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人生に疲れた俺の異世界サバイバル記  作者: Khanhtran
第1巻:月光の下の狼の遠吠え
5/10

加護…なのか?

タシギの背骨に、ぞくりと冷たいものが走った。まるで誰かが石の刃を骨髄に当てたかのような鋭い寒気だ。掲げていた本を持つ手が空中で止まり、タシギは首を傾けて洞の入口へ視線を滑らせる。低く長い灰色の影が、雨の糸の下で体を伏せ、まるで飛び出す刻を待っているかのようだった。


――あれだ。


あの狼。


「重傷を負ったら狩りをやめるはずだろ…?」

むき出しの思考は、役に立たない呪文みたいに空回りする。痩せてもいない、飢えてもいない。濡れた毛並みは逆に厚みを増し、その歩様は窮した者のそれではない。では、なぜ? あるいは異世界の狼は――退かない、怯まない、そういう性なのか。


唐突に、赤いフレームがぱっと点る。瞼に直接スタンプを押しつけられたみたいに乱暴だ。


【通知:女神の加護は終了しました】


刹那、天井が低くなったみたいに圧が降りる。周囲の空気はコンクリートのように重く、雨の一本一本が針に変わり、全ての毛穴が「見られている」と悟る。目ではない。もっと本能的なロックオン――大きく、古い何かの縄張りに、今まさに踏み込んだ時の感覚。


「なんだよ……“加護”って?」

笑おうとしても喉が紙みたいに乾いている。「回復? それとも匂いを隠す? いや――全部か?」

ステータスを開く。変わらない。HP、メモ、受動回復の行。インデックスは?

「Index。」

薄いガラス板がすぐ現れ、微かな呼吸のように震える。周囲を一巡して、灰色の影にピンを打つ。途切れていない。ブレもない。


「じゃあ“加護”は……昨夜からずっと俺を覆っていたってことか?」

その考えは、胃の底に釘を打ち込むみたいに重く沈んだ。「しかも、そんなものがあることすら知らなかった。女神って誰だよ? 名前は? 代価は? 有効期限は――ああ、ちょうど今切れましたってか。」


ここまで来れば、嘆いても得はない。彼は深く息を吸い、強く吐き出し、パニックを押さえ込む。ずれた椅子を壁際に押し戻すみたいに、秩序が体内に戻る。情報を洗い直す。狼の鼻は潰れている。片目は血で曇っている――つまり残るのは片目、両耳、四肢、そして蓄積された経験のすべて。「死角はある」と彼は己に言い聞かせる。「いくらでも。利用するか、死ぬかだ。」


武器。


「戦士は武器を持つ。」

ひらりと光るように、その発想が脳裏をよぎる。タシギは壁にもたれた“遺体”――いや、骨へと滲むように身を滑らせた。枯れた指がまだ何かを握っている。雨の中を歩き方を覚えたての虫のように、最小の動きで近づく。


カチ。


短剣だ。鈍い鋼灰色、尖った刃、肩のあたりが水滴のようにふくらみ、鍔には獅子の紋。よく見ると、何度も使われた切り傷が入っている。「いいね」と彼は囁く。だが美は関係ない。刃は刃。


革の鎧? もちろんある。骨に掛かっているそれだ。彼はそっと各部を外す。湿りと革の古い匂いが鼻を打つ。十四歳の身体には軽装でもそこそこ重い。嵩張る。動けば擦れる。「上着だけでいい」と彼は決める。「胸と脇腹を守る。」

