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Legend of Star Night  作者: パインティー
外伝:Story of Full Blood Bullets
97/157

Mission:6 12th "Gale" Squad


 ………。

 ………………………。

 

 なんだか長い夢を見ていた気がする。

 ぱちりと目が覚める。

 混濁し切っている意識を、なんとか少しずつクリアにしていく。

 何が起きた? たしか、あたしはあの野郎どもに襲われて―――ベニヒメ!

 身体を起こす。まだ強烈なしびれ、痛みが残っているが、一瞬で事態を理解したあたしはそんなもの捨て置いて立ち上がろうとする。

 その時に気づいた。

 あたしの失っていた片腕と片足が、復活していたことに。

 ―――違う。

 おおよそ肌色からは遥かに遠い光沢を持つ灰色の硬質的な輝き、多種多様な部品。関節からはモーターの音が聞こえる。

 そう、復活した片腕と片足…それは機械でできた義肢だった。

 生身の肉体の筋肉、神経、骨が、まるで高等技術を用いたハイクラスの手術を受けたかのように無駄なく正しく繋がっている。

 本物の自分の手足が、そこにあった。

 

 一体何なんだこれは?

 

 …いや。

 そんなことはどうでもいい。

 立てて動けるなら、それでいい。

 

 ベニヒメ!!!

 

 あたしは腰元に装着していた拳銃を握って立ち上がる。

 たかがスリをかわされてガンくれただけで逆ギレするようなクズどもを、始末してやらなければならない。

 あんなにかわいい無関係なベニヒメを何の目的でさらったか知らねぇが―――


「どこに逃げようが―――追い詰めて殺す。」

 

 よくも怒らせたな。

 アメリカ軍最強の分隊【第12ゲイル分隊】を。

 そのリーダーを舐めたクソ野郎は―――

 ―――全員殺す!


 なんでかは知らないが、視界に色々な情報が表示されてる。

 転移前に使っていた頭部装着型情報表示装置ヘッドマウントディスプレイ、いわゆるHUDを使っているときと同じ感覚だ。東西南北を把握する方位、日付、現在の温度と自身のコンディションなど様々なアイコンや数値が表示されている。

 示されている言語は英語。久しぶりに実家に帰ってきたような感覚だ。

 さて。

 赤く染まった下向きの三角マークが3つ、青く染まった上向きの三角マークがひとつ。メーター表示とともに視界に表示されている。

 部屋の中にいてもなお、外の情報が拾える。便利な機能だ。

 そこか。まだあまり遠く行っていないな。

 待ってろよてめぇら。

 あたしは右足から一歩踏みしめた。

 ガシャッ。

 鉄が木製の床を叩く。

 乾いた音と、冷たく硬い音がこだました。

 モーターの動く小さな駆動音が失われた右足から響く。

「逃がさねえ。」

 

ドンッ!!!


 一心不乱にあたしは走り出す。


 階段を飛んで下に降り、柱をつかんで大車輪のごとくぐるっと回って反対側の玄関へ跳ぶ。

 ドアを蹴破って家を出て、そのまま黄色い砂の地面に滑りながら着地。砂利と砂が巻き上げられ、あたしの怒りを表すかのように飛び散る。

 野次馬どもがなんだなんだとあたしを遠目に見始めた。

 あたしは拳銃を腰にくくりつけ、クラウチングスタートの構えをとる。

 野郎共はだいぶ向こうへ逃げたようで、目視では確認できない。

 だがあたしの目には真っ赤なマークとして透過されそこに見えている。

 百メートル十秒台を切ったあたしの脚力をなめるなよ。

 

ドンッ!!!

 

