表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生に疲れた俺の異世界サバイバル記  作者: Khanhtran
第1巻:月光の下の狼の遠吠え
4/10

羊の反抗

この章は少し暴力的かもしれません(少し)

Index はすぐには答えなかった。視界に吊られた薄いガラスのパネルは、乾ききらない墨を待つ半透明の紙のように、三点リーダーが現れては消え、また現れる――まるで、打鍵しながらもまだ考え続けている人間の指先のようだ。やがて十数秒の逡巡を経て、ようやく行が立ち上がる。


Index:「現行レベルで最も実行可能なのは『感知』です。内側と外界に意識を集中させ、注意を研ぎ澄まし、自然界の場に漂う最初の魔力粒子(マナ粒子)を捉えるまで続けてください。安定した一単位を感知できた時点で、入門の閾に到達したと判定します。」


「ただ……感じるだけ、か?」と彼は心の中で一語ずつ反芻した。わずかに訝しみ、「ちょっと簡単すぎないか?」というのが第一印象だ。何だかんだで古参のオフィスワーカー、集中力に関しては多少の自負がある。


期待で満たされ、Tashigi はすぐに試す。岩壁にもたれ、瞼を閉じ、両肩の力を抜く。最初はぎこちない実験の連続だ。膝を抱えて座り、伸ばし、上体を折り、横向きに寝てみる。TV のチャンネルを変えるみたいに姿勢を切り替え、「魔力チャンネル」が勝手に映るのを待つ子どものようだ。だが感じ取れるのは、規則正しい心音、洞口を掠める風の微かな笛鳴り、そして乾きかけた擦り傷の痒みばかり。


何も、ない。真っ白。


喉に砂が溜まっていくような苛立ちがこみ上げる。無駄事をしているのでは? 前の世界で「感知」に一番近いものと言えば、会社の研修でやらされた“マインドフルネス”、要は仕事効率のために座って呼吸するやつだ。そこまで考えたところで、脳裏に古い映像が閃く。かつて同僚に誘われて一度だけ行ったヨガスタジオ。インストラクターが雨のような声で言った。「身体を緩め、次に心を置いてください。」


――瞑想。


月並みで陳腐ですらあるが、身体と“何か広いもの”、つまり宇宙のあいだに彼が触れた数少ない橋でもあった。「やってみるか」と彼は思う。「最悪、何も起きないだけだ。」


ゆっくりと脚を組み、冷たい岩の床に坐骨を安定させる。尾骨から頭頂まで、一本の糸を立てるように背骨を伸ばす。下顎を緩め、舌先を軽く上顎につける。半眼、かすかな灯を半分だけ隠す。両手は膝上、掌は下向き。雑念をひとつでも減らすよう努める。


吸う――四拍。

止める――四拍。

吐く――四拍。

止める――四拍。


最初のうちは分列行進のようにぎこちない拍だ。次第に、呼吸が自分のリズムを見つけていく。腰の痛みが一歩だけ後退する。坐骨の下、岩は冷たいが確かだ。そして――誰かが頭蓋の奥にある私専用のダイヤルをそっと回したみたいに、内界の“解像度”がゆっくりと上がっていく。


彼は――血を“聴き”始めた。どっと流れる轟音ではない。森の奥で葉に遮られた小川のさざめきのような遠いざわめき。右手首では、鼓動のたびに微かな「コツ」という波が指先まで届く。頸では、頸動脈が幕越しの火影のようにふくらみ縮む。胸郭は鍛冶場のふいご――過不足なく開いては閉じる。下腹は灰に埋もれた火床のようにほの温かい。


左肩甲の薄い筋群だけは違う。張りすぎた弦。触れれば擦れる。彼は“耳”をそこへ寄せる――ただ意念で。ゆっくりと、軋みが鳴る。粘い。古い蝶番が油を欲しがるみたいな音。彼は何もしない。ただ静かに、その一拍が過ぎるのを“見”、次の一拍を“見る”。奇妙なことに、攻撃されている感じが一段階薄れた。まるで身体と意識を結ぶ見えない糸が繋がり、いちいち叫ばなくても通じるようになったかのようだ。


