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【 僕はペット 】

 どれだけ眠っていたのだろうか、目を覚ました時には昼過ぎになっていた。

 頭が痛い、それもそうだろう。あんな物を一気飲みしてしまったのだから。大体、七塚先輩も意地が悪い、絶対こうなると最初からわかっているはずなのに僕に無理やり飲ませるのだから。

 まったく、僕の体調を悪くさせているのは七塚先輩なのに、また悪化させるつもりなのだろうか。

 僕は気付く。枕隣にはベッドにもたれる様に腕枕を作り顔を埋め眠っている七塚先輩の姿。

 その姿は、とても幸せそうで何とも可愛らしい顔をしていた。この顔は偽りでは無く、きっと素の姿なのだろうと僕は思った。改めて僕は、七塚先輩の魅力を再認識する。


(やっぱり、七塚先輩は可愛いな)


 などと感慨深く思う僕ではあるが、これで中身が一般人思考ならば申し分は無い。

 まぁ、それは到底、無理な話かもしれないけれども


「……んぅ? あ、桐崎君。起きていたのね」

 眠たそうに目を擦りながら七塚先輩は顔を上げ僕に視線を向け言う

「はい。七塚先輩こそ、ずっとここに居たんですか?」

「心配に思うのは主人として当然でしょう?」

「そ、そう…… ですか?」

「そうよ。でも、あくまでペットとして心配している訳であって桐崎君を心配している訳では無いのよ? 勘違いしない様にね?」

「あ、はぃ……」


(勘違いしない様にと言われても『僕』と『ペット』の違いは何なの?)


 七塚先輩は、そう言い残すと立ち上がり僕に背を向けその場を離れて行った。

 何だろう、いつもと変わりのない態度をしているのに、どこか雰囲気が違った様な気がしたと思う。

 でも、七塚先輩に限ってそんな事はありえないであろうと感じる僕にとってみれば気のせいでしかない。

 だがその時、鈍感な僕は七塚先輩の言葉に気付いていなかったようで……


 

 ☆



 僕は、ようやくベッドと言うかごから解放されたかと思うと七塚先輩が近づいて来ては


「桐崎君、具合はどう?」

「はい、大分よくなりました」

「よし、じゃぁ散歩に行こうか?」

「はぃ?」


 七塚先輩は僕に笑顔で言う

 病み上がりで軽く頭痛がまだ残っているというのに何のお構いも無しだ。

 大体、七塚先輩は自分勝手過ぎます。と、思うけれど口に出して言うことが出来ない自分が悔しい。


「でも、どうして今から散歩に行くんですか?」

「ちょっとね、さっき買い物へ行った時におもしろい物を見つけたのよ」

「……」

「だから、桐崎君も一緒に行くわよ」


(だったら、七塚先輩だけで行けばいいのではないでしょうか?)


「お、おもしろいものって?」

「それは行ってみれば分かるわよ」


 これとない不安を胸に僕は七塚先輩へ連れられる様にしてアパートを出て行く。

 

 


 七塚先輩に連れられ到着した場所、そこはアパートの近くにある商店街。

 以前にソファーを無理やり買わせられそうになった場所である。


(ま、まさか…… また何かを買わせようと言うのか?)


 元より期待などはしていないが不安でいっぱいである。よそから見れば年頃の男女が二人仲良く買い物に来ている姿はデートに見えるだろう。こんなおかしな関係だなんて微塵も思うはずもない。

 そんな事を考えていると七塚先輩は、とある店の前で足を止めると僕の方へ振り返り


「着いたわよ」

「え? ここって……」


 見間違いではない。

 僕の視線の先にあった店の看板には『ペットショップ』の文字


「…………」


(こ、これは…… なんの冗談ですか?)


 僕の疑問など知ったことないと言わんばかりに七塚先輩は当然の如く言う


「さぁ、行きましょう♪」


 その顔は、とても楽しそうであった

 僕は七塚先輩に連れられ訳もわからずに渋々と店に入って行くと、七塚先輩は何の迷いも無く店の奥へと足を運ぶ。仕方なく僕は後ろをついて行く、心の中では不安でいっぱいだった。店内を見渡せばディスプレイに入れられた鳥、猫、犬などの動物達。客観的に見れば何の事のない光景も何故か、その動物達に同情してしまう僕が居る。

 そして、もしかしたら自分も同じように閉じ込められてしまうのだろうか?と思うと怖くなってしまう。


(おもしろい物とは、もしかして…… この事?)


 すると先頭を歩いていた七塚先輩は、あるコーナーで足を止めると僕の方へと振り返り


「桐崎君、ここよ」

「……え?」

 着いた先は、犬や猫のグッズコーナー。そして、そこで七塚先輩は商品を一つ手に取ると

「う~ん、やっぱり赤がいいかしら? それとも青かな? 桐崎君はどの色がいい?」

「いゃ、それって……」


 七塚先輩が悩みながら持っていた商品は首輪だった。

 どうやら僕の恐れていた事態が来てしまったらしい。

 まさか、本当に首輪まで買おうとするなんて……


「どの色と言われても…… 首輪ですよね? それ、どうするんですか?」

「買うのよ」


(そ、そんなハッキリと言われても……)


「でも…… 買ってどうするんですか?」

 聞くだけ無駄だけど

「もちろん、桐崎君用よ♪」

 ですよねぇ

 しかも、何故にそんな嬉しそうなんですか

「思ったのよ。やっぱり、ペットと言ったら首輪は必要よねぇ」

「……僕が嫌と言ってもですか?」

「だって拒否権は無いもの」

「ぃや…… でもですね……」


 僕の意見など通るはずもないのは重々承知なわけで、結局その首輪はお買い上げとなった。

 これでは本当にペット扱いだ。

 はぁ、僕はいったいどうなってしまうのだろうか?

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