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【 僕の周りは災難ばかりだ 】

「はぁ……」

 

 気付けば僕はアパートの前まで着ていた訳であるが、何故に自分の家に帰るだけだというのに溜息が漏れてしまうのだろうか。アパートを見つめながら僕は深く考えてしまう。

 階段を上る足が重い、玄関を開けるのが怖い。

 こんな事を思うこと事態が間違っている気もするのだが、思ったところで僕の問題は解決するはずも無い。

 まぁ、何に悩んでいるのかなんて言わなくとも分かる。

 そんな事を考えていると玄関の扉が開き、その先には僕の悩みの種となる人物が心配そうな面持ちをして立っていた。


「桐崎君。遅いじゃないの」

 勿論、七塚先輩である

「は…… はぃ、すみません」

「他にも言うことがあるでしょ?」

「えっ?」

「帰ってきたら言うことがあるよね?」

 突然、何を言い出すかと思えば

「……た、ただいま」

「はい、おかえり♪」


 笑顔で言い返す七塚先輩の表情は凄く嬉しそうだった。

 僕もこんなやり取りがちょっぴり嬉しかったりする訳だけど、よくよく考えてみれば根本的に間違っている様な気もしてくる。


(……ここは僕の家だよね?)


 そんな疑問すらも抱いてしまう。

 今の立場から見てみると七塚先輩がここの主人にすら見えてしまうのだから。

 いや、僕の主人と言った方が正しいのか。

 いつまでも玄関先に立っている僕に七塚先輩は声を掛けてくる


「何をしているの? 風邪を引くわよ?」

「あ、はい」

 招かれる様にして玄関を上がり込むが、僕の気持ちは不安でいっぱいであった。 



◇◇ ◇◇



 玄関の扉を閉め家の中に上がる僕だが、どうにも落ち着かない。

 どうして落ち着かないのか、そんな事は言うまでも無いのだが勿論七塚先輩が僕に下した『お題』とやらについてである。見つけるまでは帰って来ては行けないと言われたにも関わらず、何の答えも見つからないまま結局、僕は帰って来てしまったのだから。

 そして、七塚先輩もその事に対して未だ触れようとはしていない。

 いや、わざと何も言わないでいるのだろうか?わざと言わないでいる方が余計に怖い。 


(そうは言っても、いったい何を言えばいいのだろうか……)


 元より、七塚先輩の思う『面白い事』というものに値する基準自体が理解出来ていない訳で、それが分かれば僕も苦労はしていない。

 まず、未だに七塚先輩が何を考えているのかすらも分からないのだし何が何だか本当に頭が痛くなってきてしまう。 そんな事に悩んでいると七塚先輩は不思議そうな顔をして僕に言う


「どうしたの?」

「え? あ、いゃ……」

 七塚先輩は口篭くちごもる僕の目を真っ直ぐと見つめ返してくる

「えぇ~と……」


 正直に言うべきなのだろうか。

 それが僕にどういう結果をもたらすのか、想像するだけで恐ろしくなる。

 しかし、言わなくともいずれは分かることだろう。

 いや、もしかしたら最初から七塚先輩は分かっているのかもしれない。

 それはそれで十分にあり得る話だが、ならどうして何も言ってこないのだろうか。

 もしかしたら僕が言ってくるのを待っているのだろうか。

 何だかよくは分からないけれど、僕に向けられる七塚先輩の不気味な沈黙が怖くて仕方が無い。


(こうなったら、なる様になれだ……)


 腹をくくったと言うよりは、諦め半分と言った感じである。

 僕は七塚先輩の目を見返すと


「えぇ~と、七塚先輩?」

「ん? なに?」

「じ、実はですね……」

 やっぱり、改まると言い辛い

「どうしたの?」

 七塚先輩は不思議そうな面持ちで問い返してくる

「七塚先輩から出された『お題』なんですけど……」

「あぁ、あれね」

「すみませんが、僕には分かりませんでした」

 申し訳なさそうに言う僕だが、それに対して七塚先輩は笑顔を作ると

「何を言ってるの? ちゃんと、持ってきたじゃない?」

「えっ? 僕は何も持って来ていませんが……」

 疑問に思う僕に笑顔を向けると七塚先輩は当然の様に

「桐崎君が居ればそれだけで十分なのよ」

「……はぃ?」

 突然、何をおっしゃっているのですか

「そうゆうことよ」

 七塚先輩は無邪気な笑顔で僕に言い返す


(どうゆうことですか?)


 それが当たり前の様に言い放つ七塚先輩であるが、いまいち僕は何を言われているのか理解出来ないでいた。

 まぁ、確かにそんな言葉を言われるのは悪い気はしないでもないのだけれども、何故なのか素直に喜べない自分がいる。


(いったい、七塚先輩にとっての僕は何ですか?)


 とりあえず、事の流れを整理してみる。

 七塚先輩特製の迷惑極まりないカレンダーのおかげで、僕は『おもしろいもの』を持ってくるまでは帰って来てはダメだと言われたわけであるが、勿論そんなもの思いつくはずもなく時間だけが過ぎて行き、仕舞いには爆走する九条先輩に二度も突き飛ばされた。

 そして、帰ってきてみたら七塚先輩は僕にあんな事を言う。

 『桐崎君が居ればそれだけで十分』なんて、七塚先輩の様な人からそんな風に言われれば涙が出るほど嬉しがるだろう。けれど、僕にとってみればその言葉が恐ろしく聞こえてしまうのは何故なのだろうか。


(ますます七塚先輩の考えることが、わからない……)


 まったく、違う意味で涙が出てきそうだ。



 結局、あれは何だったのだろうか?等と思いたくなる様に七塚先輩の振る舞いは、いつもと変わることがなかった。そして、僕はといえば相変わらずに首輪を着けられてしまっている。

 こればかりはどうにかならないのだろうか。

 そうは言っても素直に首輪を着けている僕自身にも疑問を感じる。

 何だか最近、自分でも感じていないだけで、こんな扱いや環境に順応してしまっている様な気もしてきた。

 それはそれで、やばい様な感じもするのだけれど……


(しかし、食生活くらいは改善して欲しいものだ……)


 まったく、いまの僕なら十分に告訴出来る要素はあると思うのだが勿論言える訳も無い。

 等と思いふけっていると、後から七塚先輩の声が聴こえる。

 僕は振り向くと、そこには頬を膨らませ不満そうな表情を浮かべる七塚先輩が居た


「つまんなぁ~~い」

「……はっ?」

「退屈、暇、何かないの?」 


(あぁ、また始まったよ……)


 駄々っ子状態の七塚先輩は何を言い出すか分からない。まったく、困った先輩だ。

 そうは言っても、何か提案がある訳もない。

 むしろ、普通でいてくれた方が僕としても災難に巻き込まれずに済むのだから。

 しかし、七塚先輩はそんな僕の考えなど知るわけも無い。

 大体、七塚先輩はお嬢様なんだから、こんな貧乏な暮らしに浸っていれば暇を感じることくらいあるだろう。


(ん? そういや、七塚先輩って)


 僕は思ってみれば七塚先輩の家柄を知らない。

 大体、お嬢様なのだとしたら何故こんなところに居るのだろうか?

 どうして、何も語ろうとはしないのか?

 凄く気になるけれど、聞いてはいけない事なのだろうか。

 まぁ、いまは考えるだけ無駄か。

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