置き傘
雨が続くと……私の髪は素直でなくなる。
これは長年のショートカットから脱却し、髪を伸ばして初めて気付いた事だ。
お義母さんからも色々アドバイスを貰って、朝から鏡の前で格闘するのだが……
しばしばブチ切れて
「もういい!お団子にしちゃう!」とヘヤゴムを腕に掛けて髪を鷲掴みにするのだけど……でも、やっぱり……余計に変な癖がつくかもしんないし……と、ため息をついてもう一度トライする日々!!
なんだかんだ言っても……サラサラキラキラのロングヘアは男の子ウケがいいらしい。
きっと義兄さんもその例に洩れないのだろうから……
努力しなきゃだ!
ああぁ!雨はイヤだなあ~
◇◇◇◇◇◇
今日の掃除当番は……山田くんが“大会”で遠征。竹下さんが風邪でお休みなので、高橋くんと二人きりだ。
せっかく先生からも……
「二人だし、今日は軽くでいいぞ」との“お墨付き”を貰ったのに!!
高橋くんが妙にヤル気を出して、机を教室の片隅に寄せてガンガンと掃除を始めた。
しかも、しきりと私に話し掛けるから
相手にするのが面倒くさくて……
掃除された端からガタガタと机を戻していく。
「あれ?! あのチャーム!」
“瞳ん”の机の中から覗いているのは……私があげて、“瞳ん”が折り畳み傘にくっ付けたチャームに違いない。
また、雨が降り出したのに……ひょっとして“瞳ん”、まだ学校に居るのかな……
だったら一緒に帰ろうかな。ゴミ捨てのついでに図書室覗いてみるか……
「私、ゴミ捨てて来るから、高橋くんは机、片付けて」
「オレ、部活あるしついでに捨てて来てやるよ。これから雨、強くなるらしいし、早く帰った方がいいよ!」
「……そう、ありがとう」
なんだか釈然としなかったが私はスクバを肩に掛けた。
「じゃあ、お先!」
「おう!」
教室を出ても……ガタガタと机を動かす音がして、私は一瞬、申し訳ない気持ちになったけど、“瞳ん”を探しに図書室へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
「えっ?! 傘、持ってないの?」
『図書室では静かに!』が、口癖の義兄さんの声が図書室に響いて、私は思わず書架の陰に身を隠す。
本と本の隙間から覗くと……義兄さんと“瞳ん”が話し込んでいる。
あ、義兄さんが自分の折り畳み傘をカバンから出して“瞳ん”に渡した。
どういう事??!!
とにかく“瞳ん”の跡を付けて行くと、“瞳ん”は下駄箱でちょっとため息をついて義兄さんの傘を差し、帰って行った。
「あの子ったら!!」
この“恋がたき”のあざとさは侮りがたい!!
だけど表向きは……私は“瞳ん”の良い友達でなきゃいけない。
「でも……」と怒りでワナワナしているとスマホがピコン!と鳴った。
義兄さんからだ!
『一緒に帰らない?』って……
◇◇◇◇◇◇
「置き傘も無いのに自分の傘を貸すなんてどうかしてる!」
せっかくの“相合い傘”なのに私はさっきから憎まれ口が止まらない。
「ごめんな!江口さんは同じ図書委員だし奏の友達だろ? かと言って“相合い傘”する訳に行かないじゃん!」
「えっ?! 良いじゃん!美人と相合い傘できるんだからさ!それに私がもう学校出てたらどうするつもりだったの?! 濡れて帰ったら風邪ひくよ!」
「その時は仕方ないけど……奏は居るって思ってた!」
「何を言ってんだか……」言い掛けて私は気が付いた。義兄さんの右肩が濡れているのを。
「傘、もっと自分に差しなよ!」
「いいよ」
「もう!仕方ないなあ~!」
口では怒ったふりをするけど、私の右腕は義兄さんの体に巻き付いてピッタリ寄り添った。
私の髪と義兄さんの学シャツが擦れ合って擽ったい……
この日……
私は雨が好きになった。
おしまい
このお話は 拙作「義兄のいる風景」 https://ncode.syosetu.com/n4287jp/
のスピンオフです。
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