あの爪が腰に突き刺さった感覚が蘇り、ぞわりと身震いが走る。たしかに擦れる音は狼に位置を知らせかねない。だが着なければ、あの歯は肺に届く。


彼はもう一度、呼吸の底へ沈む。破れ布のフードを額へ押し上げ、視界を窒息させない。短剣は右手に馴染む。左手は――空。床に角の立った石? 都合がいい。膝のそばへ。


雨が葉端からつう、と首筋へ這い入る。彼は息を殺し、Indexに道を開かせる。


Index「東―北東、9~10メートル。嗅いでいる。風向きはこっちに有利。」


タシギは背を丸め、半歩だけ左へ。岩の縞模様に身体の輪郭を溶かす。一歩ごとに、喉が大きく息を吸わないよう祈る。


離れたところで、ぱち、と音。雨じゃない。爪が根をかく音だ。


Index「接近は“弧切り”。最後に切り返す。」


「弧切り?」

本能で理解する。まっすぐは来ない。片目の視野に合わせて弧を描き、寸前で切り返し、獲物の鈍い反射を抉り取る。「片目……なら切り返すのは“見える側”だ。」つまり――自分の右側。


タシギは音のない乾いた笑いを漏らした。「よし。狩猟ゲームは多少やったことがある……」


灰の影が滑る。案の定、弧。背の雨筋が左右に分かれて流れる。距離7、6――彼は膝を落とし、左肩を引いて胸を“おとり”として晒し、右手の刃はわざと落としそうに見せる。


狼が切り返す。


Index「今だ。」


彼は左へ“転ぶ”。子どもが足を滑らせたみたいに――だが刃先は、間抜けな直線をすっと“上へ”。

空気が弦のように震え、熱く湿った抵抗に止められる。首じゃない。肩だ。分厚い毛皮を割り、肩甲の下をかすめて刺さり、引っかかった。狼が吠える。レコードの針が滑るみたいに音程が崩れる。薙ぎ払う力は投げられた若木のようで、タシギは半回転して背を岩に打つ。


「落ち着け、落ち着け!」

頭が叫ぶ。手はなおも柄を握る。引くか? 噛んだ。押すか? 獣が唸って跳ね上げる。雨で全てが異様に滑る。彼は転げた。


Index「顎を避けろ。次は“脛を断つ”。」


「助かった……」

Indexがなければ、顎の一撃で引き裂かれていただろう。まして“脛を狙え”なんて発想、今の彼に出せたかどうか。タシギはIndexを完全に信じ、いったん柄を捨てる――武器を手放すのは致命的だ。だが獣と“つながったまま”はもっと速く死ぬ。

半秒の素手。角石をつかみ、迫る牙の主の右前脚の関節へ叩き込む――カチ。折れない。だが狼がよろける。顎が落ち、革の裾を噛み裂いただけで済む。


彼は身をくねらせ、右手で短剣を奪い返す。喉がからからだ。――奴の喉が、だ。

「刺せ。」思考が手に流れ込む。「刺せ。」


だが手が、ほんの一瞬、止まった。恥ずかしいくらい短い時間。

長い“人間”としての年月――目を持つ生き物を、殺す。前回は殺したわけではない。ただ“逃げた”。今回は……


Index「好機0.7秒。刺線:顎下→咽。」


彼を救ったのは数値だ。0.7秒。


刃は走る。完璧な軌道ではない。下顎の縁をわずかにかすめ、その後ろ――舌骨と気管の柔らかな隙間へ。全体重を杭のように押し込む。狼の身体がビクリと跳ね、呼吸が潰れて、筋肉の塊へと硬直し、脚がめちゃくちゃに掻く。血が噴く。鍋の湯みたいに熱い。

真紅の膜がタシギの顔にかかる。やがて口へも滑り込み、森特有の生臭さが舌に広がる。残ったほうの目が見開かれ、そして、何も見ないまま滑っていった。


「……ごめん。」

言ってから、自分が口にしたと気付く。馬鹿げている。滑稽だ。だが、その一言がなければ裂けてしまいそうな、目に見えない自分の一片があった。


獣は静かになり、やがて、崩れかけの水袋のような重さだけを残す。雨は腕の赤を洗い流す。

全身が震える。寒さのせいじゃない。“殺した”からだ。胃が反転する。歯を噛みしめ、吐き気を押し殺す。


ステータスが点った。

HP:57%


「まだ走れる。」

彼は顔の感情を、曇ったガラスを拭うみたいに消した。「行く。」


洞へ戻り、短剣を腰紐へ、残りの革鎧――腕、肩、腹帯――を身につける。それから狼の死骸に屈む。「剥ぐ。」と声に出す。1+1の計算式のように。ここで“正規手順”にこだわる時間はない。速さだけが正義だ。


