【 七塚先輩との日常 】-2-
それからしばらくして、玄関のドアが開くと同時に七塚先輩の声がする。
「ただいま。ちゃんと寝てた?」
「はぃ……」
僕は言いつけどおりに七塚先輩が帰ってくるまで寝ていた。
何も起きようと思えば起きれたし、外出しようと思えばいくらでもそれは出来た。
でも、僕はそれをしなかった。何故なのか?そんなものは考えるまでもない。
嫌だとは言っても、七塚先輩の言葉に反論が出来るはずもないからだ。
まったく、本当にこんな自分が情けない。言い出す勇気もなく、実行する勇気も持ち合わせていない。
どうしてこんな、取り得も無いような僕の相手をするのかわからない。
僕の悩みなど感じることもなく七塚先輩はビニール袋から買ってきた薬を取り出すと
「はい、薬買ってきたから」
「ありがとうござ………… えっ?」
渡され手に取った物は小瓶に入った飲み物。漢方薬なのか、栄養ドリンクなのか。
答えはラベルに書いてあった
(……す、すっぽんエキス? 栄養ドリンクというか、これは……)
「これ飲んでね♪ きっと、元気になるわ」
「ぃゃ…… これは……」
(わざとなんですか? 七塚先輩、元気になるの意味が違いますよ……)
「どうしたの? 飲まないの?」
「でも、これ薬ではないですよね?」
「結果論よ、飲んで元気になるならいいじゃない?」
(か、確信犯だ……)
僕は時々、七塚先輩の笑顔が怖いと感じてしまう。少なくとも今はそう感じている。と、言うかこれを僕に飲ませて何をしろと言うのですか?絶対、わかって買ってきている。
むしろ、わかっていたなら何故にこんな物を僕に買ってくるのか?
流石の僕でも、これがどうゆう物かくらいわかっているわけで
(だって、これは…… いわゆる精力剤ですよね?)
僕に発情しろとでも言うのですか?
そして七塚先輩は、どうしてそんなにもニコニコとした笑顔を僕に向けてくるのだろうか?
これを飲んでナニをすればいいんですか?僕には七塚先輩の考えていることはサッパリだ。本当に心配して買ってきているのか?またも遊び半分で買ってきているのか?もしかしたら、僕は試されているのだろうか。
「わかりました、飲みますよ」
「よしよし」
意気込んでグイっと一気飲みしてみたわけなのだが、どうやら僕にはまだこれは早過ぎたらしい。
思いのほか刺激が強くて飲んだ直後、体が熱くなり、頭がクラクラしたかと思うと妙な刺激に興奮を覚えてしまう。
これが『元気』になるということなのだろうか。
「な、七塚先輩……」
「なに?」
(う~ん、変な気分だ……)
「……どうしたの? 桐崎君」
僕はついにやらかしてしまった。
何を思ったのか七塚先輩をベッドに押し倒し覆いかぶさる形となった。勿論、これには流石の七塚先輩も驚いていた様子であったが、やはりこうなる事を想定していたかのように冷静だった。興奮していたのは僕だけで、その姿は御主人様に発情している犬の様だ。
だが、そんな時も思っていたより持続はせず数分前までは溢れるほどに元気だった僕は、力尽きてしまったかのように七塚先輩に覆いかぶさりながら眠りについてしまった。
やはり僕にまだ早過ぎたようで、あまりにも刺激が強く逆に少しばかり疲労感を感じてしまうのかもしれない。そして結果、眠気が襲う。
もしかしたら、これも七塚先輩の策略なのだろうか?
なかなか寝ない僕を寝かせようと、こんな紛らわしく、回りくどい方法で眠らせるなんて。でも、もし僕が眠らないであのまま起きていたら七塚先輩はどうするつもりだったのだろうか?
何だろう、でも少しだけ惜しいことをした様な気分だ。