 地を駆ける。転移前より想像以上にスピードが出てしまい、神経がそれに追い付かずつまずきかける。

 明らかに速い。速すぎて足がなかなかうまく回らないが、結果走れてるので気にしない。今ならアドレナリンもドバドバ出てるから転んだところで対して痛くもないだろう。

 とにかく追うことが重要だ。

 小さいバイクや自動車を追い抜いてとにかく前へ。自動車用の道の上を駆け抜ける。

 いくらか右に曲がったり、左に曲がったりしていると、ようやく男どもが見えた。ベニヒメが泣き叫び、周りがそれを見て騒いでいる。

 殺す。

 何人かの男がそれを止めようと動いていたが、逃げる男どもが速くて追い付けないようだ。

 この短時間であそこまで逃げ切るなんていい足してるじゃねぇか。

 殺す。


「てめぇらぁぁぁぁぁ!!!」


 あたしは吼え、男たちはあたしの姿に驚く。

「なっ!!??」

「おいなんでだよ! なんであいつ死んでないんだよ!?」

「うそだろ!!! バシリスクの毒だぞ! 意味わかんねぇぞ!」

「速い! 早く逃げろ!」

 わあわあ騒いで泣き叫ぶ幼女を担いで逃げる男とそれを追いかけるあたし。きっと観客どもは大体察しただろう。あたしの前からどけてくれる。

 あたしは拳銃を左手でとりだす。

 それをくるりと回し、 両手で構える。

 拳銃はバチバチと雷光を上げて変形を始めた。なにもない空間からたくさんのパーツを生み出し、拳銃だったそれはやがてアサルトライフルへと変貌する。

 M7A2.Gカスタム。

 第三次世界大戦初期に配備されていたM7A2の、ゲイル分隊特殊仕様アサルトライフルだ。

 走りながら、アイアンサイトであいつらの足を狙う。

 激しく揺れる照準を気にせず、大雑把な狙いをつけてあたしは引き金を引いた。


ダダダッ!ダダダッ!ダダダッ!!!!


 かなり大きめの爆発音がハイテンポで大きく響く。激しく走りながら撃って超高速で飛び出た弾丸は、精度が悪く明後日の方向や地面に当たって消えていく。

 それでも数打ちゃ当たるものなわけで、ばらまいた弾数発が一人の足に命中した。

「うっ!? ぁあっ!」

 足を撃たれた男が前に倒れる。残りの二人は何が起きたかわからぬまま、後ろを見る。

「なんだ!? やつは何をしてる!?」

「いでぇよ!! あしがっあしがぁっ!」

 どうやら当てたところがなかなかいいところだったようで骨まで貫いたようだ。普通撃たれたくらいで倒れるわけない。

「くそっ! こいつは捨て置くぞ!」

「はぁっ!? おっおいまてまってくれ! おいていかないでくれ!」

 男二人は撃たれた男を見捨てて走り出す。

 あたしもそのまま追いかける。こうやって見捨てやがったってことはそういうことだ。

「ひっひぃぁぁあゆるしてくれええええええ!!」

 置いていかれた男が大声を上げて泣き出し許しを請う。

ダダダァッ!

 あたしに殺されると思った男はがばっとうずくまって身を守る。その無防備な背中へ3発ぶち込み、永遠に黙らせる。

 先に逃げた男どもとの距離をある程度詰めたところで、あたしは足を止め精密射撃の態勢に入る。

 アイアンサイトから野郎共の背中を睨み付けしっかり照準を取ってから撃つ。

ダダダッ!

「ぐぁあっ!」

 青いマークが重なっていない方のやつの背中を撃ち抜く。

 そいつが倒れたのを確認して、それからもうひとりの青いマークの重なっている野郎の足を照準に捉えて引き金を引く。

カチッ

 引き金が引けない…弾切れか!

 リロードしている暇はない。あたしはM7A2を拳銃―――M2040Gに変形させ、ふたたび爆走する。

「くそっ! 追い付かれちまった!!」

 この距離であればどれだけ乱れていようがどれだけ早く動いていようが、絶対に撃ち殺す自信がある。

 何故だか知らないけど、よそさまはあたしの必中必殺の距離を勝手に“セイバーレンジ”だとか呼んでいる。

 誰だっけなぁ………こんな痛い名前を言い出したの。ヒレンだったっけ。


 *条件達成。スキル解放。

 *≪聖剣の下に≫が解放されました。


 あ?

 うっせえなあ、さっきから。

「ひぃいいいっ!!??」

 男どもがいきなり立ち止まり、懐のでかいナイフを抜き出す。

 いやなんだその無駄にでっけえナイフは。もはやなたじゃねえか。

「やめろっこっこないでくれぇっ!」

 雑なモーションから繰り出されたそれは、取り回しが悪そうな見た目通りにひどく精度が悪く、正直回避するまでもなく当たらないと感じたんだけど。

 それでもあたしはそれを躱して男の脚を撃ち抜く。

ガウンガウンッ!

 片足だけではなくもう一方の足も骨ごと撃ち抜く。

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

 男が倒れたのを確認して二度と動けないように、さらに両腕も撃ち抜いておく。よし、これで逃げることもできないだろう。

「あっがぁあっ! ぎゃあひぃいえあっ!」

 次々と自分の四肢を撃ち抜かれ、男は涙を流しながらうめいた。落とされそうになったベニヒメを奪い、あたしの腕の中へ収める。

 くそっ…怪我はないな!?

