夜明け
朝が訪れない名も無き時代において、少女の姿の伝説と呼ばれた者が闇の化身と対峙していた。闇の化身は宙に浮かぶ黄色い眼以外は実体と呼べるような部位は存在せず、見上げれば体の一部と思われるような闇が空を埋め尽くしていた。
「またか!」
少女の持つ双剣の内一つは闇の化身の鋭い眼光に刺さっている。だが、特に効果は無い様子でその巨大な眼は依然と少女を見つめており、空に広がる闇の一部が尖った刃物や鈍器に変化したり、しまいには数えるのも億劫になってしまうような量の魔法が空から放たれる。闇の一部が変化してできた刃物や鈍器は地上に近づいてくるのと同時に、遠くから見ていたからこそ、そこそこの大きさに見えていた物が相当な大きさであった事を確認する。
体の状態は所々巨大な刃物がかすったよな跡があり、何日も動き続けてるせいか空腹なども含めた様々な疲労が溜まっているようだ。
「ッ!」
直後に何千、何万放たれた魔法の中でも一際速く見える魔法が魔力障壁や断絶結界、広域物理結界を貫通して右足に当たった。気づいた時には右足は無くなっていた。物理的に足が飛ばされたような感じはしない。おそらく、名前は分からないが見た目的に闇魔法の槍っぽい奴を次元魔法と時空魔法で魔技結合したのだろう。時空魔法によって、空間を捻じ曲げ防御をすり抜け、次元魔法によって槍っぽいのに触れた瞬間に足をどこかにワープさせたのだろう。
「仕方がないか」
少女は自分の死を覚悟したような目をしていた。だが、決して諦めた目をしている訳では無かった。少女は『赤い魔女の保管庫』と口にすると、目視では、はっきりと視認できない空間の歪みが現れそこから光り輝くナニカを取り出した。
「呪食神輝」
そう唱えると少女の体は呪いに蝕まれたように灰と化した。刹那、どこからか光が差し込んだ。その光の輝きは瞬く間に広がり、空からは耳を塞いでも鼓膜が破れるような悲鳴が轟く。
その日世界は晴れ、夜明けが訪れた。夜しか知らない人々は困惑を、陽の光を信じてきたものは歓喜の表情を浮かべていた。そして伝説は忘れられた。