“視線”を腹の奥へ移す。初めて斜面に叩きつけられた時、左腰は尖った石に当たり、白い犬歯の跡みたいな記憶を残した。今そこは幾層もの熱の領分。下層は粥鍋のように滑らかな熱、上層は可動する棘の群れ――深く吸うたび、棘が身じろぎする。彼はあえて浅く吐吸し、呼気を細い小刀の刃先に削いで、その上を滑らせる。突き立てない。


ある瞬間、呼吸の“第二層”が触れた。空気の出入りだけではない、胸壁を浸み通る細い“圧”のようなもの。魔力では、ない。けれど、すべてを定位置へと押しやる律動。胸が、見えない一手幅だけ広がる。


彼は笑った――顔筋を一切動かさずに。おかしなことに、久しく彼はこういう告白を自分にしていなかった。「いま、自分は生きている。」 “生きねば”ではなく、“生きている”。進行形。力みなしで。


洞口の外では、森の夜が交代に入る。床下から「コツッ」と木喰い虫の小さな音。埋め火の焚き穴がその半分を吸い込む。彼は内から“耳”を引き、交差点に置く。火が呼吸し、森が呼吸し、彼も呼吸する。三層の拍が重なる。


どれくらい座ったのか? 瞑想の時間は時計のようには流れない。樹液のように――遅く、粘り、甘く、絡む。瞼を上げたとき、ほんの数分閉じていただけのつもりが、空の状態は変わっていた。闇が引き潮のように退き、葉に青銀の膜が塗られている。霧が煙のように立つ。顔は涼しく、唇は渇いている。だが、身体はひとかたまりの静けさだ。


彼は二文字を思い浮かべる――「ステータス」。途端にパネルが開く。


HP:100%

回復:+2%/時(受動)――最大に到達。

状態:完全。


彼は一瞬固まった。夕方は 68%、それから 16 時間でぴったり 100%。時間は想像以上に過ぎていた。少し計算し、今は午前八時前後だと見当をつける。軽い戸惑いはすぐ消えた――きょうは“元手”がある。


寝所の後始末に取り掛かる。まず灰を鎮め、焚き穴の表面に薄く湿土を撒き、「消えていない消火」を作る。シダの幕を元の位置に戻し、温めてあった石(いくらか冷めている)を隅に押し込んで床を保温。洞口、足跡、匂いを点検。すべて問題なし。


出立の支度。葉の袋――よし。予備の火口――よし。樹皮のひも二三本――よし。そして“武器”:昨日拾った硬い木の枝を石片で削って尖らせたもの。刃物や槍には遠く、まして剣ではない。だが、ないよりはいい。走るときに誤って刺さないよう、穂先に葉を巻いておく。


「行こう。」彼は小さく言った。これから起こりうるすべてに、身体へ合図するみたいに。


雨上がりの森は、一晩泣き続けた子どもが目を覚まして笑っている。樹冠の隙間から差す陽は縫い糸のように新しく、無邪気な明るさだ。針の頭ほどの昆虫が行き交い、翅の軌跡はチョークの粉のように淡い。彼はゆっくり歩き、視線を左右に掃く。ときどき Index を呼んで痕跡を確認する――新しい土の割れ目、古い糞、蟻塚、木生きのこ。昨夜の余韻なのか、どこか身が軽い。瞑想の残り香は静かに続いていた。


気まぐれに、こんな問いも投げてみる。


――「照会:魔力って、味はあるのか?」


Index:「化学的な味はありません。未入門の段階では、空気の中に“圧の差”あるいは“ざら/なめらか”の触感として感じられるケースがあります。データは限定的です。」


彼は吹き出した。「ざら/なめらか」――木工所の紙やすりレビューかよ。


半日ほどで風が変わる。湿り気の中に、泥鉄の匂いが一本混じる。重く、濃い。顔を上げる。西の縁が濃く染まり、誰かが巨大な炭をぐりぐりと擦りつけているみたいだ。雷はまだ鳴らない。だが、眠たげな獣が口の奥で唸り始めている。