「ぐぅう…てめえ、ただじゃ………済ませねえぞ!」

 男が血走った目で泡を食いながらこちらへ叫んでくる。悪いがその汚え発音じゃ何言っているのかわからねえよ。

 どうせFワードか何かだろうがな。

 あたしは男の顔を蹴り上げ、黙らせる。

 気を失っているベニヒメを背中に乗せ、帰路につく。

「ベニヒメ…ごめんね。帰ろう。」

 こんな小さい子を怖い目に合わせてしまった。それだけがあたしの心のなかに渦巻いている。

 …。

 後ろがうるさいな。

 あたしは拳銃を握り直し、後ろへ振り向く。男が大声で叫びながらあたしから離れようとしている。

 ………本当にうるさい。

 二人も殺してるし、そこにもう一人を加えても何も問題ないだろう。あたしは拳銃を構え、泣きわめき叫ぶ男の眉間に弾丸を放って黙らせる。

 その顛末を見ていた周囲の群衆は恐ろしいものを見るような目であたしを見ていた。

 ………。

「見せもんじゃねぇぞ。さっさと消えやがれ!」

 

 ここもクソみてえな世界だったよ!

 平和でもなんでもねえ!

 ゴミクズ野郎どもが!!

 

 あたしははらわたの中で煮えくり返っているマグマを抑えながら、あの家への帰路につく。


 

 

ダァーーーンッ!

 

 うっ……―――

 突如爆音が聞こえ、あたしの腹を何かが勢いよく貫いた。

 腹部が爆発したような衝撃と激痛が走り、赤い血しぶきが前へ吹き広がる。

「がっ…!」

 この感覚…撃たれたっ…!

 あたしはたまらず前に倒れる。それでもベニヒメを落とさず自分が下敷きになる。不利な体勢で倒れ、地面と激突してあたしは激痛に塗れる。

 くそっ…自分の痛みはどうでもいい!

 ベニヒメ…ベニヒメっ、撃たれてないよな!?

 背中からベニヒメを下ろし、状態を確認する。

 まだ…眠っている………傷も、血も見られない………運良く当たらなかったようだ。

 良かった………いや、良くねえ!

「ぐぅう…がぁああ〜…!」

 あたしは腹からドバドバと血を垂れ流しながらも身体を起こす。ベニヒメが自分の血でどんどん汚れていくのも気にせずに、あたしの身体をベニヒメを守る壁とするべく無理やり起こす。

 あまりの激痛に、腹がどうなってしまったか手を当ててしまう。

 はっ…はっ…くそっ…! なんだ、この穴…っ!

 くそっ…なんか出てる気がする…! 血が、止まらねえ…!!

「お頭! 奴です! 奴が仲間を………!」

「ふん。ただのガリガリのガキじゃねえか。お前ら、あんなのにやられちまったのか?」

 撃たれた方向を見れば、そこには大柄な男が一人と、下っ端くせえ男が一人。その後ろから仲間らしき集団がぞろぞろやってきた。

 大柄な男が手に持っているのはショットガンらしきもの。撃たれたときの衝撃から察するにアレに入っているのはスラグ弾か?

 散弾じゃなかったおかげでベニヒメには当たらなかったっぽいのが、まだ救いか………。

「ぐぅ…ぅぅ〜…!!」

 焼けるような痛みが強まり、どんどん腹から何かが抜けていくような、恐ろしい感触がずっと続いている。滝のように脂汗がびっしり浮かんてくるのがわかる。

「おいおい、これが女だって? ガリガリの上にバケモノみてえな顔してんじゃねえか。」

 大柄な男がショットガンの銃口をこちらに向けたまま近づいてくる。

「お頭、町中でマズイっすよ。とっととこいつを連れてずらかるべきっす。」

「そうだな。オメーの言うとおりだ。だがオメー、このオレの可愛い可愛い部下を3人も殺したこのクソ売女を見逃してやれと、このオレに言ってんのか? ちょっと配慮が足りねえなぁ?」

「い、いえ。そんなことは、けっして!」

「このオレにはもう少し優しい言葉を使おうな。汚え言葉を使うなってかあちゃんに言われなかったか?」

「わかった、わかりました。」

「わかれば良いんだ。」

 何を言っているのかわからないやり取りのあと、大柄な男がこちらへ歩いてくる。くそっ、意識が………!

