第2話 雑談
そうして、雑談配信は続いていく。緊張もいつしかなくなっていた。率直な感想を言えば楽しい。その一言だった。
「さてとここまで雑談配信してきましたけど、そろそろお時間でしょうか。」
「え、まだゆにと話してたい。」
素でその一言が出てしまった。
「おとめは私と一緒にいるんだから話なんていくらでも出来るでしょ?」
「…うん。」
「今は我慢してね?」
「…うん。」
結構ちゃんと素が出てしまった。この先今回の件がいい方向に転ぶのか、はたまた悪い方向に転ぶのか………今はまだわからない。
「じゃあ今日はこのへんで、おやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
そうして配信は終了する。しばらくしてようやく配信の緊張感から開放された俺達は我に返った。
「はい、お疲れ様。初配信どうだった?」
「緊張感もあったけど楽しかった。」
「私達の見ている世界、分かった?」
「あぁ。」
「にしても亮太、まさか最後にあんなこと言うなんてね。」
「素が出ただけだよ。」
「嬉しいこと言ってくれんじゃん。そんな嬉しいこと言ってくれたからご褒美。」
そう言っては沙奈は俺の顔に迫る。何をするかなんて分かってる。俺はそのキスを受け入れた。
「結婚式のときはみんなに見られてて集中できなかったからね。実質これがファーストキス。」
「物理的な話をするなであればもういつだったかも覚えてないときに済ませてるんだよな。」
「え!?いつ!?」
「だから、歳なんて覚えてないくらい前。俺の部屋で。」
「…なんて言ってたか覚えてる?」
「何だったかな………お嫁さんになってあげてもいいよ…みたいなこと言ってた。」
「うわーなんか…私らしいな。」
「沙奈、負けず嫌いだからね。でも実際俺がプロポーズする形になってるっていう。」
「そりゃあ亮太が変なプライド発揮したからでしょう?」
「間違いない。でも、俺達本当に結婚したんだな。」
「今更すぎない?」
「じゃあ実感ある?」
「………やることあんまり変わんないね。」
「でしょう?まぁ強いて言うのであれば俺がVtuberとして活動することになったくらい。」
「あとあれじゃん。亮太の就職決定。おめでとう。」
「やめろやめろ。バイトから正社員になっただけなんだから。」
「それでも十分でしょ。」
「そうかもしれんが今までよりちょっと出る回数が増えてやることが多くなっただけだよ。」
「そこまで割り切るか。」
「割り切らないとやってられないよ。」
「まぁお互いに支え合っていきましょ。」
「そうだな。」
そうやって他愛のない会話をし時計を見る。午前0:50程を指していた。配信終了が同30分だったので実に20分もの間喋っていたことになる。1人でいるときはあんなに長かったのに。なるほどこれが相対性。
「どっちから先お風呂はいる?」
そう切り出す。
「何言ってんの?一緒に入るよ?」
沙奈の方こそ何をおっしゃっておられるのです?
「え?マジなの?」
「だって今日初夜ですよ?何もしないわけには行かないじゃん?」
「理屈は分かった。」
「じゃあ行こう?」
「………。」
待ってくれ。なんだこの過剰なまでのためらいは。やはりあれか?沙奈の裸体を見ることに対する恥じらいか?今更すぎる。今までだってこんな状況になったことくらい………いや、ねぇな!!一度もねぇ。今日この瞬間が初めてだ。
逆に今までよくこれで続いてきたな………。一途かよ。
「亮太?」
「………分かってる。行こっか。」
別になにもやましいことなんて無いです。覚悟を決めただけなので。夫婦ですし初夜ですし。
「あ、タオルはつけるよ。」
「先に言え!」
お陰さまでこちらの葛藤は無意味に終わりました。
「つけないほうが良かった?」
「そうでなく。」
全くもう。夫婦漫才じゃないんだから。
そうしてお風呂場で何かあったのかと聞かれれば、そんなこと何もなく。かと言ってイチャついてないのかと聞かれれば十分イチャついた時間を過ごした。結構これが幸せなのだ。
そうして俺達の部屋まで戻ってきて沙奈は開口一番「シますか?」と聞いてきた。
「欲求不満?」
確かに付き合って4年間シたこと無い…ってなんで今までマンネリ化しなかったんだ?
まぁ俺がアシスタントの立場っていうのがデカイか。というより他に思いつかない。
「亮太だって男………いや男の娘でしょ?」
「ツッコまねぇぞ。あと、俺も欲求不満なわけじゃない。ただそういうのがわかないだけだよ…。」
「じゃあ私に付き合って?」
「やっぱ欲求不満なんじゃないか。」
「えへへ、お恥ずかしながら。大丈夫かな?」
「………待て。」
「はい。」
「ゴムなんて無い。」
「私はなくても別に………。」
「俺は………もしものときに責任取れるかわからない。…失敗なんてしたくないからな…。ちゃんと覚悟ができたときにはシよう。」
「う、うん。え、じゃあ今日お預け?」
「放置プレイってことで。」
「………意地悪。」
「ゴメンな。」