「戻る。」判断は即決だった。


向きを変え、――固まる。岩壁は? 洞口を隠したシダは? 笑ってしまうほど似た幹、地図みたいに同じに見える苔の斑。みぞおちが一段冷えた。


Tashigi は脳の引き出しをひっくり返す。だが、アルツハイマー患者でもないのに、蘇るのは切れ切れの映像ばかり。


「くそッ。」小声で吐く。苛立ちは隠せない。


「小石を撒いておくべきだった。樹皮に切れ込みでも、何か印を――最初から標準化しとけって、あの馬鹿!」途中でふいに、元上司の声が甦る。「タシギ、なぜ最初から基準を作らない?」生唾を飲む。「もう遅い。」


方角を一つ選ぶ。即座に疑い。別の方向。やっぱり疑い。汗がにじむ。暑さのせいではない。背中を何か得体の知れないものに晒しているからだ。太陽は雲に呑まれた硬貨のように消える。森はスイッチひとつで暗くなる。梢を渡る風が長い笛を引き、先遣隊のビー玉みたいな大粒の雨がいくつか。閃光が空を横切る――無遠慮で、冷たい。


絶望は、いつの間にか胸いっぱいに満ちていた。乏しい経験。厳しい土地で Index に頼りきり。何が飛び出すかもわからない場所で。全部が、彼の死刑判決に釘を打ち込んでいた。


「生きるんだ!」その言葉は自分が発した記憶もないまま、口から飛び出した。


歯を食いしばり、勘が「正しい」と告げる方向へ頭から突っ込む。誰かが盥をひっくり返したみたいな雨。道は水の網に溶ける。葉は魚の背のように滑る。一歩ごとに足首が裏切らないかの試験。数分で全身が骨まで濡れた。昨夜の火、乾燥の努力――すべてが蒸気になって消える。


焦りは加速し、狂ったように出口を探しながら、口では Index を呼び続ける。もちろん、満足な答えは返らない。道具には限界がある。どうする? いかに鋭い二つの目でも、降りしきる森の雨の前では無力だ。


考えれば考えるほど、恐慌はひどくなる。しまいには Index を使うことすら忘れかけ――


――灰色の枠が自動で跳ね出た。文字は水にノイズを食われて踊り、同時に機械音声が現実へ彼を引き戻す。


Index:「警告:危険――狼…… 北東、距離 10~12 m」


みぞおちの冷えが、氷槍に変わる。嘘だろ? 狼? この土砂降りで何をしている。まさか、あいつも巣へ戻る途中――いや、違う! 落ち着け! Tashigi は無理やり平静を呼び戻し、位置を確かめようとする。だが森は幕のように黒く、形があるのは雨だけ。


彼は自分を一秒だけ止める。一秒――呼吸し、見るために。見えた。雨の流れに溶け込む、低く長い影が左前方、十メートルほど。頭をわずかに下げ、耳を立てている。目は……見えたかどうか自信はない。だが、無形の圧がこちらをロックしているのを“感じる”。


――走れ。今だ。気づかれる前に。


踵を返して弾ける。泥がふくらはぎに跳ねる。心臓は祭り太鼓のようだが、呼吸は破綻しない。4-4-4-4 の呼吸が勝手に回り出す。三歩――四歩。背後で――いや、足音ではない。雨が音を貪り食う。だが、後ろの“空気”が変わる。誰かが風の扉を開けたみたいに。来る。


視野の端を灰色が掠め、水を割るように角を切り、泥が花火のように散る。距離は落とし扉のように閉じる。本物の武器はない。あるのは、腕ほどの尖った棒きれ一本。石のように冷たい現実。だが、土壇場の人間は無尽の勇気を絞り出すものだ。


「飛びかかってきたら――受ける。」長い逡巡の末に弾けた一念。恐怖はもう薄まり、置き換わるのは決心。


狼が弾けた。雨蔭に潜んでいたものが、弓から放たれた矢のように幕を切る。彼は棒を掲げ、正面衝突を避けるよう身体を自然にひねる。骨に当たる鈍い「コツ」。棒が折れる「ミシリ」。そして若木一本がそのまま倒れ込んできたみたいな重量が、全身を覆う。


世界は、歯で満ちた口に縮んだ。獣の息は熱く、肉の臭いは湿って生臭い。巨体がのしかかり、背を泥へと押し沈める。葉の袋が弾け、中身のいくつかが転がって供物みたいに泥に散らばる。棒は――折れた。半分はどこかへ。もう半分は……掴めるか?


