2.骨董屋の証言
取っ憑いてんのが悪霊だろうが呪いだろうが、こういう場合はまず品物の来歴を確かめるのが初手ってもんだ。だもんで俺は、ご隠居が件の花瓶を買ったってぇ骨董屋――こいつも俺の知り合いだった――を訪ねたんだが……
「……呪いとかの話は耳にしてねぇって?」
「あぁ。この商売、そういう情報に無関心じゃやってけねぇからな。それなりに聴き耳は立ててるんだが……そういう話は聞いた事が無ぇよ」
品物の仕入れに関しちゃ多少は後ろ暗いとこにも手を伸ばしてるようだが、取引そのものは真っ当にやってるやつだからな。この情報についても信じていいか。
「そもそもだ、あの――花瓶はウブ出しのもんじゃねぇ。これまでに何人かの持ち主を転々としてきたもんだ。呪いなんてもんがあるんなら、これまでにそんな話が出てこねぇのはおかしいだろうが」
そりゃまぁそうだが……〝花瓶〟のところで口籠もったのをみると、こいつもあれが花瓶だたぁ思ってねぇな?
まぁ、古い器が本当は何に使われてたかなんて、案外判らねぇもんだからなぁ。ご隠居なんざ、小便器――「賢者」のやつに言わせると、朝顔型っていうそうだが――を植木鉢と思って買おうとしてたからなぁ……
「……便器の話は初耳だが……あれを花瓶だって言い出したなぁご隠居でな。俺としちゃ、元々は酒とか油とか、そんなもんを入れてた壺じゃねぇかと睨んでんだが……。まぁ、歴代の所有者も実用品としてじゃなく、単に飾りとして置いてただけみてぇだからな。……気になんのか?」
「元々の用途次第じゃ、中に物騒なもんが入ってた可能性も捨てきれねぇだろうと思ったんだが……ご隠居以前にも持ち主がいたってんなら、この線は無ぇか。……あと、便器の話は触れ廻るなよ?」
「さっきも言ったが、歴代の持ち主にゃおかしな事は起きなかったんだし、毒とか呪いの線は無ぇんじゃねぇか? ……便器の件は諒解した」
店の親爺の言うとおりなら、毒や呪いの線は薄いか?
「……ご隠居の先祖か何かが、一番始めの持ち主とイザコザを起こしてた可能性は? それが原因で、今になって祟ってるってのは無ぇか?」
「無ぇだろう。あの壺は遠い異国の墓だか何かから出たもんでな。数千年は経ってるって話だ。そこまで古いと、毒も呪いも残ってねぇんじゃねぇか?」
「呪いの効力についちゃ何とも言えんが……そこまで家系を遡っての怨みが、今になって発動するってのもおかしな話だな。……途中の持ち主が何か悪さをした可能性は?」
「この壺を仕入れた先は明かせんが、素性についちゃあ確かなもんだ。ご隠居との間にも、妙な繋がりは無さそうだったぜ」
そもそも売る前に洗っていると言われりゃ、こっちもそうかと引き下がるしか無ぇ。簡単に洗い流せる毒じゃねぇって可能性はあるが、だったら簡単に気化したり流出したりもしない筈だろうと言われりゃ、返す言葉も無ぇってやつだ。
「お前だって呪術師の端くれなんだろ? 呪われてるかどうかくらい、判らねぇのか?」
「……死霊術師だ。呪術師じゃねぇ。……だが、確かに呪いとかの気配は感じなかったな。……まぁ、所詮は門外漢の見様見真似に過ぎねぇんだが」
呪いについちゃ専門外だが、これでも初歩的な魔術や呪術は習ってるんだ。それに、死の匂いが染み付いている品物は、死霊術師なら判るしな。
「他に疑わしい物品とか無ぇのか?」
「そうだよなぁ……体調がおかしくなったのも、〝花瓶〟を買って少ししてからだって話だし……ただ、他にそれらしき品が無ぇって言うんだよなぁ……」
「ま、呪いの品を売ったなんて評判が立ちゃ、こちとらの商売も上がったりだ。早いとこ白黒をつけてくれ」
「あぁ……まぁ、努力はするけどな」
……一旦隠居所へ戻って、他に怪しいブツが無ぇかどうか調べてみるか……




