Mission7:いのちだいじに
亀より遅い歩みに四苦八苦すること暫く。
『ピピ!』
「はぁ…。」
カチッ、ボシュッ!
敵の接近を知らせる通知音が鳴ると、俺はマーカーが示す方に適当に〈トルバーⅠ〉を撃つ。
すると─
チュドーン!
『ピッ』
[〈ランスホーンラビット〉1KILL]
─爆発の余波に捲き込まれたMOB〈AIM〉が、良い感じに破壊されてその残骸を残す。
『〈ランスホーンラビット〉KILL 。』
『パパーンッ♪』
[ 5 Chain !]
『回収マーカーを設置して下さい。』
「………。」
(これで5体目か…。)
ゴウッ!ギギギ…、ガシュンッ
俺は底を這うテンションのまま、クールタイムが明ける毎にブーストを併用し、倒した〈ランスホーンラビット〉の残骸に近寄る。
俺のテンションがこうも低いのは、敵との戦闘時間に対し、倒した〈AIM〉からマテリアを回収するため、回収マーカーを設置するまでの時間の方が長い…というのも理由の一部ではある。
だがそうなる原因の移動速度に関しては、今回に限っては俺のうっかりが最大の原因なので、まだ諦めもつく。
しかし同じく俺のうっかりが主な原因とはいえ、中々諦めがつかない事もある。
俺がそれに気付いたのは1体目の〈ランスホーンラビット〉(以後略称:RHラビット)に遭遇した時。
その時遭遇し、ツクヨミの言う通りスキャンした〈RHラビット〉は、最初に遭遇したホーンラビット(仮)と、角の造形が異なっていたのだ。
その時はまだ、自分を無理やりにでも誤魔化すことが出来た。
しかし2体目の〈RHラビット〉に遭遇したことで、俺は辛い現実に直面することとなった。
(まさか、記念すべきファーストエネミーがまさかの“レア”エネミーとか…。)
その事実を知った瞬間、俺はまさに「そんなん有りかよ!?」と叫んだのであった。
これが小説なんかだと「レア武器ゲット!」からの無双スタートなのだが、生憎と俺を無双させてくれるレア武器は、俺が自分自身の手で消し飛ばしてしまった。
そして消し飛ばしたということは回収マーカーも設置出来ないわけで、つまりレアエネミーに遭遇したのに、利益は一切ナシの0!
むしろ、10発しか無い弾の内1発を消費した分だけ損しかしていないまである。
そんなことを考えていれば、ようやっとマーカーを設置可能な距離まで近付けた。
『カチッ』
ポイッ
これよりも弾を持てと思わずにはいられないほど、何処からともなく出てくる回収マーカーのスイッチを入れ、〈RHラビット〉の残骸の上に放る。
『ピコン!』
『回収マーカーの設置を確認。
3秒後に回収が行われます。』
そしてツクヨミが「3秒後」と言ったので、きっかり3秒後に光の粒子となって消える〈RHラビット〉の残骸。
『回収完了。
マスターのガレージに10Mtが送られました。』
「Mt」というのは「マテリア」の単位で、マテリアはクラフトの材料になる他、【 prosthetic war 】世界の通貨的な役割を果たす。
…因みに〈トルバーⅠ〉で使う弾をクラフトするには5Mtが必要で、時間を惜しんで買うとするなら8Mtとのこと。
〈RHラビット〉1体につき、最低2Mtの利益しか出ないわけだ。
(まぁ、赤字にならんだけマシか…。)
とはいえ、Mtが必要になるのは弾だけでは無い。
ログアウト中もクラフトが出来る(らしい)ことを考えると弾を買う意義は無く、ショップの醍醐味はクラフトでは作成不可能な物品の売買にある。
その最たる物が、義体や武器を強化出来る〈カスタムチップ〉である。
そのお値段は購入回数が増える毎に増すらしく、初回購入価格はなんと1,000Mt。
〈RHラビット〉の利益で考えると200体分である。
〈カスタムチップ〉はショップ以外でも入手は可能らしく、ショップ以外の入手方法の一つがレアエネミーからの回収。
俺のテンションが底を這うのも納得だろう?
『ビッ!』
[※ caution ※]
『マスター、エネルギー残量残り10%です。』
ツクヨミのアナウンスに「もうそんなに?」と内心で驚く俺だったが、良く良く考えれば、クールタイムが明ける毎にブーストを使用していれば、そりゃ燃料も尽きるか…。
「そうか…。」
『帰還しますか?』
まだ弾はあるが、エネルギー切れになれば「撃墜」─他のゲームで言う「死亡」ほどのペナルティでは無いものの、義体の特殊回収費用として所持Mtの1割をロストする。
因みに「撃墜」は所持Mtの3割のロスト、…特殊回収費用に加えて修理費用が掛かるということらしい。
使い切れ無かった支給品の弾はそのまま「ポッケナイナイ」らしいので、ショップ価格40Mt分丸儲けだ。
結論。
このまま無茶する理由は俺には一つも無く、帰還後は食事も兼ねてログアウトすることにしよう。
「じゃあ頼む、ツクヨミ。」
『了解しました、マスター。
帰還シグナル発信、10秒後に帰還します。』
そしてツクヨミが「10秒後」と言ったのできっかり10秒後に帰還した俺は、そのまま【 prosthetic war 】からログアウトしたのであった。
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