首周りを一周切る。腹から尾へ真一文字。四本の脚に輪を入れ、靴下を脱がすみたいに引き抜く。脂がぬるぬる滑る。爪が革にこすれてコツコツ鳴る。膝で胴を押さえ、粘る部分は力任せに剥ぐ。雨は洗うが、重さも倍にする。

皮は熟れ過ぎた果物の皮みたいに、内側に銀白の肉を張り付かせたまま落ちてくる。誰かに習ったわけじゃない。安っぽいサバイバル動画の記憶――と、絶望が身体を動かした。


狼皮は黒く艶めく束になった。彼はそれを巻き、仮の樹皮紐で括り、肩へ。重い。臭い。だが――価値。

「行け。」振り返らない。この洞――高価で、美しかったが、終わりだ。


雨は森中を走り回り、道という道は消えている。彼は左手の岩壁を選び、沿い、低い茂みを石の際を泳ぐ魚みたいに抜ける。影と思ってぎくりとすると、倒木だったりする。呼吸は4―2―4―2がベルトのように回り続ける。とはいえ、濡れた皮と水を吸った鎧は歩くたびに鉛を増やす。古い葉の袋は悲鳴を上げ始め、重さに耐えられない。

「そりゃそうだろ」歯の隙間から洩れる。「大学で“耐荷重袋”なんて教わらない。」


腰の高さに小さな岩穴が口を開けていた。半開きの唇みたいに。もぐり込む。奥行きは一丈ちょっと。風を切り、斜め雨を遮るには十分。床は乾き気味――それでいい。


皮の束を床に落とす。むっとした熱気と湿りとたんぱくと血の匂いが立つ。短剣を膝に横たえ、皮を広げる。タシギは手を動かし始める。遠くで伸び始めた遠吠えを、背景の弦のように切り離して。


手順一:毛を剃る。

アルカリ灰も、幅広のシェーバーもない。あるのは短剣の刃と、薄い石の板だけ。見栄のために凝ったものを作る気はない。必要なのは――使える袋。耐える表面があれば良い。なら中央を剃り、縁の毛は残す。


刃が毛並みに逆らって走る。灰黒の束がはらはら落ちる。血で固まり雨を吸った部分は、刃が黒板を引っかくみたいにキイと鳴く。顔をしかめるが、手は止めない。破れそうな箇所はいったん切り捨て、これから作る“口”が整うよう形を整える。


手順二:脂を削ぐ。

柔く、象牙色。下は赤い肉。帯にして別置きする。昨日Indexが言っていた文字列が手を思い出させる――「脂を“勝たせる”=防湿」。鍋はない。火もない。だが塗ることはできる。水が抜ければ仮の撥水層になる。脂の塊は石の上にまとめ、壁から離して置く。


手順三:形を作る。

剃った一枚を胴にする。二つ折りにして内面を合わせる。縁は紐を通す分だけ残す。口は広めにして折り返せるように。穴は刃先で等間隔――指二本分――に開ける。糸はない――なら自分で撚る。皮の縁から長い条を切り出し、歯――脂の味が薄い――と手で撚って引き延ばす。


針はない。代わりに狼の趾骨から小さな骨針を削る――まだ湿っている――導穴を開け、皮紐を通す。一目ごとに一呼吸。外の風は長く鳴り、遠吠えを軒の風鈴みたいにぶら下げる。鈴ひとつひとつが喉だ。


