【 九条先輩の告白 】
「はぁ……」
中庭のベンチに腰掛ける僕は深く溜息を漏らしていた
「どうしたの?」
不思議そうに後から声をかけてきたのは九条先輩
九条先輩は歩み寄ってくると隣に腰を下ろし僕に視線を向けながら
「まったく、涼君は溜息ばかりね」
「そんな事を言いに来たんですか?」
「なによ、それが心配している人に言う台詞?」
九条先輩は不服そうに顔をしかめながら言う
「心配してくださいとも言っていませんよ」
「はぁ…… 素直じゃない男は嫌われるわよ?」
「いいです、嫌われるのには慣れていますから」
そんな僕の答えに九条先輩は呆れる様に溜息を吐いていた
そして、一つ間を置くと話題を切り替えるように
「ところで、なにかあったの?」
「え?」
「なんか凄く悩んでいる様に見えたけれど?」
「……なんでもないです」
首を少し傾げながる九条先輩は口元を少しニヤリと緩ませ
「あれでしょ? 七塚の事でしょ?」
「ち、ちがっ!」
言われて焦る僕を見た九条先輩は『やっぱりね』と言った面持ちでクスリと笑う
「ほらほら、顔に出てるわよ?」
「……」
「あっ、そう言えば今日は七塚の姿を見てないわね。なにかあったの?」
九条先輩は首を傾げながら僕に聞き返す
僕も九条先輩に問い返すと
「九条先輩は七塚先輩と仲が良いんですか?」
突然の質問に目を丸くさせる九条先輩だが僕の目を見返し小さく笑みを浮かべ
「まぁ、仲が良いわけでもないけど…… どちらかと言えば嫌い」
「どうして?」
「理由は特に無いけど、なんとなくよ」
「な、なんとなくって……」
すると、今度は九条先輩の方から質問してきた
「どうしてそんなこと聞くの?」
「なんとなくです」
「こら! 私の真似をするんじゃないわよ」
九条先輩は僕の頭を叩くふりをしながら言う
「ちょ! 本当になんとなくですよ」
「ふ~ん。随分と悩み込んでいるように見えたけどね」
「そ、それは……」
思わず口篭ってしまった僕を見た九条先輩は薄らと笑みを浮かべながら
「涼君?」
「なんです?」
「私と付き合おうか?」
九条先輩は笑顔のまま、はっきりとした言葉で僕に告白してきた
勿論、唐突に言われた僕も状況をすぐに把握出来ず返す言葉が見つからない
「…………は?」
改まって見る九条先輩の瞳はとても綺麗で僕はこの空気に飲み込まれそうになっていた
「……え? ……でも」
顔を赤くさせ返答に困っている僕を見た九条先輩は笑いながら
「あ、あはは。 涼君ったら、顔を真っ赤にさせちゃって可愛い~」
さっきの神妙な空気はどこに行ったのかと思わせるくらいに砕けた表情で九条先輩は腹を抱えながら笑い転げていた。
「えっ? な、なんですか?」
涙が出るほどにおかしかったのか、九条先輩は笑いを堪え涙を手で拭いながら僕に視線を送り返すと
「ほんと、顔にでるね?」
「か、からかったんですか!?」
「あはは、そんなわけじゃないけどね」
(まったく、冗談にも程がありますよ)
「でも少し本気にしたでしょ?」
「え?」
「だって、あんなに顔真っ赤だったしねぇ♪」
またも九条先輩は『あはは』と笑みを浮かべながら僕をからかう様に言う
「でもあれは!」
「あれは?」
「……ぃぇ、なんでもありません」
僕は言い返すにも言い返せない
少しながらも間に受けてしまいそうになったからである。
まぁ、そんな事は口に出して言わずとも九条先輩には分かっているのかもしれないけれど
すると、九条先輩は口を尖らせながら悔しそうな表情をすると
「なぁ~んだ、ちょっと残念だったな~」
「はい?」
「私はこれでも本気だったのになぁ?」
九条先輩はニコっと笑いながら僕の顔を下から見上げる様に言い寄ってくる
「えっ? ……僕は」
「でも、おしまい♪」
そう言いながら九条先輩は僕の体から顔を離すと元の体勢に戻るとベンチの背もたれに身を預け一つ息を吐きながら空を見上げた。そして、九条先輩は苦笑しながら残念そうな声を漏らす
「あぁ~あ、フラれちゃったか」
空を見上げ呟く九条先輩の横顔がなんだか可愛く見えた
「す、すみません」
「ん? なんで謝るの?」
九条先輩は空から僕の方へ視線を移すと不思議そうな面持ちで言う
「いゃ、なんとなくです」
「なんとなくばっか」
「なんだか、七塚先輩の考えていることがわからなくて」
溜息を吐きながら呟く僕に九条先輩はキョトンとした様子で
「考えていることがわかんないなんて今に始まったことじゃないでしょ?」
「それもそうですが…… そういう意味では無く」
曖昧な僕の言葉に九条先輩は不思議そうに首を傾げていた
そして、九条先輩は僕の瞳を真っ直ぐ見つめると聞き返してくる
「じゃぁ、どういう意味なの?」
「え? それは――」