、どうしたんですか?」

「えぇっと、今日は寄り道していつもと違う道を来ちゃったから――」


(ま、まさか……)


「家がどっちだかわからなくなっちゃったのです」

「またですか!?」

「だって……」


(いくら方向音痴でも自分の家くらいは……虫でも忘れないと思うよ?)


「にゃぅ~、どうしたらいいかな?」

 そんな潤んだ瞳で訴えられても

「どうしたらって言われても……学校の教室ならまだわかるけど、天宮先輩の自宅なんてわからないですし――」

「ふにゅ~……」

「とりあえず、家に電話してみるとか?」

「家には小鳥しか居ないもん」

「そ、そうですか……」


(なおの事、忘れないんじゃないだろうか?)


「違う道に来てしまったのなら、いつもと同じ道まで行けば――」

「その道もどっちだか……」


 終わった……ダメだ、この人

 よくもまぁ、こんな状態なのに一人暮らしなど出来たものだと不思議で仕方がない。恐らく、今まで数えられないくらいに補導されてきたのだろうね。まったく、保護者は何をしているのだろうか?

 しかし、現状を考えてみればどっちが先輩なのかわからなくなってしまいそうだ。

 そんな事を考えている内にも日が暮れ辺りは暗くなり始めている。このままでは天宮先輩は本格的に帰れなくなるかもしれない。かと言って、ここで見過ごすわけにも……


「でも、ここに居てもどうにもならないと思いますよ?とりあえず、行きましょう」

「どこに?」

「家ですよ!」


(本当に疲れる……わざとなのか?)


 まったく、七塚先輩も天宮先輩も何を考えているのかサッパリだ。

 僕の先輩達は、こんな人達ばかりなのだろうか?そして、どうして僕だけが弄られるのだろう。


「やれやれだ……」

「あったぁ!」

「えぇ!?」


 歩き始めてまだ五分と経っていないと言うのに、天宮先輩の探していたアパートは僕等が居た斜め迎えにあった。 どうやら、いつもと違う道を来たと言うのは建物の反対側に面していた為にわからなくなっていたのだろう。

 それにしても、何故にここまで来ておいて迷う必要があるのか?これは一種の才能と呼べるのかもしれない。


「桐崎君ありがとなの」

「え?はぃ、よかったです……」


(別に、僕は何もしていないんですけど……)


 まぁ、無事に解決したみたいでなによりだけれど、僕にとっての問題は解決していないわけで時刻を確認しようと取り出した携帯のディスプレイを見た僕は一瞬にして凍り付いてしまう。『怒ってなんかいないから早く帰って来てよ。その代わり、う~~んと可愛がってあげるから』といったメールの文章


「…………」


 言葉が出なかった

 文章では『怒っていない』と言っているが、その後の言葉が凄く怖い。何でだろう、普通はこんな文章を送られてきたら安心するはずなんだろうけど、僕には安心という気持ちよりは不安という気持ちの方が強い。


(というか、帰ってきたらって……そこは僕の家なんですけど)


 自分の家なのに帰りたくないと思ってしまう。もう、僕の居場所はどこにあるんだろうか?

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