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瑞獣を探す旅に出た姫君  作者: はなもり
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嶺から光来へ




嶺から光来まではとにかく平坦な道を行くらしい。

そしてリンは

「麒麟らしい容姿にしましょうかねえ。」

と言ったかと思えば黒かった髪を綺麗な黄色に変えた。


「髪の色も自由に変えられるのですか?」

私が驚いて尋ねると

「ええ。顔の作りは変えられませんが、色や年齢は自在なんです。顔も変えることができたのならメイアンお好みの美丈夫に変身して差し上げられるのですが。」

と言った。この瑞獣は冗談も言えるらしい。


「十分すぎるくらい美しいですよ。」

と言いながらも楽しそうに笑うリンにつられて私も笑う。

それにしても色と年齢が変えられるというのは面白い。


「瑞獣は長く生きるので不審に思われないように年齢も変えられるんですよ。色はどの地域に行っても馴染めるようにでしょうか。」


確かにこの国は地域によって髪の色が異なることが多い。

王都の近くは黒髪が多い。王族である私も兄も父も黒髪だ。

ハクジも綺麗な黒色をしている。

しかし辺境の地では茶色が多かったり、赤髪が多かったりするらしいのだ。


リンは瑞獣についていろいろなことを話してくれた。

リンは瑞獣の長であることも関係して他の瑞獣たちとは会えばそこそこ話もするらしいが、九尾の狐と鳳凰は仲が悪く会うとすぐに喧嘩をしているらしい。

瑞獣同士の喧嘩なんて大丈夫なのかと不安になったが、リンは小さな子供の口喧嘩のようなものですと笑っていたからきっと大丈夫なのだろう。

私とハクジの関係はもちろん嘘だとバレていた。

ハクジはただの村人にしては筋肉がつきすぎているし、何より距離感が到底駆け落ちしてきた恋人には見えなかったらしい。周りのものもきっと訳ありの従者とお嬢さんくらいに思っていたんじゃないですかねと笑われたのは恥ずかしかった。悪かったわね、恋人同士がどんな風に接しているかなんて物語の中でしか知らないわよ。姫である私に恋愛なんてすることがあるはずもなく、結婚はするだろうが所詮政略的な結びつきだ。




「このあたりで今日は休みましょうか。」


町と町の間にある森の中だった。

私たちは嵐の中飛ばされないように気をつけながら天幕を張った。

この天気では火は起こせないので持ってきた保存食を口に入れ咀嚼する。

もともと食が細いため噛む回数を増やせばすぐにお腹いっぱいになるのだが、あまりに少ないとハクジが

「体調が悪いのか?」としつこいくらいに聞いてくるので心配されない程度には食べようと心がけている。


天幕は3人入るのに十分な大きさだった。

それなのにハクジは自分は中に入らず外で見張りをすると言って聞かなかった。


「ひとり外に取り残して眠れるはずがないでしょう!」

「俺は大丈夫だ。メイアンと同じところでなんて休めるはずがないだろ。」

「何を言っているのよ!外は危ないでしょう!」

「私は将軍なんだ。野営には慣れているから気にするな。」


ここまで拒否されるともはや嫌われているのかと思う。

しかしやはり嵐の中ハクジを外に出して自分は天幕で眠るなんて出来るほど図太い神経は持ち合わせていない。


「それにメイアンは未婚女性だ。男性と同じ空間で休むなんてしていいはずがない。」

「そんなこと言っている場合じゃあないでしょう!」

こんな嵐の中だ。それにそんなことは旅に出た時点で仕方がないことだろう。

それに正直そんなこと気にしない。

なんせ相手は厳格な将軍だ。ハクジのことは当然信頼している。

言い争う私たちを見ていたリンが口をひらく。


「私も男性なのですが…。」


ハクジはハッとするような顔をした後に

「リン殿も外で…」と言い出したので思わず生まれて初めて人の頭を(はた)いてしまった。


結局リンも「流石にこの嵐の中外で寝るのは無理です。」と説得に加わりしぶしぶと、本当にしぶしぶとした様子のハクジを天幕に引き入れた。

並びは私を真ん中に川の字に寝た。端は危ないから両脇を固めるということらしい。

私は疲れもあってすぐに眠りについた。




目を覚ますと二人の姿はなかった。

天幕をめくり外を覗くと嵐の中にも関わらず、何かに囚われたかのごとく剣を振り続けるハクジと呆れた顔でそれを見守るリンの姿が見えた。


「メイアン起きましたか。おはようございます。」


リンは私に近づくとげんなりとした顔で


「ハクジ殿が鍛錬をするのに外へ出るからと私まで連れ出されたのですよ。」

と言った。


「ハクジ!リンまで外に連れ出す必要はないでしょう。」


私が声をかけるとようやく気がついたようで


「起きたのかメイアン。それについては仕方のないことだから気にする必要はない。」

「仕方がないって何故?鍛錬するのはいいけれど一人でできるでしょう。」


相手が必要とかならばまだわかるがハクジはただ素振りをしているだけに見えた。


「メイアンは気にしなくていい。鍛錬ももう終わりにする。食事にしよう。」

理由は教えてくれないらしく、リンと思わず顔を見合わせた。




それから私たちはひたすら森の中を歩いていた。

木が生い茂っているため少し雨が和らぐ。

動物や昆虫の姿はあまり見えないが、いつ現れるかもわからないということでハクジは常に警戒態勢らしい。

森の深くまできたところでリンが思いついたような顔をする。


「リン、どうしたのです?」

「いえ、私が本来の姿になればメイアンを歩かせずに済むのではないかと。」


確かにあの時みた彼の本来の姿はかなり大きかった。

私一人くらい軽く乗せることができるのだろうが、私がついてきてもらっている側なのにその彼の背中に乗るのは如何なものか。そうじゃなくても自分だけ楽になるのはちょっと…いやかなり居心地が悪いだろう。


