固有能力覚醒の儀
とある教室の中
胸の奥で、鼓動がやけに騒がしい。
氷輪 彗聖は、これまで何事も手を抜いたことがない。地道な努力を積み重ねることを当たり前とし、与えられたことには必ず全力で向き合う――そんな真面目な性格の持ち主だった。だからこそ、明日という日からも逃げる気は一切なかった。
(明日は固有スキルがわかる日か……緊張するな。できれば、いいスキルが当たってほしい)
教室の空気はいつもと違っていた。ざわついているのに、どこか静かで、嵐の前のような妙な張り詰め方をしている。
「はい、明日はいよいよ成人式です」
担任の声が教室に響く。
「皆さんは固有能力を覚醒します。どのランクのスキルが発現しても、必ず誇りを持ちなさい」
その言葉は優しいようでいて、どこか現実の重さを含んでいた。
先生は黒板にランクを書きながら続ける。
固有能力は下から、ノーマル、レア、エピック、レジェンド、そしてゴット。
同時に魔力のランクも測定され、ごく稀に“才能覚醒”が起きることもある。
さらに、固有能力の覚醒と同時に職業も発現する。
こちらはノーマル、レア、エピック、レジェンド、そしてユニーク。
「ユニーク職業は最上位ですが、性能の振れ幅が非常に大きい。扱い次第では最強にも最弱にもなり得ます」
説明は続いたが、頭に入ってくるのは半分ほどだった。
皆、明日のことを考えているのだろう。
やがて先生は話を締めた。
「今日はこれで終わりです。明日に備えてしっかり休みなさい」
――そして、翌日。
空はやけに澄んでいて、現実感が薄かった。
「さて、今日は覚醒の儀だ。名前を呼ばれた順に魔法陣に入れ」
講堂の中央には、複数の魔導士が展開した巨大な魔法陣が輝いている。まるで静かに息をしているかのようだった。
「出席番号1番、安倍」
安倍がゆっくりと魔法陣に入る。
淡い光が足元から立ち上がり、やがて彼の体を包み込んだ。
光が収まると、手の甲に紋章が浮かび上がっている。
先生が確認し、告げた。
「固有能力はレアランク『豪剣』。職業はノーマルランク『剣士』だ。……その力を最大限に活かせ」
その瞬間、安倍の顔が崩れた。
涙がぽろぽろと零れ落ちる。
だが儀式は止まらない。先生は淡々と次の名前を呼ぶ。
エピックの火炎魔導士。
レジェンド職業の剣聖。
歓声と落胆が交互に渦巻く中、流れは止まらず進んでいく。
そして――
「次、氷輪」
心臓が一拍、強く跳ねた。
「はい」
魔法陣に足を踏み入れた瞬間だった。
――光が、爆ぜた。
今までとは明らかに違う。
魔法陣全体が呼応するように輝き、空気が震える。
やがて光が収まり、静寂が落ちる。
先生がこちらを見て、目を見開いた。
「ひょっ……氷輪、お前……!」
言葉が一瞬詰まり、それでもすぐに声を張り上げる。
「固有能力は――ゴットランク『氷聖』!!」
どよめきが一斉に広がる。
「さらに職業はユニーク『氷聖の支配者』だ!」
空気が一気に変わった。
驚き、畏れ、羨望――様々な感情が一斉に向けられる。
「ゴットランクだけでも極めて稀だ……それを職業と同時にとは……おめでとう!」
(え、ちょっと待て……ゴット?)
理解が追いつかないまま、思考だけが跳ね回る。
(やばいだろこれ……当たりどころか大当たりじゃん)
クラスの視線が突き刺さる。
けれど、不思議と嫌な感じはしない。ただ現実味がないだけだ。
その後、全員で魔力測定の部屋へ移動することになった。
水晶が中央に置かれている。
「順に触れろ。魔力ランクが表示される」
自分の番が来る。
そっと手を置いた瞬間、水晶が強く光った。
まるで中に星でも閉じ込めたかのように輝き、やがて文字が浮かび上がる。
――ゴット。
(……は?)
一瞬、思考が停止した。
(スキルも職業もゴット級で、魔力まで?)
背筋に、ぞくりと冷たいものが走る。
(……いや、さすがに出来すぎだろ。嬉しいけど、ちょっと怖いなこれ)
ざわめきが再び広がる中、測定は終了した。
すべてが終わり、教室へ戻る。
窓の外はいつもと同じ景色なのに、世界が少し違って見えた。
――何かが、確実に始まっていた。




