#1
「さんかくさん、さんかくさん、お話ひとつくださいな」
そう言うと、ちょうどあたしの手の中にピンクの包み紙のキャンディが転がった。
さんかくさんはろうそく頭のあしながだ。
部屋の電気が半分くらいの明るさになると、いつも味のしないキャンディをくれる。キャンディを口に放り込むとなんだか身体がぽかぽかしてきて、ゆらゆらしているとさんかくさんが頭を撫でながらおとぎ話をきかせてくれる。さんかくさんの話は面白くないけれど、見た目のわりにふわふわした声をきいているとあたしはいつの間にかベッドの中でおきものになっているのだ。
次の日はだいたい火曜日だったので、さんかくさんが帰って来るまでケーキに乗ったあらざんをちょうど均等に食べ終わるように挑戦した。時計の針が左手の人差し指と親指とをびしっと開いた時と同じかたちになると、さんかくさんは2冊くらい本を持って帰ってくる。さんかくさんが持ってきてくれた本は1週間以内に取り上げられてしまうので、それまでにすべて読み終わるのがあたしの仕事らしい。
その日のさんかくさんはなんだかちょっと怖かった。とけたろうがぽたぽたとあたしの手に落ちた。やけどするんじゃないかと手を引いたら、さんかくさんはびくっとして離れていってしまった。
キャンディはもうもらえなかった。