「よくその出血量で生きてるなぁ。」

 ガチャリ、とショットガンの銃口を額に突きつけられる。

「首でもふっとばさねえと、死ななさそうだな、オメー。」

 そして、奴は引き金に指をかけた。

 クソッ…タレが…!

 こんなところで…ベニヒメを置いて死んでたまるか………!

 あたしはどんどん血の抜けていく脳で必死に考える。

 この状況を打破する方法を。

 

 ………。

 

 突然脳裏に浮かぶ、あるものの姿。

 この拳銃をあのアサルトライフル…M7A2へ変形させたときも、頭の中でこれが欲しいと思ったときに変形してくれた。

 ………いけっかな、これ。

 あたしは頭の中にその形をはっきりと思い浮かべる。

 それはあまりにも大きく、同じ大きさの岩よりも重い鉄の塊。

 何物も通さない装甲、全てを粉砕し破壊する武装。

 

 戦車を。

 

 

 

 

 

 その瞬間。

 

 拳銃がまばゆい光を放った。

 ぱあんっ!と衝撃とともにまばゆい光を放ち、男を吹っ飛ばした。

「うっ!?」

 そして拳銃は虚空から大量の鉄の塊を生み出しそれを変形させていく。あたしたちはその鉄の塊の中に取り込まれるように包まれる。

 それは突如として変形、いや―――顕現した。

 幾度となく敵を打ち破り、最後の作戦でも最後まで共に戦った最強の相棒―――M4A2グレイグ。

 そいつが突如として虚空より現れ、あたしたちを包み、男たちの前に立ちはだかった。

 とても狭い運転席の中へ迎え入れられる。この狭さ、なんだか懐かしい。たった数週間程度しか感覚的には経っていないはずだが、まるで何年も乗らなかったかのような感じがした。

「はっ…はぁっ…頼む………【リバティ】!」

 M4A2グレイグ―――固有名【リバティ】はあたしの声に反応し、エンジンに火を入れ吹かし上げ、多数のモニターを起動させた。

 目の前で勝手に運転席のハンドルとギアがグルングルン動き、男たちへ向く。

「なっこれ、何なんだ!?」

「おっお頭っ…! これ、戦車だぁ!!」

「戦車が出てきたぞ!!!!」

 良いぞ…リバティ…!

「撃てーっ!」

 体力の限り、あたしは叫ぶ。

 それに、【リバティ】は砲哮によって応える。

 

ドンッ!!!

 

バガァアンッ!!!

 

『ぎゃあーーーっ!!!』

 衝撃とともに、男どもは吹っ飛んでいく。

 よ、よし。なん、なんとか…しのげた…!

「はっ、はっ、はっ、はっ………!」

 くそっ…視界がっ………

「おねーちゃん!!?」

 後ろから、声が聞こえる。だが、その声がどこか遠くに聞こえた。

 ベニヒメ…。

 よかった、怪我はないよね…?

 後ろへ振り返ろうとする。しかし、体が動かない。

「おねーちゃん、おねーちゃん!! しっかりしてっ! うわぁあっ!!」

 大丈夫。ベニヒメ、あたしは大丈夫だから。

 あんたのこえ、きこエるから。

 でも、ドこ?

 さむい。

 ベニヒメ…

 

 ベニヒ―――

 


 

 


 

 



M7A2−G:実戦配備モデルであるM7A1を使用した多数の戦闘データを元に、改良が施されたM7A2の“ゲイル分隊”専用に開発された特殊カスタム仕様。前線で戦う兵士たちの中で、特に大きく飛び抜けた戦果を上げるゲイル分隊が求める火力を追求した特殊モデル。

 カスタム仕様とは言うものの、量産性を高めた現行モデルのM7A2とM7A2Gカスタムの違いは非常に大きく、もはや別物。専用の弾薬とそれに対応するための非常に高い耐久性を担保する特殊合金で鍛造された機関部が特に異なる仕様だ。同じ設計図をもとにしているとはいえ、作りからして全く別物と言って良いだろう。

 高いコストをかけただけあって耐久性が大きく向上しメンテナンスの負荷も下がっている。このモデルの真骨頂である専用の火薬と弾頭を用いた「フューリー2」の火力は凄まじく、凄まじい反動と引き換えに土嚢壁はもちろん、厚さ1メートル以上の強化コンクリート壁も貫くどころか、なんと旧世代の戦車の装甲さえ貫通するほどの威力を獲得した。

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