【 秘密事項 】
僕は中庭まで来ていた。
二年の教室を離れ勢いで走って来たはいいが、どうしても行き着く場所はここみたいだ。
僕の日課になってしまっていた七塚先輩との学内散歩、いつも晴れの日は中庭のベンチで日向ぼっこしたり、御飯を食べたりと僕にとってみれば色々な想い入れがある場所なのだ。
もうすぐお昼休みも終わろうとしているというのだが、僕はここに居たかった。
何だかそんな気分だったからだ。
そんな事を考えながらベンチに座っていると背後から気配を感じる。
振り向いた先に居た人物は僕を見て目を丸くさせ、僕もまたすぐに言葉が出なかった。
「桐崎君?」
視線の先に居たのは驚いた表情を見せる七塚先輩だった
「な、七塚先輩!」
「どうしたの? 授業始まってるでしょ?」
七塚先輩は当然の様に僕へ言い放つ
「七塚先輩こそどうしたんですか?」
「私はいいのよ。ほら、授業行きなさい」
「嫌です」
僕は七塚先輩の言葉を否定した
「ダメよ、これは命令」
七塚先輩は仁王立ちしながら毅然とした態度で言い放つが僕も負けずに言い返す
「そんな命令…… 聞けません」
七塚先輩相手に僕は強気な姿勢で言い返す。僕は七塚先輩の『命令』を拒否した
今まで何度か嫌と言ったことはあるけど、ここまではっきりと拒否したのは恐らくこれが初めてだ。
自分が下した『命令』を拒絶された七塚先輩は勿論、不服の表情を浮かべ僕を見返すが再び同じ言葉を言う
「これは命令よ!」
七塚先輩は怒鳴る様に僕へ言い返す
「……な、七塚先輩?」
「まったく…… 教育が足りなかったのかしら?」
僕は思っていた疑問を七塚先輩にぶつける
「どうして、帰ってこなかったんですか?」
「ちょっと、色々あったのよ」
「七塚先輩?」
呼び掛けに七塚先輩は僕の瞳を見返すと
「転校…… するんですか?」
「何の事?」
「なんか、そんな噂を聞いたもので…… どうなんです?」
僕の問いに七塚先輩は暫く間を置き
「……知りたい?」
「はい」
「どうしても?」
「はい」
「しょうがないなぁ」
そう言いながら七塚先輩は何故か僕の眼前に掌を差し向けると笑顔を作り
「ジュース」
「……えっ?」
「ジュース買って来てくれたら教えてあげるわ」
ニコリと笑いながら僕にそう言ってきた
(結局は、こうなるのか……)
「えっ? でも、いまじゃダメなんですか?」
「ダメったらダメよ。知りたいなら買ってくること! いい? め・い・れ・いよ♪」
「……はぃ」
本当のことを知りたい。
何かを隠している様な気がする。
けれど、僕は久し振りに七塚先輩の笑顔を見れたことが凄く嬉しくて今はそれでいいかな?と思ってしまった。
そして、またしても制限時間付きで買って来いと言われた僕だが必死になって買って中庭まで戻った時には七塚先輩の姿はどこにも無かった。