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「電話ボックスでお姉さんと話したのか?」
家に遊びに来ていた近所のおじいちゃんが神妙な面持ちで私に話しかけて来た。
「うん…」
「その声はどんな声だった?」
「えっとぉ――」
「ちょっと桜井さん、変に話を合わせないでください!」
答えようとする私を遮ってママがおじいちゃんに文句を言う。
いつもならここで笑ってごまかすおじいちゃんだが、今回は表情がいつもと違っていた。
吸っていた煙草を一口
そして、ゆっくりと話を始めた。
「昔、そこには確かに電話ボックスがあったんだよ…」
「えっ…」
おじいちゃんの言葉にママの血の気が引くのが分かった。
おじいちゃんの話はこうだった――
昔、この道には本当に電話ボックスがあったんだ。
斎藤さんの娘さんが若くして妊娠した時、
その相手の大学生と、そこで話をしていたらしい。
娘さんはその電話でひどいフラれ方をして……
そのまま帰って来なかった。
電話ボックスの近くでは、あとから何人も行方が分からなくなり、
村は気味悪がってボックスを撤去した。
斎藤さんはその出来事を境に、痴ほうが進んでね。
生まれてくるはずだった孫を待つように、
うさぎのぬいぐるみを作り続けているんだ。
―――
「その… うさぎのぬいぐるみ… 美幸ちゃん貰ってたわよね?」
「うん…」
「処分しましょう!!」
「待って!!」
家に入ろうとするママを止める。
そのうさぎのぬいぐるみは私のお気に入りなのだ。
「ちょっと!」
ママが私に強めに声を上げる。
「まぁまぁ…」
そんなママをおじいちゃんが宥める。
「桜井さん! だって…遺書のこと、聞いたでしょう?
そんなの置いていたら、また何かあったらどうするのよ!」
「優しく宥めてくれたんだろ? 斎藤さんの娘はな… 優しい子だったんだよ。
もし、それが幽霊だったというなら、泣く美幸ちゃんを泣かせたくは無かったんだろう。
きっと見守ってくれるよ。」
―――――――――
斎藤さんの遺書は責任逃れをした彼氏への恨みだけではなく、
"結婚前に妊娠した事"に対するこの部落の人間への恨みも綴られていたらしい。
首を吊っての自殺に3件もの原因不明の失踪事件――
そこから"首吊り女に連れていかれる"と言う噂が広がった。
もしも転んだらその場で右手の人差し指を左足で踏み、「首吊り拳万」と一息で10回声に出さないといけない。
と言う話はその自殺しようとしたお姉さんを「首を吊るな!!」と強めに止めてあげる優しさが必要だったという部落の人の教えから来ていたようだ。
―――――――――
それ以来、森の道に電話ボックスが現れる事は無かった。
しかし、時々私が落ち込みながらこの道を歩いていると暖かくて優しい風が吹く。
その風に当たると私は自然と心が落ち着くのであった。