右足が蹴った――考えるより先に。狼の下腹へ真っ直ぐ。柔らかい部位に命中し、すぐさま脛骨全体に白い痛みが走る。狼はうめきとも悲鳴ともつかない声を詰まらせ、反射で身を丸める。相手の痛みが歪んだ鏡のようにこちらへも跳ね返る。


――隙!


彼は首を巡らし、視線で折れた半棒を捉え、すばやく掴み、二本体制に戻す。先は尖り、柄はざらつき、びしょ濡れ。狼は立て直し、前肢を刃のように振り下ろし、左脇腹に深い裂け目を刻む。皮、布、肉が裂ける音が、現実感を欠くほど鮮明に響く。胸の奥で何かがしゃくり上げる――肋骨が空気を吸ったみたいだ。肋骨が何本か折れた! 狼はさらに体を伸ばし、口を開く。白濁した鉤爪の列――狙いは喉。


考える暇はない。二本の折れ棒が、悪魔めいた反射で突き上がる。一本は鼻梁――鼻孔の間の湿った柔いところ、神経が集まる弱点へ。鈎の一撃で金槌のような痛覚を呼ぶ場所。もう一本は、半寸上――眼。――刺さる。変形した遠吠えは、人の声に近すぎる何かに捩れる。血が噴く――熱く、生臭く、濃い。顔に、口に、目に飛ぶ。一拍、世界が真紅に染まる。


狼はのたうち、爪を押しつけ、脇腹の傷口をなお広げる。だが、もはや“正しく”はない。頭は狂い、身体は拍を失う。彼は――洪水に抗う砂粒のくせに――最後の蹴りを腹へ叩き込み、その反動で横へ転がる。ズブリという痛みとともに、狼の爪が脇腹から引き抜かれ、焼けるような線を何本も残し、鮮血が二寸も弾けた。根に頭をぶつけ、半身だけ起こし、走る。


雨が路を消す。硝子繊維の幕のような白い筋しか見えない。心臓は破裂寸前。歩を進めるたび、全身が絞られる。左腰には肉屋の鈍い出刃が突き立ち、拙い手つきで捻られている。数える。何を? 分からない。いち、に、さん――木、石、葉――進め。


数十歩で、身体が……落ちた。完全停止ではない。だが、ブレーカーが追加投入を拒否する。膝が折れたがり、瞼は閉じたがる。わかる――出血だ。雨滴一つひとつが、空っぽの殻に叩きつけられるようだ。


――隠れろ。もう一度、浮上する言葉。


右手に暗い裂け目。低い岩と硬い葉の茂みの陰。考えず飛び込む。穴というほど深くはないが、ここは――乾いている。丸く身体を畳み、潰した葉をいくつか血筋に被せ、周囲に泥を塗って縁をぼかし、さらにシャツを裂いて腰をきつく縛る。愚策だが唯一の策。匂いの強い葉を揉み、手や首に擦りつける――Index が以前匂い消しに勧めていたやり口だ。今その Index はどこだ? パネルは雨で明滅し、文字は乾かぬインクのように滲む。


胎児のように小さく丸まり、顔は壁へ。手は尖った石にかかっている。神経は熱帯魚の髭みたいに四方へ伸び、影の揺れを待つ。雨、雨、雨……それから、何か……“呼応”。自分ではない呼吸? かもしれない。いや、雨の創作かもしれない。


