第8話 あれから
時間というものはこうも早く進んでいくものだっただろうか?いや、明らかに加速していってる。数年前まではこんな感じじゃなかった。俺も成長したと、そういう訳かもしれない。
「ということで今回はそろそろ終了ですかね。」
「ご、ご指導ありがとうございました………。」
「はい、よく言えました。」
シチュエーション的に俺が調教されたみたいになってるのは大丈夫なのだろうか?まぁシチュエーションだし問題はないだろう。
「ということで、お疲れ様でした。」
「お疲れ様でした。」
いつものように配信終了。ASMRも楽しいもんだな。
「亮太、お疲れ様。初ASMR、どうでした?」
「楽しかった。」
「いつか個人でやるおつもりは?」
「無いです。だって沙奈のほうが上手いしさ。そもそもメインは沙奈でしょう?」
「え、チャンネル名見た?」
「いや。見てない。」
「見てみ。」
言われたとおりに確認すると『夜空ゆに・おとめ』の文字。いつの間に改名したんだか。
「亮太ももうメインだよ。」
「マジか。」
「これで私が体調崩しても亮太が居る。」
「何言っての?流石にそんなことになったら看病に専念します。」
「亮太ならそう言うと思ってた。」
「沙奈のこと支えるって言ってこの立ち位置についたんだからな。当たり前。」
「懐かしいね。4年前のあれ。」
「あぁ、頑張り過ぎだよ。本当にさ。いきなり電話かかってきてさ。」
「迷惑そうに言ってるけど、亮太もあれワンコールで出たからね。」
「あぁ、あれは………反射だよ。条件反射。」
それはそれでどうなのだろうか。
「でもお使い頼んでから来るまでもめちゃくちゃ早かったよね。」
「それは沙奈が心配させるからだろ?バイトもして配信して、それで体調崩して。ほんと凄いよ。」
「えへへ、ありがとう。」
「半分褒め言葉だが半分褒めてない。」
「??」
なんで分かってないんだか。
「自己管理、大切でしょう?まぁ、今は俺が居るからそれなりにできてるかもだけどさ、その負けず嫌いな性格。いつ無理しだすかわかんない。」
「お恥ずかしい話です………。」
「にしたって懐かしいな。もう4年か。」
それでも昨日のことのように覚えてる。
「亮太のあの告白?」
「あれは、あれだ、深夜テンションってやつだ。」
焦りながら一言入れる。いや………恥ずかしい。マジで恥ずかしい。まだまだ若かったとは言えあれは………本当、思い出しただけで死にたいくらいに恥ずかしい。
「結構嬉しかったよ。」
「そ、そうか。」
「恥ずかしがってる。可愛い〜。」
あ、これあれだ。さっきの仕返しだ。
「だってしょうがないだろ!恥ずかしいんだからさ!」
「そのくらい知ってる。私だって同棲したての頃はめちゃくちゃ恥ずかしかったんだから。」
「それは本当にそう。恥ずかしいったらなかった。」
「そう言えばあれいつだったっけかな?亮太がさ、作業中もずっと見てきてさ、結局お互い目があって顔真っ赤になってさ。」
「ものすごく些細なことすぎる………よくそんなの思い出したな。」
「だってあの時さ、亮太に『なんでそんなに見てくるの?』って聞いたら『ごめん可愛すぎて。』って返ってきてさ。」
「なーっ!恥ずかしい!言うな!」
「あはは、ちょっとからかいたくってさ。でもホント私達も変わったよね。」
「あ、あぁ。」
「ん?どうしたの?」
「いや、俺は変わったかなって………。」
「………まだ、引きずってるの?」
「まだ、何も解決してないからな。」
「いっそ割り切って考えるのも1つの手だよ?勿論、それが最善ってわけじゃないのは分かってるけどさ。」
「でもやっぱり首を突っ込まないのが現実的な手だよな。」
「いつか分かりあえるって。きっと。」
「あぁ、ありがとう。こんな親子喧嘩にまで首突っ込んでくれて。」
「私だって亮太が否定されるのは悔しいんだもん。」
「本当に………ありがとう。」
「うん………ほら、こっちおいで。」
そう言っていつかみたいに沙奈は両手を広げた。
「うん………。」
それに従い、俺は沙奈に身を預ける。
「………全くもう。私の憧れた強い亮太は一体どこに行ったんだか?早くホントの亮太を見せてほしいよ。」
優しく頭を撫でながら沙奈はそう言う。
「ごめん。」
「責めてるわけじゃないよ。いつかでもいい、ホントの亮太になってくれればそれでいい。」
本当の俺。胸張って自分を認めることが出来る日。そんな日を俺だって待っている。待ってるだけじゃ駄目なことだって分かってる。でも待つしかでき無い。まだ俺が弱いままだから。何より4年前のあの日以来、俺は母さんに会ってない。理由は完全に連絡も取れなくなっているから。結婚の報告をしに行こうとしても引っ越しまでしていた………本格的に距離を置かれた。何も解決してないのに。あの人が何を考えているのか何もわからない。俺の人生の中で解決しておきたい問題なのに。なんとも面倒な人生だ。