手順四:脂を塗る。

表がいくらか乾いたら、掌で薄く延ばして塗る――とくに“空に晒す面”と縫い目。艶が出て、重くなる。だがその代わりに水はすぐには染みない。最後に口の締め紐を通し、森の綱みたいに撚る。


どれくらいかかったか、見当をつけるのが怖い。

「よし。」

彼は息を吐き、袋を壁に立て掛けてさらに乾かす。余りの皮は毛縁の摩擦を頼りに高く吊るす。刃は土に突き立て、尖端を外へ向けておく。引き抜きやすいように。


遠吠えが長く、太くなる。遠いとも近いともつかない。

「狩り時だ。」

森はちょうど、低く濃い拍を刻みだす。外へ? 駄目だ。絶対に。今この時刻はなおのこと。


ちょうどその頃、記憶の糸に引かれたみたいに、タシギは鞄に突っ込んだ本のことを思い出す――『影狼闘法』。石で手を拭い、取り出す。黒い革装は水で柔たく、角の銀は鱗みたいに剝げている。開く。


中の文字は乾いて、締まっている。概念を網で編んだみたいな語り口。読むと、頭の中で誰かの声が聞こえる。Indexとは違う、静かでゆるい声。

曰く:体の道を行く者は――たとえ魔力がなくても――体内に気を宿す。それは意志と、鍛錬や戦いで蓄えられる積層から生まれる。闘気。色のない火。筋と意の境界にある。鍛えるには闘法――身と意と力の運用法――が要る。流派ごとに“気”は異なる。一挙手一投足が“気”の練り方になる。


影狼――それは狼の“冷たさ”と“鋭さ”の模倣。狼気は下腹に凝り、脊柱を上がり、蔵―発―噛―抜の拍で四肢に散る。静かに行き、突然に至る。

手を出すときは揺れない。

引くときは絡まない。

添えられた図は骨格のように素朴だが、芯を食っている。三歩、二転、一撃。砂浜の薄い足跡みたい――簡単そうに見えて、辿れば難しさが分かる。


タシギは指で薄い矢印をなぞる。口の中で短い注釈をなぞる。「尾は垂れ、目は冷え、踵は柔く、腰は沈む。」頷く。脳の溝に、何かがスライドしてカチとはまる。油を差したみたいに滑らかだ。


巻末、扉を閉じるような二行が、全てを括る。

「この冊子は“狼気”の練り方を指し示すに過ぎない。本当の闘気の覚醒には――長い道のりが要る。」


肩透かし。もちろん、だ。タシギは自嘲する。「すぐ旨味だけ欲しかったんだろ?」

笑いは薄い。遠吠えに空気を抜かれる。彼は本を畳み、狼皮をもう少し高く吊って風を通す。

そして、動きを試すために一部の革を外す。


“破る”“放つ”はない。“気が出る”感じもない。やるのは身を置くことだけ。裸足で乾いた床を踏み、踵は猫の腹に触れるみたいに柔らかく。腰は沈め、肩を落とし、首の先に糸で頭頂をつなぐ。目は暗がりの“点”を拾い、ひと所に固執しない。左、奇、右――∞を描くように三歩。上体は脚につられず、手は杯の水が波に触れて縁だけ揺らすみたいに、かすかに。


三十分。


腰のどこかの筋が、弦みたいに張って止めた。成果?

「少しだけ……強くなった、か。」

頭の重さが石半分軽い。呼吸は半節ほど深い。読んできた小説みたいに“気”がどくどく流れる感覚はない。熱も、穴が開く感じも、ない。あるのは――軸が戻ること。

「この本、意味ないってこと?」とぼやく。すぐ自分で否定する。「本に書いてあった。気は鍛錬で積む。近道はない。」


なら――瞑想だ。

雨は均一に奏で続ける。バックでエラー修復を走らせるプログラムみたいに。座る。背を岩へ。呼吸は穏やかに、どこか泰然と。腹は温、意は均。魔力を探さない。狼気を狩らない。ただ座る。置く。立てる。保つ。手放す。


