洞窟の悪夢
とある大陸。
多くの冒険者が探索に出て、多くの冒険者が名前を残している大陸。
剣と魔法の世界の中で、巨大な虫が、巨大な獣が、魔物として存在している世界。
そんな中、今、冒険者の二人は、大きな洞窟の入り口に立っていた。
「ねぇ、ここでいいの?」
赤毛の小さな女の子が、隣の赤毛の男の子に話しかける。
「大丈夫だよ。もらった地図だと、ここで間違いないもの」
10歳前後だろうか?小さな二人は、お互いにくっつきあいながら、地図を真剣に見ていた。
ココと、タタ。
二人は双子で、小さいながらもそれなりに冒険をしている、新米の冒険者だった。
「だって、この前は、間違えて、森オオカミの巣穴に入っちゃったじゃない。ほんとに怖かったんだから」
「あれは、ココが、間違いないって、先に入っていったからだろ。僕は止めたよ。なんか違う気がしたもの」
「うそっ!タタも、ここだっ!て言ったじゃないっ!」
二人は騒ぎながらも、目の前の洞窟を見ながら、入るか、入らないのか二人とも考えていた。
いや、正確には、また間違ってたら嫌だなぁ。と考えていた。
「でも、ここに、幻の虹色の玉があるんでしょ?」
「うん。そのはずなんだけどね。この中にあるのは、絶対だと思う」
二人は、顔を見合わせる。
双子の冒険者の二人の懐具合は、もう、冬の寒さを超えて、凍り付きそうなくらい寂しい物になっている。
「行くしかないよね」
「行くしかないね」
二人は、同時に確認し合い、同時にうなずく。
ココは、自分の杖をしっかり握りしめて、自分のローブの裾を少し上げて縛りなおす。
タタは、自分の剣を抜いて、鎧の留め具がしっかり止まっているか確認する。
そして、二人はもう一度小さくうなずいて、確認しあうと目の前の真っ暗な洞窟へと足を踏み入れるのだった。
「足元悪いよぉ」
ココが、何度も滑りそうになりながら、暗い洞窟を歩いていた。
「ほんとに、なんでこんなにぬるぬるしてるんだろう」
タタも、慎重に足を運ぶ。
今まで、魔物には一切出会っていない。
ただ、鍾乳洞のような、滑る洞窟の中を二人は歩いていた。
ちろちろと仄かに光る明かりが、二人を照らしている。
二人並んで歩いても、まだ余りがあるくらい大きな道である。
だけど、二人は縦に並んで、壁に手をつきながら歩いていた。
これも、冒険の基本だった。きちんと、壁を確認しながら歩かないと、迷子になってしまう可能性が高い。
松明の明かりが小さいから、二人ともあまり気が付いていないのだが、二人とも、すでに真っ黒の顔をしていた。
この洞窟は、壁すらなにかぬるぬるするもので覆われている。
二人は恐る恐る歩き続ける。
それから少し歩いていると、タタが足を止める。
「何か聞こえる」
「ええ?私聞こえないよ?タタの気のせいじゃないの?」
ココが、返事を返した時。
奥から何かが飛んで来た。
「ひゃぁっ!」
思わず尻もちをつくココ。
タタは、迷わず、剣を振り下ろす。
しかし、気合の入った振り下ろしは、暗い空間を切り裂いただけで手ごたえはまったく無かった。
「タタっ!ちゃんと当ててよっ!」
そう言いながら、立ち上がり杖を構えなおすココ。
「ごめん。ココ。見えなくて」
謝るタタを気にせずに、ココは、詠唱を始める。
「命をつかさどる、炎の聖霊よ。我に、その力をお貸しください。我が前に立ちふさがる者に、その熱と力を持って、後悔を与え給え。ファイアーボール!」
ココの杖から、顔よりも大きめの炎の弾が生まれる。
その炎に照らされて、奥から飛んでくる二人より少し大きいコウモリが見えた。
「でかっ!」
タタが叫ぶと同時に。
ココの魔法が発動し、炎の弾が飛んでいく。
そのまま、飛んでくるコウモリに炎は直撃し。
