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【 本日のお題 】

「桐崎君、ちゃんと待ってた?」

「……」

 振り向くと、そこには七塚先輩の姿があった

 七塚先輩は僕の顔を見返すと

「どうしたの? 桐崎君、顔色が悪いわよ」

「ぃぇ…… まぁ」


 気付けば、九条先輩の姿は無かった。

 人を散々と掻きまわすだけ掻きまわして置いて突然に居なくなるなんて。

 これは助かったと思っていいのだろうか、少なくとも今は助かったのかもしれない。けれど、とてつもない不安を感じるのは何故だろう。

 僕の周りに集まるのは、いつも災難ばかりだ……


「七塚先輩、何を忘れていたんですか?」

 僕の問いに対し、七塚先輩は視線を送り返すと少し甘えた声で

「知りたい?」


(正直なところ、あまり知りたくは無いけれど……)


「はい、これ」


 そう言って七塚先輩が取り出したのはカレンダー

 七塚先輩が僕の為に作った迷惑極まりない特製日めくりカレンダーである。

 僕としても、暫くこの存在を忘れていた。というよりは、思い出したくなかった。


(これだったのか……)


 そんな僕の苦悩などは知ったこっちゃないと言わんばかりに七塚先輩は淡々と言いながらカレンダーに手をかけると


「それじゃぁ、本日のお題はっと――」

「い、いきなりですか!」

「いきなりじゃないわよ。ちゃんと、言ったでしょ?」

「でも、僕は何も……」

「ん? なに?」

「ぃぇ…… なんでもありません」


 相変わらずに七塚先輩は自分勝手だ。

 僕はと言えば、自分が何をやっているのかが判らなくなる時がある。

 そして、僕の願いも空しくめくられたカレンダーに書かれた本日のお題は――


◇◇ ◇◇


 ようやく学校に着いた僕と七塚先輩は、廊下で一度別れ教室へと向っていった

 朝から色々とあったが、まぁ何とか教室に着いた。

 しかし、僕の気持ちは未だに浮かないままである。

 どうして気持ちが浮かないのかと言うと、それは言うまでもなく七塚先輩に出された『お題』である。

 お題と言うよりは、無茶振りに近いのかもしれない。

 何せ、その内容と言うのが『私が、おもしろいと思うものを持ってくること』

 そして、それに付け加える様に七塚先輩は『持ってくるまでは帰ってきてはダメ』と言ってくる始末。


(だいたい、帰って来てはダメだと言われても僕の家なんですけど……)


 まぁ、最もそんな言葉を言ったところで素直に受け入れてくれるような人ではないと言うことくらいはわかっているのだけれど、流石にこれはどうしたものかと。


(もう、ここまで来ると放置プレイですか?)


 七塚先輩の言う面白いものとやらが何なのか、それすらあるのか、僕に分かるはずも無い。

 勿論、こんなことを考えながらで授業などは頭に入ってくる筈もなく無情にも時間だけが過ぎて行くのだった。



 まったく、七塚先輩の無茶振りには本当に困ったものである。

 大方、またも暇を持て余していたのだろうね。

 そして、その度に僕は災難をこうむってしまう。


(僕は先輩のおもちゃですか……)


 考えるだけ頭が痛くなってしまいそうだが、別にそれで答えが出る訳でもない。

 無情にも過ぎて行く時間に焦りを感じつつ、気付けば昼休みとなっていた。

 僕は机に座りながら心此処ここに在らずといった様子で教室の時計と睨めっこをしていた。


(おもしろいことか…… 七塚先輩が思う面白い事って何だろう? その前に、あるのかな?)


 まぁ、正直なところは七塚先輩の存在自体が十分に面白い部類に入る気もするけれど。

 僕にとって見れば、そんなこと別に笑える事でもないのだけれどね。

 考える事などは色々とあるのだけれども、どこから整理して行けばいいものか。

 机の上で肘を立て頭を抱える僕の下へ、いつもの様に七塚先輩は教室に入って来た。

 そして、僕の机まで歩いてくると心配そうな面持ちで言う


「どうしたの? 桐崎君」

「え? まぁ、ちょっと考え事を……」

「あまり考え込むのも体に悪いわよ? 何かあるのなら言いなさいね」


(いや、そう言われてもですね……)


「返事は?」

「は、はぃ……」

「うん、よろしい♪」


 七塚先輩は嬉しそうに笑みを浮かべ言葉を返す

 大体、僕がどうしてここまで頭を悩ませなければならないのだろうか?

 そして、それに対し七塚先輩は何も思う事すらも感じてはいないだろう。

 これを故意的にしている訳でも無いのだから余計にたちが悪い。


(そうは言われても、僕を悩ませているのは七塚先輩の発言なんですけれどね……)


 等と言うことは恐ろしくて、とてもじゃないが本人には言えるはずもない。

 そんなことを言ってしまったら、僕はどうなるのか分かったもんじゃない。

 まったく、無茶振りをされた僕の悩みも七塚先輩の一言全てで、何を悩んでいたのかすら解らなくなってしまうのだ。こんなだから、いつまで経っても答えが出てこないのだろう。

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