時間は滑り、体を這っていく。


目を開けると、洞の明かりは薄灰から濃灰へ――“夕暮れ”の灰だ。

ステータスが疲れた瞬きと共に立ち上がる。


HP:63%

受動回復:+2%/時

(経過時間:約3時間)


「三時間。」鼻梁を押さえる。外の雨はまだ止まない。むしろ重くなった。蛇口をもう一本足したみたいに。森の濃さはさらに深まり、風は濡れた砥石に刃を当てる音を立てる。遠吠えは定規があれば夜の縁まで届くだろう。

入口――枝と泥で偽装したその幕は、雨に剝がされ、人間特有の直線が少しずつ露わになっていく。


「今夜は……長い。」

彼は声にしない。ただ細い吐息に変える。その中には狼脂の匂い、濡れ革の匂い、冷えた石の匂い、そして――目を持つものを初めて殺した後の、自分自身の匂いが混じっている。


***


身体が水を求め始める。彼は新しい革袋で岩縁の滴を受ける。葉の袋よりずっといい――水は勝手に染み出ず、手も温む。袋の縁に脂を指で薄く塗り、手首に滴らないよう馴染ませる。小さな“冗談”みたいな作業だ。でも“道具がある”という感覚が、無駄な鼓動を少し鎮める。生き延びるとは、時に――水を入れられる袋のことだ。


武器を点検する。短剣はまだ鋭い――雨が血を洗い流してくれた。柄は滑る――薄く脂を引いて錆を抑える。袋の縫い紐は張り、結び目は堅い。歯はカチカチ言いそうだが、まだ鳴らしてはいない。革鎧は重いが、左脇腹――即席の包帯(破れた服+泥+潰した葉)が、バカみたいに硬い痂皮になっている――を覆ってくれる。

「触るな」――今朝Indexは言った。若い痂は剝がすな。


本当は影狼の数歩を洞内でまた試したかった。浅瀬を滑るみたいに重心を移し、足裏の砂が“鳴かない”ように。だが遠吠えが一段深くなって、考えを引っ込める。今ここで足跡を上書きすれば、嗅ぐ者に“人の道”をさらに与えるだけだ。


代わりに、残りの皮を折りたたんで確かめる。濡れた毛は鼻を刺す匂いを放つ。さらに高く吊り、角度を替えて風を抱かせる。もし雨がゆるめば、縁に脂を差して覆いにまとめて眠るつもり――いや、この“睡眠”はどうせ午前二時の会議みたいなものだろうけど。


「加護……」

赤いフレームを思い出す。「切れるなら事前に言えっての。」

脳内の声――締切に何度も叩きのめされた中年男の声――が、鈍く皮肉る。「加護……なのか?」

信じようともしない。否定しようともしない。彼はただ、それを新しい壁のメモに記す。刃で焼けた血から落ちた小さな炭を使って。


— 加護:(非表示)/効果:匂い遮蔽(?)/有効:切れた

— Index:稼働/制限:測位不可(雨)

— 狼:一――撃破/群れ――?

— 袋:革――OK

— 闘法:影狼――蓄積要


「よし。」

彼は議事録にチェックを入れるみたいに炭の先で点を打つ。今日の成果:生存。新調:革袋一。教訓:帰路はマーキング。計数:HP 63%。予報:長夜。リスク:群れ。


タシギは頭を腕に預ける。見えない観客へ会釈するみたいに。厚い雨音の中で、そっと呟いた。

「明日、生きていたら――自分で自分に“加護”を与える方法を学ぶ。」


呪文じゃない。

“女神”でもない。

革袋で、短剣で、自分の意志で。

そして、この窮地から抜け出すかもしれない闘法を、いちから鍛えることで。――本当に、どうなるかは分からないけれど。


外では、森が冷ややかに彼の物語に長い「……」を置いた。

そして夜は、予定通り、始まった。



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