第4話 コレジャナイ感
「配信、そろそろかな。」
私はそう呟く。
「そうだな。」
「今日も亮太お願いね?」
「なにが?」
「亮太の評判結構良かったからさ。」
「マジで?」
「マジマジ。」
軽く私が嫉妬するくらいには評判が良かった。まぁ、あの声のクオリティーだろうな。何食べたらあんな声出るんだよ?それともなんか薬?危なくないなら私もほしい。
なんていうのは冗談。努力の賜物なことくらい分かってる。
「亮太ちょっと声だしてみて?」
「おとめの?」
「そう。」
「あーあー、はいお疲れ様です。夜空おとめです。」
「や~………。慣れてないと随分気持ち悪いよ?」
「え、酷い。」
地声に戻ってちゃんと傷つかれた。
「まぁそう意味じゃなくてそうだな………腹話術見てるときとおんなじような違和感。」
「コレジャナイ感?」
「それだ!」
「まぁ、それを目指したからね。」
また得意げにおとめの声を出す。
「その声ってさどうやって練習したの?」
「主には我流。後はいろいろな先駆者の動画を見ながら。」
「え、すご。」
『先駆者』を素で使っていることに関しては触れないでおこう。それはそれとして主には我流っていうのが凄い。普通真似るところから入ると思うけど………やっぱり考え方が違うんだろうな。
「で、なんでいきなりそんなこと聞いてきたんだ?」
「声ちゃんと出るかなって。ほら、他の人に聞いてもらったほうが確実でしょう?」
「そこまで気遣っていただけますか?」
「当たり前です。」
「ありがたや、ありがたや。」
「崇めなさんなて。」
さて切り替えていこう。
「じゃあ準備しますか。」
「了解です。」
そうして打ち合わせが始まる。亮太も私も心配性だから念入りに行う。配信前にイチャイチャ出し切ったと思うから多分………支障はないはず。まぁ、出てしまったら出てしまったでリカバリーしていこう。次につなげるこれ大事。
そうして本番ギリギリまで続いた打ち合わせが終了。
「さて亮太、行ける?」
「行けます。ゆにさん。」
早くもおとめボイス………あぁそうか。
「じゃあ行きましょうか。おとめさん。」
配信、開始だ。
いつもどおりの雑談配信。ASMRはまだ亮太が練習中だからしばらくはこのスタイルになる。まぁそれでも私は楽しい。ただいつか一緒にやってみたいな。ASMR配信。
「はい、次の質問です。『ゆにさん、おとめさんこんにちは。お二人は自分たち専用の挨拶とかって作らないのですか?』とのことですけど。おとめさんは何かありますか?挨拶の案?」
「私はでも安直にするんだったら…こんおと?こんとめ?うーんゴロ悪いかな?」
「まぁそうですね。」
「あ、こんせのす?」
「あぁ…?…あぁ!いや多分誰もわかんないよ?パルセノスなんて?」
因みにパルセノスとは、ギリシャ語でおとめ座の意味だ。私は昔十二宮を各国語でなんて言うか調べて言いふらしてたことがある。今思えば何してたんだろうか。しかしその知識がここで引き出されるとは…。
「だってヴァルゴっていかついからさ。」
「ついてこれない人だっているでしょ?」
因みにヴァルゴは英語。
「うん…。」
ちょっとしょんぼりするんじゃないよ。
「でもあれだよ?一等星にすると一角獣座はないよ?」
「マニアックすぎるから。ストップ。いいね?」
「……はい。」
「挨拶は、また一緒に考えよう?」
「…わかった。」
いやー収集つかなくなる前で良かった。多分ギリギリセーフだと思うけど………。
「じゃあ、次行こっか?」
「はい。」
「はいじゃあ次この質問ですね。『実際のところおとめさんって本当に男の子なんでしょうか?』とのことですが………実際のところもなにもねぇ。」
「どう転んでも男じゃないですか?」
「おおよそそんな声してないから。」
「じゃあどんな声出したらいいんですか?」
「ほらいつも聞かせてくれるじゃない?」
「………え?それって、この声?」
流石亮太。予定通りショタボへのシフトチェンジ完璧。完璧すぎて若干引いてる私がいることはここだけの秘密だ。
「そうそう。」
「[これは…男子か?]え?違う?」
まぁ、確かにショタだ。たまに聞かせてもらってるショタボだ。問題があるとすればおおよそ男子が出すショタボではないことだろう。多分女声からトーンを下げたんだと思う。
「違うわけじゃなくておおよそ男子の出せる声じゃないからだと思う………。」
「…え?」
だめだこりゃ。
因みに私は女声を出すことができます。寂しいときに1人で聞いて束の間の優越感を得ることができます。その代わりに友人を失いかねないのでおすすめはできません。