聖獣の都
還陽暦 1708年 八月三日
「母さんこの絵本もっかい読んで!」
「またこれ?昨日の夜も読んだじゃない?新しい本もたくさんあるのに」
「もっかい!」
「もう、マルはこの本が好きなのね。分かったわ。」
『赤い魔女と聖獣の物語』
――昔々ある所に赤い魔女と呼ばれる者がいました。赤い魔女は人間のような見た目をしているが、決して人間ではなく、寝食を必要とせず、老いる事もありませんでした。赤い魔女は悠久の時間を使って常に魔法や魔力について研究していました。ですが赤い魔女は魔法の研究のために数え切れないほどの人間達を殺しました。見かねた神は現世の平穏のため、使徒を送りました。その使徒は聖獣フェンリルと呼ばれていて、現世に送られてきてから数年後に聖獣フェンリルと赤い魔女は初めてお互いの姿を確認しました。聖獣フェンリルは神々しい程に純白で首には使徒の証明となる黄金の神核の首輪が付けられていました。赤い魔女はその名の通り、全体的に赤い服装でいかにも魔女といった赤い帽子を被っていました。聖獣フェンリルは問いました。「なぜ罪無き人々を殺す?」魔女は答えました。「ただの人間にそこまでの価値は無い。ならば私の実験台となった方が価値が生まれるだろう?価値無き者に価値を与えてやっただけだ。」聖獣フェンリルはもう会話の必要はないと感じました。一歩ずつゆっくりと赤い魔女に近づいていきます。赤い魔女は一目聖獣フェンリルを見たときに勝ち目が無い事を悟っていました。フェンリルの権能により、魔法を使うことも許されず、赤い魔女は天の光で浄化され、地獄の奥底に封印されました。フェンリルはその後世界を周り悪を浄化し続けました。世界には闇が消え、フェンリルの権能により光が各地にばらまかれました。そうした、光から勇者や精霊王が生まれました。聖獣フェンリルの加護は今もなお世界を光で照らしているのです—―
「もう寝たわね。全くまだ小さいからもっと子供向けの本を読ませてあげたいのだけれど...」
―ガチャッ
玄関の扉を開けた音がする。
「ただいま。マルはもう寝たか」
「ええ。ついさっき寝かしつけてたわ。...ねぇ、私達やっぱりここを離れた方が良いんじゃないかしら?マルもまだ幼いし、いつか取り返しの付かないことになるかもしれないわ」
「それについてはもう話し合っただろ。大丈夫だ。こんな遠くまで探しに来ないさ。それにこの村の住民も優しいし、君もマルも私もこの村を気に入ってる。そうだろ?それにこの村には聖獣様の加護がある。ここよりいい場所なんて無いさ。」
「..ええ。そうね。」
国から追われた家族は今日も聖獣の陰に隠れる。
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