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美の女神、凋落と絶望

大変醜く不快な生物が登場するので刮目してください

苦手な人はブラウザバックか薄目開けて読んで下さい

ニトゥラゴラクは泣き伏した。

張り裂けそうな胸にはただ、二度と叶わないガネーシャへの思いだけが溢れていた。


しかし言葉を発することも叶わず、ただひたすらに嗚咽し、時に号哭することしかできなかった。


かつて未来や罪さえ見通した両の目の名残の二つの孔は、今はかろうじて人間の老人ほどの視力だけを残していた。


とめどなく溢れる真っ黒な毒の涙は印度の乾いた地に染み込み、幾千、幾万の無辜の民を無惨な死の絶望へと追いやった。


猛烈な毒の臭気に満ちた その洞窟は、千里先の名うての商人さえ気を失うほどで、近づくこともできず、人々は成すすべもなかった。怪物の棲む、忌むべき場所を避け、人々はただ己の生命を守った。






ーーぴちゃん


ーーぴちゃん


洞窟の奥から水音が響いていた。

どうやら湖があるようだった。


長く泣き伏していたニトゥラゴラクは猛烈な喉の渇きを覚えた。だが、ニトゥラゴラクは水面に近づくことができずにいた。


己の姿を直視することが、恐ろしかった。


しかし渇きに抗うことはとうとうできず、ニトゥラゴラクはようやく意を決して己の姿をその湖面に映した。




ああ、あぁ……!!


これが、私。

この、ニトゥラゴラクの姿なのか……!!




毒を溜め込んでぶくぶくと膨れ上がり肥大した巨大な胴体は、まるでうぞうぞと蠢く憐れな芋虫のよう。


自らの毒に侵された皮膚は分厚い瘡蓋のようになって禍々しい色に爛れきっていた。毛孔はだらしなく開ききって、猛毒の塊が、異国の虫の如き色をして、ラードのように詰まりきっていた。所々、目も当てられぬほど深くひび割れたり、血が滲むほど剥けたりして痛々しく肉が露わになり、そこから粘液がとめどなく滴って、地面をどす黒く汚していた。


そして何より、


目だーー。



宇宙のありとあらゆる美を掻き集め、燦然と煌めいていた両の目は、パールヴァティによって無惨に抉り取られ、そこにあるのはただただ深い洞孔だった。


ああ……!!

なんということか。




かつてこのニトゥラゴラクは、最高神・父神シヴァの愛娘であり、愛と美を司る女神であった。

その権能を存分に振るい、世界を美で満たし、人々に愛の何たるかを身を以て悟らせ、世界さえ平定した。

神も人も、自然の花々や、太陽や月さえも、皆平等に私の美しさに魅了され、愛し、そして打ちのめされ、時に平れ伏した。幾万の称賛を悠然と享受した。


世界が私に微笑んでいたあの頃でさえ、ガネーシャの、あの何もかもを見透すような、智慧と慈悲に満ちた深淵の瞳に映ることが、私はただただ恐ろしかった。


私を映した彼の瞳が、もしほんの僅かでも翳ったなら、私はきっとこれまでの私ではいられない……。


そう思うと私の体は、まるで石のように動かなくなり、手指は温度を失い、そうして高鳴り切なく締め付けられる胸を冷えきった両の手で抑えながら、ただ遠くからじっと彼を見つめることしかできなかった。


ああ、あぁ……ガネーシャ。ガネーシャ。

もう二度と、愛しい彼の人の姿を視る事は叶わない。

私は彼を再び愛してしまったのだから。


生まれて初めて、ニトゥラゴラクは後悔を知った。

この幾億年もの生の中で、初めて。


私が愚かだった……。

もし勇気を振り絞り、せめて一目、愛しい彼の人に相見(あいまみ)えることができていたなら、どんなにか私の心は救われていただろう。


その上、この身はこんなにも醜く成り果てて……。


もはや彼の瞳にこの姿を映すことも、たった一言言葉を交わすことも、金輪際できはしない。このニトゥラゴラクには、もう。


私には、できないのだ……。



私は果たしてこのまま永らえることしかできないのだろうか?

しかし、ニトゥラゴラクには己の未来を視ることはできなかった。

両の目を奪われた今となっては、尚更のこと。


ニトゥラゴラクがどんなに望んでも、眼前にはただ、先の見えぬ闇が広がるばかりであった……。


昏い洞窟には、光も、昼も、夜も無かった。滴る水音とニトゥラゴラクの嗚咽だけが響いていた。そうして幾千年が経った。

毒と化した真っ黒な湖で喉を潤し生命を永らえ、朦朧としたニトゥラゴラクの耳に突如入ったのは、たった一人、一途に愛した男の声であった。



「我が名はガネーシャ!

最高神シヴァの息子にして、パールヴァティの愛息子!


幾千幾万もの無辜の民を虐げ、無惨な死に追いやった怪物というのは、そなたのことか!


なんという恐ろしいことを……。


せめてそなたの魂に、永久の安らぎを与え、

この地を浄化して民の苦しみを絶たんと、ここへ参った!!」



ニトゥラゴラクは、ただ目を見張ることしかできなかった。


それは、幾度となく思い出しては、一人きりの孤独な心を癒し、夢に見ては泣き伏してきた、たった一人の愛する男の声。

幾千の輪廻を繰り返したとて金輪際聞くことの叶わぬはずの、愛するガネーシャの声だった……!!


終わる気配がない

どうしよう

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