Mission6:バトルプルーフ
俺が〈トルバーⅠ〉を構えると、視界に○の中に十字の入った─いわゆるターゲットレティクルが浮かぶ。
そのターゲットレティクルの円を、ホーンラビット(仮)を囲む四角い枠内に合わせると─
『ピピ…、ピ』
(なるほどな。)
─カジュアル勢向けのシューティングゲーム程では無いが、ある程度はそういった層がプレイすることを想定しているのか、【 form 】社製ゲームにしては、かなり易しくなるような配慮だ。
俺としてもこの程度のアシストはむしろありがたいが、変態共からは「温い!」という不評が出ること間違い無しだ。
だからこそ─
(…やっぱり。アシストのON・OFFが出来る。)
『マスター、データに無い〈AIM〉です』
─俺はアシストを切るつもりが無いにもかかわらず、ゲームのシステムウィンドウの確認確認に夢中で、ツクヨミの言葉を聞き流す。
だって、始めたばかりのゲームで、所見の敵のデータが分からないのは当たり前だろう?
(ちと距離があるが…)
離れているだけで無く、ウサギ型エネミーらしく跳ねて上下に狙いがブレるが、ホーンラビット(仮)を囲む四角は、半分以上がターゲットレティクルに収まっている。
『ピーッ』
「先手必勝!」
俺はそう叫び、〈トルバーⅠ〉のトリガーを─
『先ずはエネミーのスキャンを─』
「えっ!?」
─引く瞬間、ツクヨミが何か重要そうなことを言っていることに気付いたが、既に脳からGOサインが出た指の動きは止まらない。
カチッ
「あ。」
シュボッ!
『は?』
理由は異なれど…揃って間抜けな声を漏らす、俺とツクヨミ。
そして俺とツクヨミが見守る中、〈トルバーⅠ〉から発射された弾は、真っ直ぐに標的に向かい─
チュドーンッ!
『ピッ』
[〈unknown〉1KILL ]
─爆煙が晴れたそこに、ホーンラビット(仮)の姿は欠片も無くなっていたのであった。
「えっ!?消し飛ば、ってえぇ…。」
(火力高過ぎないか…?)
いくら最序盤の雑魚敵とはいえ、一撃で跡形も残らないなど、初期武器で出て良い威力では無い。
〈 prosthesis gear 〉の開発理由的には〈AIM〉を倒せるに越したことは無いのだろうが、ゲームバランスに不安を覚える。
『…流石はマスター。
説明する間も無い〈AIM〉の撃破、お見事です。』
〈トルバーⅠ〉の火力に戦慄く俺に、ツクヨミの嫌味を多分に含んだ称賛が突き刺さる。
「いや…ツクヨミ、今のはちゃう」
『ピコピコッ♪』
俺がツクヨミに弁明しようとしたところに、今までに聞いたことの無い、リズミカルな通知音。
『〈ELO〉よりメッセージを受信。
表示します。』
俺の言い訳など聞かぬとばかりに、俺に有無を言わせず〈ELO〉とやらからのメッセージを開くツクヨミ。
[やあ、勇敢なる第一次募集の傭兵諸君。
この度の{オペレーション:return to earth}へ
の参加に、我々から多大なる感謝を送ろう。
しかし傭兵諸君には言葉よりも、現物の方が遥か
に価値があることだろう。
そこで我々は諸君らへの感謝を示すべく、各企業
に協力を要請し、開発中の装備を配布することと
した。
是非とも、遠慮せずに受け取ってくれたまえ。]
…つまりこのメッセージの送り主は【 prosthetic war 】の運営で、初回版特典として装備が貰えるということだろうか?
『ピッ!』
『サプライボックス接近。』
と、ツクヨミがアナウンスするや否や─
ヒュー…、ズドンッ!
「うわっ!?危ね!」
─ゲーム的な処理なのは理解出来るが、一瞬にして目の前に落ちて来た金属の箱に、俺は驚いて肩を跳ねさせる。
『解錠コード送信、………ロックの解除に成功。』
カパッ
「おおっ!…おぉ?」
思わぬ特典に俺は喜びも露に、開いたサプライボックスの中を覗き込んだのだが、肝心の中身に俺の感情は困惑へと変わる。
「これは、カタナ…か?」
刀と言えば、ファンタジー系のゲームでも一定数の使い手が居る、人気武器種の一つである。
タイトルによっては、ゲーム後半にならないと入手出来なかったり、ジョブ専用武器であったりと、何かと出し渋られがちな武器が特典とはいえ、こんな序盤から入手出来るとは…。
『ピピッ』
[〈試製対装甲超硬片刃ブレード〉]
[ damage 50 ATK 3 ]
[ capacity +15% condition 100% ]
性能としては〈トルバーⅠ〉の半分のダメージになっているが、〈トルバーⅠ〉は現状だとオーバーキルなので、50でも十分なダメージ量だ。
そして新品なので武器耐久値は満タンで、〈トルバーⅠ〉より僅かに軽い。
そして謎のATK値は2から3に上がっている。
「対装甲」というワードから推測するに、おそらくATK値とは、「攻撃対象にどれだけダメージを与えられるか」という数値なのだろう。
つまり、ATK値がそれぞれ2と3のダメージ50の武器が2つあった時、ATK値が3の方が対象により高いダメージを与えられる…筈。
最序盤の雑魚敵が初期武器のATK値以上の装甲を持っているとは考えにくく、下手したらダメージ量は〈トルバーⅠ〉以上になる可能性もある。
しかし「斬撃で敵が消し飛ぶ」なんてファンタジーなことは、【 prosthetic war 】では起こり得ないだろう。
しかも近接武器には、当たり前ながら弾切れが無いという特徴がある。
『現在の装備ではキャパシティオーバーです。
現在の装備を解除・回収して、習得した装備に変更しますか?』
「いや、今のままで良い。」
シュンッ
俺がツクヨミにそう答えると、箱の中の刀は光の粒子となって消失した。
『…マイガレージへの転送、完了しました。』
中々に良い武器ではあるが、鈍足な〈チェリハーパ〉に近接武器は、正直言って無駄である。
レア武器ではあるが、コイツを一番使いこなせるであろう〈ポラリス〉乗りとのトレードの機会まで、俺の倉庫の肥やしになって貰おう。
(…まっ、「その機会があれば」な。)
ソロで【 prosthetic war 】を満喫するつもりの俺に、果たしてトレードの機会など訪れるのであろうか?
『ピピ!』
『マスター、また〈AIM〉が接近して来ます。
…今度はエネミースキャンを使用する前に消し飛ばさないで下さいね?』
「分かってる、分かったから許してくれって!」
ギッ、ギギ…
(お、遅ぇ…。)
ツクヨミの釘刺しから逃れるように歩き出そうとして、亀の方がまだ速いであろう移動速度に、俺は〈チェリハーパ〉を選んだことを少し後悔したのであった。
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