綺麗に焼けたコウモリが地面に落ちて行った。
「どう?私の魔法はっ?」
無い胸を張って、自慢するココ。
「すごい、すごい」
気の抜けたような返事をしながら、タタは、落ちたコウモリの羽を切り取っていた。
討伐部位と言われる物で、これが少しの値段で売れる。
ちょっとでもお金を稼ぎたいタタにとっては、十分貴重な資源である。
「何よっ!もうちょっと、誉めなさいよっ!お尻が気持ち悪いんだからっ!」
頬を膨らませながら、タタをにらむココ。
「十分誉めてたよ。それよりも、尻もちをついたのは、僕のせいじゃなくない?」
「タタのせいよっ!」
「いや、違うからっ。それよりも、完璧な魔法だったじゃない」
少しご機嫌斜めのココをなだめながら、
二人は、再び歩き始める。
しばらく歩いていると。
川のように、黒い何かが流れている先に、見た事もない光る玉が一杯転がっていた。
「あれっ!あれが、虹色の玉じゃない?」
「うん。多分そうだと思う」
二人は、目の前に転がる、何色にも光ってみえる玉を見て、笑っていた。
虹色の玉は一個で、半年は暮らしていける値段が付く、超高級品だ。
それが、こんなに一杯。
これで、お金持ちだ。
二人の気持ちは同じだった。
その時。
ガサゴソと、手をついている反対の壁が動いた気がした。
思わず、明かりをそちらに向けるタタ。
そして、見えた物に。
ココは固まる。
一面。
壁一面に見えていたのは、虹色にかがやく、6本脚の虫。
ガサゴソと動く、人類の敵。
大きさは、自分たちの、両手よりも少し大きいくらい。
その物体が、ガサゴソと動く。視界一杯の数で。
タタも足が震える。
「いや、いや」
ココが小さく呟いている。
タタは、嫌な予感がして、ココを見ると。
「いやぁ!」
暴走気味に、無詠唱で、ココは、ファイアーボールをその群れに打ち込んでいた。
「ココっ!詠唱しないとっ!暴走するからっ!」
タタが叫ぶ。
ココは、無詠唱で魔法が使える天才だけど。
無詠唱での魔法は暴走してしてしまう。
何度も暴走した魔法で、自分まで焼けてしまった事があるのだ。
タタは、焦ってココを抑えようとする。
しかし。
人類の敵、本来なら真っ黒に輝くその虫たちは、魔法を打ち込まれた事で、その本来の狂気を思い出す。
着弾した炎の魔法に驚いたゴキブリたちは、一気に逃げ始める。
その動きも、狂気を含んでいるのだが。
もっとも恐ろしい事に。
ゴキブリは。
飛ぶ。
炎に驚いた彼らは、一面に飛び立つ。それを見たココは、一瞬で目が死んでしまう。
「いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
限界の叫び声と同時に、無数に近いファイアーボールが、永遠に打ち出され始めた。
暴走。
いや。
普通なのかも。
「来ないでつ!死んでっ!いなくなってぇ!」
ココの叫び声は、張り裂けんばかりにいつまでに、洞窟の中に響き渡っていたのだった。
「失敗だね」
「うん」
二人は、真っ黒になった洞窟の中で小さく呟いていた。
ココの暴走した魔法は、自分の服まで犠牲にして、人類の敵を焼きつくした。
けど、目の前にあった、虹色の玉は全て黒く茹で上がってしまっていた。
「タタ。ごめん」
「うん。仕方ないよ」
ココは完全に落ち込んでいた。
二人は、さらに寂しくなった懐を気にしながら、洞窟を後にしたのだった。
二人が立ち去った後。
その洞窟にいた、人類の敵は、周りの村にまで拡散してしまい、周りの村人を狂気に落とし。
悪夢の4日間と呼ばれる事になり、大討伐が編成される事になる。
その中で、ちょっと、申し訳なさそうにしている、幼いながらの凄腕の剣士と、強力な魔法を使える双子の冒険者が混ざっていたのは、また別のお話である。
しょぼん