「ありがたいけれど遠慮しておきます。申し訳ないし。」

「そうですか、」

「いいやメイアン、乗せてもらえ。」


口を挟んだのはまたもやハクジだった。


「リン殿がいいと言っているのなら遠慮することはないだろう。そもそも女性と男性では体力が違うんだ。それにメイアンは徒歩での移動に慣れていない。足を痛めるかもしれない。」


ここにきて思うのだけれど、この将軍はやっぱり兄と幼馴染なのだ。言動がどこか似ている。

私を心配してくれているのはありがたいけれど些か過保護なのではないか。


「大丈夫よ。私だけ甘えるわけにはいかない。」

「甘えるとかではなく事実だろう。」

「まあまあ、ハクジさんはメイアンのことが心配で仕方ないのですよ。メイアンは軽いですから乗ったところで何も迷惑なんてかけられていません。ここは年寄りを役に立たせてくださいな。」


リンの容姿で年寄りと言われても全く説得力がないけれど、私は諦めて麒麟の姿に戻ったリンの背中に乗せてもらった。硬い鱗に覆われておりすべすべしていた。


「角をつかんでもいいですよ。」

と言われたが、とてもじゃないけど恐れ多いし万が一折れたりでもしたら私の心臓が止まりそうなのでたてがみを持たせてもらった。見た目ほどごわついておらず、水を弾きやすいのかふかふかで気持ちがいい。



「そういえば九尾の狐ってどのような方なのですか?」


移動の間に次に会えるかもしれない瑞獣について聞いておきたかった。

麒麟のように人間に変化していたら見つかりにくいかもしれない。

まあ瑞獣同士は近づけばおおよその居場所は分かるらしいけれど。

神の巫女と呼ぶくらいなら私にもその機能つけてくれてもいいのに。

そうすればもっとスムーズに探せたかもしれない。


「そうですねえ。なんて言うか楽観的で感情的というか…。」


理性的で慎重そうな麒麟とは対照的な性格なのか。


「本来の姿はあの絵の通り九つの尾を持つ大きな狐という感じですか?」

「ええ。まあ本人はもっと美人だと怒っていましたが。」

「人間の姿は見たことがありますか?」

「ありますよ。まあ傾国の美女と言われて思い浮かぶ女性がそのまんま現れる感じかと。」


リンは仲間の姿を思い出したのか苦笑いしている。

傾国の美女というと、長く艶やかな髪に形の整った顔つきと豊満な胸にくびれた腰回り、そしてまた豊満な…とか言ったような感じだろうか。

なんというか、それは一目見て分かる気がする。

女性の美しさなどにあまり興味がなさそうなリンがそのようにいうくらいだからよっぽど美しいのだろう。というか美しいということが特徴なのだろう。


「そのような容姿なので花街で優雅に暮らしていると思うのですが…。何より彼女はプライドが高いので男たちにちやほやされることを好みますしね。」


そう話すリンは遠い目をしている。

きっと九尾の狐がらみで苦労したことも多いのだろう。





そして私たちは森で数泊したのち小さな町にたどり着いた。

光来の手前まで来たようだ。

ちなみに森での数泊の間になぜかハクジは寝不足になったようだった。

将軍で野営は慣れているからと言っていたが、兵たちと雑魚寝するのと私を護衛しながらではやはり気の使い方も違うのだろう。目の下のクマが深くなったハクジの姿に申し訳なくなる。

この町にやってくる人はほとんど光来へ行く人らしくその人たち向けの宿屋が数軒あった。

ハクジは一番綺麗そうな宿に入り隣同士に2部屋とったらしい。

ハクジとリンは同室で私が一人だ。

部屋には風呂もついていて私は数日ぶりのお湯で疲れを癒した。

寝床につくとすぐに眠気が襲い、私は夢の中に旅立った。



目を開けるとまだ外は真っ暗だった。

寝るのが早かったせいか変な時間に目を覚ましてしまったらしい。

水を飲もうと立ち上がった時だった。

がたりと扉の前から音がした。


こんな時間になんだ?たまたま人が通っただけにしては大きな音だった。

立場上、一応姫であるからして拐かされそうになったことは一度や二度ではない。

その時は大抵護衛の兵士やハクジやお兄様が守ってくれたので大事には至らなかったが幼い少女に染み付いた恐怖心は無自覚に心を締め付けていたらしい。

2回目の物音に冷静ではいられず寝ているであろう隣の二人に気づかせたくて壁をそっと叩く。


「どうした?」

数秒もなかったと思う。

即座にハクジが部屋に突入してきた。

そのことに驚き心臓がさらにばくばくするが、とにかく物音がしたと伝える。

するとハクジは申し訳なさそうな顔で言った。


「すまない。私が手を滑らせて水筒を落とした時の音だ。扉の前には私しかいない。」


まさかこの人はずっと扉の前にいたのか???

せっかく宿で休むことが出来るというのに??


「え、ずっとそこに…?」

「いや、リン殿と交代制にした。」


それなら…と一瞬納得しかけたけれど。

いやいや護衛であるハクジだけならまだしもリンまで巻き込むなんて。

ハクジにしたってもっときちんと休むべきだ。


「ありがたいけれどそんなことする必要ないわ。ハクジも休まないと。」

「いいや、そういうわけにはいかない。将軍としての仕事だから。」

「ハクジが体調崩したらどうするのよ。」

「大丈夫だ。」

「そんな顔色で言われても説得力ないわ。」


「あなたたち今何時だと思っているんですか…。」

言い争っているうちに声量が大きくなっていたらしい。

眠そうなリンが扉をあけて呆れたように私たちを見ていた。


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