白猫と薬草 中編
すみません。前 後編のつもりが、三部作になってしまいました。
まだ、日も登り切らない明け方。
僕たちはこっそりと屋敷を出る。
ライネはまだ寝ているみたいだ。
早起きのメイドさんたちもいつもより、静かに歩いているような気がする。
「苦しそうだったものね」
「早く助けてあげたいね」
二人は同時に頷くと、館を後にする。
メイドさんから教えてもらった丘に出るためには、前にも通った森を通らないといけなかった。
気のせいだと思うけど、この前通った時よりも、少し不気味な雰囲気を感じる。
「この森、長いから嫌なんだよね」
タタが小さく呟く。
「怖くなったの?弱虫なんじゃない?」
ココがタタを笑うが、その手はしっかりと杖を握りしめている。
二人が森を歩いていると、突然ガサッと激しい音がした。
ココは、小さい悲鳴を上げて、タタの傍に寄る。
目の前に出て来たのは、二人とほぼ同じ年の少年だった。
金色に刺繍された、豪華なガウンを羽織っていた。
「お前たちは、ここで帰ってよいぞ。このフォンが許す!」
いきなり出て来た少年は、二人にそんな事を言う。
二人の体の大きな大人が、その少年の後ろに立っていた。
二人が茫然としていると。
「ライネ嬢の面倒は私が見ると、決まっているのだ!汚らわしい冒険者の手など借りるまでもなく、このフォンが、全て解決して見せる!」
聞いてもいないのに、しゃべり続ける目の前の少年。
「フォン様。そろそろ行きましょう」
一人の男がそう言い。
「嬢がお待ちです」
もう一人が言うと。
フォンと言った少年は、ココ達をにらみつけると、何かを言いながら、そのまま森の奥へと去って行ったのだった。
「何だったんだろ?」
「何だったんだろうね?」
二人は、突然現れて、突然去っていった少年に、茫然とするだけだった。
「で、こっちだよね?」
タタは、森の中の分かれ道で指を指して道を確認していた。
ココは、地図を目の前に持って来て、真剣に見ている。
「うん。どう見ても、こっち。反対側に行ったら、ぐるっと回って、村の方に出ちゃうよ」
森の中の分かれ道。
その真ん中に立っている標識は、何故か反対を向いていた。
こっちが村です。と書かれた字も反対になってて、絶対、誰かがイタズラでひっくり返しているんだと思うけど。
二人は、誰がイタズラしたんだろうと、首をかしげながら標識の指す方向の逆側へと歩きだすのだった。
本当なら村へと行く道へ、多くの新しい足跡が付いている事には気にもしなかった。
二人が森を抜けると、目の前に白い猫が走って来た。
「あ、ライネの所の猫ちゃん」
ココが撫でようと、腰を下ろすと猫はこっちを向いて。
一声鳴くと、歩き始めて。
こっちを見て、また鳴いた。
「着いて来いって事かな」
「うん。なんかそんな気がする。行こう」
二人は、トコトコ歩く猫の後を追いかけて、トコトコと歩く。
猫は一直線に歩いて行き。
とある場所で座り込んで再び鳴いた。
「ねぇ。タタ。あれ」
「うん。あれだね」
少し盛り上がっている丘の先に、目当ての赤い花が生えているのが見えた。
「すごい。猫ちゃん、連れて来てくれたの?」
ココがほめながら猫を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らす。
「ほんと不思議だよね」
タタが近くで見ると、さっきまで赤く見えていた花が白く見える。
そんな時だった。
「お、、おれの、、、花ぁぁぁ!」
突然、突撃してきた男がいた。
ドワーフか、ゴブリンと言われても納得してしまいそうな顔のその男は、両手を振り回す。
「キャッ」
ココが跳ね飛ばされる。
「えええ?」
困っているタタの前で、猫がその男にとびかかり。
その顔を思いっきり引っかく。
「だぁぁっぁ!!」
男は、引っかかれて驚いたのか。
そのまま地面に倒れ。転がって行く。
そのまま、一輪だけ咲いていた白映草を踏みつぶし。
丘から転がり落ちて行った。
「にゃっ!」
やり切った顔で、吹き飛ばされた二人の目の前に戻って来る白猫。
けど。
「潰れちゃったね」
「潰れちゃったよ」
二人は、潰れた目の前の花を残念そうに見ていた。
「きゃっ」
そんな落ち込んだ二人の顔を、ペロリと舐める白猫。
ぷい。と顔を背けて再び歩き始める。
「着いて来いってことなのかな?」
「なんかそんな気がするね」
ココとタタは、その後ろ姿をついて行く。
「にゃ」
再び、今度は崖の前でこっちを見て座る白猫。
ココとタタが猫の所まで歩いてみると。
「うわぁ」
「きれーい」
一面の花畑が目の前に広がっていた。
黄色、白、紫、色とりどりの花が咲き誇っている。
白猫は、嬉しそうに、その花畑に入って行く。
「あの猫ちゃんの遊び場所なのかな?」
「きっとそうね」
二人は嬉しそうにはしゃいでいる猫を見ながら笑顔になっていた。
「違う!もうちょっと右。あーそれじゃない!もぉ、しっかりしてよね!」
ココの可愛い激励が飛ぶ。
「あ、それ、それ!」
無数にある花の中。
二人が協力して、すぐに白映草は見つかった。
「これで、助けれるのかな」
「きっと大丈夫よ」
二人が笑う。
「ぞれをよごぜぇー-」
突然、地に響くような声が聞こえ。
二人が後ろを振り返ると、猫のひっかき傷を作った男が、こっちに向かって走って来るのが見えた。
足元にある花を踏みつぶしながら走って来る。
「また来た!」
ココが叫ぶ。
「任せて!」
タタは剣を鞘ごと抜いて構える。
「よごぜぇー--!」
叫ぶ男の手を軽いステップで躱し。
その腹に一撃を入れていた。
そのまま、跳ね上げるように顎を狙い。
空中に打ち上げる。
醜い顔の男は、そのまま、あおむけに倒れて気絶していた。
「やったぁ」
嬉しそうに跳ねるココ。
タタは、ゆっくりと剣を背中に戻す。
「で、この人、誰?」
その答えは、もちろんココにも分からなかった。