「追っては来ない……はずだ。嗅覚と視覚、二つともやられた。雨音も酷い。」――自分で自分を宥める。


片隅にステータスが震えながら浮かぶ。


HP:34%

警告:出血――筋損傷の疑い――左肋骨:亀裂/骨折(3?)――激しい運動でショックの危険。

推奨:止血――保温――移動制限――警戒。


声にならない笑いが喉で砕けた。「はいはい、先生。」


身体がぶるぶると震え始める――昨夜のような“寛大な”震えではなく、エンジンが停止寸前の振動。瞼を閉じる――深くは閉じない。雨を見ないで済む程度に。嵐の玄関から、別の冷えが這い込む――恐れの冷え。いつまた捕食者が来てもおかしくない。自分は“味見された肉の匂い”のままだ。


――“横”。


ここに“何か”がある――見落としていた“物”。目がこの灰色の明度に慣れた頃、彼は顔をわずかに向ける。もっとも奥、闇が口を閉ざす縁に――“人”の形。いや、人ではない――人の“残り”。Tashigi の目の前には、壁に凭れかかるように曲がった乾いた骨。ところどころに古い革片――軽い革鎧。頭蓋は落ちず、きちんと首に乗っている。指の何本かは、擦り切れた革製の袋の取っ手をいまだ握っている。


その瞬間、中年男の脳味噌であっても、誰かに強く撥ねられた弦のように鳴った。飛び退く類の恐怖ではない。文字を持つ冷たい恐れだ。「次は自分かもしれない。」それも、腰からの痛みが容赦なく、具体的で、文学の余地を与えずに押し寄せ、すぐに押し流される。


――袋。


答えは粗野で、しかし明瞭。彼は這い寄る。雨音が匍匐の音を覆い隠す。手が革に触れる。長く置かれた油紙のように湿り、べたつく。固まった紐は、震える指で数度弄ってどうにか解けた。中には……“物”。乳白色の小瓶が二つ、蝋封の栓。黒い革表紙の薄い本。銀の縁取りは剥げている。


Index は習い性のようにちらりと灯り、震える文字を出す。


――「照会:一本目の瓶?」


Index:「《低級強化液》――服用――筋力を約二百斤ぶん増強(持続は短時間)。副作用:心拍上昇、後疲労。」


――「二本目?」


Index:「《白回復剤》――服用――HP を**50%**回復(現階層対象)。副作用:なし。」


考えない。栓は水で柔らかくなっている。白い布紐が結ばれた方を歯で弾き、仰ぐ。冷たい液が喉を滑る。無味か、雨の味か――わからない。だが、続いて“奇妙なこと”が起きる。白い火が――熱くはない――彼の血管を走った。痛みは“消えない”。代わりに、誰かがそれを部屋へ追い込み、鍵をかけたみたいに引っ込む。裂け目の縁は魚の口のようにすぼみ、傷は目に見える速度で閉じる。Tashigi の身体は淡い緑色に瞬き、胸腔にもう一室空気が増える。棘に刺されず深呼吸ができる。手の震えは止まる――完全ではないが、驚くほどに。


ステータスの更新は、誰かが指を鳴らしたみたいに一閃する。


HP:84%


今度の笑いは音になる。乾いた石の音のように。「一晩眠るより効くじゃないか。」そして額を支えるように手を上げ、少し詰まる。「ありがとう。」囁いた相手が誰かはわからない――この袋を遺した死者か、この吝嗇で奇跡的な世界か。


残りの一本――「強化液」は葉袋の奥へ。走っても落ちぬよう深く。貧乏性で栓を固く締め直す。


残るは本だ。黒革の表紙、湿り、黴の匂い。シャツで軽く拭き、洞口近くの薄明かりにかざす。箔押しの文字は半分剥げ、革の目に沿って歪んでいる。砕けた骨を継ぐように記号を繋いでいく。今、ほのかな光に従って大きな活字がゆっくり輪郭を出す。


『影狼…… 闘法……?』



ここまで読んでくれてありがとう、うーん?感想をコメントに残してもらえると、すごく励みになります。ありがとう

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